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手ぶらの魔法使い  作者: 手ぶらの魔法使い
7/22

王子のお仕事 その1

プロローグで魔狼を倒したあとの話

マキロイがトンデモ屋にやってくる。


「タカ、ユージーンは来てるか?」


「おう、さっきまでおったんやけどな、秘密基地に帰ったわ」


「ああ、そうか。分かった、ありがとう」


ユージーンは初めての仕事をこなした冬休みのあの日以来、驚異的なペースで仕事をこなしていった。

多分、いや、確実にオレよりも稼いでいる。圧倒的に。報酬だけで金貨100枚とか200枚のレベルではない。

オレも兵隊やめてハンターにでもなろうかな、いやいや、これは国に仕える誇りある仕事だ…名誉は金には代えられない。



王都の外の森に建つ秘密基地に到着する。ここはユージーンが自分で稼いだお金で建てた豪邸で、彼は今ここで暮らしている。謎の封印がされた柵に囲まれている。敷地からしてかなり広い。無駄に二階建てで、客室や謎のホール、地下には倉庫や怪しげな研究室もある。

中等学院に進み半年したら彼は家を出た。学院は王都内にあるためいつでも会えるし、両親はたまに帰ってくればいいよ、とユージーンの好きにさせている。心配になったが、家族の仲は非常によく今のことろ両親は四つ下の双子の兄妹の世話ばかりしている。

この兄妹がこれまた優秀で、ユージーン程ではないが、魔法議会も有望視している。


門に構える一対のキメラの像が反応し、立ち入りが許される。契約を済まさなければ敷地内にも入れなくなっている。それもユージーンの意思で自由に制限出来るらしい。

玄関には特に鍵はかかっていない。エントランスホールの床には建物の見取り図が描かれていて、研究室に赤い点が二つ。ユージーンとスターチ。

二人は地下の研究室にいるようだ。








僕はアイグを倒したあと、トンデモ屋に向かいタカさんに大体の報告を終えた。マキロイさんが一緒だったから、手続きが楽で助かる。

いつもの端の席でスターチが待っていた。店は珍しくガラガラだ。二人でホットチョコを飲んで少し話をして店をでる。


彼はビスコナの第一王子で、僕の通う中等学院の同級生だ。庶民の暮らしを経験するために、初等学院からずっと身分を隠して王都の一般家庭を装った家から学院に通っていたらしい。

初等学院は僕の通っていたのとは違う学院だったので、中等学院で初めて知り合った。意気投合して仲良くなったのはいいんだけど、ひょんなことから僕に身分が知れ、中等学院2年の後期が始まる時に我が秘密基地に住み込むことになった。

