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秋葉原ヲタク白書19 ポンの一族

作者: ヘンリィ

主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起こる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第19作です。


今回は、陥落寸前のベルリンからタイムマシンで脱出して来た時間ナチスから、永遠の生命をも絶つ聖槍の捜索を依頼されたコンビでしたが…


お楽しみいただければ幸せです。

第1章 陥落前夜


アトミックパンクがキテる。


蒸気機関と歯車を愛するスチームパンクが、いつのまにかヲタクの手を離れリアル市民権を得たと思ったら次はイキナリ原子力だ。


というワケで、今宵のパーティは、原子力飛行船を駆る空賊のコスプレやレトロな放射線防護服でキメたお客が溢れかえっている。


おお!世界中が流線形でサイケだった時代!

原子力は「夢のエネルギー」と呼ばれて…


フロアから1段高いバンドスタンドから会場を見下ろしながら僕はそっと溜息を漏らす。

あ、僕は「地下鉄戦隊メトロキャプテン」の(シナリオ)を描いてるライターのテリィと申します。


番組がヲタクな深夜帯から日曜朝へとメジャーデビューし僕も少し名が売れ出してる。

でも、週末のメイドカジノでのイベント営業は生活を維持する上での貴重な収入源だ。


あ、実はサラリーマンもやってルンだけど、会社が国有化されたりと色々あって、給料は延々とカットされたままなんだ←


とにかく!


客出しを終えギャラを貰ったら、バンド仲間と遅い晩飯に繰り出すのが何より楽しみだ。

このバンドは、アイドル通り裏にある深夜営業の街中華「新秋楼」を行きつけにしてる。


「イラッシャーセー」


でっぷり太ったおばちゃんが、カウンター席の奥に1つだけある中華の円卓に置かれた「予約席」の札を取って僕達を出迎える。


去年、彼女がメイド服で出て来た時は流石に肝を潰したが、今ではソレも楽しい黒歴史←

時折、店を手伝うひとり娘?がバンドをやっているとかで、彼女はバンドマンに優しい。


今宵は仕事帰り?で全員ステージ衣装のアトミックパンクのコスプレのままでの来店だ。

周りは原子力ロケット操縦士や超電導潜水艦長、白衣は…マンハッタン計画の科学者か?


僕は、核は核でも核融合の方で、木星航路ヘリウムタンカーの銀色の航宙士スーツだ。

たちまち、小さな街中華はカウンターの半分までコスプレ客?であふれ返ってしまう。


「あ、遅くなりましたー。バンドのみなさんもお疲れ様ですー。ゴハン、御一緒してもいいですかー?」


ミユリさんがやって来る。

バンドから歓声が上がる。


彼女は、僕の推し(てるメイド)で、御屋敷(メイドバー)を閉めてからヘルプのつぼみん連れての合流。

もちろん、メイド服から私服に着替えてるけど店内は一段と華やかな雰囲気に包まれる。


太ったおばちゃんが僕の隣の空席を指差しミユリさんは狭い店内を円卓までやって来る。

彼女は海鮮炒飯、僕はもやしラーメンを頼んで半分コし半チャンラーメンにして食べる。


わーい恋人同士みたいだ!

幸せだーと思った矢先に…


「ジャッケルからヘッケル!撤退は許可出来ない!援軍要請は却下!神の御加護を」

「ベルリン中央駅を死守しろ!最後のヤクトティーゲルを回す。義務を果たせ!」

「前も後ろも敵だらけだ!帝国はもうお終いだ!」

(↑以上、ドイツ語で)


突然、激しい空電の音に聞き取りにくい無線の音声を交錯させ新たな客の一団が現れる。

サバゲー帰りのグループか?全員が軍服で…ソレも第2次世界大戦ドイツ軍の空挺部隊?


「ヴリルから狼の巣。ツグミは舞い降りた1E2019μ2!」


空挺の将校帽をかぶった士官?が兵に担がせた無線機の受話器を取って報告する。

やや?あの無線機はFeldFu.b(C)じゃないか?流石に僕も現物を見るのは初めて。


しかし!


