表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

こんとらくと・きりんぐ

ああ、しんどかった(こんとらくと・きりんぐ)

作者: 実茂 譲

 殺し屋は公衆電話の受話器を置いて、ボックスの外に出た。

 そこは見渡す限り大平原だった。雲一つない青空と刈りそろえたような青い草の海を一本の地平線が区切っている。その地平線へと片側一車線の道路がデパートの店員がテーブルの上に走らせたリボンのようにまっすぐ伸びていた。

 ショートへアの少女、あるいは長髪の少年に見える殺し屋はウェットスーツのように体にぴったりした黒い戦闘服をつけ、ブーツを履いていた。肩や腰、腿、ブーツに革製のホルスターやベルトが巻きついていたが、肝心の銃はなく、腰の後ろにまわした黒い糸で縁取りした革のナイフ用の鞘も空っぽだった。腰につけた小さなポーチにピアノ線が一巻き入っていて、武器と言えば、それくらいのものだ。

 殺し屋がこんな装備をつけるのは、かなり手強い仕事のときに限った。服が首から爪先までぴったりとしているのは銃を抜いたりガスマスクをつけるとき、上着のはためきやズボンの裾に邪魔されて、貴重な〇・〇一秒を浪費したくないからだ。それにこの手の服なら通風孔のなかを這いずることもできる。そのくらいのことをすることも念頭に入れる大変な仕事ということだ。

 殺し屋が道に停めたクーペの後部座席には銀行強盗の戦利品のようにパンパンになった枕カバーと半分だけウイスキーが入った酒壜が転がしてあった。枕カバーの口からは依頼人から先に払ってもらった経費――赤や青、緑の札束がこぼれていた。

「あーあ、もう、ぐちゃぐちゃ」

 殺し屋は窓から身を入れて、札束を枕カバーに押し込んで口を縛り、酒壜を取り出した。

 それを少しだけあおると、

「ちょっと運試し」

 と、琥珀色の中身が残る壜を電話ボックスの隣に置いた。

 もっと風情のある街にあるのがお似合いの、ニスでプリンのキャラメル色に仕上げた小ぎれいな電話ボックスだが、手入れするものがいないせいか、ガラスには雨の伝い落ちた跡が白く残り、電話帳は何ページか破られていた。こんなところまで電話のなかの小銭を取りに集金人が来るのだろうか? 殺し屋の考えでは、それは労働というより懲罰だ。

 運転席に座って、ずれたゴム製のマットの位置を足でずらして直し、ギアを入れた。

 涙色のクーペは軽快な音を立てて走った。時速六十キロの制限速度を守り、ときおりあくびをする。すると、ずっと左側の地平線に見えていた蒼ざめた山稜と頂のこれまた蒼く染まった雪がいつのまにか道路をまたいで、右の地平に移動していた。この手のハイウェイはまっすぐなようでいて、実はゆるやかにカーブしている。だいたい五十キロ単位でゆっくり曲がり、また元に戻る。ホントにまっすぐな道ではドライバーはつい居眠りをしてしまうからだ。

 しかし、緩やかなカーブがあったところで、道の単調さは変わらない。つい緊張感が薄れがちになる。ただ、これから相手する連中は自前の軍隊を持っているし、自前の国といっていいものを持っている。敷地を電気を流した金網で区切っていて、許可なく立ち入るものに銃弾を雨と降らせる。

 だが、何もない。

 こんなところにいったい誰が何の用があって、こんな道をつくったのか分からない。道の始まりと終わりに大都会があるわけでもない。道沿いに住んでいるものはいない。時おり、左右の草原がきちんと畝をそろえた畑になっていることはあるが、それだけだ。

 ここに来るまでに殺し屋が見つけた町は昨日の一つだけ。まず、道沿いに看板が立ち始めた。何十年も前にペンキで描かれた宿屋やポークチョップの絵が風に色彩をむしり取られて無様ななりを晒していた。車を停めて、しばらくにらめっこして、かろうじて『ジョーとメアリーの店 絶品手作りソーセージ』とか『ウェルカム・ホテル 清潔な部屋とお風呂 釣りのできる池あり』といった字が読める。次に脇道が現れた。『十キロ先 町あり 人口三〇二人』と書かれた看板から未舗装の道がハイウェイから拒絶されるように町――地平線に見える小さなコブの群れのほうへと反れて伸びていた。

 いかなくても、その手も町のことは分かる。真ん中に十字路があって、そこに役場と教会があって、ゴシップ渦巻く食堂や農業機械の修理屋がある。住民は海を見たことがなく、みなポンコツトラックを持っていて、ジャガイモの作柄のことくらいしか話題がない。道徳を重んじ、娼婦――あるいはそう見なされた女――をなじる住民たちの秘密のお楽しみは闘犬と密造酒くらい。

