第4話 昇格
こんな時間でも、主人公のテンションはいつも通りなので羨ましい限りです。
では、第四話始まります。
やぁみんな! やっと試験に着いた、ドジッコこと(ただの馬鹿である)村人Bだ! 道中でこんなにかかるなんて思っても見なかったよ!
あれだね! えっと………そうあれ! 僕の能力の為せる業だね!(うん。確かに業だね)
止めて石投げないで!
調子乗りました。僕が全面的に悪かったです。
『大丈夫? 土下座する?』
って天の声が聞こえた気がしたので僕は、心からの土下座を心の中だけで、それはもう盛大に繰り広げたのだった。
『申し訳ェェエッ!? ありませんでしたァァアッ!?』
自分で自分の行動に若干引いていたのは内緒です!(ヒント:マーク)
……うん。行きすぎた妄想の末『我が振り見て我が振り直す』が定番になってるね!
ここで僕の本職を名乗っておこう! きっとみんな気付いているね?
そう僕は……
……反面教師だッ!(大嘘だが間違ってはいない)
……試験はどうしたのかって? 丁度始まるとこだよ!
僕は今、待合室らしき場所にいる。沢山の人が、この部屋全体に敷き詰められた椅子に座り、机に向かう様は見ていて壮観だ。と言っても、僕もそれを構成する一人なんだが。
まぁ、昨日ぅ? あんなにぃ? 勉強ぅ(ゲーム)? したからアッー! 大丈夫ぅ? だよなぁ?
目を泳がせながら強がってみた。
「本日の昇格試験の受験者に諸注意を行う。まず受験方法の説明だ。受験者は手渡したカードのグループに別れ、そのグループごとの番号順に入室することになるが………」
試験監督のながーい話にお付き合いするのも疲れるなぁー。みんなぁ?こんなの見てまで聞きたいかい?
嫌だよなぁ!! だから特別に僕が非常に分かりやすく解説してやるぜ!
つまりだ!
・入室待ちは静かに!
・試験は三分程で終わる。
・試験内容については他言厳禁(喋ると失格)。
って感じだ。あとは知らん! 僕の記憶力を甘く見んじゃねぇ! 終わってんだぞ!
まぁ、覚えてないということは、大して重要じゃない事だったんだと断言出来るよ!
「それではまず一番の人、準備をしなさい」
そういや僕順番なんて見てなかったなぁ。何番だったかなっと!
……ファッ!
そこに記されているのは堂々たる数字、ナンバーワン(もしくはワーストワン)でオンリーワンの数字……
五番!
冗談です、一番です。
テンション駄々下がりモード突入! する前にポジティブシンキング!
フッ、言っただろう?僕の人生はノータイムノーウェイトだと!
膝が、ガックガクに笑いながら強がった。膝が! べ、別にビビッテナイシ! 膝が余裕過ぎて笑ってるダケダシィ!
余裕感ゼロで、表情崩壊済みの蒼白した顔が、強がりの極地を見い出した。
まあ何はともあれ一番を任されたんだ、後続に繋ぐためにも僕がしっかりするんだ。
そうと決まれば試験監督の先生に僕が大抜擢された理由を聞こう、そうしよう。
「あの、質問宜しいでしょうか? この順番には何か意味があるんでしょうか?」
もしかしたら未来の勇者候補である、この僕の才覚が溢れ出ていたのかもしれない! だから一番なのかもしれない!
自分で言ってて悲しくなるくらいには、あり得ないであろう、非常に淡い期待も、
「いや特に無いよ。まぁお前のはあれだ。最後に来た馬鹿野郎への嫌がらせってやつだ。まったく、受付終了十秒前に泣きながら来たやつなんて始めてだったよ」
その言葉の前に褪せきった。
――馬鹿野郎のレッテルを貼られた僕は、一生馬鹿野郎なのだろうか? 否、今日は変わるためにここに来たんだ!
僕だってやれば出来るってところを見せてやる! 見ていろ! これが僕の生き様だッ!
――誘導されるままに、試験会場のドアの前に到着。そして、
「失礼します」
扉をノックして、軽やかに入室ゥ! そう僕はやれば出来る男ッ!
ハァッ!?
危ない危ない、心の声が出そうになった。だって目の前にガチムチで女装してる人がいたんだもん。
……まあこれも個性だよね! 多種多様な生き方が有るもんね! そう思えば何もおかしくない、オカシクナインダ!
「良く来たわね、まずそこに座りなさい」(野太い声)
ブフォッ! ダメだ我慢の限界だ。モウダメダァー!