ソレでなくても狭い街中華にコスプレ集団?が2つカチ合ったらもう目も当てられない。

片やパルプ雑誌の表紙から抜け出たようなレトロフューチャー、片やバリバリ?の軍人。


空挺部隊に短機関銃(MP40?レプリカ?)をグイグイと突きつけられ、レトロフューチャー組はギュウギュウと店の奥に押し込まれる。


「お久しぶりね。ミユリ」


キザな映画の台詞みたいだが、何分にも店内は満員、人混み越しでイマイチな声かけ。

で、声の主は、さっき無線機で何処かへ報告していた空挺団の指揮官だが…ん?女か?


「あら、マタハ?2019年に何の御用?」


狭いながらもミユリさんが凛と立ち上がる。

え?マタハ?時間ナチスのマタハなのか?!


時間ナチスは、嘘かホントか知らんがタイムマシンで現代に逃げ延びたナチスの残党だ。

と逝うコトは、さっきの無線は陥落直前のベルリンで…彼女達の銃や無線機は本物…か?


「私達はヴリル空挺団。時間ナチス所属」

「僕達はヲタク。所属は…秋葉原」

「相変わらずね。テリィ」


時間ナチス相手にミユリさんだけ立たせるワケには逝かズ、僕も立ち上がる。

果たして、女スパイのマタハは唇の端を数mmほど釣り上げてニヤリと笑う。


「貴方達に用があって来たのょ。SF作家とメイド長のアキバ最強コンビにね」


第2章 レイヤー天国ドットコム


「怪盗…ズミ小僧の刀を探して欲しい」

「え?聞こえない。何…小僧?」

「…ズミ小僧」


陥落直前のベルリンから苦労の末に脱出して来たクセして、肝心のリクエストを小声で逝うものだから、よく聞こえない。


何しろバンド連中は紹興酒を飲み始めたし、太ったおばちゃんが時間ナチス全員からもワンオーダー取り始めたから、もう収拾がつかない。


北京語(料理は四川なのにw)、ドイツ語、バンド用語?が入り乱れ、もう店内は騒然。

あ、バンド用語って逝うのは、ジャズをズージャとか逆さまに逝って喜ぶ例の奴だょ。


「だから!『ポ』ズミ小僧ょ!怪盗『ポ』ズミ小僧!日本のルパンって聞いたけど」

「え?それなら『ネ』だろ?怪盗ネズミ小僧なら有名だぜ in Japan では」

「そうなの?ベルリンじゃ『ポ』ズミ小僧って聞いて来たけど?義賊なのょ。間違いない?」

「ソレ、絶対に『ネ』ズミ小僧。金持ちからは盗み貧しきには与える日本のロビン・フッドさ」

「おかしいわね。人工神化研究所にある18世紀の石工が残した遺言状に確かに記されているの。怪盗『ポ』ズミ小僧の刀には永遠の生命をも絶つ神秘の力が宿る、と」


どうやら人類進化の神秘にも関わりかねない大事のようなので、本来は人目をしのびヒソヒソと語りたいトコロだが…


青島(チンタオ)ビールを見つけた空挺団と既に紹興酒が入ってるバンド仲間はすっかり意気投合だ。

肩組み足踏み鳴らし大声で歌い出したら、勢いコチラも怒鳴り合いにならざるを得ない。


で、まぁ怒鳴り合いを文字にしてもしょうがないので、話を要約すると以下のとおり。


世界を敵に回して戦うナチスは、(いにしえ)の超破壊兵器「『ポ』ズミ小僧の刀」を求めて世界中に調査隊を送るが刀は見つからない。


ベルリンの人工神化研究所の古文献から2019年の秋葉原に刀があると知った総統は、エリート部隊であるヴリル空挺団の派遣を命じる。


世界の東の果てより刀を持ち帰り、無敵の軍団を作り上げ、未来を帝国の前に屈服させてアーリア人類補完計画を実現するのだ…


うーん、いくらリクエストには応える主義とは逝え、ナチスのお先棒は担げんなー。

ソレに、石工の遺言とか義賊の刀とか、今回は何だかヤタラと胡散臭い話ばかりだ。


すみませんが、今回の件は御断りです!

