転生者は悪役令嬢を回避したい
「どうして、こんな酷い事を!」
はーい、断罪イベントキタコレ。
私の目の前にはズタズタにされた教科書、ペーパーナイフ、涙を浮かべるヒロイン。
そして、
「リディ」
「…殿下」
私の婚約者、エスティオール王国第一王子、アシュレイド・トゥ・ナ・エスティオール。
あー、回避できないかー、ここはストーリーの矯正力なのかなー。それともヒロインの策略?
フォリーティナヴィ公爵令嬢、リディア・フィラ・フォリーティナヴィ。
気がついたらそんな人物に転生しておりました。
前世は多分アラサーくらいのOLだったような記憶がうっすらとあります。
バッチリ記憶してたのはこの世界の元になってるであろう乙女ゲーム。
君の瞳を奪いたい…センスないタイトルである。
きっかけはあれだね、私の二つ名きいた時。
暁の天使。
ストロベリーブロンド、っていってもこの世界だから桃色ですよ、桃色の髪とピンクの瞳から付けられたらしいですよ?
前世なら即座に『天使www あかつきのw て・ん・しwwwww ピンクなのにwww なにゆえ暁www 厨二乙』ってリアクションしたけどさ。転生した自分が暁の天使(笑)だったらさ、笑えないわけですよ。実際に。切実に。
自分がピンクビッチ担当の悪役令嬢。
没落も国外追放も可愛いもの。ヘタこいたらギロチン台と言う舞台で頭と体がエターナルグッバイ。
うん、嫌だ!
そりゃ悪役令嬢なんてやだよ。回避したいよ。当たり前じゃん。
だから回避するために色んな事をしておきましたよ。
「リディ、大丈夫か?」
「え?」
殿下は素早くペーパーナイフを私の目に入らない場所に隠した、ようだった。
私は怖くてたまらないと言う様に手で顔を覆いしゃがみこんでいたからよくわからない。
「リディ、刃物はもうないから、安心して?」
「あ、ありがとうございます」
気持ち震えて見せて躊躇う様に、そっと顔から手をはなす。
そこには呆然としたヒロインの顔。
殿下が優しく抱きしめて下さったので殿下には私の顔は見えない。
だから、
「っ、アシュレイド様!」
ヒロインにだけ見えるようにどやっと笑ってやったら案の定、ヒロインは顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
ふっ、どやぁ。
しかしなんか教科書切り裂くとか悪事がショボい。
現代物ならありかもだけど、ジャンルせっかくファンタジーなんだから、もーちょっとこう、謎の毒物とか、謎の呪いの魔法具とか、謎の…うん、私にセンスがないのはわかりましたね。
「マリオン男爵令嬢、貴女に私の名を呼ぶ許可を与えた記憶がないが?」
「っ、申し訳ありませんでした。しかし殿下、どうして彼女をかばうのですか? いくら公爵令嬢でも罪は罪ではないでしょうか?」
この身分をあまり意識しない発言、多分最近目覚めたばっかの転生者なんだろうなー。
しかしとか、すごいなー。王族のファーストネームを許しもなく呼ぶとか、王族に意見するとか…2つの時に目覚めて、こっちの身分社会にどっぷーり浸かった私にはできない芸当ですわー。
「黙れ」
「しかし、殿下!」
「黙れと言っている」
ヒロインを遮るように殿下が声を荒らげる。
「リディは昔、かどわかされそうになった時から食器以外の刃物に触れることができない。それどころか見ただけで怯えるんだ。リディはこんなこと出来ないし、こんな下衆なこと思いつきもしないだろう!」
「なっ!」
わー、ヒロインびっくりしてるー。
回避その一、先端恐怖症を装う。
「殿下、ありがとうございます。私は誤解がとければよいのです」
私がちょっと怯えた様子を残しながら健気そうに微笑んで見せると、殿下も眉間のシワを消し微笑んでくれる。かわいい。殿下好き。
「で、でも、この場にいたのは何故なんです? 誰かにやらせたことを確認しに来たのでは?」
わ、わー、殿下のヒロインを見る目がゴミ虫を見てるみたいになってるよー。
「いったいどうしてリディがお前なんかに構わなきゃいけないんだ」
わ、わー、殿下ついにヒロインお前呼びー。フェミニストな殿下なのにそーとー怒ってますねーこれは。
「それはっ」
ヒロインは悔しそうに黙り込む。
本当ならここでヒロインと誰かとの仲を私が嫉妬してって言うはずだったんでしょうけど、ははーん、知ってますもんねー。ヒロイン様攻略上手くいってないんですよねー。
殿下も、私の兄様も、公爵家の私の幼馴染も、奉仕活動で伺ってる教会の神父様も、私に一方的に妄信的な片思いしているらしい後輩も。
このゲーム全ルートのライバルが私って手ぇ抜き過ぎー。
回避術その二、攻略対象のトラウマ潰し、かつ、微妙なキャラチェンジ。
全員と関わりあるんですもの。時間もたっぷりありましたし。簡単簡単。
ちょこーっと助言を与えて励ますだけ。
いやね、私にみんなを惚れさせたわけじゃないですよ? ヒロインのかわりに逆ハー狙いとか、ないない。面倒くさい。
頑張ってみんなのトラウマ極力潰して、潰せないトラウマがあればその後性格矯正するのに日々諭して褒めてたまに叱る。決して怒らない、叱るだけ。極力解決策を自分で思いつけたように誘導する。期限を決めて結果を確認する。これが今の後輩指導ですわ。現代の知識使ったのこのくらいかも?