『神は言っている。そこで笑う定めではないと』
これはッ! 神の御告げだッ!
そうだここで笑ったら全てを無くしてしまうんだ!
そして僕は悟った。彼は禁忌に触れた結果、人間を超越してしまったのだと。……人間ごときに、人間を超越した神のごとき御方を笑うことができようか? いや、できる筈もない。
そう思い込むことにした。
心の葛藤を余所に、しっかりと着席していた僕の体を褒め称え、次に備える(主に笑わぬように)。
「私は試験官のシゲミです。ではまず、名前と受験番号を答えて貰おうかしら? と言ってもみんな同じ名前なんだろうけどね」
シゲミだと? 闇を感じるぞ。まさか…………シゲル?
ハッ! また向こうのペースに乗るところだった! 乗ったが最期、猛スピードで振り回される予感しかしない!
ここは落ち着いて。
「村人B、一番です」
アブナイ、本気で危ない。
まさかこれが向こうの作戦なのか? だとしたらこいつ出来る!(相当失礼です)
「では簡単な質疑応答をします」
あっ、真剣モードだ。声がイケボになった。これが七色の声と言うものか……。
まぁ、今の最優先は『応答』だ。
「はい」
「あなたが受けたのは村人A昇格試験で間違いありませんね?」
次は『質疑』に『応答』を。
「はい」
「心の保証は出来かねますが宜しいですか?」
「はい」
……ん? どう意味だ? これ以上におぞましい物を見せられるのか? これ以上に驚かない自信あるよ?
「それでは試験を始めます。目を瞑ってください」
へっ? なぜ? もしかしていろんな意味で最悪な展開に?
――僕は目を瞑った。
暗闇というのは、無条件で不安を増長させる。暗闇から孤独を連想できるからだろうか? 真の孤独とは、孤独を自覚する者にしか訪れない。
ハッ! 今はどうでも良いな、そんなこと。だとしてなぜ考えるのかなんて、さらにどうでも良い。
「それでは試験の説明をします。あなたはこれから、あるオンラインゲームの、あるサーバーに、意識のみを飛ばし、あるNPCに乗り移ってもらいます。そこでゲーム内時間で1日、ある作業をしてもらいます。こちらの世界では一瞬ですのでご安心を」
それだけ? 1日NPCの『仕事』を全うするだけ? というか不明瞭過ぎ無いか? ていうかどういう技術だ? 僕だってこれでも村人Bの端くれ、演じた回数は中々だよ?
でも、何かあるに違いないか。
「これはあなたが村人というNPCの役を完璧に演じきることが出来るかを見るための試験です。不満そうな態度や、文句を言った時点で失格ですので注意してください」
なるほど。村人のリーダー的役職を得るための試験としては一理あるな。
「制限時間は近くの時計などで確認してください」
そろそろだな。
「では、準備は良いですか?」
僕は頷いた。
「それでは行きます。三、二、一」
その瞬間、周りに広がったワープホールで僕は異世界に飛ばされた……。
……わけでもなく、普通に、あるゲームとやらの世界に来たようだ。
全く正式名称すら言わないなんて、なんて不親切で不適切なんだ! 或いは手抜きなんだ!(ギクッ!)
さあて僕の仕事はなんじゃろなーっと? 回りでも散歩して地の利でも得ようかな~っと、
なんだ? 動きが鈍いぞ? 違う! 時が……止まっている! まさか世界が!?(ルビはご自由に)
なわけもなくただ僕が動けないだけらしい。つまり行動不能のNPCと言うわけか。何か嫌な予感がするな……。
どんどん最悪の事態の妄想を増長させていた時、冒険者が一人僕の前にやって来た。
「………」
無言? まぁ大抵冒険者はモブにまで話し掛けないもんな。でも会話が入力されたということは……
……まさかッ!
「ようこそ! 始まりの町、ビガートへ!」
やっぱりだぁッ! 最悪だッ! よりにもよってこんな役だなんてッ! チクショウ! 嵌められた! そういや『仕事』とは言われてない! いや、立派な仕事なんだろうけど……これは確かに作業じゃねぇかァァッ!
あの言葉にヒントがあったなんてッ! にしてもまさか、町の名前を言うだけの仕事だなんてッ! 出来るだけ避け続けて来たというのに! もう少しのところでッ!!
避けられない、避けることの許されない昇格試験の内容がッ! 最低最悪の案内役(台詞のみ)の役だなんてッ!
やはり僕の成長エンタメはまちがっている!
ここまで見てくださった方、本当にありがとうございます。
では、また次の話で。