 でも、ひょっとすると、町外れに飛行場があるかもしれない。草を引っこ抜いてスコップで引っぱたいて均した滑走路とトタン葺きの小屋があるだけのちっぽけな飛行場だが、飛行場に着陸する三発旅客飛行機から降りてくるのは間違いなく別世界の人間だ。オーバーオールと安物のドレスしか知らない町に粋なスーツとキュッキュとなる革の靴を持ち込む人間がそこに現れる。それだけでも救いというものだ。


 道の右手へと太陽が沈んでいった。

 西の地平からは夜が滲み出し、小賢しく光る星の群れがボンネットに映り始める。

 ハイウェイの道端にある大きな無人の建物のライトがつき始めた。それは鉄と曇りガラスと色電球でつくったアーケードだった。遊園地にあるニッケル貨一枚でボールぶつけや占いができる遊具機械があるアーケードによく似ていた。電球がピカピカし、音の割れるスピーカーから陽気な行進曲がかかる。殺し屋はその入口にフロントグリルを向ける形で車を停めた。

 ここは自動販売機のアーケード、それも殺し屋御用達の銃の自動販売機のアーケードだった。ここでは警察用の三八口径リヴォルヴァーやカービン銃、ショットガンをカスタムメイドしてくれる自動販売機が並んでいて、機械の正面にはめ込んだプラスチックにはどぎつい色のガンマンたちが最高の銃を手に入れるならココ!と胸を張っている。

 殺し屋はこの銃器販売の大伽藍の前にして、車のトランクを開けた。

 トランクにはクリーニング屋から引き取ってから、まだビニールに包装されたままのトレンチコートがあった。殺し屋はビニールを破って剥がし、コートの袖に腕を通した。

 わざわざ動きやすい戦闘服を着ているのにトレンチコートを着たら、何の意味もない。それは分かっている。だが、殺し屋に黒い革の手袋が欠かせないのと同様、トレンチコートは敵の本拠地に殴りこみをかけるハードボイルドに欠かせないアイテムなのだ。

 銃器販売アーケードは何でも売っていた。何かの本で読んだことはあるが、実物は見たことがない最高級の猟銃もあれば、手のひらに隠れてしまう小さな単発ピストルもある。複葉機用の機銃も売っている。

 殺し屋は一年に一度赤い服を着てプレゼントを配ってまわる伝説の老人のように札束の入った枕カバーを背負い込んだ。札束の重みでのろのろ歩きながら、殺し屋はあっちこっちの自販機を眺めて、じっくり考えた末に四五口径のサブマシンガンを一丁買った。二十発入り弾倉五つのオマケつきで。自販機の大きな穴に緑の札束を二つ放り込むと。背負い革ベルトがついたサブマシンガンが現れた。細長い鉄の塊を削り出した頑丈な銃身を見ると、これを買ってよかったと殺し屋は思う。プレス加工のサブマシンガンは安いし、軽いし、ずっとコンパクトだが、踏むとへこむ。殺し屋は自分の命を踏んだらへこむような銃に託すつもりはなかった。

 サイレンサーを取り付けるためのネジが切ってある四五口径のオートマティックと弾倉を六つ、銃身が短い三五七口径のマグナムを一丁。簡単な作りだが頑丈なナイフとスローイング・ダガーを三本。

 買った武器はどれもこれも空っぽだったホルスターやトレンチコートのポケットに馴染み、日なたで丸まる猫のように落ち着いている。

 そして、最後に爆発物コーナー。爆発物コーナーは蹄鉄型に機械が並んでいた。パイナップルによく似た手榴弾を気のむくままに買い、強力な爆薬を入れたキャンバス地のバッグを買った。バッグの端からは白い紐で結ばれた赤いリングがあり、それを引っぱると、爆薬の導火線に火がつく。

 最後のコーナーは町でみかける普通の自動販売機で、チョコレート・バーやポテトチップ、それに甘ったるいオレンジジュースや煙草を買えるだけ買い、それで札束を使い切った。枕カバーには武器と弾薬と食料が詰まっていて、札束よりもずっと重くなった。

 金よりも武器のほうが重いというのはいいことだ。

 殺し屋は車の後部座席に袋を放り込むと、自動販売機アーケードを後にした。

 殺し屋は車を走らせながら、バックミラーを見た。煌々と光るアーケードがどんどん遠ざかり、光がすぼんでいき、最後には網膜に残った影だけになった。


 ゲートが見えてきた。

 真新しい鉄の扉の左右には高さ五メートルのコンクリートの壁が続いている。ボルトアクション式のライフルを持った下級教団員が三人。どれも青いローブと目のところに穴をあけた三角形に尖った頭巾をかぶっている。二人が門の前、一人は門の横の詰め所にいる。

 殺し屋はクーペで十メートルの距離に近づくと、車を降りて、サブマシンガンをぶっ放した。三人はズタズタに切り裂かれて、血煙を上げて倒れた。外れた弾が鋼鉄の扉で火花を立てる。

