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貧乏男爵家の長女に転生したのに、何故か男として最強の騎士を目指しています  作者: 赤池宗


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第四騎士団との戦い

 森の中を土に汚れ、木の枝を払い除けながら進み、ついに我々は行軍する第四騎士団の元まで辿り着くことに成功する。


 千を超える騎士の集団は流石に壮観である。その中に突っ込むなど、考えるだに恐ろしい。


 だが、そういったことに慣れていた私は尻込みすることはない。


「どれが騎士団長ですか?」


 尋ねると、父の隣に立つ若い騎士の一人が奥を指さした。


「あの、一番身長の高いのがそうだ。アルボワ・ベルジュラック。その前には副団長のドーセール。その隣には千人長のブルイまでいる。今回は単純に隊列を組んで真正面からぶち当たるつもりだろうな」


 と、若い騎士は教えてくれた。


 なるほど。確かに隊列は長方形だ。二十人ほどの列が後方まで伸びている。


 教えてくれた位置を見ると、最低でも五十人を相手にし、尚且つ騎士団長達を一瞬で倒さなくてはならない。そうしなくては、敵のど真ん中に入り込んだ状態で、すぐに包囲されてしまうだろう。


 森から一気に飛び出して切り込める人数は限りがある。百人で突撃しても、恐らく先頭で戦える人数は五人から十人。かなり無茶な戦い方だ。


 だが、既に父は前傾姿勢になりながらウズウズした様子で剣を握り直している。


 父はそれなりに剣を使えるが、体力と当たりが弱い。一対一で正統派な剣を使う相手でないと負けてしまうだろう。体格や腕力にものを言わせて強引に攻めてくる相手は苦手だ。


 つまり、こういった乱戦は苦手ということだ。


「百人長。私が先頭を走ります。左右を守ってさえもらえれば何とかなるでしょう。最後尾から指示をお願いしても良いですか?」


 そう聞くと、興奮状態の父はどこか寂しそうに眉根を寄せた。一緒に戦いたかったのか。若干、不服そうだ。しかし、すぐに何度か頷いてみせ、自分に言い聞かせるように口を開いた。


「……うむ、そうだな。確かに、指揮官が先に倒れては隊は瓦解してしまう。ならば、柔軟に対処出来る様に後方に控えていよう」


「ありがとうございます」


 答えてから、私は騎士達を見た。流石に、もうニヤついた輩はいない。模擬とはいえ、もうすぐ戦いが始まるのだ。どうあっても緊張感が高まる筈だ。


 全員が前を向いていることを確認して、父に目で合図を送った。


 頷き、父が口を開く。


「突撃だ……! 速やかに敵、司令官を倒せ!」


 その言葉を聞いた瞬間、皆が走り出した。どこか悲壮な顔で走り出した騎士達を見て、心の隅で同情する。騎士団に所属する以上、上官の命令には逆らえないだろう。模擬戦ならば尚更だ。


 私は口の端を上げて、剣を抜きながら走り出した。


「クロウ・エ・ローヌ・エルミタージュ! 推して参る!」


 戦国時代を舞台にしたアクションゲームのキャラクターの台詞を真似して、私は突撃したのだった。






【第四騎士団】


 防衛に第一騎士団がいる。最初にそう聞いた時、後列に組み込まれたことを神に感謝した。


 第一騎士団は千人長も百人長も尋常ではない。部隊長以上は皆達人級の腕前なのだ。第一騎士団が精鋭部隊を構成すれば、三十人で百人を相手取ることも可能だろう。


 その中でも、リュベロン騎士団長は次元が違う。一人で何十人を相手に互角に戦えるのだ。気がつけば次々に味方が倒れていき、振り向いた瞬間、目の前に笑みを浮かべたリュベロン騎士団長がいた時は死を覚悟したものだ。


 いつも演習や訓練で消極的な第五騎士団はどうでも良いが、第一騎士団は相手にすると厳しい戦いになる。


 その為、第一騎士団をライバル視している第二騎士団は別にして、我が第四騎士団は第一騎士団の裏をかくべく、始まってすぐに回り込むように動き始めた。恐らく第三騎士団も同様だろう。