と、キッパリ断る決心を固めたのだが…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「あ、その『ネズミ小僧の刀』のコトなら知ってる!確か先週、フミチョンが落としたわ」

「落とした?落としちゃったの?!」

「違うって。落札したって意味ょ。レイヤー天国ドットコム」


話に割り込んで来たのはウチのピアニスト@半魚人にさらわれる女性コスプレだ。

因みに、彼女も店内の大騒音に負けじと声を限りに大絶叫で話に割り込んで来るw


大声で怒鳴り合う話なのかコレ←


「フミチョンって誰?その何ちゃらドットコムって何?」

「ええっ?フミチョンはアキバを代表する超有名な(コスプ)レイヤー、レイ(ヤー)天(国)はコスプレグッズのオークションサイトょ。知らないの?」

「じぇんじぇん知らない」


知らヌは1時の恥、教わルは1生の恥←

まぁココはやはり専門家に任せよう。


僕は早速、女サイバー屋のスピアにレイ天に出展した者を洗うように依頼する。

あ、僕は彼女には貸しがあルンだ、彼女がスク水処刑されるのを救ったんでね←


一方、ミユリさんはフミチョンのツイートから彼女が明日のコスプレイベント「世界の盗人大集合2019」に参戦予定と教えてくれる。


女ネズミ小僧のコスプレをするらしくて、恐らく彼女は問題の「刀」も持ち込むだろう。

時間ナチスのリクエストに応える気は毛頭ナイがとりあえずイベントには行ってみよう。


隣でマタハがウンウンと大きく頷いている。

あ、違うから!時間ナチスとは別行動だょ!


「さっきの感じじゃベルリンは間もなく陥落だょね。今さら刀をゲットしても、手遅れじゃないの?」

「ふふふ。心配ない。総統は既に永遠の命を手に入れられたのだ」

「はぁ?永遠の命?」


何だかヤタラと面倒臭そうな話だ。

やっぱり、この話は絶対に断ろう。


ところで、この怒鳴り合い?を壁の向こうで聞いている者がいたコトに僕は気づかない。

ソレに気づいていたのは…例によってミユリさんだけなんだが、ソレはまた次で話そう。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


週末、僕とミユリさんはコスプレイベント「世界の盗人大集合2019」に出かける。

場所はUDX2階のイベントホールで既に世界の泥棒に扮したレイヤーで会場は満杯だ。


レイヤーのフミチョンとも直ぐに会えたが、彼女は恐ろしく気さくでポジティブな女性。

ナゼかミニスカくのいちのコスプレだが、頰被りで辛うじてネズミ小僧らしさが出てる。


あ、因みに僕とミユリさんは次元と峰不二子だが、次元も不二子も会場に100人はいる。

でも、肩に担いだシモノフPTRS1941(対戦車ライフル)のディテールで僕は断然リード←


あとマタハも一緒に来たけど、何と彼女は軍服のまま、コスプレとして入場してる笑。


「ミユリー。久しぶりー。あ、コチラが噂の御主人様ね?はじめまして!フミチョンょ」

「はじめまして!ステキな御御足のネズミさんですね…ぶきゃ!」

「あらー。フミチョンも変わらないわねー」


真ん中のセリフが僕なんだけど、なぜかミユリさんの肘鉄を喰らって挨拶は中断だw

例によって、ミユリさんはフミチョンとも顔馴染みで即、ガールズトークが始まる。


ところで!


フミチョンと会い、僕は直ぐに彼女の腰の(クビレの)辺りをガン見し刀を探すが…

何と彼女は帯刀してなくて、その代わり?に黒くて長ーい立派な槍を持っているw


同じくフミチョンの槍持参に気づいたミユリさんが彼女に話を振る。


「フミチョン、その槍ステキー!何処でゲットしたのかしら?」

「レイ天で安かったのー。即ゲットょ。ホラ『聖槍naive(せいそうナイーブ)』、キテるでしょ、今?」

「2.5次元、不滅ょねー」


解説しよう。


聖槍naive(せいそうナイーブ)は、歴史上の名槍をイケメン男性に擬人化したゲーム。

2.5次元ミュージカルとは、コレらアキバ系を原作とするイケメンミュージカルの総称。


今まで、マーケ(ティング)的に暗黒大陸とされたヲタク系30代独身女子の豊富な蓄積財力に見事に火を点けた物欲消費の尖兵だ。


「スゴーい、フミチョン!その槍、ミユリにも見せて欲しいなー」

「もちろんどーぞ。見かけによらず、意外と軽いのょ。振り回してポーズ取る時とか超楽(ちょうラク)ピー」

「わぉ!こんな素敵な槍、ミユリも欲しいなー」


一気に槍の確保へ突っ走るミユリさん。

でもホント、刀じゃなくていいのかな?


