異世界転移探偵、現代的手法で今日も事件はズバっと解決?(短編登録時のタイトル)
日本で探偵をしていた俺が何の因果かファンタジーな異世界に飛ばされてしまった。
こんな時代遅れの捜査をしているような世界なんかこの近代的捜査テクニックをもった俺様にかかればどんな難事件即座に解決してみせる。
おっと、なんか自分に酔って自分語りをしちまったぜ。
「旦那様ぁ 、やつじゃないでしょうか?」
小学生くらいなのに、ピシッとしたスーツに身を包んだ少年、そう彼が俺の助手君だ。
まだこちらに気付いていない今のうちに手元のスマホで対象を数秒録画しておく。カメラモードで撮影してもいいのだが、動画モードで録画しておき、必要なカットのみ切り出す方がいい画像が楽にとれる場合が多い。
昔はカメラのピントをあわせたりとか一瞬でできる作業ではなかったが、今では瞬時にそして自動で対象に照準をあわせてくれる機能がついている。進歩したものだ。
密かに対象の撮影に成功した俺は助手に手で合図をし、二人で挟み撃ちにする作戦にでた。
なにっ!
一瞬の判断 で体をスウェーバックし斬撃を避ける。が、完全にかわしきれなかったのか、俺の頬に赤い筋があらわれ、血がしたたる。
奴と睨み合う。視線を逸らした方が負けだ。
腰を低くし、いつでも飛びかかれる体勢をとる。奴は俺の一挙手一投足を見逃すまいとこっちをじっと見ている。
今だ!
俺の心の叫びが通じたのか助手が奴の背後から飛び掛る。
なに!? 奴は後ろにも目があるのかっ!
助手の手をなんなくかわし、あざ笑うかのように奴はそのまま路地裏へと走り去っていく。
今回はこちらの負けだったが、収穫がなかったわけではない。
この異世界に写真というものがなく、奴の確かな姿が今まではわからなかったが今ではスマホに奴の姿がばっちりと記憶されている。
これを元に聞き込みをおこなえば、遠からず奴を再び見つけることができるだろう。
この世界でも雷属性の魔法でスマホが充電できたことは僥倖だった。
俺たちは確認の意味もあり、一度依頼人の元へ戻ることにした。
トントン
扉をノックして部屋へと入る。
「遅かったですね、へっぽこ探偵社さん」
ちっ、嫌なやつがいやがるぜ。
奴には以前、目の前で魔法を使って事件を解決された苦々しい思い出がある。
彼を一瞥すると、足早に依頼人の元へと歩み寄りスマホに写された画像を確認してもらう。
「確かにここに写っているのはそうですが、これがなにか?」
「そうだニャー」
俺は嫌な予感を感じ、声のした方を一気に振り向く。
そこには頭の上にピンと立った耳をつけ、尻からは尻尾を生やした少女――獣人が手に猫を抱いて立っていた。
「依頼はうちたちが完遂したニャー。ね、ロクサーヌちゃん」
「みゃー、みゃみゃみゃー」
「うん、うん、ちょっと散歩にでただけだって言ってるミャー」
なに!? 猫の獣人って猫の言葉が分かるのかよ!?
今回はあと一歩のところで仕事を掻っ攫われたが、次もこうだと思うなよ。
心の中で捨て台詞を吐きつつ、部屋を退室していく。
事務所への帰りすがら助手を見つつ、俺も獣人助手を検討しようかなって思わないでもなかった。
次こそは現代日本で貯めた知識と道具で、この世界で最高峰の探偵になってやる!