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常闇の地底列車  作者: たけどらの民
第1章 『天空のツリーハウス』
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1-4 地=底=列=車

 細切れに刻まれた履歴書片手に、徹浪は少しだけおろおろするかのような表情をみせた。

 今まで考え方が届かない位置に居座っていたかと思いきや、これは軌道の気分も乗ってくる。

 徹浪はウザさマックスな顔で両手をピースにしている軌道を見ると、漸くそれっぽいため息を溢す。

 ここで、流石に乗りに乗っていた軌道も空気を変える。


「……では、かなーりと――――まわしになってしまったけれど、話すとしようか」


「遠回しが自棄になってたが」


「件の地下……そこは、只の地下ではない」


「そんな事知ってるよ、そもそもそんな場所あったのを知らなかった」


「やはり君は僕の話を聞いていないんじゃないのかな……?」


 軌道と徹浪はこれまでの記憶の会話ログをそれぞれ辿ってみたが、結果、どっちもどっちだという結論が二人の思考を止め、それ以上そのことについて考えるのは止めた。

 しかし只の地下ではない、とはどういうことか。

 その地下とマルチソルジャー、それらと徹浪がどの様にして関わっているのか。

 謎が謎を呼ぶ展開はこの短い対話でもう飽き飽きだが、ここでいじけて帰ってしまっては何も分からないし、残らない。


「実はその地下――アンダージュには、一本の列車が通っている」


「……列車? 地下に列車…………地下鉄みたいなものか?」


「そんなに夢見心地なお話ではないことは、君はよーくわかっているはずだろう? その地下鉄こそが、アンダージュが普通の地下でないことを決定付ける、証拠の一つだとも」


「よくわからない。けどわからないからこそ黙って聞いててやる」


「そういう社員、嫌いじゃないよ。その列車は、通称『地底列車』と呼ばれている。……運営元は、マルチソルジャーだ」


 地底列車。

 わりとあっけらかんとした響きに軌道は少しだけ呆気に捕られ、会話への復帰が遅れる。

 徹浪は指を組んだまま、その大きい机にもたれかかっていた。

 表情が表情、オーラがオーラなので、ここでは嘘はついていないとする。


「地底列車の役割は、おおよそ地上の列車と変わりはない。人々や物資の運搬、そして『お悩み解決』。普通の列車との違いはもちろん沢山ある。だけどその中の一つが、なんと地下に路線、そして車両のセットが一つずつしか存在しないことなんだ」


「待て待て、『お悩み解決』と後半がちょっとわかり辛い」


「お悩み解決は、お悩み解決だ。これはいいね?」


「よくないけど、続けろ」


「つまり、地下に列車と路線は一つずつしかないのさ」


「実はわかってたけど、やっぱり聞き間違いじゃなかったのか……」


「僕の時間を返してくれるかい?」


 聞こえていたが、聞こえていなかった。

 耳を両手で塞ぐ仕草をしながら、軌道は徹浪の更なる発言を待つ。

 徹夜ももはや慣れたような雰囲気で此方を見据え、気を取り直すように指をぱちんと鳴らした。

 それに少しだけ驚き、半歩の半歩ほど、後ろに後退り。

 そしてそれが愚かな行為だと悟り、二歩ほど前へと足を進めた。

 徹浪におぞましさを感じ、軌道の軽口に嘆息する。

 それらはすでに、十数分前から今さらの話であることは、お互いの共通認識として理解はできていた。


「違いは沢山ある……そう言ったな」


「その一つが、今も言ったように列車本体と路線がワンセットずつしかないことだよ。路線……『樹導線じゅどうせん』はひとまず置いておくとしようか。問題は地底列車にある」


「はいはい、意味深みたいに呟くなよ。樹導線、おい、覚えたからな」


「覚えておくといいさ。……さっきも話した通り、地底列車は人々の足の確保に役立っている。乗せる人々は地上の人とは環境も種類も少しずつ違うから、一概にとは言えないがね。ただ、その地底列車が成り立っているルーツが特殊なんだ。何だと思う?」


「その『何だと思う?』は何回目だったか…………その列車を、維持してる特別な存在がいるってことか?」


「そう、正にその通り! だけどその答えのままだと五十点だね。『列車そのもの』が成り立つルーツも、特殊なのさ」


 着なれたようにジャケットを正し、バッジを弾いて徹浪はまた、机の上に指を組んだ。

 机ではなくテーブル、そう言われれば信じてしまいそうな木製のテーブルは暗めのディープカラーで覆われているが、その色は二人の心情、と表すには少々違う気がする。

 すぐ隣に、明るい色の花々が設置されているからだろうか。

 おそらくそうではないだろう。


「マルチソルジャーは、何故この大樹を囲って建てられたのか、疑問に思ったことはないかい?」


「……思った、思ったさ。思って、考えた……考えたら、『その大樹を守るため』って結果が出たよ。それでいいのか?」


「そうだとも。我が社は地下の街を守ると共に、この大樹も保護している。まあ、一つ守ろうとすれば二つ守ることになるからなんだけどね」


「よく理解できないけど……『複数の守り手』だから『マルチソルジャー』でもある……のか。そのまんま過ぎて流石にどうかと思う」


「流石は国立卒業、それ故にかな? 理解が早いし、辛辣だね。そんなに我が社が嫌い?」


「死んでほしいかな」


「その考え方も、時期に懐かしいものへと移ろっていくさ」

『大樹』って書こうとしたら、どうしても『体重』って予測変換に出てきてなんだか太ってきたような気がしました。

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