ソコへ「ネズミ小僧の刀」の出展者を洗ってくれてたスピアからメールが入る。

メールを読もうと僕達が離れるやフミチョンは瞬く間にカメ(ラ)小(僧)に囲まれる。


スピアは、落札代金の振込先の口座番号から出展者は千代田区立郷土資料館の女学芸員と特定、結婚資金捻出のための出展と知る。


同館学芸主任の話では、死がつきまとう、との言伝えに歴代の担当者が整理を先送りしてたモノを無断でレイ天に出展したようだ。


モノを包んでた布に酸化し溶け出したモノのシルエットが残っているのだが…

ソレが、どうやら刀ではなくて槍みたいな長さなんだけどコレ違ったかしら?


スピアはシルエットの写メを添付して来て、首を捻ってるがドンピシャ&大正解だょ!


まぁネズミ小僧って、サムライではないからソモソモ帯刀してるハズがない。

まぁその代わりに槍となると、もはや泥棒と逝うより強盗だけどまぁいいや。


「きゃーーー!」


突如、フミチョンの悲鳴!


振り向くと彼女を取り囲むカメ小の輪が崩れ絶叫と悲鳴が交錯してる!

ソコから飛び出した人影は…春麗?格闘ゲームのヒロインではないか!


算を乱して散り散りになって逃げ出すカメ小をかき分けフミチョンの下に戻る。

彼女は床にペタンと尻餅をつき、何が起きたかもわからぬまま呆然としている。


最早その手に槍はない。


フミチョンが腰を抜かしてる横にはうつ伏せのマタハが長々とノビてピクピクしてる。

果たして、マタハは槍を守ろうとしたのか、自分が盗もうとしたのか、ドチラだろう?


とにかく!槍は、謎の春麗の手に落ちる。


第3章 時間ナチス vs ポンの一族


「隠れてないで、出てきたら?ミメイ」


場所は再び街中華の「新秋楼」で、ミユリさんに逝われるまま、僕達はコスプレイベント会場からココへと直行している。


あ、気絶してノビてるマタハのコトは、そのマンマほっといたけどね←


たまたま他に客はいなかったんだけど、ミユリさんは店内に入り、太ったおばちゃんに会釈して店の奥に声をかけたトコロだ。


「ナゼわかったの、私のコト」

「あのスピニングバードキック。太ももの曲線が神だったのだけども、昨夜、この中華で私達の話を物陰で立ち聞きしてた貴女と同じ曲線だったの」

「太もも曲線でレイヤーを見分けるとは!流石ね、ミユリさん。ヲタクどもは股間しか見ないのに」


解説しよう。


スピニングバードキックは格闘ゲーム唯一の女性キャラだった春麗が逆立ち180°開脚をプロペラのように回転させるキックのコトだ。


たくましい太ももを露わに蹴り進む必殺技に当時のゲーマーは熱狂したが、彼女もカメ小の包囲を突破する際にこの技を使っている。


「でも、わからない。ナゼ街中華の看板娘が超破壊兵器『〝ポ〟ズミ小僧の刀』を狙うの?」

「ソレは私が…ポンの一族だから」

「ポンの一族?」


店の奥から現れた春麗コスプレの美少女とミユリさんの対話が続く。

ミニのチャイナに深く入ったスリットからたくましい太ももが覗く。


そして春麗は…黒く長い槍を手にしている。


因みに、確か彼女は太ったおばちゃんの一人娘で、バンドをやってるハズだ。

名前は、ポン・ミメイ…リンじゃないょ!マクロスの中華娘じゃナイからね。


「私達は…呪われた永遠の命を持つ種族」

「また、永遠の命?確かマタハのトコロの総統もゲットしたらしいょ、永遠の命」

「彼等は収容所で実験を繰り返す内に、永遠の命を持つ種族の存在を知ったの。既に人工的に永遠の命を得る術も獲得してるのかもしれない」


途中から話に割って入る僕の質問にも、ミメイは神秘の微笑みで応えてくれる。

見た目は中華系の地下アイドルみたいな美少女だが、もしかして何百歳の老婆?


