蝦夷
きたけどすぐ帰るよ?
船がようやく蝦夷の土地へ着くと、1人の若い衆が出迎えてくれていた。
大亜門一家のダイガシの大の助。年は不動と変わらないくらい。けど、立派な一家だと聞いていたが、なんか見た感じは立派じゃない。どうしたんだよと聴きたくなる。
聞く前に言ってくれた。
実は親分が病気がちで療養の身。その間に一家を任されたのだが、1人、また1人と消えるように辞めてしまい、最後の砦のような男、龍角まで居なくなってしまったという。
残ったのは大の助と、龍角の妻だけで、それでも頑張って一家を支えていたのだが、今度は大の助自身が流行り病にかかってしまい、療養中の親分に頼る始末。
これじゃあいけねえとも思ったが、今は親分に頼ることしか出来ないでいるという。
涙ながらに話すこの男。
しっかりとした良い男じゃねえか。気に入った!
言うと思ったという、太郎たち。
よし!親分のところへ行こうじゃねえか!
と出向いた先にいた親分は、これまた良い男だった。鎌ちゃん達を見て一言、大の助をどうか頼むと言ってくれた。
大の助も親分の言葉があるもんだから仕方ない。けど、これだけはと言った言葉がまた良いんだな。
大亜門の名前は消したくはない!俺はこの名を背負っって生きたい。とな。言ったのを聞いた鎌ちゃんはいつものように言ったんだ。
俺は子分は取らねえよ。兄弟分ならなるけどね。だからその名前がどうであれ関係ないぜ。俺たちと一緒に江戸まで行ってみるかい?
大の助は、親分の顔を見た。
親分は怖い顔をして頷いている。
親分、身体だけは、大事になさっておくんなさいよ。ではこの大の助、今から江戸までちょいと行ってきますよ?
親分の顔が少しだけほころんだ。そして鎌ちゃん達に頭を下げた。
鎌ちゃんは、そんな、やめてくださいよー。と言いながら、この大の助を連れて、また船に乗った。
あとは船で江戸まで行きゃあ、なんとかなる!
大の助に、俺は鎌太郎ってんだ。こいつは太郎で、あのでかいのが不動。その横のちっちゃなのは男でお蝶ってんだよ。そうそう、こいつ、最近兄弟分になった春太郎だ。船の中のことはこいつがめちゃくちゃ詳しいから。ニコニコと笑う鎌ちゃんを見て、大の助は少しだけ安心していた。
話には聞いてるよ。辰五郎親分とこの若い衆がくるから丁重に扱ってくれって。若い衆、めちゃ多くてちょっと困ってたんだ。どうしよう、米ねえよ。って。
大の助は思っていたより柔らかな人柄のようで、よく話をする。なんかそれだけで鎌ちゃんは嬉しいなぁと思うんだ。良かったなぁと思うんだ。
苦しくて悲しくて辛かったろうに。
船に乗って親分に手を振っている。この笑顔を曇らせることだけはしたくはないなぁと思う鎌ちゃんだった。
お!もう乗るんかよ。じゃあ俺も乗っちゃお!と、これまたあの時のお役人が乗り込んできた。
こいつら、絶対、臭え。何か怒るに違いねえ。しかし、こいつら、臭え臭えと思っちゃいるが、周りが臭えだけで、全然だなぁ。ま、いい。ついてって損はねえや。
役人がそんな事を考えているとは知らず、鎌ちゃん達は江戸へと向かう船に乗った。
動き出してすぐくらいに、不動が気づいた!
お蝶!お前、蝦夷にお前の大事な人がいるんじゃないのか?
あ、それ?
あ、それって、、、軽いな。
今は自由の身になれた。それに、お前たちとも出会えたんだよ?男なんていっぱいいるじゃねえか。お前もな!
と言って不動の腕に絡みついている。
不動は少し安心したように笑った。
鎌ちゃん達は遠くからそれを見ていた。
なあ、あれはあれでいいんだよな。
いいんじゃね?
幸せそうだぜ。
出港した船は江戸まで無事着くんでしょうか、、、
着くと思います!
乗り込んだ船は一応平和。