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08.街を守りし女神

 俺は空中に静止した核ミサイルを見て立ちつくしていた。

 もしあれが動き出せば、次の瞬間には街が壊滅するほどに接近している。

 あのミサイルを静止させている時粒子、もしくは時空粒子は大丈夫なのだろうか?

 このあたりにモンスターがいないのは、あれが本能的に危険な物と悟っているからとしか思えない。


――恐ろしいですね。まさかここでもあの脅威を目にするとは――


 ホープ、起きたか。


――マスターの心に一定以上の負荷がかかると目覚めるようになっています――


 そうか……。

 こんなものを見たら平静ではいられないな。

 正直近づくのが怖い。


「どうしたのかな? トーヤの顔色すごく悪いよ」

「あの目印だったか……。なんだかすごく恐ろしいんだよ」

「よくわかるね。あれはすごく恐ろしいものだって言い伝えられているんだよ。でも大丈夫。女神様が守ってくださってるからね」

「女神様?」

「うん、これも行けば分かるんだけど……大丈夫かな? 休憩してからにしようか」


 体が近づくことを拒んでいるが、行って確かめねばならないだろう。

 その女神はいったいどんな存在だろうか?


――あの核ミサイルの時間を制御している装置も一緒にあるのかもしれませんね。その近くに女神像があったりと……そんなところではないでしょうか――


 制御装置があるのなら暴走の危険はないだろう。。

 ああいった危険なものの制御装置は、何重にも安全策がかけられている。

 例え100万年放置してあっても大丈夫ではあろう。

 だが、もし明日にでも爆発するようプログラムされていたとしたら?

 あれをハッキングすることはほぼ不可能なため、関係者以外手が出せないぞ。


――マスター、どちらにせよいきましょう。それが私達の使命です。以前の研究で成し遂げられなかった平和な世界への道を追求することが出来るチャンスと思うべきです――


 そうか……そうだな。

 俺が時粒子を暴走させたことで今のこの世界があるんだとしたら……。

 あの核ミサイルが今ここにあるのは俺の責任だ。


「大丈夫だ、行こうフィリー」

「うん、でもつらかったら言ってね」

「ああ、ありがとう。それよりあの街はいつからあるんだ? それになんであんなところに街を作ったんだ」

「えっとね、100年以上前からあったと思うよ。あそこで見つけた女神に惚れこんだ人が天才発明家だったとかでさ、街を作ったんだって」


 つまり、あのミサイルは100年以上静止したままか。

 発射した奴はいったいどんな設定にしたんだろうな。


――私達の研究所を直撃したミサイルも、発射されて100年近くたっていたものでした。時粒子を扱いきれていなかったか、後で変更しようと適当に設定していたのかでしょうか――


