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炎の魔女と白銀の竜  作者: paparatchi
11/12

第十章 最終戦

「ねぇ、お母さん」


笛を貰った直後、私は、その白銀の小さな筒を眺めながら、そう問うた。


「お父さんってどんな人だったの?」


私は、生まれてこの方、父親という人を見たことがない。

ライエのお父さんには会った事があるが、自分の父親ともなるとどんな人だったのか想像も出来なかった。


「怖い人だった?」


彼の家の父親は乱暴なところがあったので、私は自分の父親も同じようなものかと思い、心配になって、お母さんの顔を見上げた。

お母さんは、くすりと笑って、こう答えた。


「ううん、全然。とても優しい人だったわよ。貴方に会わせてあげられないのが、すごく残念」


そう、すごく、残念。

お母さんは、私を抱き抱えて泣き出した。


「ごめんなさい。ロゼ・・・あなたがお父さんに会えなくなったのは、多分、私のせい」


お母さんが、こんなに泣いているところを見た事がなかった私は、びっくりして固まってしまった。

ぐっ、とお母さんは私を抱く手に力を込める。


「大丈夫、大丈夫だよ」


私は必死にお母さんを宥めようと、息を絞り出してそう言った。


「きっと、お父さんは許してくれてる。私がこんなに大好きなお母さんなんだもん。お父さんもお母さんのことが大好きに決まってるよ」


「ロゼ、退け!俺はお前を殺したくない!」


頼む・・・と、全力で叫んだ後に、か細い声でライエは続けた。

眼前の『敵』は、上空へと退避し、衝突を避ける。


よかった、まだ戦意があるわけじゃない。

と考えたのも束の間、直上から火球が自騎に向かって放たれたので、ライエは咄嗟に回避した。

カノンを回頭させ、再度説得を試みるしかない。


ライエは地上に目をやった。

すでに大砲は、彼女に照準を合わせている。

時間がない。


背を屈めて高度を上げる。

ドンドンドン、と大砲の音が鳴り響いた。


敵の竜は砲弾を躱しながら下降の体制に入る。


拙いと、ライエは感じた。


彼は、一度、この場面を演習で体験している。

大砲の連射が終われば竜騎兵のマスケットが彼女を狙う。

なんとか彼女を上昇させなければ彼女の命が危ない。


「くそっ」


どうすればいい?彼女に自分の意思を伝える方法は何かないのか?

ふと、ライエは閃いた。


・・・何も考えられない。

まるで沼の中で踠いているような感覚がした。


大砲の轟音も。

翼から出る風切り音も。


私には最早、関係のないモノにさえ思えた。

私は、一体、何のためにここまでやってきたのだろう。


結局憎しみだけを増やし、結局何も得ることができないまま、ここで火達磨になる運命しかないのだろうか。

だとしたら、初めから何も行動しなかった方が正しかったのか。


どこから間違えたというのだろう。


テュールに付き従い、船についていった時からか?

しかし、あの場で私がそうしていなかったら、今頃、私の命はない。


コンスルの海軍の片棒を担いだ時からか?

あの船に笛を置き、そのまま去ったとするならば、それは、アロウとの決別を意味する。


そもそもアロウがいなければ、私はこの場にはいない。

お母さんを取り戻してはいけないというのか?


私には、すべてを失って孤独なまま生きるか、或いは死ぬかの二択しか選択肢がないというのか。


いくら考えを巡らせたところで、今となっては、もう遅い。

いっその事全て消えてしまえばいい。

私以外の何もかもが、この世からなくなってしまえばいい。

そんな、自己中心的な考えさえ浮かんできた。


ドンドンドン。


大砲が私を狙うが、それは私には瑣末な事に思えた。


どう収拾をつければ丸く収まるのだろう。

絶望的な事態に、思考が止まりかけたその時、キラリと、何かが光ってみえた。


敵の、否、ライエの竜の背中から、何かがキラキラと光って見える。

これは、鏡?

鏡で日の光を反射している?


