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炎の魔女と白銀の竜  作者: paparatchi
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第一章 プロローグ

 その小笛は、十の誕生日にお母さんからお父さんの形見として譲り受けた。

 お母さんは私に、この笛の取り扱い方に二つの注意をした。


 ひとつはいつも肌身離さず持ち歩く事。

 もうひとつは、絶対にその笛を吹かない事。


 笛なのに、吹いちゃいけないのはどう言う事なんだろうと首を傾げた私に、お母さんはこう、付け加えた。


『もし、貴女の身に何かが起こり、自分の力だけではどうしようもならなくなった時に、その笛を使いなさい。無闇矢鱈に吹くと、竜がきて、貴方を食べてしまうわよ』


 ともあれ子供心に、最後の一節は強烈で、私は今に至るまで、その笛を一度たりとて吹いた事が無い。


 今は流石に分別が分かる年なので、幼い私に母が言い聞かせたのは脅しだったのだろうと察しはつく。


 だが、あまり笛そのものに対する興味が薄れてしまっているため、今更、吹いてやろうとも思わなかった。


 兎に角、私にとってこの笛はただ一つの父の形見であり、その笛を吹く事は禁忌だった。



 ◆

 壁一面に、指名手配札を張り巡らせた賞金稼ぎの集う酒場。

 本当は、十六歳以下は出入り禁止の場所なのだそうだが、私はそんな事は知らない。


 賞金ギルドを兼ねたバーの様な体裁のその店の扉を、私は強引に蹴破った。

 突然ドアに蹴りを入れたのがいけなかったのか、それともこの大きな麻袋の所為なのか、店にいた面々は仰天した。


 マスターだけは流石に慣れてきたらしく、私の方へ一瞥すると、肩をすくめて首を振った。


「よっこらしょっと。マスター、コレ換金して。あと、レモネード」


 小麦を入れる麻袋を引き摺って、カウンター沿いにある私の指定席に陣取る。


「またお前か、ここはお前みたいなコドモが来るところじゃあねぇよ。夕刊よこしてさっさと帰れ」


 マスターは迷惑そうな顔をしてレモンを搾り始めた。


「賞金を換金できるところって、この辺りじゃここしか無いんでしょう?」


 とりあえず、マスターに新聞を手渡す。


「おぉ、とうとうリアニスがコンスルに最後通牒だと?こりゃ戦争になるな」


 マスターは新聞の一面を読みながら、わざとらしく独り言をつぶやく。


「ちょっと?聞いてる?」


「戦争になるかどうかの瀬戸際だぞ?良い子はお家に帰んな。俺も息子に手紙を出さにゃならん」


「報酬。まだ交換してない」


 いつ起こるか分からない戦争より今日の食費を早く寄越せ。


「『デッドオアアライブ』は、十八になってからだ。悪いが、その首は受け取れねぇ」


「ご心配なく、まだ生きてるわ」


 私は、麻袋をひっくり返す。

 ダルマの様に縛り付けられた小柄な男が、中からころころと転がり出した。


「成る程。アレクス・サン・アンドレアス、詐欺師・・・・アライブ指定のBか。四百セッターだな」


「まいだーりぃ」


 B級首を仕留めたのか?あんなガキが?―――― と、周りが騒ぎだす。


「どうでもいいが、何も麦袋に入れて来なくても良かったんじゃないか?ロゼ。可哀想に、すっかり目を回してやがるぜ」


「ケッコン詐欺なんてちゃちい手口で女を弄んでた男の成れの果てなんて、そんなモンだと思うけど?」


 私はマスターから手渡されたレモネードを口へ運ぶ。

 仕事終わりの一杯は、カクベツに()()