しかも、褒めるのが可愛らしい女の子。それはそれは皆様めきめきとキャラを変えてくださりました。
俺様担当殿下はフェミニストに、腹黒クール担当のお兄様は腹黒ツンデレに、熱血担当幼馴染は下僕ワンコに、癒し担当神父様は熱血男前に、ヤンデレ担当の後輩は悩んだ末…おネェに、全員キャラチェンジ。
若干予想外はありました。
殿下に微妙にヤンデレ入ったり、お兄様の腹黒が取れなかったり、幼馴染に意図せず下僕属性入ったり、神父様が行き過ぎて熱血ってゆーか暑苦しくなってしまったり、後輩は、うん、まじごめん。トラウマ潰したらまさかあーなるとは思わなかったんだ。
特に殿下は入念にフェミニストに育つように誘導したからね!
やっぱり王子様は俺様も良いけど、のちに王様になること考えたら、冷静さや優雅な立ち振る舞いが求められますよ。俺様なだけの王子様や王様が民に支持されるのなんて戦時中位では?
殿下には苦労して欲しくないからがんばりましたよー。
「それは、私にもわかりませんが…。しかしなんなんです、その都合のいい先端恐怖症は? 食事用ナイフが大丈夫で他がダメだなんて、そんなの今回の事を誤魔化すための仮病なのでは?」
わ、ヒロインが復活してなんだか斜めなとこ指摘してきた。
けど、先端恐怖症とかこの世界にそんなメンタルな病名無いですからね?
転生者決定ですねー。
あ、殿下が怒りに震えてらっしゃる。かわいい。殿下好き。
「マリオン男爵令嬢、貴女は女性であった事を感謝した方がいい」
「えっ」
ヒロインお馬鹿さん。なんでこのセリフで頬染めるのよ。頭の中まじお花畑。何考えてるんだろ?
殿下めっちゃ怒ってるのわかんないのかなー?
「貴女が男なら私は貴女を殴っていた。皇太子の婚約者を侮辱した事については、男爵家を通して処分を伝えよう」
「な、殿下。それはあんまりではありませんか? 今ここには切り裂かれた私の教科書があってその前に公爵令嬢がいたのです。疑わない方がおかしいくらいではありませんか?」
…この子、大丈夫かな。ぐいぐい来すぎ。これヤバいかも、殿下の裁量次第でさらっと国外追放位ならありえる。ヒロインぱない。
まあ、最後の断罪イベントだからねぇ。なんとか悪役令嬢を追い払って上手くいってない攻略進めたいんだろうけどさー。
「リディはナイフを持てるようになるまで泣きながら頑張ったんだ。しかも、五歳の時にだ。そして学園にいる時、リディには常に王宮から派遣された女性騎士がメイドの衣装でついている。リディが行った事で私が把握していない事は無い」
はーい、ヤンデレありがとうございまーす。
そうでーす。私今四六時中見張られてまーす。
回避術その三。対人恐怖症を装う。
殿下はもうヒロインに説明する気無いみたいだけど、さらわれそうになって以来知らない人と二人きりになるのが怖い風を装った。
知らない人と二人きりにならない為にはどうしたらいいか?
