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09.冒険者ギルドに待ち人来たる

 未だ医療カプセルで眠ったままの沙耶を助けることは決まった。

 核ミサイルを止めることもしなければならない。

 それを研究するために、俺の体内の研究所をフル稼働させる必要がある。


――モンスターを倒したり、魔法石などエネルギーを秘めたものを集めていただくのが近道ですね――


 そうだな、問題はタイムリミットがどのくらいかわからないことだが……。

 あ、そういえばここに案内してもらったままフィリーのことを忘れていたな。

 横を見るとフィリーが不思議そうに俺を見ていた。


「ふふっ、ここに来る前はあんな絶望的な顔してたのにね。女神様を見て驚いたかと思えば嬉しそうに笑いだしちゃってさ、あなたも女神様に惚れちゃったのかな?」

「そうかもしれないな。ここまで案内してくれてありがとう、フィリー」

「どういたしまして。女神様を見て怖いのはおさまったかな?」

「少しな。でも、あれがそのうち落ちてくるんじゃないかって不安はあるぞ」

「えっとね、ある予言者によると最低でも5年は問題ないらしいよ」


 預言者?

 この世界にはそんな存在がいて、みんな信じているのだろうか?


――仮説をひとつ思いつきました。時空粒子に未来の情報も含まれていて、それを読みとることのできる人物がいるのではないでしょうか――


 まるでアカシックレコードだな。

 それが事実であれば、その予言は大変ありがたいが。


「その予言者の予言は当たるのか?」

「今のところはずれたことはないらしいよ。5年先までしかわからないそうだけどね」


 ふむ。

 もしこれが詐欺師であれば、もっと先のことを予言して金稼ぎでもしてそうだな。

 5年という短さが、先ほどのホープの仮説を裏付ける気がする。


――はい、ぜひその予言者に会って力を見てみたいですね。その能力があれば沙耶様を救う際にも役立ちます――


 そうだな。

 下手なシミュレーションより、確実な予言だ。

 科学者としては間違った発言だが……科学的に予言を利用してみたい。


「じゃあどうしようか、冒険者ギルドへ行く?」

「ああ、案内してもらえるか。なにからなにまですまないな」

「いいよ。あなたがいたおかげでいろいろ助かったし、一緒にいると面白そうだもん」

「そうか、ではもう少しよろしく頼む」


 フィリーに案内されて移動する。

 ほんと助かるな。

 彼女に会わなかったら、俺はまだダンジョンで迷子になっていたかもしれないぞ。


――そうですね。時間をかければ出口を見つけることは出来たかもしれませんが、この街にすぐ来れたのは彼女のおかげです。これがファンタジー小説であれば、最初に出会ったフィリーさんはヒロインですよ――


 そうだな。

 可愛いし戦闘もできる。

 旅の仲間となればさぞかし楽しいだろう。

 沙耶がいなければおそらく惚れていたな。


――逆に惚れられてしまうのも定番です。想い人がいることは早めに伝えておいてくださいね――


 そんな心配しなくとも問題ないだろうさ。

 さて、ホープとばかり話をしてもあれだ。

 フィリーと少しお話して、この世界のことをさらに知ろう。


「なあ、フィリーはなんで旅をしてるんだ?」

「わたしはね、強くなりたいの。わたしの住んでいた獣人族の村……ドラゴンに滅ぼされちゃったんだ」

「ドラゴン……」

「うん、すごく巨大で強かった。そのころまだ子供だったわたしは逃げるしかできなくて……。村を守ろうとした人はたくさん死んじゃったんだ。いつかドラゴンを倒して村を復興するのが、生き延びたわたしたちの目標なんだ」


 獣人族とかドラゴンとか、ファンタジー的な用語がどんどん出てきたな。

 ホープはこれらも解明したがるだろうな。


「いつかできるといいな。俺も記憶を取り戻して、やるべきことをやったら手伝いたいよ」

「ほんと!? 村の復興には、凄腕の錬金術師見つける必要もあるんだ。あなたが手伝ってくれたら助かるよ」

「ああ、可能なことなら手伝う。ここに案内してくれたお礼だ」


 沙耶さえ助ければ、俺はこの世界でのんびり過ごすんだ。

 そういったことをして過ごすのもいいだろうな。


「そっかぁ、人助けってするものだね。あ、あの建物が冒険者ギルドだよ」

「大きい建物だな……」

「天才発明家が作った建物だからね。古いはずなのに、周りと比べて新しく見えるでしょ」


 たしかにそうだ。

 街の入口あたりで見えた建物は俺でも作れそうなレベルの建物だったが、これは違う。

 大きく、レンガ造りでお洒落と言おうか。

 先ほどの神殿と言い、技術レベルがやけに高い。


 中に入っても驚かされた。

 この冒険者ギルド内部はファンタジー世界らしさが少ない。

 俺がいた時代ほどではないが、近代的だ。

 受付らしき女性がパソコンのようなものをいじって対応している。


――予想していた冒険者ギルドとは違いますね。まるでお役所のような――


 まさにその通り。

 この世界はそんなに発展してないと予想していたが、そうでもなかったのだろうか。

 