「おっとろしいガキだ」


 マスターは首をすくめて、賞金の入った袋を私に手渡した。


「息子といいお前といい、全く近頃の若い奴らは碌な育ち方をしねぇな」


「ライエ、いつ帰ってくるの?」


 マスター、否、この男、コルゾ・オル・ディナンの息子の名は、ライエ・エル・ディナン。私の友人だ。


 幼い頃から、近所でよく遊んだ。川遊びをしたり、魚を釣ったり、野原で蛙を捕まえたり。

 あまり女の子らしい遊びでないのは、ご愛嬌ということで許してほしい。


 私よりも二つ上だった癖に、私よりも身長が低く、泣き虫だった彼が、突然軍への入隊を志願したのは、一年前の事だった。


「さぁな。知ったことかよ。あいつの事だ。戦争が始まる前には怖気付いて帰ってくるんじゃないか」


 馬鹿息子が、とマスターは溜息交じりに悪態をついた。


 マスターはライエが軍に入隊することには終始反対していた。


 私の家と同じく、この家も片親だったので、誰が家の手伝いをするんだと怒鳴り散らしていたのを覚えている。


『親父に楽をさせたいんだ。時期がきたら、またこの街に帰ってくるよ』


 艶のある赤い髪、青く透き通った瞳。


 怒り狂う酒場の主人から逃げ出して、二人きりになった時に、この話を聞いた。


 父親に殴られた頬を気にする事もなく、その眼差しは、まっすぐ先の方を見据えていた。


 私にとっては青天の霹靂のようなもの。


 本音を言えば、私も彼の入隊には反対だった。


 軍隊に入るという事は、いずれ戦争に行ってしまうという事。


『時期が来たらって、それはいつ?本当に生きて帰ってくるの?』と、聞き返す事もできなかった。


 それほどまでに、彼の決心が硬かったのだから。


 あの夜のライエの横顔は、まだ忘れることができない。


 ―――― 戦争が始まる。


 マスターの言葉が今になって反芻される。

 当たり前にあった幸せが壊れる予感がした。


 胸が締め付けられ、不意に泣き出しそうになる。

 駄目だ。強くなろうと決めていたはずなのに。


 私の母の病も、あれから段々酷くなった。家を支えるためにも私が今、歩みを止めるわけにはいかない。


 レモネードを口に含む。

 やはり、悲しい気持ちを綻ばせるのは、甘い飲み物だと思った。



「そう言えば、お前に客が来てたぞ?」


 レモネードを飲み終わった私を見て、マスターが思い出したかの様にそう言った。


「え?私に?誰が?」


 私は首を傾げてマスターに向き直る。


「知らねぇよ。お前の事を聞かれただけで、後は何も」


 マスターはそれきり何も言わずにグラスを拭き始めた。


「二十!」


「五十だ!」


「二十五!」


「四十セッター!これ以上はびた一文負けてやらん」


「・・・ケチ」


「ウチも商売でね」


 鼻歌まじりでマスターはグラスを片付ける


「マスター」


「あ?」


「自分の子供の幼馴染から、お金を巻き上げて、楽しい?」


「ぐっ!」


 裏技が決まった。


「三十でいいわ」


 私は、先程頂戴した袋の中から、硬貨を3枚取り出した。


「薄気味悪い男だよ。背丈はお前よりも頭ひとつ、否ふたつ、ってところか」


「悪かったわね。チビで」


 お前の息子はもっとチビだろうに。


「黒いローブを着てたんで、顔はよく見えなかった。首に銀の小笛をぶら下げた、十四歳の少女を知らないかと聞かれただけだ。お前、何かやらかしたのか?」


 何かやらかしたのか?と聞かれると、心当たりは山ほどある。

 賞金稼ぎという稼業を始めてからこっち、色々と拙い社会にも首を突っ込んだ。


「それでマスター、なんて答えたの?」


「あの小生意気な娘なら、よくここに来てレモネードをかっ喰らう。知り合いなら、ドアを蹴っ飛ばした後の足跡ぐらい拭く様に伝えろと、そう言った。一語一句、間違いはねぇぜ」