アンサー、常に知ってる人について歩ってもらうー。
それなら見知らぬ人と出会っても二人きりじゃなく三人とゆーことに。
本当はね、先端恐怖症ならなんでも尖ったものが怖いんじゃ無いかなーとか、対人恐怖症なら知ら無い人は誰かいても怖いんじゃ無いかなーとか思うけどさ。
この世界には心療内科なんて無いし。こんくらいゆるーい設定でも大丈夫かなーって。
それにナイフ使え無いとか知らない人に会え無いだと公務の時困るしね。
「リディアお嬢様がこの件に関わってい無い事は私が証言いたします」
「ありがとう、マリー」
そして実はメイドの格好の騎士、マリーは今も最初からいました。女騎士の生メイドとかご馳走様です。
これら二つの症状を装うこととによって、ドレス切り裂き事件、夜会で飲み物ぶっかけ事件、階段突き落とし事件などなど、悪役令嬢が行うと考えられるほとんどの事件を私が行うことができなくなる、と考えたわけです。
なんか、こう考えると悪役令嬢って意外と大したことして無いよね。悪役令嬢、意外と口だけの小者疑惑。
階段対策に高所恐怖症とかも考えたけどなんかめんどくさいからやめた。
とゆうか、途中対人恐怖症ぶりっこのせいでなったぼっちぶりに泣いた。
実際何度かは『もう、悪役でもいいから友達欲しいよぅ』と挫折しかけた。
それでも、ぼっちでも耐えた、頑張ったんだ。私。
ではこじれすぎ無い様に、ここからは私のターンだ。
「殿下、マリオン男爵令嬢もご自分の教科書がこんな事になって、きっと動揺なさっていたのですわ。私は全く気にしておりませんから」
だから、処分は無しにしてね? って目で見つめる。
殿下が私の気持ちに気がついてくれるように話すだけで意見はしない。
普通王族に意見なんてできないからねー?
王族に意見を求められたら答えたりはするけど。
それをヒロインちゃんは王族の言葉を否定した上意見だからね。まじなに考えてるのか? 親の顔が見てみたいわ。いや、マリオン男爵の顔知ってるけどさ。
「それに…きっと私が至らないから。マリオン男爵令嬢にいらぬ誤解を与えてしまったのでしょう。やはり私には王妃など務まらないのでしょうか?」
「リディ、そのようなことは心配することはないと何度も言っているだろう? リディは十分努力をして結果を出している。民のために孤児院や教会に慰問をしたり、学校や病院の設立にも尽力している。未来の王妃たるに相応しい行ないだ」
「…民のことを考え、民の暮らしを守り、民のためにより良い国を造るのは私共貴族の義務でございます。私でなくても、きっとどなたでも同じようになさるでしょう」
「リディにしかできないことだ。実際平民が通える学校を造ったのも、病院を基礎から造ったのもリディだ」
そう、私平民用の学校と、病院作っちゃいました。
でもあれだよ? 内政チートとかじゃないよ?
学校は平民からも優秀な者を取り立てるきっかけになるのではないか、さらに国民全体の識字率を上がれば職の選択の幅が広がり、民の貧富の差を少なくする一歩となるのではないか、また病院は今までお医者さんが患者さんちに行くだったけど、お医者さんが少なすぎて非効率だから、患者さんがお医者さんの所に来るようにしたら効率的じゃないか、って提案しただけ。
意見言っただけで、あとはなんかいつの間にか出来てたからチートは使ってない。
何度か意見は求められたので、ノリノリで答えはしたけれども。
実際成績優秀な者は、平民でも文官に取り立てられる様になったし。
お医者さんも病院設立後、移動時間がなくなり空いた時間が増えたので、後輩育成に取り組んで貰えて、結果じわじわとだがお医者さんは増え続けている。
まあまあ、結果につながってるかなーとか自負しております。
「それとも、リディ、まだ…ディラフィールド公爵夫人になりたいとでも言うのか」
「殿下、お戯れにもそのようなことを…私とカインはその様な間柄ではございません」
「その様な間柄ではなくとも、リディの心にはその者がいるのではないか? 気持ちの方は否定しないではないか」