 殺し屋は空になった弾倉を捨てて、新しいものと替えると、詰め所へ銃口を向けながら、ゆっくり近づいた。

 詰め所に入って一番最初に目についたのは『破滅の巫女!』と彫られた石版だった。黒い石の上に金メッキ細工の逆巻くドレープがついていて、その真ん中に彫刻された椅子の背もたれには赤い模造宝石がはまっている。

 詰め所の教団員は胴に三発もらって死にかけていたが、それでも何とかテーブルにしがみつき、卓上ランプのそばにある三二口径のオートマティックに手を伸ばした。

 殺し屋はマシンガンを左手に持ち替えるとナイフを抜いて、教団員の顎の下にピタリとあてた。素早く喉を掻き切った。

 まだ血で汚れていないローブの端でナイフの血を拭うと、ゲートの開閉レバーをOPENに倒した。

 基地から出撃する駆逐艦並みの大袈裟な音を立てて、ゲートが開いた。

 広がりつつある鉄の扉の隙間から眩い朝日が袋から漏れる金貨のように流れ出した。


 真っ青な空に雲一つない。開けたままのサイド・ウィンドウから心地良い風が流れ込み、ぐるっと一回りして、煙草の煙をさらっていく。

 ゲートから二時間ほど走って、教団の居住区――〈町〉が見えてきた。徐々に大きくなるそれは石で出来た五階立ての建物が並ぶ陰気な灰色の町で柱廊付きの一階は食料品店やガレージになっていて、上は集合住宅になっているようだった。

 人通りはない。道には赤や青の車が停車している。よく大衆車と呼ばれるようなお手ごろの値段の小ささフォー・ドア・セダンだ。

 無人の町をしばらく車で流した。ガソリンの残量が心配になると、停まっている車からホースで吸い上げないといけないのかと思ったが、そんなとき、ガソリンスタンドを見つけた。てっぺんに丸いガラス槽がついているガソリンポンプが二台ある。給油すると、店内も見てみることにした。

『破滅の巫女!』

 また見つけた。ただ石板は白い大理石に黒い文字が刻まれている。模造宝石を埋め込んだ金メッキ細工はドレープと椅子のままだ。

 カチン、という音。

 殺し屋は咄嗟に床に身を投げた。コンマ一秒の差で殺し屋の立っていた位置へ鹿弾が飛んでくる。殺し屋はリノリウムの床をごろごろ転がってから仰向けになると、流れるような動きでマシンガンを構え、狙いをつけた――カウンターの後ろの教団員へ。

 撃つ必要なかった。教団員は二連式のショットガンを自分の顎に向けて、引き金を引くところだったのだ。

 ドン!

 天井は血と脳漿でベタベタになり、頭巾の切れ端が垂れ下がった。

 殺し屋は立ち上がると、念のため他に敵がいないか、建物じゅうを調べた。トイレ、物置、個人の居住部屋、例の大衆車が停まったガレージ。敵がいないのを確認して、最初の部屋に戻る。

 なぜ、あいつは自分の頭を吹っ飛ばしたのだろう?

 その答えは壁にあった。

『破滅の巫女!』の石板が散弾を粉々に砕けていた。



 橋は跳ね上がったままだ。

 灰色の町の最南端には橋があり、その向こうに殺し屋の目指す塔がある。二十キロは離れた位置にあるはずなのに、ここからでもその高さをうかがえる高い塔でターゲット〈破滅の巫女〉はその屋上にいる。

 橋の開閉装置にはバッテリーが必要だった。カーボン・アンド・サンズ社製のBバッテリー。それほど特殊なものではない。ごく普通のデパートで売っている。

 殺し屋が町のほうへと戻り、デパートを見つけた。通りの突き当たりにあるそれは他の建物よりも二階ほど高く、建物正面の真ん中に例の『破滅の巫女!』の石板を飾っている。

 銃声がして、ボスッという音がすぐ上からきこえた。見ると天井に穴が開いている。

 殺し屋は舌打ちし、アクセルを踏み込んだ。

 また銃声がした。デパートのほうからだ。殺し屋が咄嗟にハンドルを切ったので、弾はアスファルトを削った。右側に停まっている車にぶつかりながら、また左へハンドルを切ると、今度はビシッと引っぱたくような音を立てて、フロントガラスに細かい亀裂に縁取られた小さな穴をあけた。

 デパートの前に横滑りにして止まると、サブマシンガンを取って、車から飛び出し、デパートのエントランスへ飛び込んだ。

 三階までの吹き抜けが回廊と売り場に囲まれたエントランスで殺し屋は中央にあるプレゼント箱の山に隠れた。すぐにサブマシンガンの音が響いて、プレゼント箱が吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされた方向から敵の位置を把握し、素早く飛び出し、狙い、三発撃った。