 マスターはにんまりと笑ってそう言った。ひどい。


「ちょっと!見ず知らずの相手に何で私の事喋ったのよ!」


「五十ラークを貰った。隣国の貨幣だ。こっちの相場じゃ百セッター。太っ腹だぜ、お前と違ってな」


 やかましい。コレだから拝金主義者は信用できない。


「外貨を持ってたって事は、異邦人?コンスルから国境を渡ってこっちに来たの?」


「別に珍しくもない話だろ?国境はこの町から目と鼻の先だ」


 副業で新聞配達をしているので、私もコンスルの内情についての記事は何度かお目にかかった事がある。


 私の生まれる少し前、隣国コンスルで過激派による内戦が起きた。

 その内戦により首都が陥落。


 しかし、戦争に勝利した筈の指導者が行方不明となってしまった為、無政府状態を経由し、暫定政府を立ち上げ、現在に至る。


 だが、その暫定政府も、今のところあまり効果が無く、ここリアニスにも、あちらから渡る亡命者が後を絶たないといった具合だ。過激派によるスパイではないかという噂まである。


 何かが引っかかった。


 私は隣国に知り合いなどいない。私の母は隣国の生まれだそうだから、異邦人が訪ねてくるなら、むしろ母の方が可能性がある。


 母を捜すならまだしも、私を捜すというのは少し妙だ。しかも向こうは、わざわざ私の行きつけの店まで調べ上げるという周到ぶりだ。裏があるとしか考えられない。


 私は、首飾りの笛をいじり回しながら、しばらく物思いに耽っていた。



 ◆

「ただいま」


 私はしばらく町で生活用品を買いそろえた後、病院で母の薬を貰い、早々に家に戻った。

 キッチンには誰もいない。


「おかえり」


 奥の部屋から、お母さんの声がする。


「お医者さんから薬を預かってるわ。ちょっと待っててね。いま、おかゆ作る」


「ロゼ」


 竃に火を焼べる私に、お母さんがベッドから声をかけた。

 心なしか、声が重い。拙い。何か怒られそうな予感がする。


「ん?」


 私は気にしない素振りで、薪を竃の中に放り込む。


「あなた、お母さんに新聞配達の仕事をしてるって嘘ついてるでしょ」


 予感的中、しかし、新聞配達している事は嘘ではない。まだ続けている。


 お母さんの意図している事は何となく理解できる。その新聞配達をしている間に見つけたある職業の事についてだ。


 他の国ではどうか知らないが、この界隈に配達される新聞には賞金首のリストが最後のページに載っている。


 それを見て始めた賞金稼ぎという職業は、我が家に大きな富をもたらした。

 もともと、普通に真っ当な仕事をして、所得が五倍になるなんて事実はあまりにも不自然だ。


 勘付かれるのは、時間の問題だった。


「お隣のおばさんから聞いたわ。あなたが賞金ギルドに出入りしてるって噂」


 あんのババァ、たまに自分の畑でとれた野菜を持ってくるのを良い事に、ある事ない事、お母さんに吹き込みやがって。


 お水の商売ではなかったことに免じて、勘弁してほしい。

 今、この収入源を絶たれてしまえばウチの家計は火の車だ。