「殿下、私はカインに幼馴染以上の感情は持っておりません」
「貴女はそう言うだろうと思っていた。しかしリディ、貴女は私の名は呼ばぬのにその者の事は名で呼ぶではないか」
わ、わー。殿下ー、ヒロインちゃんが突如始まった痴話喧嘩に目を白黒さしてるよー。
しかしヤンデレ重いなー。
回避術その四。他に好きな人がいるそぶりをして、王妃になる自信がないとか愚痴をこぼし、トラウマを理由に婚約破棄を匂わせ、未来の王妃という地位に執着がないと思わせる。
ちなみに仲を疑われてるのは幼馴染の公爵子息。ヘタレわんこである。
目覚めてすぐくらいに引き合わされた時、大好きアピールをして『おーきくなったら、りでぃがおよめさんになってあげるー』とひっ付きながら周りに聞こえるように伝えた。
そうなれば家柄は互いに問題ないし、将来婚約させよーかーぐらいな家同士の口約束が出来上がったが、王家からの第一王子の婚約者にとの打診で、その約束はうやむやになってしまった。
万が一ヒロインに幼馴染ルート入られたら、完全に原作通りの悪役令嬢のポジションになっちゃうから、結構な博打だったけど、ヒロインは逆ハーか王子ルートを狙うはずと幼馴染にだけはデレりでぃでべったりしていた。
それに幼馴染ルートなら最悪でも私は王妃にはなれますし。全く愛されず、鬱になって塔から飛び降りて自殺するんですけれども、私は自殺とかしませんしね?
あいきゃんとふらーい。
幼馴染に対する私の現在のポジションは近所の優しいお姉さん。
私のが一つ年下だけれども。
年上の余裕がある態度で褒めて叱って、時に挑発して癒して、まぁ前世アラサーだから余裕ですよ。
なんて余裕ぶっこいてたら、これ私にちょこーっと好意持ってくれてるんじゃないかなー? って思い始めた頃に幼馴染君は急に下僕属性を手に入れた。
何やらM風味の下僕ワンコに育ってしまったが、決して私の所為ではない。めいびー。
お一人様がながいアラサーだったから正直恋愛の機微とかよくわかん無いです。正直なんか今はもう下僕属性とか幼馴染超怖いです。
「殿下…」
うーん、なんて言おう?
とりあえず謙遜しとこかな?
「私は殿下の婚約者に選ばれたことを誇りに思っております。ただ私が殿下に見合う才を示すことができ無いことを歯がゆく思うのです」
「リディ、私はリディにそんなことを望んではいない。ただ私のそばで、私を愛していて欲しいだけなんだ」
…甘だるいです。砂です。口から砂がでます。
フェミニスト殿下はやっぱり一味違うなー、俺様な頃なら『俺だけ見てろー』的な事言いそうでしたが。
「殿下…」
とりあえずイベント回避確定まで幼馴染が好き路線は捨てられ無いので、困ったように胸元で両手を組む、とあざと過ぎる感じなので右手を左手で包むように握り、うつむいて視線を右下に落とす。
罪悪感に苛まれる令嬢のポーズ!
「いい加減になさって下さい」
うお、びっくりした。女優さんごっこしてたからうっすら忘れてたヒロインちゃんが怒ってるぅー。おこなの? ぷんぷん丸なのぉ?
とりあえずびくっ、っとしてヒロインちゃんこわーい、みたいな顔を作っておく。
「騎士が一緒にいるならリディア様が騎士に命じてさせたのでは無いですか? 本人が刃物に触れなくても公爵令嬢なら誰にでも命令できるでしょう? リディア様じゃ無いなら一体誰がこんな事をしたというのですか?」
「そんなことは私たちには関係無い。高々男爵家の娘の教科書が切り裂かれたからといって、なぜ王族に連なるリディが疑われねばなら無いんだ。第一、実際リディがそれを行ってもお前にそれを咎める権利などないだろう」
「なっ、え? なんですって? え、まって…」
ヒロインちゃん混乱中。うっかりタメ口。
まあね、ゲームでは王子ルートだと身分とか関係無い、愛は正義、結婚して! みたいな流れになるから意外なんだろーねー。
でもね、この世界身分大事だよ。
だって身分制度あるから殿下は王子なんだもんね?
ヒロインちゃんだって王子辞めた殿下は興味ないでしょ?
