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13.過ちの果てに

『デテ……イケ……」


 蜂に寄生されているであろうその人間は、はっきりとそう言った。

 ここのボスが言わせているのだろうか。

 つまりボスは俺達の侵入にとっくに気付いているわけだ。

 特に襲ってこようとはしていないようだ。


「蜂に乗っ取られてるのかな。すごく怖いよ……」

「そうだな……ひと思いに殺してやるべきか」


 フィリーは俺の背中に隠れるようにくっついてきた。

 虫は怖がらなくともさすがにこれは怖いか。


――マスター。この研究所では作った生物を扱いきれなくなり、最後に皆殺しにしようとしたようです。その際に返り討ちにあって、職員は全滅したようですね――


 それを聞くと、悪いのはモンスターでなく人間ということになってしまうな。

 しかし、ここを放置しておくと後々危険な気がする。

 人を殺すのは後味が悪いから、動けないようにどこかに縛り付けておけないだろうか。。


『デテイ……ケ……コロシ……テ……クレ……』

「今この人殺してった言った?」

「そうだな、意識がかすかに残っているのかもしれない。ボスが強化されてしまうが殺してやろう」

「そっか……あんな状態じゃもう救えないよね」

「俺がやるから後ろを向いていろ」

「うん……」


 俺はレーザーガンを男の脳に向けて狙いを定める。

 一発で倒してやらないとな。

 男は黙って俺を見つめている。

 俺は引き金を引いた。


『アリガ……ト……』


 お礼を言って倒れていく男。

 安らかに眠れるといいがな。

 墓を作ろうと思ったが、青い光に包まれて消えていった。

 こいつもすでにモンスターと化しているのかな。

 そうだ……俯瞰視点を発動してエネルギーの流れを追っておこう。


――マスター。ボスがいるであろう場所のおおよその地点がわかりました――


 そうか、さすがだな。

 男のいた場所を見ると、ぼろぼろの衣服と魔法石がひとつ残っていた。

 手に取って見てみる。


――虫が嫌う高周波を発する装置が封じられた魔法石――


 これは便利なものを持っているな。

 でもこの男がやられているってことは、効果が薄いのだろうか?


――バッテリーが切れたのかもしれませんね。マスターの体内に取り込んで使うのであれば、時空粒子エネルギーを使うためその心配はありません――


 そうかもな。

 使ってみたいが、この戦利品の扱いはどうするべきなんだろうな。


「その魔法石なんだろうね? わたしは見たことないや。詳しいわけじゃないけどさ」

「どうやら虫を寄せ付けない魔法が使えるようだ」

「すごい、わかるんだね。じゃあそれあなたが使ってよ」

「いいのか?」

「うん、有効利用してくれそうだもん」

「そうか」


 魔法石を取りこみ、さっそく使ってみることにする。

 俺には聞こえない音なので、効いているかはわからないな。


「ん? なんだか耳がピリピリってするよ」

「すごいな、この音が聞こえるのか。この音で虫を追い払えるらしいぞ」

「獣人族は耳がいいからね。でもこういう時は欠点になっちゃうな」

「大丈夫か?」

「うん、たいしたことないからこのまま進もう」


 ホープの指示のもと、ボスがいるであろう場所へと移動していく。

 虫の嫌がる匂いと高周波のおかげか、モンスターは姿を見せない。


――間もなく予測地点に到着します。警戒を――


 遠くに巨大な巣のようなものが見えている。

 蜂の巣なのだろうか?

 てことは中にいるのはやはり女王蜂か。


「わたし達を警戒してるみたいだけど、あの周りにたくさんの気配がするね」

「そうか、いかにこの音が苦手でもあそこは守るんだろうな」

「ん? また人かな……。こっちにやってきてるね」


 またもゾンビのような誰かが歩いてくる。

 木の枝を掲げ、その先には白衣が巻きついている。

 まさかとは思うが白旗のつもりか?


「どうしようか……先制攻撃する?」

「いや、少し話をしてみよう。だがいつでも動けるようにしておいてくれ」

「わかった。お話は任せるね」


 フィリーは弓を構え、俺はレーザーガンを持ったまま男が近くに来るのを待つ。


『ニンゲン、ナゼココニキタ。我ラノ領域ヲ破壊シニキタカ』

「いや、ここに何があるか調べに来ただけだ」

『シラベテドウスル? 我ラヲマタモテアソブノカ?』


 そう言われると困るな……。

 モンスター相手なんだし、戦う気満々でいたので返答に困る。

 この状態で戦いを仕掛けたら俺達が悪者みたいじゃないか。


――マスター、ここのボスは予想通り女王蜂でしょう。女王蜂は産卵を主にするため、動けない状態である可能性があります。ですので、いかに強化されようとも戦闘できないのかもしれません――


