1-2 街の守り人
場所は変わらず、東京では天空に最も近い位置にある社長室。
天窓からは相変わらず若干強めの風が吹き付けており、皮肉げに軌道の癖毛をなぞり続ける。
振込時計はカチコチと、その唯一の役割を全うし続ける。
そして軌道はといえば、徹浪の話を聞く態度を決めかね続けている現状にあった。
『退社』と言われた衝撃もあったが、まず知りたいのは『何故そのような発言が出たのか』ということである。
何をしたいのかが全く読めない徹浪の話し方。
それはやはり、一つの企業を収める頂点ならではの技術、話術の賜物であった。
徹浪に聞かされた出来事、経験、そして役目。
それらは、本当に適当に取って引っ付けたかのようにてんでんばらばらで、ちんぷんかんぷんな語りだった。
徹浪は軌道の事を気に入ったのかどうかは知らないが、そうでなければいったい何のためにここまで教えてくれるのか、というくらい教えてくれるつもりの様だが、気になる点があった。
話に一貫性は限りなく乏しく、まるで纏まりがない。
しかしそれにしてはいやに頑丈で、そう、木片とカーボン紙とカッターナイフを、強力なボンドで無理やり繋ぎ止めたみたいな変で妙な固さがあって、嘘を言っているような感じはしない。
感じがしないからこそ、怪しい極まりないのだが――、
「……目的は『地底の管理』だと?」
「そうだとも。我が社の本来の目的は、この日本の地下に広がるちょっとした街を守る事がそう。ふふっ、まだほんの一部分を言っただけでそんな反応しちゃうのね。いやぁー、君は実に弄り甲斐があるよ」
「ってーと……今までの仕事は飾りで、カモフラージュだったってことなのか?」
「特に別段疚しい事情じゃないから、これは隠してても、知られても、許容されるべき状況……と僕は考えているよ。ああ因みに、我が社の社名も、その役割をもじったものになっていることには気が付いたかな?」
「『街の守り手』だから『マ(ル)チソルジャー』……って、何か軽いな……もっとこう、ガチガチしたような名前でも良かったんじゃないか? 俺が言うのもなんだが」
「では、とあることわざをもじって『株式会社 地下の下の力持ち』でどうかな?」
「語呂は良いがダセぇ! むしろそのネーミングセンスでよく頑張ったな……!」
まず徹浪の口から飛び出したのは、『地底の街』たる言葉だった。
あくまで自然奉仕活動は、本来の目的を遂行するためのカモフラージュであり、おまけであった。
ならば、あの杜撰な内容や無駄に高級な施設、そして五十人で成り立つ会社等にも説明がつく。社員ロボットに理屈付けるのは難しいが……今はいい。
つまり軌道はまんまと嘘の広告に騙され、ほいほいとこの会社に引っ張られたというわけだが――何故にそんな行いを。
思考が白熱灯のように点滅するが、軌道は必死になって平静を取り繕いながら対話を続ける。
「地下で本当の仕事しといて、騙されて入社しちゃった社員にのうのうと自然破壊活動させてんのかよ……最低のドン底いってるな社長さん……」
「おや、自然破壊活動とは心外だね。我が社はちゃーんと本当の仕事をさせてるじゃないか……ああ、そういえば、君はまだ具体的には知らないんだったね」
「また波動を感じるんだが、それは? それはどういうことなんだ?」
「どーうどう、慌てるんじゃない。それを話す前にもう一つ、そう、もう一つの我が社の目的を話そうじゃないか。因みに――それは君にとって、とても大切なことなんだ」
「――っ」
「件の地下の街について、話さないかい? ……いや、話す!」
「お前は俺に何をさせたいんだよ社長さんよぉ!」