 三階の回廊にいた教団員が二人倒れる。

 殺し屋は受付カウンターへ走り、デパートのパンフレットをひったくると、工具・電気製品売り場を探す。六階の西棟。

 エレベーターで六階へ。ただし、エレベーターの天井を外して天井裏に退避しておく。チンと音が鳴って、扉が開くなり、銃弾が雨霰と飛んできて、エレベーターを蜂の巣にした。

 殺し屋が飛び降りる。

 三人の教団員は空になった弾倉を取り外そうとしていた。

 エレベーターを使ったフェイントはいつだってうまくいく、と満足げに微笑んで、三人の膝を狙って一連射した。

 悲鳴を上げて倒れる三人に残りの弾を浴びせて、トドメを刺すと、殺し屋は六階フロアへ足を進めた。

 ドリル、ドライバー・セット、缶入りのペンキ。ボール紙の箱に入った商品はみなラベルを前にして、ほんのわずかな誤差もなく戸棚に並んでいる。

 バッテリー売り場のフロアには様々なバッテリーが並んでいる。電話用の乾電池やラジオ用バッテリー。お目当ての汎用Bバッテリーを見つけると、デパートの紙袋に入れた。右手にサブマシンガン、左手にデパートの紙袋というのはまるでバーゲン戦争に繰り出すおばさんのようなものだなと思い、一階へ戻ろうとしたところで、

「おっと」

 殺し屋は忘れ物に気づいた。

 屋上には子供用の小さな遊園地がある。馬と馬車が走る定番のメリーゴーラウンド、小さな汽車、魚釣り用の池は干上がっていて、水草のちぎれたクズ一つ残っていない、アイスクリーム屋台にはソフトクリームのキャラクターが笑っている看板があるだけで、店のなかには何もない。

 殺し屋はバッテリーをアイスクリーム屋台に置くと、マシンガンをしっかり肩で構えて息を殺して、ゆっくり遊園地の外周を探った。

 デパートに行く最後の道で狙撃をしたスナイパーがまだ残っている。こっちがなかに入って、味方が皆殺しにされたことに気づいているはずだが、ひょっとすると、また殺し屋が何も考えずに外に出てくると思って、狙撃用スコープ越しに下の道路を見張っているかもしれない。

 図星。キネトスコープの後ろの立ち入り禁止エリアにいた。スナイパーはデパートの正面下を熱心に見張っている。殺し屋は音を立てないよう注意して、背後に近づくと、スナイパーの後ろで、

「わっ!」

 と、驚かした。

 スナイパーは屋上の縁の上で何度か手足をまわして、後ろにのけぞったが、革のベルトで絡みついた狙撃銃に引っぱられる形で前に倒れ、デパートの上から『破滅の巫女!』の看板の前を落ちていった。


 Bバッテリーを設置して橋が降りると、クーペは農場地区へと入っていった。暮れなずむ空の下には豆畑や養豚場があり、飼料を入れた櫓があちこちに立っていた。道路沿いの自動車修理工場にはトラクターや例の大衆車の後ろを荷台にしたピックアップトラックが新品同様にピカピカに並んでいた。

 ガレージのそばに車を停めて、手袋を外すと、チョコレート・バーとポテトチップの食事をオレンジジュースで飲み下す。最後に煙草を一本つけた。

 農場は町と同様、生活感がなかった。ちょうどセールスマンがモデルを見せて商品を売るのと同じように、町は町のモデルに過ぎず、農園も農園のモデルに過ぎないようだった。このガレージにも新車のポスターや水着を着た女優の写真が貼ってあったり、テーブルの上にトランプが何枚か散らばっているが、それはガレージとはそういうものだと教えられた誰かに言われたとおりにつくったに過ぎない――自分の考えというものがすっぽり抜け落ちているようだった。

 ただ一つ違うのは『破滅の巫女!』の石板だった。これはどこにでも飾ってあった。国王や大統領の写真を飾るのと同じだ。

 殺し屋はガレージ事務室の冷蔵庫を漁った。冷えたビールが飲みたかったのだ。だが、冷蔵庫のなかは空っぽだった。ガレージとはどういうものかを教団員たちに教えたやつの頭にはガレージの冷蔵庫には常に冷えたビールを絶やさないようにしなければいけないということが抜けていたらしい。

 飲めないと分かると、余計に飲みたくなるのがビールというものだ。殺し屋は立て続けに煙草を何本か吸ったが、そのうち煙草の残りが潤沢の水準から外れ始めると、我慢することにした。