 では戦えば余裕で勝てるのか。

 だが……後味が悪いな。

 人間の勝手で生み出されて、また殺されるなんてひどい話だ。


「フィリー、戦わずに戻ろうと思うがいいか? こいつらは放っておいても人に害をなさないだろう」

「うん、無抵抗のモンスターはあまり狩りたくないね……。でも他に人が来たらどうせ狩られちゃうよ」

「また鍵をかけて誰も来れないようにしておこう」

「それならまあ……任せるよ」


 よし、フィリーも納得してくれた。

 ここは封印してしまおう。

 だが、なにかしら戦利品は欲しいな。


「俺達はここを出て行き、もう人が来れないようにしようと思う」

『イイノカ?』

「ああ、その代わり条件がある。俺達はここに役立つものがないか探しに来た。具体的には人間が使っていた道具の類だ」

『我ラニ不要ナモノハワタソウ』

「それと、操られている人間を解放してほしい」

『ワカッタ、ココニ集メヨウ。我ラハ自殺出来ヌカラ殺ストイイ』


 そう言うと、寄生された人間がわらわらと集まってきた。

 これを全部殺さないといけないのか……。

 少し気が重いが、これはやっておきたい。


「お前の子供だろう? 殺してもいいのか?」

『我ラハ個にして全。全ニシテ個。コレデ種ガ生キ延ビラレルナラカマワヌ』


 虫とはそういうものなのか。

 しかし、俺のことを完全に信用しているような感じだな。


――嘘を感知できるのではないでしょうか。そういった能力を有するか、装置を取りこんだのかもしれません――


 まあなんにせよ、嘘をつく気が無い俺には都合がいいな。

 寄生された人間は全部で8人らしい。

 さらに蜂が魔法石をいくつか運んできた。

 これをもらっていいらしいな。


「ありがとう。では会話が出来なくなる前にひとつ頼みたい。この部屋に俺達以外の人間が侵入してないか調べてほしい。それが確認できれば入口を塞いで誰も入れないようにして出ていく」

『ワカッタ、調ベテ追イ出ソウ。伝達用トシテ部下ニ共ヲサセル』


 すると1匹の大きめの蜂が俺達の上にやってきた。

 ではこれで準備できたな。


「では約束通りこいつらを殺して去るとするよ。達者でな」

『感謝スル、ニンゲン。デハサラバダ』

「じゃあフィリー、また後ろを向いててくれ」

「うん、ごめんね……。つらい役目押し付けてさ」

「かまわない」


 こいつらがこんなことになったのは自業自得だからな。

 同じ科学者としてちゃんと殺してやるさ。

 俺はレーザーガンで順番に頭を撃ち抜いていった。

 モンスターと同じように消えてくれることがありがたかった……。


「戦利品は後で確認しよう。まずはここから出るぞ」

「わかった。でもどうやって入口を塞ぐの?」

「そこらにある木や植物で埋め尽くすさ。少し住処が荒れるが、それは許してくれよな」


 俺はそばを飛んでいる蜂に話しかけるが、特に反応はない。

 まあ問題ないんだろう。

 では入口を塞ぐ材料を収納していくか。


――マスター、倉庫にある他の道具を一時隔離しました。好きなように物を入れてください――


 ああ、気が効くなホープ。

 というわけで移動しながら土だの植物だの木だのと思うがままに腹から倉庫へ詰めていく。

 簡易工作でそれを砕けば土砂になるだろう。


「えっと……あなたの使ってるかばん? どうなってるのかな。なんでそんなに物が入るの?」

「俺のは特注品だよ」

「そっかぁ、さすがだよ……。でもどれだけ大きいかばんなんだろう」


 そこらの家より遥かに大きい倉庫だよ。

 フィリーが使っている収納魔法は普通のかばんなんだろうな。


 かなりの資材を詰め込んで、入口までたどり着いた。


「さて、俺達以外にだれも侵入してないといいんだが」

「あ、蜂がたくさん飛んできたよ」


 内部の調査が終わったんだろうか。

 蜂たちは俺達の前に来ると、空中に円を描くように集まった。


「これは、丸だろうか。中に人はいなかったと伝えたいのか?」

「そうみたいだね」


 俺の問いかけで、描かれた円が回転を始めた。

 なんだかサーカスみたいだな。

 ではドアを塞ぐかな。

 これ部屋の中から外に荷物を出せるかな?


――服と同様に可能だと思われます。ドアに密着してみてください――


「フィリー、離れていてくれ」

「うん」


 ジャングルから脱出してフィリーに離れてもらう。

 ドアと窓の向こうに倉庫から物を出していく。

 これでドアは開かないし、窓から見える景色も埋まっているようにしか見えないな。

 ついでにこの部屋にも余った土砂やらを出しておこう。

 これでこの部屋に入ろうと思うやつはいないだろう。


「フィリー、行こうか」

「うん……。トーヤってばすごすぎだよ……」


 部屋を出ると自動ドアが閉まる。

 ホープ、ここを以前と同じように閉まったままに出来るか?


――お任せください――


 これだけやっておけばこの中には誰も入らないだろう。

 あの虫たちはどのくらい生き延びることが出来るんだろうな。


――マスター、あの部屋は機械制御で日光や温度湿度を管理していました――


 てことはエネルギーが尽きたらあのジャングルは滅んでしまうのか?


――おそらくそうはならないでしょう。時空粒子エネルギーを電力に変換する装置もあったようです。あのモンスターの一部が肉体を捧げてエネルギーにすることで、永遠に設備は動き続けます――


 そうか、あいつらはこのダンジョンの奥でずっと生きていられるんだな。

 戦わない選択肢があるっていいものだ。

 でもこれに付き合わせたフィリーはいったいどう思っているんだろうか?

 

「フィリー、調査が無駄になっちゃってごめんな」

「いいんだ。わたし村がドラゴンに滅ぼされた時のこと思い出しちゃったよ。わたしたちがあのままモンスターを倒してたらさ……わたしあのドラゴンと同じことしちゃってたんだよね」

「そうだな……」

「だから話し合いで解決してくれてよかったと思うよ。あのまま平和に暮らしてほしいね」


 やっぱりフィリーはいい子だな。

 ダンジョン探索の成果は少ないが、俺は満足していた。

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