”敵の竜騎士からの回光信号(ヘリオグラフ)だ”


回光信号とは、鏡に反射させた光の長短で文字情報を伝える技術だと、座学の本には書いてあった。


コウドヲサゲルナ


発信された信号からはそう読み取れる。

敵の大砲は、私を地上へ追い込むように撃ち込まれている。

追い込んだ先にあるものは、馬に乗り、銃を構えた兵士達だ。

竜そのものに銃弾を浴びせたところで、梨の礫でしかないだろうが、生身の人間は違う。


そう。彼らの照準はおそらく、私。


高度を落とせば、マスケット銃の格好の的になるだろう。

ライエに戦意はないのかもしれないが、上にはフェニックスが控えている。


頭上では竜を狙い、眼下では、人を狙う。

私達には、もはや逃げ場がない。


繰り返される、回光信号を見ながら考える。

ともすれば、取れるのは現状を維持して飛行するしかない。


このまま回頭してここから去れというのがライエの意図であるとも読み取れるが、私はそうは望まない。

かといって、このまま現状維持で空域から離れるわけにもいかない。

フェニックスか、竜騎兵。どちらかに対応しなければ私たちの活路はないのだ。

しかし、できれば、これ以上、人は殺したくはない。


ふと、閃きが脳裏を走った。


この方法なら、状況を打開できるかもしれない。

数は多いが、一回ならばきっと大丈夫。

少しくらい怪我人は出るかもしれないが、そこはどうか、容赦してほしい。


パパパパパン


爆竹のような、連鎖する破裂音が鳴り響き、竜騎兵隊の進軍は止まった。

馬が混乱を来した為、何名かは落馬し、その場から動けない。


あまりにも、一瞬の出来事。

埃と硝煙が晴れるまで、彼らには何が起こったのか理解が追いつかなかった。

初めは、銃の暴発かと思われたが、銃だけではない。

弾帯に刺さっていた手持ちの紙巻カートリッジの火薬も全て破裂したのだ。

クレイ・フォックス准尉は、青ざめた顔で空を見上げた。

敵の竜は悠然と、再び空に上がる。


やられた。


敵は『炎の魔女』だ。

魔法で人を焼き殺すのも造作もない敵が、火薬に火をつけてこちらを混乱させる事を考えに入れていなかった。


「将兵全員の火薬がやられました!准尉、ご指示を!」


「負傷者の回収と手当てを急げ!弾帯を外せ!奴の狙いは火薬だ!」


銃弾は、銃身がなければ、爆ぜたところでそこまで力強くは飛ばない。

現に、自身も、弾帯をやられたが、軽い火傷と浅い傷で済んでいる。


命を取られなかっただけ、まだマシだという事だろう。

本来であるなら、我々の体に火が回っていてもおかしくない筈だった。

クレイは、馬の踵を返す。


「准尉、どこへ?」


「大佐に進言する。大砲は危険だ」


大砲は火薬の塊。

狙われれば、数百の命を失うことになる。

一人でも多く、生き残らせねば。


「ぐっ」


黒い肌が皮膚を破る。

焼けるように熱く、刺すように肩が痛む。

やはり、数が多すぎたか。

しかし、肩を抑える暇を、彼らは私に与えるつもりはないようだった。


ドンドンドン


大砲が斉射される。

アロウは回避するために上昇するが、フェニックスがそれを火球で狙う。

まるで砲弾と炎の嵐だ。


アロウは回転しながら炎を避け、砲弾をすんでのところで上昇し、切り抜ける。


まるで振り回される人形になった気分だった。

風がどちらから吹いているのか。地上がどの方向にあるのか。

もう既に判断がついていかない。

胃が裏返りそうになるのを必死でこらえる。


「ロゼ!」


ライエの声が聞こえた。


「これ以上の抵抗はよせ!もう戦う意味はないはずだ!」


ランデブーの体制に入り、ライエが叫ぶ。

確かに彼の言う通りなのかもしれない。

ここまで飛んできたのは、私1人だけだ。

このまま敵の軍門に下ったところで何かを咎められるわけでもない。

裏切ってしまえば良いのだ。

もともとそこまでゆかりの深い人たちでもない筈だろうに。


けれども。


どうしても納得ができないのだ。


「マクラタカンの司令官は、悪い人じゃない。身の安全は俺が保証する!」


ライエは尚も叫び続ける。

合理的に考えれば、このまま何も考えずに抵抗を止め、白旗を揚げるのが得策なのだろう。

だが、それは、私にとって一番大切なものを失うことに他ならない。

私は何のために戦ってきた?

先に手を出したのはそっちの方じゃないのか?