 クーペの椅子を倒して、腕を頭の後ろで組んで枕にし足をダッシュボードの上に乗せて、殺し屋はビール欠乏の現実から逃れるべくまぶたを閉じた。


 むかしむかし、あるところに政府がありました。

 政府はえらいひとたちによって動かされていましたが、えらいひとたちはとても感じやすいこころのもちぬしで、みんなに政府をすきになってもらいたいとおもっていました。

 ただ、みんながみんな政府のことがすきなわけではなく、政府のことをきらいなひとたちもちょっぴりだけどいました。

 政府のえらいひとたちは、政府をきらいなひとたちをみんなつかまえて最厳重警備の監獄にいれてしまおうとしました。

 でも、政府がきらいなひとたちは政府がすきなひとたちと見た目はかわらなかったので、逮捕するのがとてもむずかしかったのでした。

 そこで政府のえらいひとたちはひみつのエージェントに新しい宗教団体をつくらせました。

 その教団は政府のことがだいきらいだといいました。

 すると、どうでしょう。政府のことをきらいなひとたちが、わたしたちも政府がきらいですといってあつまってくるではありませんか。

 これが政府のえらいひとたちのねらいでした。教団がある限り、政府は政府がきらいなひとたちを一ヶ所にあつめて、かんたんにみつけることができるようになりました。

 そのうち、政府のえらいひとたちはエージェントに教団の教祖になって、政府がきらいなひとたちをもっとあつめるように命令しました。

 そして、十分集まったところを見はからって、教団とその信者たちをフェンスで囲ってしまいました。

 こうしてしまえば、政府のことがきらいなひとたちがそとにでて、政府のえらいひとたちのことをわるく言ったりすることができなくなるからです。

 政府はしばらくエージェントに教団を運営させ、うまい具合にすべてをコントロールしていました。

 ところが、ある日、エージェントが教団の信者たちにころされてしまいました。政府のエージェントであることがばれてしまったのです。

 エージェントをころしたひとたちは新しい教団の救世主として、〈破滅の巫女〉をあがめました。

〈破滅の巫女〉が教団の中心になると、教団の規模が十倍、百倍とどんどん大きくなっていきました。

 教団の縄張りは政府が囲ったフェンスをこえてしまい、大きな都市くらいにまでふくらみました。

 そして、教団のひとたちは武器をたくさん集めはじめました。

 政府のえらいひとたちはもうコントロールができなくなった教団をつぶすためにおまわりさんと兵隊、それにギャングを雇って、教団の信者をみなごろしにしようとしましたが、ぎゃくにみなごろしにされてしまいました。

〈破滅の巫女〉はいいました。異教徒たちを殺せ、と。

 その日から、政府がすきなひとに変装した教団の信者が体に巻きつけた爆弾を町じゅうで爆発させました。役所、映画館、レストラン、知事官邸、鉄道駅、飛んでいる旅客機のなかでつぎつぎと爆発がおきて、たくさんのひとが死にました。

 こまりはてた政府のえらいひとたちは教団を壊滅させるには〈破滅の巫女〉をころしてしまうしかないと思いました。

 そして、政府のえらいひとたちは殺し屋をやとうために電話をかけましたとさ。


 早朝、遠くから見た塔は日時計のように影を伸ばしている。見事なほど起伏のない土地に建つ塔は軍隊並みに武装し教団員に守られている。回り道などないし、忍び込む余地もない。

 こういうシチュエーションを考えて、トレンチコートを着てきたのだ。

 殺し屋はトランクからタイヤジャッキを取り出し、それを助手席に置き、塔へ真っ直ぐ伸びている道へアクセルペダルを目いっぱい踏み込んだ。

 数十丁のマシンガンやライフルが殺し屋のクーペを狙って撃ちまくるようになった。だが、動いている車を狙うのは難しいものだ。弾は高く飛びすぎて、排気ガスが残った砂地へと刺さっていく。

 それでも塔と車の距離が縮まれば、命中弾が増えていく。ドアミラーが吹き飛び、ワイパーがちぎれ、フロントガラスはどちらも割れた。殺し屋は身を低くしながらハンドルにしがみつき、助手席のタイヤジャッキを手に取ると、それでアクセルペダルを押し、もう一方を運転席の下にあてがった。

 殺し屋はサブマシンガンを手に取ると、キャンバス地のバッグから伸びた赤い輪を結んだ紐を引っぱった。しゅうしゅう煙が出るのを見ると、殺し屋はドアを蹴り開け、外に身を投げ出した。

 道端に転がり、そのまま体を芝生にべったりくっつけたまま、涙色のクーペの行方を見守った。何百発という弾丸を浴びたクーペはマシンガンでいっぱいの検問所に突っ込み、信管がバッグのなかの爆薬に点火した。