「しかし、永遠の命を得て、その上に超破壊兵器まで欲しいって、もしかして欲張り過ぎなのでは?」

「ソレは…その槍が永遠の命を絶つ唯一のモノだから。きっとチョビ髭の伍長(総統)もソレを恐れて探してルンだと思う」

「その槍が地球上の何処かにある限り、貴女達の種族は安心して永遠に生きるコトが出来ない、というワケか。ドラキュラを倒す銀のクイみたいだね」

「かつて、私達の種族はこの星に数多くいたのに、人類の長い歴史の中で数を減らし、今では世界の東の果てには私1人」

「えっ?太ったおばちゃんは?」

「彼女は、太古の昔に永遠の命を護るコトを契約した者達の末裔なの。所詮は、貴方達と同じ寿命ある生身の人間に過ぎない」


ミメイと入れ違いに店の奥に控えた太ったおばちゃんがコックリと頷く。

ミメイは、おばちゃんの実の娘ではない?では彼女は誰の娘なのだろう?


「…槍をどうするつもり?」

「この槍は、もともと私のモノだったの。江戸時代、厠に逝ってる間にウッカリ盗っ人、あのネズミ小僧さんだっけ、に盗まれてしまって。300年近く経って、やっと取り返したのょ」

「江戸時代でも、こんなコトやってたの?」

「あの時代は、ナゼかヤタラと忙しかった。そうそう。あのヴリル何ちゃらの姐さん達が後生大事にしてるベルリンの古文書だって、実は第33階層のフリーメーソンが残したモノなんだけど、アレも18世紀でしょ?あ、ソレから、逝っていいのかどうかわからないけど江戸幕府の歴代将軍って半分位はフリーメーソンだから」

「ホ、ホントかょ?し、しかし、とりあえずは槍を取り戻し、ミメイも一安心というワケだね。ところで、永遠に生きるって、どんな気分なのかな?」

「…あらゆる生命が目指すモノは死…ソレも真実だと知ったわ」


やや?19世紀の詩人ミルトンの言葉だ。

彼ともリアルに付き合っていたのかな?


ガチャン!


その時、新秋楼の窓ガラスをハデに割って柄のついた長いモノが店内に放り込まれる。

ぎゃっ?コレはドイツ軍のM24型柄付き手榴弾ではないか!ホ、ホンモノか?すげぇ…


と、思う間も無く、太ったおばちゃんが神動作でカウンターを軽々と飛び越え、店の床から手榴弾を拾って外へ投げ返す!


直後に爆発して残ったガラスも粉々に砕けたが、さらに外からはダメ押しの機関銃掃射があり新秋楼は中も外も完全に破壊される。


前の通りからドイツ語の命令が聞こえ、どうやら店はヴリル空挺団の襲撃を受けたようだ。

床に伏せ掃射を避けたおばちゃんがカウンターの下から取り出したのは…何?FG42だと?


おばちゃんが42年式空挺兵小銃をコトもあろうに空挺兵目掛け浴びせかけるや、忽ち店の外は悲鳴(ドイツ語)と断末魔の坩堝と化す。


おばちゃんに目で催促され、僕も背負ってたシモノフ(対戦車ライフル)を瓦礫の中にセット。

直ちにミユリさんが弾薬手となり時間ナチスに向かって果敢に応射を開始する(BB弾だけど)。


ところがソコへ…


新松楼は、アイドル通りの1本裏側の路地にあるんだけど、その路地全体が眩い光に覆われ、突如、光り輝くUFOが出現する!


時間ナチスのUFO型タイムマシンだっ!

あれ?タイムマシン型UFOだったかな?


とにかく!