たくさんの人の命を奪い去っておいて、今更何だというのだ?


「うるさい!」


ふと、そんな言葉が口をついた。

私にとっては、彼の甘言が最早、雑音にしか聞こえなかった。

彼にとっては、説得のつもりなのかもしれない。

だが、そもそも、説得でどうにかなるのなら、戦争など起ころう筈もないのだ。


自分にとって一番大切なものを守るために、人は戦うのだから。


私が、ライエとのランデブーを振り切ろうと、竜の翼をロールさせようとした、その時。

上空から放たれた巨大な炎球が目に入った。


ライエの言葉に惑わされた際にできた僅かな隙を、上空に舞うフェニックスは見逃さなかった。

不覚にも、炎は、既に私を捉え、当の私は、ランデブー離脱の体勢を崩せない。


死ぬのか。


ーーーーーギャアアアア!


断末魔とも取れる、竜の嘶き。

それは、あろうことか、私と炎の間に飛び込んだ、影。


ライエの竜のものだった。


炎はじきに、自分の身を包むのかもしれないと、ライエは考えた。

だが、これ以外に、最早方法はなかった。


命に代えても、彼女を守る。


自分が竜騎士になった理由は、まさしくそれ以外の何物でもなかったから、いまの自分の行動に後悔はなかった。


ベルトを外して、火の玉の向かう方向に自分が飛び込めば、契約上、カノンは絶対に火球の壁になって自分を守る。

ロゼの驚く顔が見え、自分の体はゆっくりと落ちていく。

カノンが壁になり、燃えずに済んだのは結構だが、砂地とはいえ結構な高さだ。

助かる見込みは微塵もない。

だというのに、不思議な感覚だった。

やるべきことをやりきったいう達成感が、彼の心を満たしていた。


もともと自殺行為になる事は、わかっていた。


・・・全く面倒だ。命を差し出した者に命で答えるなどと


いつかのカノンの恨み節が反芻はんすうされる。

全く、こいつには、どう申し訳を立てれば良いものかわからない。


死を受け入れるとはこういうことか。


彼が目を閉じてそう考えた瞬間、がしりと、腕を掴む感触がした。

それまでの落下の慣性が引き止められ、ずしりと、彼は自分の体の重みを感じる。

目を開けると、一体、どこからそんな力が出てくるのか疑問に思えるほど、華奢な腕が、ライエの腕を掴んでいた。


「ロゼ?」


「ぐっ」


おそらく、腕が傷んだのだろう。彼女は嗚咽を漏らした。

腕越しに、彼女がさらに握力を込めるのが伝わる。爪がめり込んで、正直痛い。

しかし、それどころじゃない。


「もういい、離せ!このままじゃ、お前も落ちるぞ!」


「絶対に離さない!離すもんか!これ以上、もう、何も、私から大事なものを奪わないで!」


落ちるぞ、という言葉に被せるように、彼女は、泣きながら、そう喚いた。


そんな問答を他所に、フェニックスは動けない二人に容赦なく向かってくる。



「危ない!」


と、ライエが叫んだ。

振り返ると、そこには、巨大な炎の鳥の姿。

フェニックスは私たちを炎の中に葬り去ろうと大きく口を開ける。

全てを諦めかけたその時、


・・・風を読め!


誰かの、声が聞こえた。


時間が、止まる。

周囲の景色は何も見えなくなり、光が、私を包み込んだ。


「誰?」


光の中で、声が聞こえる。

目を凝らして声の先を見ると、

ぼんやりと、軍服姿の男性の影が見えた。


・・・突風が来る!できる筈だ!風を読め!


知らない声だというのに、懐かしい感じがする。

その姿は、アラカドで見た、父の写真によく似ていた。


「お父さん?」


光が薄れる。


「危ない!」


と、ライエが叫んだ。


時間が、戻った?