 轟く爆音とぶつかってくる機関車のように分厚い炎の風が人と三角頭巾とローブと銃と門をバラバラにちぎって、空に舞い上げた。


 爆薬に含まれていた金属球のせいであばたになった女神の石柱が入口の左右に立っている。虫の息の教団員たちがどす黒い血で汚れたボロボロのローブの下で喘いでいた。

 無機質な石のホールへ入り、大理石の受付カウンターの後ろから狙ってくる二人の教団員を手早く片づけ、左右にある階段を上る。

 階段の終わる五段前で身を伏せ、コートのポケットから取り出した手榴弾を投げた。爆発。階段の踊り場で待ち伏せていた教団員が手すりによりかかって死んでいた。もう一人はうつぶせに這いながら、転がっているリヴォルヴァーへと這っていく。背中から頭へ弾を浴びせる。教団員の体がくの字に曲がり、そのまま横を向いて倒れた。

 軽機関銃の銃弾が執拗に殺し屋を追いかける。手榴弾を投げて、一時的な目隠しにし、そのまま一番近いドアを開けて、なかに飛び込んだ。

 そこは教団の大祭壇のある部屋で二百人近い教団員たちが例の椅子とドレープの金メッキ細工の巨大化バージョンとその前に立つ大司教に向かって、礼拝をしていた。

 教団員が振り向くより前に、サブマシンガンを手近な教団員に浴びせ、手榴弾を投げた。

「異教徒を殺せ!」大司教が叫ぶ。赤い頭巾に金の鎖と青いサッシュでできた装身具をつけている。

 あれを締め上げればターゲットまでの道のりを教えてくれるかもしれない。

 だが、その前に二百人近い怒れる教団員たちを相手にしなければいけない。教団員たちはみな剣を持っていた。殺し屋のサブマシンガンは銃身が赤く焼けるまで撃ちまくり、ついに弾が切れた。銃を捨てて、煙幕弾を投げると、素早くガスマスクをかぶった。大広間がほんの数秒で白い煙に包まれ、殺し屋が手榴弾を三つほど投げると、血の臭いで興奮した教団員たちの同士討ちが始まった。

 殺し屋は殺し合いから離れて、広間の隅の柱の影で一息つく。この二日、体を酷使したが、胸に痛みを感じることはないし、手足も多少くたびれているが、不快な痛みで殺し屋の足を引っぱる様子はない。

 四五口径オートマティックを取り出して、サイレンサーをつけた。左手でナイフを逆手持ちにし、大司教が演説をしていた祭壇へとじりじりにじり寄っていく。白い煙幕のなかでばったり出くわした敵に二発撃つ。プシュッ、プシュッ! くぐもった銃声がし、教団員は首から血を噴きながら崩れるように倒れた。

「いたぞ、異教徒だ!」

 声のするほうへ何発か撃つ。白い煙に赤い霧が混じって、人影が消える。

 煙のなかを蠢く大きな影を見つけ、注意深く接近すると、プレス加工のサブマシンガンを手にした護衛教団員が八人、大司教を取り囲み、じりじりと舞台裏手の出入り口へ下がっていくところだった。

 殺し屋は護衛の頭を狙って撃った。無音の銃弾が二人の頭に命中し、血しぶきが飛んだ。護衛たちはどこにいるのかも分からない暗殺者目がけて、サブマシンガンを乱射した。弾のほとんどは煙幕のなかでどうすればいいのか分からず途方に暮れている下級教団員の体にめり込んだ。

 殺し屋は護衛を一人、また一人と確実に仕留めていく。残り三人になり隊形が崩れたところで走った。距離を縮めた殺し屋はナイフをふるって、一人の両目を一閃で切り裂いた。残り二人も至近距離で四五口径弾を胸に浴びて、吹っ飛んだ。

 一人になった大司教の喉を銃のストックで殴ると、殺し屋は大司教の首に腕をまわし、そのまま裏口から外へと引きずり出した。

 廊下に出て、司教を床に突き飛ばすと、殺し屋はガスマスクを剥ぎ取り、弾の切れた銃を捨てると、三五七口径のマグナム――最後の銃だ――を抜いて、その銃口をピタリと大司教の頭に向けた。

「〈破滅の巫女〉のもとへ案内してもらおう」


 塔のてっぺんには鏡のように磨き上げられた黒い石の床が広がっていた。床は空と雲を映し、中央の一段高くなったところに〈破滅の巫女〉が黄金の椅子に座っていた。

 大司教が震えながら言った。

「あ、あれが〈破滅の巫女〉だ。案内はした。約束どおり――」

 殺し屋は大司教の腹を撃った。倒れたところをもう一発撃ち、頭の半分を吹き飛ばした。

〈破滅の巫女〉はショートへアの少女、あるいは長髪の少年に見えた。奇遇にも殺し屋と同じような黒いウェットスーツのような服を着ていた。ホルスターはなかったが、ナイフを入れた鞘が太腿に縛りつけてあった。