 打ち合わせもしていないが、これまでの傾向から予測ができる。


 アルボワ団長は、第二騎士団が第一騎士団を相手にしてる間に旗を狙うと言って行動を開始した。目論見通りになれば楽に目標を達成するだろう。


 最悪でも、第一騎士団との直接戦闘は回避出来る。そう思い、僅かに緊張感が緩むのを感じた時だった。


 回り込む為に森のすぐ側を移動していたのだが、ふと僅かな気配を感じて森の奥を見た。


 草が揺れて、薄暗い森の中にのそりと動く影が見えた。


 鎧の一部だ。


 そう認識した瞬間、頭の中にさまざまな情報が浮かんで消えていく。


 黒い鎧、第五騎士団だ。人数は定かではないが、流石に五百人以下ではないだろう。下手をしたら全員が隠れ潜んでいるかもしれない。


 やばい。いくら第五騎士団相手でも、こんな無防備な状態で攻撃を受ければ敗北は確実だ。


「……っ! 敵だ! 左、森の方に……!」


 叫んだ瞬間、それを合図にしたかのように森から剣を手にした騎士が飛び出してきた。


 見たことが無い、新顔だ。


 何となく、そんな言葉が思い浮かんだ。


「退け! 寄らば斬る!」


 よく通る声だ。それに大半の騎士が振り返った。そして、最も森に近かった騎士達が冗談のように吹き飛んだ。


 吶喊してくる巨大猪(ワイルドボア)に正面から衝突したように、鎧を着込んだ騎士が五、六名地面を転がるように弾き飛ばされる。


 そして、恐ろしい速さで倒れた騎士達を踏み越え、新顔はさらに我が騎士団の隊列を食い破っていく。


 大振りに剣が振られて、盾で受け止めた騎士が二、三人巻き添えにして薙ぎ倒される。それが三回、四回と繰り返される間に、信じられない光景を唖然と見ている仲間達が別の剣によって倒されていく。


 気付けば、目の前には何十人も黒い鎧の奴らが並んでいた。しかし、どう考えても人数が少ない。恐らく、隊列の正面や後方にも第五騎士団の奴らがいることだろう。


 団長達もそう考えたのか、素早く動き出した。


「そこの生きの良い奴は俺が止める! 前列、後列は周囲の警戒にあたれ! 森側に向いている奴らは防御を固めて構えろ!」


 指示を出しながら、団長がこちらに向かってくる。副団長と千人長は左右を警戒しながら前後に別れるようだ。だが、あの新顔の勢いを見ると不安になる。


 瞬く間に何十人と薙ぎ倒した姿は、あのリュベロン騎士団長を彷彿とさせたのだ。


 しかし、俺の心配を他所に、団長は剣を抜いて真っ直ぐにむかっていく。


「はっはっは! 中々やるじゃないか! だが、今回は相手が悪かったな! 俺の名は第四騎士団騎士団長、アルボワ・ベルジュラック! お前の名は!?」


 団長が興奮した様子で怒鳴るように名を尋ねた。すると、新顔は律儀にも足を止めて一礼を返す。


「私の名はクロウ・エ・ローヌ・エルミタージュ。よろしくお願いします」


 丁寧に名乗り返すと、クロウという新人騎士は剣を構え直した。


 それに口の端を上げて、団長が斬りかかる。


 鋭い踏み込みからの斬り下ろし。背の高い団長が上段に構えて本気で剣を振り下ろすと、大半の相手は防御すら出来ずにやられてしまう。


 速さと鋭さはもちろん、恐ろしいまでの破壊力だ。


 しかし、その一撃をクロウは真正面から受け止めた。それも、剣を横向きに倒して受けたのだ。


 さしもの団長も思わず目を見開いて驚愕する。


 そこへ、クロウが思い切り蹴りを放った。腹部を真正面から蹴られて、団長が地面を二回、三回と転がっていった。


「っ!? くぅ……」


 鎧越しだというのに、仰向けになって倒れた団長が息を漏らすように呻く。


 なんなんだ、この新人は。






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