朝比奈かぼすの診察
寿あけびの自己手術も無事に終わったその日、やはり朝比奈はもう少しだけ待って欲しいと、日にちを延期した。
寿自身も術後当日のため、了承した。
そして、翌日
朝比奈かぼすは口を開く。
「寿さん、あなたの病気がわかりました」
「本当かい?!」
寿は驚いた顔で答えた。
「はい、天才医師のあなた自身でさえ分からなかった、あなたの抱える持病。」
「だからこそ、わたしは深く医学書や論文を読んだりはしませんでした。なぜなら、無駄だから。そんな事で分かるならとっくにこの問題は解決しているでしょう。」
寿は、自分の腹の縫合部をイソジン消毒しつつ朝比奈を見つめる。よく見ると、マスクで隠れているが、朝比奈の顔色が自分と同じくらい悪い。目の隈も凄い。ここ数日寝ないで、色々な事を考えたり調べたりしたのだろう。
「深くとは言っても、一通りの基本的な医学書は読みました。天才すぎるがゆえに、もしかしたら簡単な見落としをしているのではないかと思ったからです。」
「おいおい、焦らさないで教えてくれよ。」
朝比奈は答えた。
「病名なしです。」
その言葉に、寿は驚きもせず、呆然と答える。
「君の診断理由を聞こうか。」
「簡単な事です。つまり自分で病気にかかっていると思い込んでいるだけです。」
「続きを聞こう。」
「本来なら、そのような思い込みで実害が出ている場合、心気症と診断できます。精神的な病の一つですね。しかし、あなたの場合はそれですらない。」
「こんなに実害が出ているのにかい?酷いなあ、仮病だとでもいうのかい?僕が演技をしているだけだと?」
「いえ、あなたの日替わりの病気は間違いなく本当です。
それに、心気症は、器質的な体の変化は基本起きませんよね?」
「その通りだ。インフルエンザの日も血液検査で陽性、そして昨日の虫垂炎手術でも、酷く虫垂は炎症していた。これは、おかしいな話だ。心気症でそんな事は起こらない。」
「はい、そうですね。それなら、免疫系の病気の方がよほど疑わしいです。
でも、それも違うと言わざるを得ない。その疑いは現時点ではこれからの経過での除外診断となりますが。
それでも、やはりわたしは違うと思います。」
「まさか、僕の知らない、つまり、今の医学ではまだ未知の病気だから病名なし。と、言うんじゃないんだろうねぇ?」
朝比奈かぼすはニヤリと笑う。
「普段なら、ここでのわたしの不敵な笑みは、否定を指すのでしょうが、予想を裏切って答えます。」
「さすが天才医師。その通りです。」