「ふうん」

〈破滅の巫女〉が他人事のように薄く笑み、つぶやいた。

「みんな死んだの?」

「うん」殺し屋は銃を上げて、〈破滅の巫女〉の眉間に狙いをつけた。「――で、きみも死ぬ。悪いけど、これも仕事でね」

 次の瞬間、殺し屋の手から銃が飛んでいった。小さなスローイング・ダガーがぶつかって、銃は殺し屋から離れた位置に落ちた。

 殺し屋はすぐにナイフを抜いた。

〈破滅の巫女〉は椅子から立ち上がって、冷たい微笑みを浮かべたまま殺し屋に話しかけた。

「そんなに急がなくてもいいと思うよ」

〈破滅の巫女〉が言った。

「ちょっと疑問が湧いたはずだ。たとえば、どうしてきみのターゲットはきみと似たような格好をしているのかとか」

「きいても教えてくれなさそうだから、きかないでおこうと思って」殺し屋もククッと笑った。「でも、教えてくれるなら、ありがたいかな」

「きみの雇い主は椅子のことは教えてくれなかった?」

「椅子って、さっきまできみが座ってた椅子のこと?」

「そうそう」

〈破滅の巫女〉は声を立てて嬉しそうに笑いながら、うなずいた。

 それは背が非常に高い椅子だった。背もたれには柔らかいワインレッドのビロードが張ってあり、椅子の足はライオンの足を模っていた。

〈破滅の巫女〉が説明した。

「政府が潜在的なテロリスト候補を集めて一括管理するために秘密のエージェントを使って、教団をつくった。ここまではきいてると思う。でも、政府はそのエージェントにこの椅子を一緒に持って行かせたんだ。この椅子は政府の発明品でね、人の心に働きかけて、人を集める効果があるんだ。最初、秘密のエージェントはこの椅子でテロリストや革命家を集めようとした。それはうまくいった。政府はテロリストたちが活動する前に先手を打てるようになったし、囲い込みでその動きを封じ込めることができるようになった。ただ、計算外だったのは、椅子に埋め込んだ装置の力があまりにも強すぎたこと。椅子は反政府的な人物を集めるように設定されていたのに、そのうち反政府的でない人間も集めて、反政府的人物になるようになった。それに気づいたエージェントは椅子を破壊しようとしたけれど、そのころには椅子は自分の意思を持っていた。

 椅子は新たな教団の救世主〈破滅の巫女〉をつくった。どこにでもいるただの少女が一夜にして、神にも等しい存在になった。そして、椅子は人々に命じた。〈破滅の巫女〉を崇めよ、そして、政府のスパイを殺せ。エージェントが殺されて、〈破滅の巫女〉がその椅子に座ると、椅子の力はますます強くなり、政府は教団をコントロールできなくなった」

「ちょっと待った」

 殺し屋が手を上げて、制止させた。

「これ、ぼくの仕事に関わることだからきくけどさ。さっきから〈破滅の巫女〉を他人みたいに言ってるけど、きみは〈破滅の巫女〉なんだよね?」

「せっかちだね、きみ。今、ぼくが話しているのは初代〈破滅の巫女〉の話だ。ぼくは九十九人目の〈破滅の巫女〉だ。もう少し黙っていれば分かるように説明するよ――そう、政府は教団を壊滅させるために〈破滅の巫女〉を殺すために殺し屋を送り込んだ。殺し屋はちゃんと仕事をした。〈破滅の巫女〉を殺した。でも、椅子には人の心に働きかける力がある。椅子は殺し屋に権力の幻想を見せ、殺し屋を自分の味方につけた。そして、殺し屋はこの椅子に座って、二人目の〈破滅の巫女〉になった。政府は殺し屋が返り討ちに遭ったと思って、二人目の殺し屋を送り込んだ。二人目の殺し屋は二人目の〈破滅の巫女〉を殺した。そして、椅子に取り込まれ、三人目の〈破滅の巫女〉になった。それが繰り返された。〈破滅の巫女〉が入れ替わるたびに椅子の力は強くなり、教団はますます大きくなり、ますます危険になっていった。そんなことが九十八回繰り返されて、今はぼくが〈破滅の巫女〉になった。ぼくもかつてはきみと同じ殺し屋で、大きな仕事には特別な黒ずくめの戦闘服を身につけていたんだ。あのときも教団員を皆殺しにして、こうしてここにやってきた。そのときの〈破滅の巫女〉もぼくらにそっくりで同じ黒い戦闘服を身につけていた。ただ、今のきみみたいにトレンチコートは着ていなかった。いろいろ教えたんだから、きいてもいいよね? そのトレンチコートはどうして着ているんだい?」