おばちゃんはUFOにフルオートで1弾倉を撃ち込むが、まるで歯が立たない。

すると、今度はおばちゃん、店の床下から細長い筒を束ねたモノを取り出す。


何と!フリーガーファウストだょ!


低空で侵入する敵機目掛けてロケット弾で弾幕を張るという肩撃ち式の対空バズーカだ。

おばちゃんが引金を引くや爆炎を上げ9本のロケット弾が飛び出しUFOに全弾命中する。


もともと刺し違え専門の自殺兵器と逝う側面もあるが、零距離射撃の威力は凄まじくUFOは瞬間膨らみ大爆発して….時空に消える。


直後の新秋楼へ凄まじい爆風が吹き込んで、僕やミユリさんは吹き飛ばされそうになる。

おばちゃんが頭を打って脳震盪を起こした隙を突きヴリル空挺団が店内へ突入して来る。


「降伏しろ。槍さえ渡せば悪いようにはしない」

「くそ。どうして槍がココにあるとわかったんだ?」

「コスプレ会場で槍が略奪される直前に無線発振器を取り付けた。追跡は容易だった」


得意げに凄むマタハも、爆風に煽られて鼻血を出している。

彼女に従うヴリル空挺団の兵士達も、全員が負傷している。


おばちゃんは頭に小銃を突きつけられてる。

僕とミユリさんも武器を置いて手を挙げる。


万事休す…


その時、店の奥の瓦礫をかき分けて、ミメイが立ち上がる。

既に春麗のコスプレはアチコチ破れて敗北した春麗モード(ソレはソレでソソるw)。


そして、マタハ達が止める間も無く、手にした槍を虚空へと投擲すると、何と槍は1直線に何処までも飛んで、彼方へと消える。


とても、人の力で投げたとは思われない。

コレも永遠の命に関わる力なのだろうか。


あっという間に槍は消え、マタハと空挺兵とおばちゃんと僕達は、新秋楼跡の瓦礫の山の中に呆然と立ち尽くす。


「狼の巣よりヴリル。総統命令『群青』。繰り返す。総統命令『群青』。ツグミは巣に戻れ」


その時、空挺団の無線兵が背負ってたFeldFu.b(C)からドイツ語が流れ、ソレを聞いた空挺兵は僕達に向けていた銃を一斉に下ろす。


マタハが僕達に告げる。


「総統府への帰還命令が出た。全ての時間空挺団は直ちに戦闘を中止し帰還せよ。いよいよベルリンが陥落するようだ」

「でも、どうやって1945年に戻るんだょ?タイムマシン型UFOは、さっきおばちゃんが撃墜しちゃったぜ?」

「あ、そうか。どうしよう?ってか帰る先のベルリンは1958年なんだけど」


え?1958年にもベルリンは陥落するのか?敵は何処?

ってか第2次世界大戦は1945年では終わらないのか?


僕はミメイを振り返ったが、彼女はフランス人みたいに両肩をすぼめて微笑むだけだ。

わからないコトばかりで天を仰いでいる内にヴリル空挺団の連中は何処かへ姿を消す。


第4章 永遠なる一族


結局、太ったおばちゃんが繰り出したドイツ軍兵器は、どうやら旧ソ連軍が鹵獲したものが中華圏を経由して流出したモノらしい。


「類似のルートだと思うけど、ダナンでベトコンがパンツァーファウスト(対戦車ロケット弾)を撃ったと逝う記録がある」

「あ、あの極秘で派遣されていた自衛隊員が戦死したとか噂のあるダナンの戦い(1968年)?旧ドイツ軍の兵器って第2次大戦後アチコチで使用されてるんだね」

「兵器だけじゃなくて軍人もだ。当時、ベトコンが『旗を高く掲げよ(国家社会主義ドイツ労働者党歌)』を歌ったという話も聞いたコトあるな。ディエンビエンフーの戦い(1954年)の時みたいに」


