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朝比奈の冒険  作者: あど
4/11

朝比奈かぼすの見学



わたしが呟いた言葉は、春風に流されて消えた。




挿絵(By みてみん)





これで、矛盾した二つの最悪はどちらも避けられる結果となった。


良い方の最悪

悪い方の最悪




前者は刀が発動するということ。

これで、地球が真っ二つになる悲劇を繰り返さずにすんだ。


後者は誰かに聞かれるということ。

これで、わたしが厨二病であると誰にも思われずにすんだ。



つまりは、何も起こらなかった。



「惑星喰らいの刀」

朝比奈かぼすが全知全能の力を得る事によって作り上げることが出来た刀。


ちなみに刀を打ったのは朝比奈かぼす自身である。砂鉄を集めたのも溶かしたのも鍛冶も彫刻も研磨も全てあわせて。









「無理かあ~。」

「やっぱり人間の時の知識と記憶だけだと発動できないのかあ。。。これで完全に証明されちゃった。今の私は全知全能の神さまではない普通の女子高生なんだなって。」


心地よい小川のせせらぎ、菜の花畑の匂い、春のやさしい日差しの中、物思いに耽っていた。




だったのだが、いつの間にか、犬の散歩をしているおじいさんにばっちり聴かれていたようだ。



おじいさんは愛犬を見るような優しい目して、わたしに微笑んだ。


•••どうやら、勉強を頑張りすぎノイローゼで狂った女子高生だと思われたらしい。


(まあ、、いいや。別に。。もう会わないし。。)



わたしは、夜ご飯は串カツにしようかな、と思いながら帰路へついた。




翌日


この日、学校は部活勧誘で盛り上がっていた。どの部も部員を確保しようと必死に趣向をこらしていた。学校中の至る所で、ユニフォーム姿の道着姿の正装姿の人間が入り混じり新一年生を呼び込む。祭りというよりはバーゲンセールに近い雰囲気を醸し出していた。




わたしは鴨川さんと一緒に初々しい一年生に混じって適当な部活を見て回った。

別にもう二年生だから入るつもりはなかったのだけど、この学校は文武両道を掲げているようで3年の夏までは必ずどこかの部に在籍しなければならない規則らしいのだ。


正直あまり興味がない。

なるべく活動の少ない部活が良いとわたしは思った。


なぜならわたしにはやるべきことがある。


神さまとの大事な約束である「何かひとつの分野の頂点に立つこと」それがいつになるかわからない。何年かかるのかも、約束を守れないまま寿命を全うする可能性も十分にある。だからこそ、部活なんてお遊びをしている時間はない。強制加入じゃなければ帰宅部即決だ。


それは無理みたいだからせめて、「昼寝部」「雑草研究会」「木工ボンド部」など・・・まぁ、そのあたりがあればいいのだけど・・。





「あ、生徒会長だ。こんにちはー!。」


「鴨川生徒会長お疲れ様です!こないだの委員会の議事録の件なんですけど・・・」


「鴨川みかん先輩!こないだはボランティア部のお手伝いありがとございます!」


「みかんちゃん!これ料理同好会で作ったの!良かったら食べて食べて!」


わたしと部活見学をしている鴨川さんは何度も呼び止められていた。生徒会長として先輩として友人として。人並み外れた人望の厚さ。その厚さは広辞苑並みと言ってもいい。わたしは同じ人間かと一瞬考えてしまった。徳高望重の極みである。





ーそういえば鴨川さんは何部なのだろうとわたしは疑問に思い尋ねてみた。


「私は生徒会所属だからそれがもう部活動みたいな扱いなんだ。本当はピアノが好きだから吹奏楽部とか入りたかったんだけどね。まあでも、あまり吹奏楽だとピアノは使わないかあ。」


鴨川さんは笑顔でわたしに答えた。天使のような笑顔だなぁと一瞬思ったが、

それならわたしも生徒会に!と話に割り込みお願いしようと思った。


のだが、鴨川さんは話を続けて大まかな活動内容を教えてくれた。


「学校行事の企画運営とか部活動の承認とか生徒総会の開催とか委員会活動の指示管理とか後は、校外ボランティア活動をしてるの。いつも7時に学校に登校して家に帰るのは早くても夜7時とかかなぁ。土日も生徒会の仕事があるから基本は毎日登校してるよ。」



一切の不平不満そうな表情を見せずわたしに生徒会活動内容をご教授して頂いた。

(なるほど、生徒会は鴨川さんのような天使で社畜な人にしか向いてないっと。)



鴨川さんに全て任せて甘い汁を吸おうと思ったが、どうやら無理のようだ。

仮にわたしが生徒会に入っても鴨川さんは笑顔で善意でわたしに仕事をいや、奉仕を与えるだろう。わたしは1日目にして書類の山に埋もれ、3日目で遂に窒息死か過労死だろう。





