第1話 村人
この話から本格的にスタートとなります。
きっと、文章がおかしいところがあると思います。読みにくいって思われる方もいると思います。その点に関しては、本当に申し訳ありません。
どうかそれを承知の上で、『また変なミスしてやがる!』なんて思いながら、読んでもらえると幸いです。
では、第1話始まりです。
炎が燃え盛る村、
そこに取り残された子供、
必死に必至の助けを呼んでいる声が、
そのはち切れんばかりの声が、
ある男の登場を待っていた。
その男の名は『勇者』
もっとも、本名がそんな概念的な名前ではないだろうが、今回彼に与えられた名前が勇者なので、そう呼ばれている。
――彼はこの世界の主人公として、勇者の名を知らしめるためのイベントを迎えていた。
今回僕に与えられた名前は『村の長の息子』
勇者を呼ぶために精一杯の声を出す。それが僕の役割。
「誰か、だれかぁ、ダレカァァ! 助けてよォォォ」
そんな今にも消えそうで、今にも壊れそうで、弱弱しくも、僕に出せる精一杯の声は、彼の耳に確かに届いた。そして、当たり前のように彼は現れた。
「もう大丈夫。僕が助ける」
そんな彼の言葉を聞いた僕は、泣きそうな目で彼の方を見つめ、言葉に詰まるような仕草をした後、安堵の表情を浮かべる。そして、何かを言いたげな表情をしてからこう言い出す。
「来てくれてありがとう勇者。勇者が来てくれただけで安心できる。本当にありがとう。でも……僕のお母さんは……」
そう言いつつ瓦礫の方を見る。無機質な残骸を見てると不思議と悲しくなってきて、僕は涙ぐんだ目からなけなしの水分を放出した。
理由は明白だ。そうなるだけの理由がそこに横たわっているのだ。見ることすらできないのだが。
僕は文字通り……泣き出した。
「僕をかばってぇっ、あの下じきにぃ、なっちゃったァ……」
僕は涙声でそう言った。涙を流しながらそう言った。
僕が泣く理由は皮肉にも、涙のせいで大層聞きずらかったことだろう。だけどそんな僕の声に耳を傾け、理解し、彼は勇者らしい行動を取ってくれる。
「僕は助けるって言ったんだよ。だから……ここで待ってて。もうこれ以上君を悲しませたりはしない。必ず君のお母さんを助ける」
彼は笑顔でそう言い切った。
次の瞬間には、彼は倒壊間際の僕の家の中に居た。そして、信じられないことに、炎燃え盛る家屋の中からお母さんを助け出してくれた。その上治癒魔法を使ってくれたのだろうか、お母さんの意識はとうに戻っていた。
……僕のお母さんは、ほぼ無傷で助かったのだ。
――丁度、僕のところに勇者が辿り着いた時である。
「下がって!」
そう勇者が叫んだ瞬間に、彼を中心に発生した障壁が僕達を包み込んでいた。
……防御魔法、しかもかなり強めのだった。
それが張られた理由は、一目見れば分かる。聴覚への刺激が知る原因だったのだけれど。
「くずれた。僕の家が……消えた」
轟音を出しながらの倒壊。誰にも止められない運命。抗う瞬間も、力も、勇気も……僕には無かった。
僕はお母さんと、ただ茫然と立ち尽くしていた。何もできない現実に、なす術などある筈が無かったのだ。
立ち尽くすことができたのも、倒壊に伴う衝撃から勇者が救ってくれたからなのだ。
「危なかった~。けがはもうありませんか?」
もう……か。あまり聞いたことないな。
そうしてけがの有無を確認した彼は、安心したのか表情を緩め、
「良いかい? お母さんと一緒に居るんだよ。それとお母さん、向こうの方に安全な場所があるのでそちらへ」
そう言って、僕のところにお母さんを助け出してくれた勇者は、性懲りもなく無謀を口にする。
「僕がこの町を襲った魔物を倒してきます」
また言い切った。
――この惨状から予想するに、相手はドラゴン。この世界でも最上位の種だ。人間が対抗できるようなやつではない。だが、その恐怖に負けては……勇者とは呼ばれない。
『怖くないのかな?』
そう思うのは、恐怖に勝てない僕の心だ。だから、彼に聞くまでもないのだ。彼は……恐怖に負けはしない。
「お待ちください。勇者様これを」
そう言って、お母さんはお金を差し出した。救ってもらった対価としては当然の行為だ。
ただ……あまりにも見合わない。
「いいえそれは貴女のために、彼のためにお使いください。この有り様では今後が大変でしょう。僕がもう少し早く到着していれば……申し訳ない」
だけど、彼はそれすらも受け取らない。
あくまで献身的な自己犠牲。例えそれが偽善と言われようと、彼の行動の方がどっかで吠えてる正論者より、ずっと現実的だ。
「そんなことはありませんよ勇者様、貴方は間違いなく私達を救って下さいました。本当に有難う御座いました」
と頭を下げるお母さんに合わせて僕も、
「ありがとうございました」
頭を下げた。
何にせよ、助けてもらったのには変わりない。
何しろ偽善を振るう、口ずさむ……いや、ほざく勇気すら僕には無いのだ。――それを当たり前に行ってしまう。それが『勇者』と呼ばれる所以なのだ。
だからだろうか? 勇者は、
「そんな大したことはしていませんよ。勇者として当たり前のことですから」
『あくまで』自己犠牲を肯定するのだ。爽やかな顔で、まるで何も迷いが無いかのように。
――そして彼はこう続けた。
「それでは行って来ます。道中お気をつけて」
――いやむしろ、貴方が気を付けるべきだと思う。だから、蛇足を当たり前のように平然と述べようと思う。余計なお世話だってのに。
「勇者こそ気を付けてね」
そう言ったら、彼は頷いて立ち去っていった。
――否定的な意見も目立っただろうが、僕は勇者を尊敬し、肯定している。
当たり前のように……いや、当たり前なのだろう。綺麗事を肯定させる行動力。そんな姿に、そんな勇者に、僕はガラにもなく憧れたんだ。
身の程知らずは勇者の第一歩……ってね
――その後、僕はお母さんと一緒に、安全な場所まで避難して事なきを得た。そこには勇者の仲間の人が居て、結界を張って守ってくれていたんだ。
こうして勇者一向に助けられた僕らは、魔物に襲われた村としては異例の死者〇人を記録した。
それは世界中に伝わった。勇者の名と共に。
その後、勇者の動向は連日報道され、その言葉に一喜一憂し、勇者への憧れを膨らませていった。そして一年ほど経ったある日、魔王が勇者に倒されたと言うのを耳にした。
勇者のおかげで、ついに世界は平和になったんだ!
