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常闇の地底列車  作者: たけどらの民
第2章 『風の吹く地下世界』
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2-6 少女祭りのインフォメーションルーム

 11号車には、怒り形相で入ってきた軌道から見て正面――左右に設置されているドアに挟まれる形で、二階へ伸びるだろう階段が佇んでいた。

 大人な銀色を光らせる手すりに、ほんの少し高級感をプラスしてくれる赤色の絨毯。さらに流れるような模様が表された艶々の壁――それらに思わず見とれてしまいそうになるが。


『ほーら、車掌室はそこから更に更に更にさらーに奥の車両にありますよ! もう、足掻くだけ無駄なんじゃないですか? わかりましたらささっと落ち着いて……って、言っても無駄ですか?』


「無駄無駄ァ! 車掌室がここから地の果てまで続こうがお前が止めねぇ限り俺は止まらないからよぉ! てめぇ待ってろ!」


『ひっ…………あれ、あれあれ。これって存外やばいのでは?』


「ああやばいぞ! だからそのやばーいのが今からお前のいる所に絶賛進行中だ! 覚悟は出来てんな? 礼を言われるのと、謝罪させられる覚悟はよぉ!」


『意味わからんです! とにかく大人しくしといてくださいよ! ああ、もうすぐ次の駅に着くのに……!』


 スピーカーから聞こえてくる声は怯えたり強がったりとなかなかに忙しがっていた。

 しかし、限りのない怒りを宿した軌道はそんな声に怯むことなく的確に、正確に奥へ奥への車両へと進行している。

 獲物を狙うようなその目付きを件の車掌に見られたからかもしれない。いや、もはや見ていないかもしれないが、それほど軌道の視線は危なっかしい。


「――12号車ァ!」


 と、軌道はその間にも次の車両に到着――。




「あなたは……あぁ、『福見』で死んでた人。すっかり治ったようでよろしいです。ところで、ここへはどんな用事で来たのです? トイレ? 6号車」


「……えっと? トイレは、探してないが」


「いえ、えっとはこっちのセリフです。あなたは、そう、『福見』で死んでた人」


 飛び込んだ12号車で目にしたもの――それは、さっきとは違う意味での驚きの感情だ。

 これまでに見てきた地底列車の壁はクラシックでエレガント的な模様が入った安定性重視の仕様だったが、この12号車には青白く光るラインが入った近未来一直線のデザインが施されていた。


 車内には軌道から見て右側、つまりは走行方向の右側にこれまた近未来的なデスクが備え付けられており、オフィスチェストがくるくると回転している。


 そしてそれらよりも異色の存在感を放つのは天井、床にぎっしり詰め込まれたキーボードだ。

 パソコンを操作するためによく用いられるキーボードが、歩けるだけのスペース以外の車内を完全に侵略しきっている。ちょっと、酔うかもしれない。


「……なんでしょう。ヒナをじっと見つめて……思春期男子?」


「少なくともお前には一切注目を向けてないからな?」


 この車両の最後の特徴。

 目の前に佇む少女がそれだが、今のところ口が悪いことしかわからない。なんだ、こいつ。

 あの金髪車掌と同じ制服を着ていればすぐわかるものを、おそらく列車関係者のその少女はコンビニの店員みたいな制服で軌道の推察を殺しにきていた。


『その娘はヒナミちゃん。今あなたがいる12号車――情報車両、通称インフォ部屋の番人なんです!』


「まだお前いたのかよ!? 通称だっさ! 誰だよ、今度は何の擬人だ!?」


『意見が多いですね……ヒナミちゃんは主に地底列車の接客と切符整理を行ってくれる頼れるリーダー枠。――そう、『券売機』の擬人なんです!』


「券売機が車内にいちゃ意味ないんじゃ……というか、結局乗組員か! つまり……」


『大正解です! 怒りによって活性化したあなたをそのインフォ部屋で子供を見るようにあやしてくれますからご安心を!』


「嫌だァァァ!」


「嫌、ですか。こんなに可愛いヒナを自由にできる機会なんて、滅多に来ませんよ?」


「な、なに!? 自由にできるのか……!?」


『できないので大人しく捕まってくださいよ!?』


 もう、ここまできたらそこまで怒りなんて湧いてこない気がする。


 ――また、少女。


 今日1日でどれだけ少女に会うのだろうか。

 徹郎は当然の如くノーカウントとし、マギナ、『風』、金髪車掌、券売機――。もしかしたら、意外と童顔のイスルギですらカウントされるかもしれない。

 とにかく、何とも言えない満足感を軌道は味わっていた。


 怒りはほぼ消えている。

 急いで車掌室に行く理由はなくなってしまったわけだが、何となく興味があるから今ここで券売機に付き合ってみる。

 これもまた『興味』――徹郎の言っていたこと。

 あいつのニヤニヤが嫌に鮮明に思い出されて、軌道は顔を歪めながら頭を掻いた。


 目の前には少女が軌道の邪魔をしようとする。

 そしてスピーカーからは少女が軌道に煽り文句を並べ立てる。

 軌道はそんな少女二人に――ニヤけていた。



 ――情報車両の抗争が、始まろうとしていた。

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