「敵地へ単身乗り込むハードボイルドの小道具さ」

「それをきみの墓碑銘に刻んであげるよ」

〈破滅の巫女〉は錐のように鋭いナイフを抜き、あっという間に間合いをつめて、殺し屋に突きかかった。

 殺し屋はそれを左にかわし、逆手持ちにしたナイフで〈巫女〉の頸を狙ったが、素早いナイフさばきに弾かれ、お互いに後ろに飛びずさった。

 歪んだ笑みを浮かべた〈巫女〉が殺し屋の顔をX字に切り刻もうと素早く斬撃を繰り出す。

 殺し屋のほうはそれを防ぎながら、足を刈るつもりで蹴りを繰り出すが、空しく宙を蹴る。

 ナイフとナイフがぶつかるたびにだんだん殺し屋が防戦一方になり、〈破滅の巫女〉はネズミをいたぶる猫のように余裕のある戦いぶりを見せた。〈巫女〉の顔がますます邪悪な笑いに歪み、手すりのない屋上の隅へ追いやられた殺し屋の顔からは表情が消えた。

 三度、鋼鉄製のナイフが火花を散らして立て続けにぶつかると、殺し屋の手からナイフが跳んでいき、はるか下の地上へ、魚を見つけたカツオドリのようにまっすぐ落ちていった。

 そして、〈破滅の巫女〉のナイフが殺し屋の心臓へ真っ直ぐ突き刺さる。

「え?」

 確かにそこにいたはずの殺し屋の姿が目の前から消えていた。〈巫女〉のナイフの切っ先は消えた持ち主の姿を模って空中に一瞬静止していたトレンチコートを貫いた。

 殺し屋の苦戦が〈巫女〉の油断を誘う演技だったと気づくより先にピアノ線が〈巫女〉の首に巻きつき、殺し屋は背中合わせで〈巫女〉を背負った。

「ヴ、ェッ! ゲ、ホッ」

〈巫女〉のブーツが空しく宙を蹴り、殺し屋の握力と自分の体重で首を絞められた〈破滅の巫女〉の喉の奥から飴玉を詰まらせたような喘鳴を上がった。

〈巫女〉の体が陸に捨てられた魚のようにビクビクと痙攣し、背中越しにその命が掻き消えても、殺し屋は表情を閉じたままだった。

〈破滅の巫女〉の骸を屋上の縁に沿って下ろし、ナイフが刺さったトレンチコートを引き剥がすと、〈巫女〉の骸を足で蹴って押し、屋上から落とした。

 殺し屋は椅子を見た。

 これまで多くの殺し屋を取り込んだ椅子が怪しげに光っていた。

 椅子は殺し屋に権力の幻想を見せた。

 崇拝と破壊。破滅を司る神になるチャンスがあると臆面もなく、語ってみせた。

 殺し屋がトレンチコートのポケットから手榴弾を取り出すと、椅子の語りかけ方がやや必死になってきた。まるでなだめるように、長年の友人のように殺し屋に働きかけた。世界を手に入れられるのに、そのチャンスをふいにするのか。

 別に世界なんていらない。よく冷えたビールが一壜あればいい。

 殺し屋が手榴弾のピンを抜いたときには椅子は半ば哀願するように殺し屋の情に訴えた。自分には家族がいる。子どもが生まれたばかりなんだ。頼むから、その手榴弾をどっかに捨ててくれ。

 そこで、殺し屋は初めて表情を見せた。混じり気のない侮蔑。

「きみもいっぱしの椅子なら潔く壊れて欲しいもんだ」

 そして、手榴弾が放り投げられ、空中で安全レバーが外れる。

 殺し屋は伏せて、爆音に備えて耳を塞いだ。

 椅子は殺し屋の心に断末魔の叫びをきかせながら、一千万の欠片に分解していった。


「ええ。仕留めました――椅子なら破壊しましたよ。そのことを前もって教えてくれなかったのはちょっと残念ですけど――まあ、いいですよ。このとおり、無事に終わったわけですし。じゃあ、これから報酬をもらいにいきますので、ちゃんと用意しておいてくださいね」

 殺し屋は公衆電話の受話器を置いて、ボックスの外に出た。

 そこは最初の大平原だった。陽光で膝丈の草がきらめいていた。道のそばには教団の町から乗ってきた例の大衆車が停まっている。依頼人は爆破させたクーペも経費としてくれる。あのクーペの販売代理店がある大きな町に戻るまではこの大衆車で我慢しなければいけない。

 ホルスターはみな空っぽだ。武器弾薬からトレンチコートまで全部使い切ってしまった。

 だが、殺し屋が運試しのつもりで電話ボックスの隣に置いた酒壜には中身が一滴も損なわれずにキチンと残っていた。

 殺し屋はそれを拾うと、中身を軽く一度、そして長々と二度目をあおった。

 壜から小さな口を離し、ふう、と息をついて、口をぬぐう。

「ああ、しんどかった」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 興味深く読ませて頂いてます。 いきなり、ってオムニバスだけどカラーが変わりましたかねっ、電話ボックスに釣り池、想像がおいつけないちょっと待って下さいっつか折角の立て板なのにだな。椅子可哀相に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