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fish and whale.

作者: N


私が手で作った輪を通して見る世界で、

彼女は魚の様な何かでした。

酸素ボンベのようなものを背負っていて、

水がないところを泳いでいました。

彼女の薄く透けた尾が空の青に透けてちらと光る。

教室の中で、唯一の魚である彼女のことを、私が不思議そうに見ていたころ、彼女もまた私のことを不思議に見ていました。

それは多分、彼女が作る手の輪の世界で、

私がクジラのような何かだったから。

まるで潜水艦のような黒々と艶やかな私の大きな体は、

小さな教室には収まりきれず、

壁に穴をあけて隣の教室まで占領していました。


私も彼女もみんなと違っていて、

二人にとっては同じように息が詰まるような空間に毎日座っていました。


いつしか鯨の少女である私はいつの間にか周りに溶け込んだけれど、

魚の彼女はどうしても息が出来なかった。

皮膚呼吸がしずらかったから、左手を掻きむしって、

エラが見つからないから耳を穴だらけにしていた。

それでも彼女は呼吸困難を起こす。

酸素ボンベからこぼれ落ちる色とりどりのラムネ。なんとか流し込んで、なんてことない顔して座ってる彼女を私は見ていた。


誰にも見えない魚を、鯨は見ていました。

でも、周りに馴染んでいく鯨に魚の気持ちは分かりませんでした。


口から空っぽの空気の宝石を撒き散らしながら魚の少女は思ったらしい。

「遠くへ行きたい」そうして魚の少女は海へ。

くるくるひらひら、教室でみんながしていたみたいに、楽しそうに息をしながら。


でもその海はとてもとても遠いところにあったので、魚の少女は2度とこちらに帰っては来ませんでした。

鯨の私も追いかけて遠くへ旅に出ました。

でもなかなか魚の少女に出会えません。

だからまだ、私は旅の途中です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 滲んだ水彩画。大きな鯨と、酸素ボンベを背負った今にも透けてしまいそうな魚。そんなものをイメージしてしまいます。 それからこれを読んで 心が少し痛いです。どうしてかな?多分作者様の感情と …
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