あの声がお父さんのものだったのどうかはわからない。

突風が来ると言っていた。

だとすれば、あまり時間があるとは思えない。


「突風が来るの、ライエ、早く乗って!」


「バカ言え、お前の腕が・・・」


「早く!」


ライエは渋々、私の腕を伝って登る。


「ぐっ」


痛い。腕がもげそうになるのを必死でこらえる。


びゅう、と。突風が、私たちの体を攫った。

質量のないフェニックスは風に煽られ、私たちよりも大きな風の影響を受ける。

ひとまず、私たちが、フェニックスの火球を受けることは無くなったが、私の腕はもう限界だった。


ぐぎりと、厭な音がし、さらに激痛が走る。


膝に思い切り力を込めて、アロウの背を足で掴む。


息も絶え絶えに、ライエが私の後ろに回った。

アロウにはタンデムができるように、ベルトと鐙が括られている。


「すまない」


激痛が走る腕を抑えた私を見て、ライエは、ベルトを締めながら、申し訳なさそうにそう言った。


「謝るのはあと!」


態勢を立て直したフェニックスがこちらに向かって来る。

まずは、この鳥をなんとかしなければならない。


フェニックスは、私たちに火球を2発放って交錯する。

アロウは、体をロールさせてそれを交わし、シャンデル機動で敵に向き直る。


炎が相手に通用しないのはわかっている。

だが、逃げ惑うだけでは、もはやどうにもならないのだ。


対峙する竜と鳳凰。

刺し違えても、後悔はない。

タンデムの竜に対して、ただでさえ機動力の圧倒的なフェニックス。

圧倒的に優速な敵。

勝てる筈がないと、人は嗤うかもしれない。

けれども、私たちは、戦うことを選んだ。


フェニックスは私たちに、再び火球を放つ。

回避行動を取る間も無く、いとも簡単に炎の鳥は私たちの背後に回る。


フェニックスは猛然と私たちに突進する。


そして私たちは、その炎に包まれた。


ドドドドドン!


大砲から、幾重にも重なった破裂音が聞こえた。


長い間、彼女は、深い眠りについていた。

自分の持つ魔法の知識や記憶を、敵に奪われないようにするためには致し方なかった。

魔法による記憶の消去は、記憶の完全消去と、一時的な消去の2種類がある。

彼女は、万が一のために、後者を選んだ。

最悪の場合、自身の記憶が呼び戻せるように。


しかし、それゆえに。

彼女の記憶は完全には消えず、エメットがエリヤに調合させた霊薬の効果で、魔法を使う記憶だけが不完全に目覚めさせられる事態が起きた。


然れども、彼女は、このリスクを承知の上で、あえて自分に記憶を残した状態でそれを封じる呪をかけた。

そうしたのには、理由があった。

最大の理由は万に一つの可能性。

彼女の娘であるロゼを、彼女の手で殺そうとした場合、その記憶が蘇るように。


「白旗を上げるか」


空を眺めていたエメットガルシアは、ため息をついて、部下を眺めた。

大砲隊は、先ほどの火薬の誘爆で対応に追われている。


「エメット大佐!まだ作戦は終わっておらんぞ!」


「馬鹿を言うな!相手は単騎だ!誰の判断で降伏などと・・・」


エメットの後ろに鎮座していた老人達が騒ぎ出した。

こいつらには、現実というものがわかっていない。

ややもすると、これが、起こさなくてもいい戦争を起こした直接の原因であるのかもしれない。

自分で戦うことをしなくなり、前衛の後ろに座り始めた瞬間から、どうにも人間というのはそのエゴを守るきらいがある。

こいつらのエゴのために、何人の人間が戦場に散ったかわからない。

人が灼熱の砂漠の真ん中で全力で戦っているのに、日除けに隠れてガタガタ抜かすしか能がないのか。


「エリヤ、すまないが、降伏の準備だ」


傍にいた、エリヤ・ブラウンに彼は力なくそう告げた。


「エメット・ガルシア!こんなことが許されてなるものか!敵前逃亡だ!軍法会議ものだぞ!」


「やかましい!」


エメットは老人達を制した。


「敵前逃亡だ?第一、俺は逃げちゃいない。さっきから聞いてりゃ、好き勝手言いやがって。軍法会議にかけたきゃかけりゃいい」


「貴様・・・」


「勝機がなくなったから降伏をしようというだけの話だ。俺の任務はこの町、即ち、マクラタカンを守ることだ。俺の首一つでこの町の人間全員の命が吹き飛ばずに済むのなら世話はない」