今宵も御屋敷(ミユリさんのバー)では、ヲタク話の花々が無意味に咲き乱れてる。

最近増殖中のサバゲーマニアと昔からのミリタリーマニアの薀蓄合戦だ。


ソコへ華麗なるシニョンテール美少女が颯爽と登場する(私服だけど)。


「おかえりなさいませ、御嬢様。やっと来てくださったのね、ミメイさん」

「エヘヘ。自慢の脚線美を褒められちゃ逃げ切れないわ。ソレに平成の秋葉原もキチンと覚えておきたいし」

「あ、あの泥フェス2019の春麗コス(プレ)の子…」


カメ小の常連が迂闊な一言を発するが、ヘルプのつぼみんから睨まれ空気を読み自粛。

彼女はミメイさん、永遠の命を持つ一族(そうと知る者は僕達と時間ナチスだけだが)。


街中華「新秋楼」が文字通り灰燼に帰して、太ったおばちゃん以下は再建に奔走してる。

店の再建が成るまで、ミユリさんの御屋敷が永遠なる一族のアキバのアドレス(居場所)だ。


「貴女がミメイさんかぁ。スピアです、よろしくね。時間ナチスの連中は、AMC(アキバミリタリークラスター)が1958年へ無事送り届けたから」

「あら、旧日本軍が開発した時間トンネルを使ったの?ちゃんと作動したかしら」

「成功確率は未だ20%切るんだって。でも、マタハは悪運が強いから」


AMCは、スピアも関係してるアキバに集積した先進的軍事スタートアップの総称だ。

タイムマシン型UFOの開発にも絡んでたらしいが興味もないし詳しくは知らない。


「それから、ミメイさんが投げた『ポ』ズミ小僧の刀、あ、槍だっけ?は、今、この辺りだょ」


開いたノートパソコンの画面を指し示すのは天文ヲタクの常連だ。

彼の指先は、地球を離れ何と月を目指すポイントを指差している。


「でしょ?実は、月の周回軌道を狙ったの。ね、ドンピシャでしょ?」

「でも、この速度だと月の重力を振り切り、その先の太陽でスイングバイして太陽系外へと飛び去る計算だ。既に国際天文学連合は1I2019μ2と命名してる。IはInterstella で恒星間の頭文字だ。因みに、奇妙な電波を発してる(時間ナチスの追跡装置が作動してるw)ので、宇宙人の地球脱出とか大騒ぎになってる」

「うーん月を狙ったんだけどな。少しスナップを利かせ過ぎたかなぁ」


シニョンテールの子がチョロっと舌を出せばソレはもう僕の大好物だ!

眼福とは正にこのコトで…ぎゃ!ミユリさんが目からデス光線を発射←


「ミメイさんは、何で月を狙ったの?」

「またまたぁ。知ってるクセして。私だってヲタクの一員なのょ。そして、平成の本名はポン・ミメイ。コレでも義賊『ポ』ズミ小僧なんだから」

「え?義賊?義の盗人(ぬすっと)か。そして、刀ではなくて槍なんだね。ポン、義盗人(ぎぬすっと)、槍…」


あ、ポンギヌスの槍←


おぉ惜しい!あぁ!コレは何としてでも月の周回軌道を漂っていて欲しいトコロだ。

そうか!今回はヤタラとドイツのモノが氾濫したけどネルフもドイツ語読みだょねw


しかし、僕の横でヲタク連中と軽口を交わしてる、この美少女は何者なのだろう。


時空を超えて人類を見守り続ける宇宙人?

(いにしえ)から文明の種を蒔き続ける永遠の生命?


でも、ホントは単なる妄想癖のあるレイヤーに過ぎないのかもしれないね。

ソレならソレもアリさ!だってココはヲタク文化の聖都アキバなのだから。



おしまい


アニメ「エヴァンゲリオン」にロンギヌスの槍が月の周回軌道を漂うシーンがあります。

ロンギヌスはキリスト磔刑時に脇腹を刺したローマ兵で彼の槍は聖遺物となっています。

ネルフは「エヴァ」に登場する特務機関です。

今回は、タイムマシン型UFOを駆る未来ナチスシリーズの第2弾で、女スパイ率いる空挺団、人類の歴史に寄り添う永遠の生命、それを護る種族、有名コスプレイヤー、レイヤー専用オークションサイトなどを登場させました。


また、ストーリーのディテールを意識的に書き込むようにした実験作となっています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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