 病床の母親を働きに出せるほど、私は残酷な人間にはなれない。


「そんなの噂よ、ウワサ!ライエのお父さんの様子見に寄ってるだけ!コドモの私に賞金稼ぎなんて無理だって!」


 半分ホント。私はなり振り構わず、全力で隣のババァの吹聴を否定しにかかる。


「ならいいけど・・・ご迷惑をかけないようにね」


 ふぅ・・・急場凌ぎだったが、この場は何とか誤摩化せそうだ。


「ロゼ・・・お願いだから、危ない事はしないで」


 お母さんが釘を刺す。


「大丈夫だって!お母さんが心配する事なんて、何一つないわ」


 その分、私が心配する事がまた増えた。



 ◆

 次の日の朝、私はいつも通りの配達ルートを辿って、その酒場に行き着いた。


 この界隈は、もとより治安が悪い事で有名だが、通りにいる頃から、何か違和感の様なものを感じていた。


 おかしい。


 いつもとは違う、その物々しい雰囲気を他所に、私は閉店したギルドのポストに朝刊を突っ込んで足早に去る。


 狭い通りに再び出ると、私は四、五人の男に囲まれた。


「何の用?」


 心臓が高鳴るのを悟られない様に、私は声を低くして、男たちに問う。


「こいつで間違いないのか?」


 男の一人がもう一人に問う。


「あぁ、手配書に間違いはなさそうだ。おったまげたぜ。こんな嬢ちゃん一匹が一億だとよ」


「気をつけろ。ガキだと思って甘く見るな。俺は昨日、このギルドでこいつがB級の首をアライブで抱えてきたのを見た。この娘、見かけに寄らず相当な手練だ」


 男たちは一斉にサーベルを引き抜いて私に斬り掛かる。


 私は咄嗟に、男達の合間を縫ってそれを躱す。


 後ろを振り返らずに、全力で逃げる。


 ぐい、と私の手を誰かが引っ張る。

 見れば先程の男達とは別の人物だった。助かった・・・


「こいつを殺せば、一億セッターだ!」


 ぞくりと、背筋が凍り付く。


 さっきの男達だけじゃない。町の人間が皆、私を狙っている!


 男の手を振りほどいて私は再び走る。


 私を殺せば一億セッター?

 

 私はもしやと思い、鞄の中に残っていた未配達の新聞の最後のページを見た。


 ――――― 賞金指定A ロゼ・バークガッツ 捕獲条件:『生死問わず』 達成報償:一億セッター


 頭を金槌でたたかれた様な衝撃が私を襲う。


 自分の名が賞金首リストに、あろう事か見た事もない破格で載っている。おまけに、人相書きも憎らしいほど完璧だ。


「待て!小娘がっ!」


 大通りに出ても、数人の賞金稼ぎが私を見るなり追いかけてくる。


 息が切れる。しかし彼らは、私に立ち止まる隙を与えてはくれない。


 はぁ、はぁ。


 走りながら考える


 どう言う経緯かは知らないが、私は賞金首になったようだ。

 気になるのは賞金稼ぎの行動パターンである。


 私自身が賞金稼ぎだった事もあり、彼らの行動パターンは手に取る様に分かる。

 ひとりの人間を捕まえる為には、その拠点を押さえるのは常套手段。


 家が危ない!


 私は、全速力で走った。


 後生だ。何事も起こらないうちに家に戻れます様に!