エメットは敵に恐れをなしていた訳ではなく、純粋に戦況を見ながら戦力を分析してその結論を出したと自負していた。

そう。先ほどの誘爆と、空のあれを見ればわかる。

彼女が、目覚めたという事実は。


「賢明な判断ね」


冷たい女性の声がしたのでエメット振り返ると、そこには、体の至る所に黒い呪印が施された女性、カーネ・バークガッツが、氷のような目線で自分を見下ろしていた。


「ご長老方もいるのであれば話が早い。まだ娘に手を出すというのなら、街ごと五分で消炭にしてあげる」


炎に包まれたその時、突然、腕が軽くなった。

脱臼したかと思ったほどの激痛が、意図も簡単に引いていく。


何が起こったのか、理解ができない。

しかし、私の肩を刺すように走っていた、呪印の痛みは消え、いつの間にか破片で受けた身体中の傷も癒えている。


不思議な感覚だった。


私たちは明らかに炎に包まれている。

その筈なのに、なぜか心地がいい。

まるで、お母さんに抱きしめられているような感覚。

一体、なぜ、こんなことが起こっているのだろう。

その疑問を持ったのも束の間。


ドドドドドン!


大砲から、幾重にも重なった破裂音が聞こえた。

私たちが、恰好の標的だった故の一斉掃射であると思いきや、それにしては破裂音が重なりすぎている。

砲弾は発射されていない。

この音は、誘爆?


下を見れば大砲隊が慌てて消火を急いでいるのが見える。


何が起こった?


”成る程、降りよう。どうやら、戦いは終わったようだ”


私たちの理解を他所に、アロウだけは、納得したようにそう言った

彼の目の先には、急拵えの白旗を振る幾人かの姿があった。


アロウはゆっくりと砂地に着地し、私たちを下ろし、ゆっくりとその頭を垂れた。

アロウが頭を垂らした先には、白いフード付きのローブを被った女性が、立っていた。


”竜と人間の契約は宿命である。その立場は変わらんつもりだが、貴方きほうには命を助けられた義理もある。セプテインの事は、申し訳なかった”


”そのことで論を交わすつもりはない”


アロウの言葉に、女性は冷たい竜語で返した。


”だが、此度の働きで、貴方がこの娘を守ってくれたことには、感謝している。ありがとう、アロウ”


女性は、ゆっくりとフードを脱いだ。


「お母さん・・・」


考える前に、体が動く。

私は跳ねるように抱きついた。


私が、誰よりも心配だった。

私が、何よりも、切望し続けた、

私が、何度も、もう一度会いたいと願い続けた、

優しい笑みを浮かべた母。

カーネ・バークガッツの姿が、そこにあったのだから。


「心配したじゃない!本当に、もう、すっごく心配したんだから!」


もっと、ボキャブラリーは無いのかとも思うが、それが全てだった。

いいじゃないか。この瞬間は子供に戻ってしまっても。


「ごめんなさい、ロゼ。でも、言いつけを守らない貴方も悪いわよ?あなたが大人しくせずに危ないことばかりするから、こんな大ごとになっちゃって」


全くああ言えばこう言う。そもそも大ごとになっちゃって戦争にまで発展したのは、私のせいじゃない、と、いうのは置いといて。


「もうどこにも行っちゃダメだからね!めちゃくちゃ苦労したんだから!もう、過去一しんどかったんだから!」


「はいはい、行かない行かない」


「テュールも、ダリアさんも、みんな死んじゃって、私、どうしたらいいのか、うええん」


もう、考えがまとまらなくなってしまった私の頭を、母は優しく撫でて落ち着かせる。

懐かしい感触だった。


「そうね。落ち着いたら、みんなで弔わないといけないわね・・・ごめんね、本当に。苦労かけたね・・・・」


私に、覆い被さるようにして、母まで泣き出してしまった。



この日、リアニス政府とコンスル政府の戦争に終戦条約が結ばれた。

これはマクラタカン条約と言われ、以下を規定した。


1、リアニス政府は、コンスル政府に対して、回収可能な全て竜笛の返還を本条約発効後に履行する。

2、コンスル政府は、リアニス政府に対して、如何なる領土の割譲も求めない。

3、マクラタカンの帰属に関しては、魔女に委ねること。


以下、賠償規定の為、略。

前回の更新から1年ぶりになってしまい、また張り紙がされてました(ぉ


と、いうわけで、次回が最終話「エピローグ」になります。

中断含めて5年の連載になってしまいました。

最後まで、よろしくお願いします。



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