身分には責任も付随する。それを殿下にはみっちり教えこんだ。
本来なら男爵令嬢の教科書破くのだってダメだけどさ、身分あるものはそのくらいなら普通断罪されない。咎められ無い代わりに民からの信頼を失う。それはひいては国自体の揺らぎになる。
やはりね、王族、貴族と生まれたからには責務を果たし、民に偽らず、胸を張れる生き方をしなければならない、と私は考えるわけです。ブエノスオブリージュってやつですよね。あれ、なんか違うかな?
あと、私の事をまだ婚約者なのに王家に連なるって言ってくれたのとかすごい嬉しい。
身分考えたらまだ婚約者は王家の者じゃ無いのはわかってますけどね。それでもそうおっしゃって下さったお気持ちが嬉しいです。殿下、好き。
「リディ行くぞ。話す価値もない」
「はい、殿下」
ヒロインちゃん、断罪イベントと王子攻略失敗ご愁傷様。
今すげー悪人面になってるよ。ちょっと笑える。
去り際のどや顔リディちゃん。
いくぞ、とっておきのどーやー。
…わ、わー、ヒロインちゃん机なぎ倒してるぅ。ヤバい、リアルに怖い。
でもでも、一応これで私の大勝利ですよね?
色々辛かったし、ずっと不安だったし、ヒロイン鬼みたいな顔してて今もめっちゃ怖いけど、私の勝ち、ですよね?
だいたいこれで私が断罪されるイベントは終わりだからもー大丈夫、かなぁ?
悪役令嬢、回避できた?
私がんばったよー。ものすごい努力したし、我慢だっていっぱいした。
ご褒美、もらっても良いかな?
マリーに視線を送り下がらせる。
「殿下」
人気のない廊下で殿下が振り向く。
「あの、あ、愛してますわ」
幼馴染君、当て馬にしてごめんね。
「リディ」
感極まった様に殿下が私を抱きしめる。
なんのために私がこんなに努力して婚約者の地位を守ったか。
なぜ、婚約者にならない様に改作したり、断罪を受け入れ公爵家を出る道を選ばなかったのか。
それはもちろん王子ルートが前世のイチオシで、殿下が私の初恋の相手にして二次元嫁だったからだ。
王子様萌えー。二次元最高。
最初から未来の王妃になる気満々で、その未来を前提に仕掛けましたとも。
悪役回避しても殿下が手に入らなければ意味がないんです。
そんな回避をする位ならギロチン台でダンスでも踊った方がマシってものでしょう。
負ける気なんかありませんよ。殿下の為なら。
夢だったんです。殿下の壁ドン。殿下の顎クイ。
殿下、前世から、ずっとずっと大好きです。
「一生、お側に置いてくださいませ。あ、あしゅ、アシュレイド様っ」
殿下は俺様な笑顔で、私を壁際に追いやると左手を、いや肘を壁につき、右手で私の顎を引き寄せる。
近い近い近すぎるぅ!
離れていればスチル見るみたいな気持ちで『ドヤ顔壁ドンキター』って喜べるけど、アラサーお一人様には生身の男は劇薬と同じだ! ダイナマイトと同じだ!
フェミニスト殿下、フェミニスト殿下はどこいったの? なんで俺様降臨してるのぉっ?!
夢だったけど、夢だったけれども。むね、いや、ドキがむねむねしちゃうから離れてくださいぃぃ。
「君の瞳を、一生俺が奪いたい」
み、耳が幸せすぎて真っ赤になっている自信がある。
肘ドン顎クイ耳ツブー! トリプルでしかも決めゼリフキター!
さらに俺とか、ここにきて自分のこと俺とかぁ…萌え死んじゃう。
画面越しより妄想より格段にきゅんきゅんするのですがどうしたらいいですか?
呼吸が、呼吸ができません。
もう萌えすぎて、いや、息が出来なくて死んでしまうううぅぅ。
転生者は無事世界一愛しい婚約者からの愛を勝ち取れたらしい。
転生者は悪役令嬢、見事に回避成功。
どーーーやーーー!
でも呼吸できなくて死ぬかも。
アシュレイド様いったん離して、誰か助けてぇ。
お読み頂きありがとうございます。
申し訳ありません。
まさかこんなに読んでくださる方がいるとは思わず、公開後にかなり加筆、推敲してしまいました。今は一通り推敲して落ち着きましたが、今後も本文変更があるかもしれません。
誠に申し訳ございませんがご理解ください。
またお読み頂いた上、拙い文を評価してくださった皆様、ありがとうございます。