「びっくりしたかな? ここの冒険者ギルドって見たことないものだらけでしょ。わたしも最初別世界に来たのかとびっくりしたんだよ」

「あ、ああ。そうだな……」

「じゃあわたしちょっと報告してくるから、見学でもしててね。なにか思い出すかもだよ」

「わかった」


 フィリーは受け付けに歩いていく。

 おそらくダンジョンの調査結果を報告するのだろう。

 フィリーの言葉からすると、ここの内部だけ設備が異様に充実しているのだろうか。

 俺は周りを見て待つことにした。

 掲示板に仲間募集中とか、なんとかの薬草譲って下さいとかいろいろ書いてあるな。

 このあたりはなんとなく冒険者ギルドって感じがする。


――マスター。受付のパソコンにも驚きましたが、嘘発見器らしきものも取りつけられていますね――


 なぬ?

 そんなものがあるのか。


――ファンタジー小説を読んでいる際に私は疑問を持っていたのです。報告をする際に嘘をついてもばれないのではないかと。その問題が解決せねば、実際はギルド経営などできないのではないかと。しかしあれがあれば一気に解決ですね――


 いやまあそうだけど……。

 なんだか嫌だなおい。

 なんとなく人のいない受付カウンターの前に行って、機材を眺めようとしたその時……。

 急にアラームのような音がピロリンと鳴った。

 慌てて駆け寄ってくる受付の女性。


「あの、まさかとは思いますが結城統也様ですか?」

「え? そうだが……なぜ俺の名前を?」

「ま、まさか本当に現れるとは……」


 急に俺の名前を呼んで驚いた顔をしている女性。

 さっぱり意味がわからない。


「よく状況がわからないのだが……説明してくれるか?」

「そ、そうですね。ではそこにお座りください」


 受付の前に座ると、女性はキーボードをカタカタ打ち始めた。


「このパソコンの中に来客予定がすべて記録されているのですが、本日のこのタイミングであなた様が来ることが何十年も前から予定されていたのです。なにかの不具合だと思っていたのですが、本当に現れるとは……」


 何十年も前から俺が来ることがわかっていただと?

 これも予言の一種だろうか?

 だとしてもいったい何故。

 

――私にもさっぱりです。マスターが伝説の勇者で、世界を救うと予言でもされていたのでしょうかね――


 だとしたら愉快だがな。

 とりあえず話を聞いてからだ。


「それで俺はいったい何をしに来ることになっていた?」

「えっと……冒険者登録をしつつ、ある荷物を渡すことになっています。持ってくるのでお待ちください」


 大慌てで椅子から立ち上がり、奥の方へ走っていく女性。

 ありえないことが起こったので動揺しているようだ。

 ここにある嘘発見器のおかげで、俺が嘘をついてないこともわかるんだろうしな。

 まあ無理もないか。

 俺も動揺している。


――私は楽しいですよ。こういった不思議なイベントであれば大歓迎ですね――


 そうか……お前の好きそうな予想できない出来事だもんな。

 今回のは特に害もなさそうだし。


――そうです。それに私はこう考えていました。この世界で私やマスターは、いてはいけない存在なのではないかと。しかし、世界はマスターに冒険者登録をさせようとしているんです。これは受け入れられているってことではないでしょうか――


 そういう考えた方もできるな。

 じゃあ冒険者としてこの世界を調べていこうか、ゲームマスター。


――了解です。確実にクリアできるよう導きますよ――


 頼りにしてるよ、相棒。

 さて、受付の女性は何を持ってくるのか。


 やがて戻ってきてリュックのようなものを渡された。

 何十年も前からあるにしては新しいな。


――ここには時粒子で時を止めておける倉庫があるのではないでしょうか――


 ふうむ、だとすると冒険者ギルドはかなりのハイテクノロジーだな。

 これもファンタジーものの定番ってやつか。


――そうですね。謎技術のこもった冒険者カードもきっとあるのでしょう。それを見るのが楽しみです――


 それもあるんだろうか。

 受付の女性はパソコンをカタカタとし始めた。


「必要情報は既に入力されております。冒険者カードを発行いたしますので少々お待ちを」


 あるんだな……。

 やがて、カードではなく魔法石らしきものを渡される。

 前回のライター魔法石と同じように、左手に持って念じてみると体に消えていった。

 そして念じるとカードが手に現れる。


「冒険者カードについての説明をさせていただきますね」

「ああ、頼む」


 聞いた限り、これ1枚でなんでもできる便利アイテムだった。

 まず身分証明書になるので、俺は謎の怪しい人物ではなくなった。

 ここで依頼を受けたり様々な手続きが簡単にできるそうな。

 さらにお財布代わりにもなるようで、言うなれば電子マネーだ。


――マスター、このカードの正体がわかりました。戦前に全国チェーンしていたレンタル店の会員カードが元になっているようです――


 そうか……。

 なんかもう少々のことでは驚かなくなってきてるよ。

 どこかの工場で埋もれていたのを冒険者カードとして再利用したんだろうな。

 この世界はきっとそういったロストテクノロジーを魔法と言う形で利用しているんだろう。


 というわけで俺は今日から冒険者だ。

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