涙を流し、そう喜んだ。
とでも思うかい?
この世界は初期化され繰り返される場合もあるし、大抵は違う世界に作り替えられる。『続編』としてね。まぁ、これっきりの場合も多いけどね!
――僕は君たちで言う高校生くらいの年齢に成長したけど、このサイクルは未だに繰り返されている。
ていうか最近の主人公なんか、人の家に押し入ってはタンスを覗いたり、瓶を割ったりするヤツまでいる。……これのせいで父のへそくりが消えたのは悲劇だった。
『誰がへそくりを盗んだんだッ!』って怒る父と、『へそくりなんて作ってるからバチが当たったのよ!』って吐き捨てる母の夫婦喧嘩は、それはもう悲惨な光景だった。
その間にいる僕の気持ちを想像してごらん?
ふむ……想像できたなら経験有りだな。
後に勇者の仕業と分かった時の、あの気まずい雰囲気と来たら。
だけど、こればっかりは衛兵に言っても仕方ないし、国際市役所からの保険も下りたりしない(それくらい保障しとけとは思う)しな。
まあ村人が勇者に協力するのは当たり前だしな――。小さい時に憧れた勇者は別の世界に派遣されているようだし……。
主人公のやり方(と言うより仕様)が変わるのは仕方ないか。
そういえば僕は新しい名前を手に入れたんだ。
その名前は……
『村人B』!!
……うん、言いたいことは分かるよ。こんなの量産型の名前だし、村人というモブの中ですら一番になれてないんだぜ。って言うか前のが重要な人物感出てたよね!
だがしかーし、僕は勇者になる夢を諦めてなどいないぞ! 諦めたら何とやらだ!!
だから明日、僕が所属している会社である、村人覇権協会(株)の昇格試験を受けるんだ。
……ん? 字は間違ってないからね。これが正式名称さ。なんか一番力がありそうだけど、末端企業だよ。
名前って不思議だね。
この会社についての詳細だけど、生まれた時って普通、出生届を出すじゃろ? その時にサインすると入社できるんじゃよ。サインしなければ給料が出ない代わりに命の保証がされるんじゃ。バリアって言うのが死ぬまで張っているらしぞよ。まあ、病気には負けるがの。(唐突な謎の老化現象……!)
いわゆる破壊不能オブジェクトってやつだ。まあ、そんなのターゲットにするヤツ、いない思うけど。(唐突な謎の若返り現象……!)
でもそんな選択をするヤツ(サインするのは親なので、させるヤツ?)はめったにいない。なぜなら、この会社で活躍すると、勇遣に就職できるチャンスを手に入れられるからだ。
あの政策の効果だね。良い時代に生まれたものだ。
――だから、みんな勇者になるために頑張っているんだ。
ちなみに『序盤の頃』の僕は名子役として有名だったんだよ。『序盤の頃』のね!
良くある話だよ…………。
あれ? 目から経口補水液が……。この水で、喉って潤うかな?
――そんなこんなで、困難ばかりあったけど、僕もやっとここまで来た。来れたんだ。こんな僕でもだ! それに明日の昇格試験に合格すれば、晴れて村人Aの仲間入りだ。
だから絶対に合格してやるんだ。
そのためにはもっとRPGについて勉強しなければ。たからこれは遊んでいるのではなく、勉強しているんだ。
そうやってゲームばかりする自分に少し言い訳してみた。
暗めの部屋でモニターを見るのに慣れているせいか、少しも眩しいとは感じない。
……慣れってやっぱり怖いね。
「明日は昇格試験でしょ、早く寝なさい」
そんな声が聞こえた気がしたが、気にしたら負けてしまう。目の前の戦闘に。
これは勉強、これは勉強、そんなもっともらしい言い訳をして、結局やり続けてしまった。
気づいたら、もう日付が変わってしまうじゃないか。それだけはいけないな。
――なぜなら、
僕は明日、今日の僕を越えている。
そう暗示をかけるためだ。
前回から勘の良い方、或いはいろんな作品を見ている方はお気づきだと思いますが、最後の方の文で、あるノルマが設定されています。
個人的なノルマなので例外もありますが、これが無い時はシリアス回だったと思ってください。