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浪花駅伝少年  作者: 朝倉夕城
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6月6日(つづき4)

逢坂飛天は走り出すのか?

咲也があたふたと着替えるうちに、すでに準備のできていたアブリールは、ドアをすり抜けて出て行ってしまった。

「アブリール先輩、待って下さいって!」

咲也の呼びかけに、苛立ち半分と甘え半分が入り混じっていることに、逢坂は気づいたかもしれない。飛び出していく背中を、しかめっ面で見送る。

 何かあったのかな?と、さすがの私も心配になる。咲也は性格の悪い子ではないが、無茶をするところがある。顔がきれいで頭も良くて、いつもみんなに好かれているから、仕方がないかもしれないが。


「去年の予選に出たのは、神矢さんの他に誰が残ってるの?」

逢坂は、咲也が出て行くとケロリと気分が変わった様子で、ベンチに腰掛けながら問いかけた。自然な話しぶりだ。

「あ、神矢とぼくと咲也と茨木の4人。3人は卒業して・・・」

私は逡巡した。が、すぐに視線を上げて、

「今、1年が2人で、部員6人なんや。」

と、告白した。7人必要なのに、6人しかいない。逢坂は、へんな顔をして見せた。

「じゃ、俺がいなきゃ、駅伝にならないじゃないか?」

 とたんに、1年生の2人がタイミングを見はからっていたかのように部室を出て、アブリールたちの後を追って行った。

「走ってきまーす!」

と、元気はよかったが、当惑しているのか申しわけないのか、陸上経験のない藤澤とパクには居づらい雰囲気だったらしい。

 天六と2人取り残されて、逢坂は考え込んだ。横浜を去るとき、駅伝のことなどもう頭になかった。真行院が大阪で2位だったことすら忘れていたのだ。駅伝という選択肢はなかったはずだ。それが、のっけからこういうことになってしまった。自分が走るかどうかだけでなく、このチームがチームとして走れるかどうかという問題になっている。


「練習見る?」

私には、逢坂の気持ちがなんとなく感じ取れる。同じランナーとして、駅伝を愛する者としてわかるのだ。たすきを差し出されたら、受け取らずにいられない。そんなものなのだ。

「君も、着替えて。」

と、逢坂は気配りを見せてくれた。

「え、と、天龍くん?」

「天六でええよ。みんなそう呼ぶ。」

実は走り出したくてうずうずしている、逢坂の心が手足がいとおしく思える。超高校級の彼でもフツーの私でも、走る前の高揚は同様に素晴らしい。

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