「そうなんだ!大変だね!。」


当たり障りのない返事だけをした。わたしの未来のために。







「野球部です。前回地区予選優勝してます。目指せ甲子園。よろしくお願いします!。」

「サッカー部です。高校から始める方でも大歓迎です!」

「吹奏楽部です。有名な音楽家の顧問の先生の下で全国コンクール目指してます!。」

「将棋部です。鬼殺し得意な方探してますー!。」

「オカルト研究会。藁人形を編みませんか?藁は田植えから行ってます。美味しいお米も食べられます。」

「SNS映え研究会。雲とかサボテンとかラテアート載せてお洒落自慢して承認欲求満たせます。」



いくつか不穏な活動が混ざっているが、生徒会すなわち鴨川さんの承認を得ているということは、学生生活にとって有意義で真剣真面目な活動なのだろう。


わたしは完璧人間の生徒会長鴨川さんの仕事内容である部活動承認に対して、一切の疑いの感情を持ち合わせていなかった。

彼女が判を押せば何事も正解になるはずだから。





「それよりも、朝比奈さんは運動部系か文化部系どっちにする?だいたいの興味の幅を教えてくれたら、私もアドバイスできるんだけど。」


「そうだなぁ、なんとなくだけど運動部系よりも文化部系にしよーかなって思ってる。何かおすすめの部活ってある?できたら、わたし2年生だし知り合いもいないし浮いちゃうかもだから厳しい部活じゃなくて、優しめの部活動がいいかなぁ。」


わたしは勉強も運動も何をするにしても人並み以上の能力を子供のころから有していた。そのため、手当たり次第に色々なことに挑戦した時期もある。挑戦して挑戦して飽きて、そしてまた挑戦して。飽きるというのは、大抵これ以上は成長しない、はたまた絶対に超えられない壁に直面して、続ける意味がないと悟った時である。たとえば目の前にいる鴨川みかんに学問で絶対敵わないという事実。


それでもおそらく、高校の部活程度なら、どこに入ろうがわたしは当たり前の様に頭角を現し、才覚を遺憾無く発揮するだろう。


しかし何度も言うがわたしにはやるべき事がある。だからこそ、井の中で優れている時間など不毛なのだ。大海を知り、空の深さも知っているからこそ。





「う~ん・・そうだねえ。それだと・・」

鴨川さんは神妙な面持ちで考える。

たかだか他人の部活をとても真剣に考えてくれてるらしい。


「朝比奈さんて、そういえば絵を描くのがとても上手いよね?中学の頃も美術部だったでしょ?もう書かないの?」


「ま、まあね。でも、美術部は正直あまり興味がないかなぁ。」

わたしは、絵を描くのが得意だった。

中学の頃には天才と言われていた時期もあり、何度も表彰されたこともある。

でも、何故だろう。今は興味があまりない。

天才と言われていたからこそ、芸術の神様にはなれない現実さを知っているからだろうか。

芸術の天才なんて掃いて捨てるほどいる。

()()()()()が頂点を目指す。不毛な道だ。近道に見えて大きく遠回りをしているに過ぎない。

全知全能だったわたしでも、非現実的な道だと思わざるを得ないのだった。



鴨川さんはそれならと既にわたしの考えを先読みするように意気揚々と答えた。


「書道部なんてどうかな。たまに部室を覗くけど、緩い感じで和気藹々としてるよ。あまり活動も活発じゃないみたいだし、わたしの知り合いもたくさんいるからきっと仲良く出来るはずだよ。」




「あ、それいいね。」


わたしの頭の中で書道部入部の判が押された。

さっそく鴨川さんに入部届けの紙をもらう。

とりあえず今日は部室に挨拶だけ済ませて帰ろう。

そして、明日からはまあ家の事情がある的な事を言って少しずつ幽霊部員になろう。そうしたら、十分に時間は作れるはず。


と、これからの事を考えながら鴨川さんと他愛も無い会話をして一階の書道部までの廊下を歩くその時である。一階の廊下の隅に飾られた一枚の絵。多分、普通に考えれば気にも留めない、飾るというよりただ無意味に壁にかけられているだけと表現した方が正しいようなアンバランスな位置。


たまたまその絵をわたしは視界の隅で捉えてしまった。

コンマ数秒の第一印象はなんとなく気になる絵、というよりは

見ないと「気が気でない絵」というような自分のこれまでにあまり感じたことのない何かであった。




わたしは少しだけ早足で絵に駆け寄る。駆け足はできない。心臓の鼓動の高まりをこれ以上抑え切られなくなるからだ。






鴨川さんはわたしの突然の行動を無表情で見守っている。




その絵を見た瞬間、やはり、驚嘆した。

わたしは呼吸を忘れた。息を呑む暇すら忘れて。


眼の毛細血管が切れるのではと思うほどに瞳孔が大きく開く。身体中の血管が収縮していき心臓の鼓動が更に高ぶる。

南極の真冬のように皮膚が収縮して全身の毛が逆立つ。





霹靂





なんだこれはいったい。。どんな人生を歩んだらこんな絵が描けるのか、いや描こうと思えるのだろうか。

安物の埃かぶった額縁、安物の経年劣化した綿と合成繊維のキャンバス。色褪せワニ割れした絵の具。




それでも、この絵画は確かに世界一の作品であるとわたしは根拠のない確信をする。




「鴨川さん、この絵は•••••」



「えっと、、この絵はたしか、、美術部の人の作品だよ。」

鴨川さんは、一瞬悩んだような表情を見せた後、一変、笑顔でそう答えた。



わたしは廊下の隅にある絵を見つめたまま、鴨川さんに言う。






「わたし、美術部に入ります。」












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