 だとするとあのミサイルもいつ動き出すかわからないぞ。

 だが疑問なのは、今にも直撃するタイミングで止まっていることだな。

 あんな状態のミサイルは、以前はなかった。


――ファンタジー的に言うのであれば、女神様の力がぎりぎりのタイミングでミサイルを止めたといったところでしょうか――


 かもしれないな。

 まずその女神様を見てから考えようか。

 まだ到着まで3時間近くあるから、ホープは休んでてくれ。

 後でお前の知能をフル活用してもらうことになる。


――了解しました。それでは後ほど――


「どうしたの? なんだかずっと考え込んでるね」

「ああすまない。それでリポーズの街は大きさで言えばどのくらいなんだろう?」

「んー、わたしもそんなたくさん旅したわけじゃないけど……ここより大きい街は他に無いんじゃないかな。冒険者ギルドやいろんな技術が発祥した街だし」

「そうか、それも天才発明家のおかげなのか?」

「そうみたいだね。魔法を解析したりして、錬金術の基礎も作ってるんだよ。頭の中に天啓が聞こえてきてたって噂があるよ」


 魔法を解析か。

 ホープみたいなことを出来るやつがいるんだな。

 そういえば、いろんな道具が魔法石と言う形に変わっているんだ。

 ホープのような人工知能が封じられた魔法石があったらどうなるだろう。

 俺が今しているように脳内で会話が出来るんじゃないだろうか。

 それを知らないから天啓と思う。

 ありえるかもな。


「そういった天才は他にもいたりするのか?」

「うん、時々現れるらしいよ。でも変わり者だったり、記憶喪失って人が多いみたい。あれ? もしかしてあなたも天才だったりする?」

「まさか……」

「あはは、でもあなたの錬金術の腕は相当なものだと思うよ」


 俺が時粒子を暴走させた最後の時……。

 もしかして地球のどこかで俺のようになった存在がいるのではないだろうか。

 何が起こるかわからない手段だったんだ。

 どこかの時代に飛ばされている可能性も十分ある。

 だとしたら沙耶もどこかに……。

 今はそう思いたい。



 そして3時間歩き、リポーズの街に到着した。

 あの核ミサイルは街の中心の上空にあるらしい。

 そして、その真下に街を守っている女神がいると……。


「どうしようか。冒険者ギルドに行けば、あなたのことを知ってる人がいないか聞けると思うけど」

「いや、まず女神を見たい。そうしないと怖くてたまらないんだ」

「そっか、どっちみち方向は同じだけどね。でも警備してる人がいるから女神にはそこまで近づけないよ」

「かまわない、頼む」


 街にはまばらに建物が建っていた。

 木造だったり、石造りだったり様々だ。

 まあ、中世時代くらいのファンタジー世界と言った感じか。

 だがミサイルで頭がいいっぱいの俺は、それどころではない。

 あとで落ち着いてゆっくり見るとしよう。

 しばらく歩いて、到着したようだ。


「この建物だよ」

「大きいな……」


 それは石で建てられた、神殿のような建物だった。

 ここだけやけに建築技術が高い気がする。

 入り口には左右に警備をしているであろう人が立っている。

 女神はこうやって厳重に守られているようだ。

 ではホープ、もうすぐ女神に会えるから目覚めてくれ。


――おはようございます。いよいよですね――


 ああ、緊張するな。


「フィリー、ここは普通に入っていいのか?」

「うん、冒険者は旅の安全をお祈りしにここへ来るんだよ」

「なるほど……」


 いったいどんな存在なのだろう?

 やはり女神像でもあるのだろうか。

 この世界でも信仰と言うものはあるっぽいな。


――時空粒子による不思議な現象、魔法などを神の仕業と考えてもおかしくないですね。昔の人間が雷を見て神の仕業と思ったようなものです――


 ありえるな。

 それにしてもホープ、お前は神がいたらそれを解明しようとしそうだな。


――そうですね。解明できないのはファンタジーの物語だけで十分です――


 ではその調子で女神の正体を一緒に解明しような。

 あと核ミサイルの停止方法もだ。


 入り口を通ると、その建物の奥に人を通らせないためであろう柵が見える。

 その柵の向こうに、なんだか機械のようなものが見えた。

 この世界へきて初めて機械らしきものを見たな。

 しかもなんだか見覚えがあるような?


――マスター。あれは研究所にあった医療室のように見えます。部屋が90度ほど傾いた状態のようですね。中心のカプセルに入っている人はもしかすると……――


 本来横になっているはずのカプセルは、部屋が傾いたことで立った状態となっている。

 中には確かに人がいるように見えるぞ。

 おそらく女性だ。

 つまり……沙耶なのか?

 俺は確かめるために柵の前まで駆け寄った。


――カプセルの型番を照合確認。間違いありません。沙耶様です――


 まさかこんな形で再開できるとは……。

 しかし、この状態はどういうことだろう。

 沙耶がミサイルを止めているということになるのだろうか?

 

――調べてみないとわかりませんが……そうだとしたらなんとも素敵な話ではないでしょうか。この新しい世界を沙耶様が守っているのですよ。ああ申し訳ありません。嬉しさのあまり論理的思考が出来ません――


 そうか、俺と同じなんだな。

 俺もうれしさのあまり、顔がにやけてしまう。

 なあホープ、俺たちは幸運だと思わないか。

 もう2度と会えないと思っていた沙耶とこんなあっさり巡り会えたぞ。


――はい、カプセル内の状態も研究所にいたときそのままだと思われます。研究所で沙耶様の治療を最優先にすると決めた次の日に核ミサイルの直撃を受けたこと、私はそれが悔しくてたまらなかったです――


 そうだな、臆病な俺がそれをなかなか決断できなかったことは申し訳なく思っている。

 だが、あの研究所で成し遂げられなかったことにまた挑戦するチャンスが来たんだ。

 沙耶を元に戻す。

 核ミサイルを無効化する。

 ホープ、お前とならやり遂げられるよな?

 そして、この世界で沙耶と3人で生きていこう。


――了解です。マスター――


 俺は今やる気に満ち溢れていた。

 研究所にいた時は、絶望に押しつぶされそうになりながら研究をしていた。

 だが今は、目の前に希望があふれているように見える。

 きっと解決するのは簡単にはいかないだろうが、上手くいく気がしてならないんだ。


――私も同感です。この世界には時空粒子という、可能性に溢れた謎物質があります。これを解明しつつ、沙耶様を助ける方法を見つけましょう――

 

 よし、俺達のこの世界の目標は決まったな。


――それではミッションリストに加えておきましょう。重要なことをカテゴライズしていつでも閲覧できるようにしておきます――


 ふふ、調子が出てきたなホープ。

 ゲーム風にするのは悪くない。

 なんせこれがゲームであれば、そのミッションは完了できるってことなんだからな。

 頼りにしてるぞ、相棒。

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