 私はそう願ったが、私が辿り着いた時には、何もかもが遅かった・・・


「そんな・・・」


 朦々と黒煙を上げる我が家は、既に半分以上が炭と化している。


「おかあさん!」


 私は家に駆け寄った。しかし、その行く手を、黒いローブを着た男に阻まれた。


「やめて!離して!おかあさん!!」


 私は必死で男を振りほどこうする。しかし、男は私を抱きかかえ、私の体の自由を奪った。


 なんて力だ、身動き一つできない。


「いたぞ!」


 追っ手が、私を指差した。


 男は、その追っ手を視認するや否や膝をかがめ、向かいの家の屋根まで跳び上がった。


 あまりの出来事に、私は目を白黒させる。


 なんて跳躍力だ。こんな人間がこの世の中にいるのだろうか。


 ぱぁんと、ローブの男の肩が跳ねる。業を煮やした賞金稼ぎ達がとうとう銃に手を出したのだ。


「ぐっ!」


 ローブの男は少し体制を崩し、どさりと屋根に叩き付けられた。


「ちぃ・・・おい、怪我はないか?」


 自分は肩を押さえながら、彼は私に、そんな事を聞いてきた。

 私の首を狙う賞金稼ぎの一人だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。


「おかあさん・・・・!」


「今は動くな。それに、あいつなら大丈夫だ」


 我が家の様子を屋根から伺おうとした私を、男は静止する。


 下に潜む相手は銃を持っている。今、迂闊に動けば確実に撃ち殺される。


「しばらく臥せってろ」


 そう言って、男は肩を押さえた。

 先程、銃に撃たれた場所だ。


「見せて。応急処置くらいならできる」


 私は、男の傷口を見ようと彼の手をどける。

 そこで私は驚愕した。この人の血は・・・青い。


「蒼血族は初めてか?」


 男は、頭からかぶっていたローブのフードを脱いで顔を見せた。


 漆黒の髪、蒼白い肌。そして、青い唇。

 血液が青いからだろう。白目の血管から、舌に至るまで、すべて青い。

 顔立ちは、整ってはいるが、正直な話、まるで、本にある悪魔の様な、異質な印象を受けた。


 今思えば、とても失礼な話ではあるけれども。


「自己紹介が遅れたな。俺の名はテュール。お前の両親の古い友人だ」


「私は、ロゼ。ロゼ・バークガッツ」


 洋服の袖を千切り取り、即席で包帯を拵えて、テュールの肩に巻きながら、私は自分の名を名乗った。


 ばぁん、と再び銃声がなる。がやがやと周りが騒がしくなってきた。


「どうやら、町中の賞金稼ぎを敵に回しちまったらしい」


「どうするの?」


 私は、テュールの方へ向き直り、彼の考えを聞こうとした。


 その矢先、ドォンという音と共に足場が揺らいだ。


「大砲か!拙い!」


 テュールが叫んだ。


 見れば屋根にはがしりと、鉤付きロープが引っ掛かっている。人が上ってくるのは、時間の問題だ。


 四面を黒山の人だかりで囲まれ、直に彼らは上ってくる。他の屋根へ飛び移ろうにも、大砲の格好の的になる。


 どうすれば、この局面を打開できるのか。

 考えを張り巡らせるほど、どうにも出来ない事実が浮き彫りになる。


「まさに、万事休すだな・・ロゼ・・・その首の小笛を吹け。」


 パニックに陥る私を他所に、テュールは比較的落ち着いた様子でそう言った。

 こんな時に?という疑問とともに、お母さんの言葉が私の頭で反芻される。


『もし、貴女の身に何かが起こり、自分だけの力ではどうにもならなくなった時に、その笛を使いなさい』


 お母さんは、父の形見であるこの笛を私に手渡す時に、確かにそう言った。


 私は、首に下げたその銀の小笛を握りしめる。

 今更、何を怖がる事があろう。

 使うべきときは今しかない。


 私は、その笛を口元に持っていくと、力一杯、それを吹き抜いた。


 音は、なにも鳴らない。


 非常に残念な事に、この笛は、本当に使うときを待たずして既に壊れてしまっていた。


 きらきらと光るその笛を見ながら、私は絶望した。


 神様は、あまりにも残酷だ。

 どんなピンチなったとしても、私を助けようとしてはくれない・・・


 その矢先、突風とともに、巨大な火の玉が落ち、下に居た賞金稼ぎ達を焼き払った。


「何?」


 私は思わず、風の吹いた先の空を見上げる。


 私の目の前には、信じられないモノが居た。


 角を生やした、蜥蜴の様な頭。鱗に覆われた長い首。蝙蝠の様な大きな翼。蛇の様に長い尾。


 大空に羽ばたくその白銀の竜は、私の方を眺めてその口をにやりと綻ばせた。


“成る程、『カーネという女性の幸』。あの男は確かにそう言ったが、その言葉に、このような落とし穴があったとはな・・・”


“暫くだな、アロウ。見ての通りだ。すまないがもう一度、その背を貸しては貰えないか?”


 テュールは竜を見るなり、獣のうめき声の様な声を上げる。

 竜と・・・会話をしているのか?


“ほう、誰かと思えば以前に会った蒼血族の小僧か。でかくなりおって。まさか竜語を扱える様になっていたとはな。いいだろう。どうやら俺は、あいつとの契約で、そこの娘も守らなければならんらしい”


 白銀の竜は私を見てゆっくりと屋根へ降りてくる。


“セプテインとの契約により、それを今、履行する。有り難く思え。喰らわれずに竜の背に跨がる事の出来る人間は多分、貴様が初めてだ”


 竜は私に何かを語りかけてくる。しかし、私は竜が何を言っているのか、理解できなかった。


“乗れ、ロゼ・バークガッツ、今日から我が背は貴様のものぞ”


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