スターチ自体はいいやつだし、僕は別に何か引け目を感じるとこもないし快諾した。

王家では何か色々あったらしいけど、まあ僕には関係はない。


ちなみにスターチはかなり強い。魔導士ランクだと確か5とかそれくらいで、剣も使える。総合力で言えば、同級生では多分ベスト5には入るんじゃないか。

そして何より頭がいい。

王子だけあってしっかりとした教育がされているし、頭の回転もいいから、今みたいに一緒に研究なんかもしている。


「あ、マキロイさんが来た」


キメラ像が反応したのが伝わる。壁の見取り図にマキロイの青い点が光る。こっちに向かってるみたいだ。


「ユーに報酬でも届けにきたのかな?トンデモ屋の金庫に預けておけばいいのに、王都の外までわざわざ御苦労なことだね」


「マキロイも暇なんでしょ、あの歳で独身だし友達も少ないって自分で言ってたし。あ、来た」


コンコン


はいどうぞ、の返事の代わりにドアを開ける。


「こんばんは、スターチ王子、ユージーン。アイグ討伐の報酬、金貨2枚と銀の目玉を持ってきたぞ。ほら、今回も助かった、本当にありがとう」


「御苦労であった、マキロイ兵隊長、今後も期待しているぞ



なーんちゃって、もういい加減王子とかそういうのここではやめてくれよマキロイ」


「そうですよ、マキロイさん、スターチはそこらの少年と同じなんですから。

あ、でも報酬はありがとうございます。わざわざ持ってきてくれて助かりました。ちょうどこの目玉の出番なんですよ、見ていきますか?」


「今度は何を作ってるんだ?また何か凄いもんなんだろ?」


作業場に向かう僕に代わってスターチが説明し始める。


「今回はなんと!物体転送装置だ!手ぶらの魔法使いの弱点である荷物の少なさをカバーする、最大最高の発明っっっだーーーー!!」


パチンッ


「なんと、前に聞いてたやつですか。もう完成したんですか」


パチン


「まあまだそんな大きなものはしんどそうですけどね」


ーうむ、目玉がほどけて極細の糸状になっていく。美しい銀糸だ。ユージーンはそれから極薄の一枚の布に織り込んでいく。それをかけてあったマントの裏地にくっつけて指を鳴らす。すると白く光る魔法陣が浮かび上がり、すぐに消えた。



「これで完成、さっそく実験してみましょう」


「お、最初はどれにしようか?やっぱりホットチョコの材料にする?」


「そうだね、大きさも手頃だし、何個かバラバラなのも都合がいい」


「じゃあ、とりあえず、鍋とコップ、トンデモ屋のチョコとミルク、あとはなんだっけ?」


「あとはそこの謎の粉だね。タカさんに聞いても企業秘密だって。教えてくれないんだ、成分的にもかなり謎。遠くのどこかでとれる何かかもしれない、大した企業でもないのに、大した秘密だ」


「これで揃ったかな?」


机に広げたマントに魔法陣を描く。

鍋、コップ、チョコ、ミルク、謎の粉。

粉がかなり怪しいけど、まあ大丈夫でしょ。

次に部屋の奥にある台座に材料を置く。

マントを羽織る。


「これで準備できたかな、ここじゃ面白くないから庭に出ようか」


三人で庭に出る


僕は左手でマントの端を掴み、2メートルくらい先の地面を目指し右手の指を鳴らす。


パチン


その瞬間、凄い量の魔力が持っていかれる。

流石に厳しい。

これは 全快の魔力でも1/3、いや1/2くらいか。


ふう…こりゃしんどい、


狙ったところに魔法陣が浮かび上がり、空中に黒い小さな球体が現れる。




球体は少し膨らんで、ポトリと地面に落ちて割れる。


そこはホットチョコのセットがあった。



「やったーーー!!成功だ!!やったぞ!ユー」


「ああ、やったな!ただ、魔力消費がハンパない。ホットチョコのセットでこれだけ持っていかれるとなると大変だ、改良の余地が大いにある」


「いやはや、やはり凄いなお前は。今この目で見たことだが、信じられないよ。本当にとんでもない」


手ぶらで外に出るのが楽で、今まで三年間それでやってきたからなあ、それを維持したい一心で研究したもののまだ実用化には程遠いな。

武器とかテントとかの質量を転送しようとしたら死んじゃうかもしれない。

いや、荷物持てばいいんだろうけど、もうみんなに《手ぶらの魔法使い》って定着しちゃってるし、今さらリュック背負えないよね。

強い武器も何度か作ったけど、結局邪魔くさくて持っていってないし。

たまにスターチに借りてみるけど、あれば便利でやっぱり強いんだよなあ。

杖を転送してもいいけど、その魔力で一撃ぶっぱなしたほうが強いしな…


あとは食料とか。現地調達が出来ないことなんてないけど、万が一そうなった時用に準備しておくのはいいかもな。


「まあ、こんな感じですね。下手に転送すると魔力が空になるどころかマイナスになってしまって死んじゃうんで、慎重に改良していきますよ。今日はこれまでってことで、何か食べにいきましょう、もうスッカラカンです」


僕たちは屋敷に戻る。マキロイはホールで支度を待っている。僕はまず研究会に向かいマントをしまい部屋全体にかけたこの世で一番厳重な鍵魔法を発動させる。多分、これを突破できる人間は殆どいない、いたらそれは逆に喜ばしいことだと思う。



そのあと二階の部屋に行き、適当に楽な格好に着替え、金庫室から銀貨を何枚か取り出してポケットにしまう。

僕は王都でも有数のお金持ちになっていると思う、多分。

何せ全部好きに使えるんだから、そこらの貴族の人達よりも自由になるお金は多いだろう。

両親に仕送りしようと申し出たけど断られたし、弟と妹にも小遣いを与えないように釘を刺されている。

王家の人にもスターチにも過剰に贅沢なことをさせるなと言われているけれど、スターチ自体がそんな性格でもないので特に気にすることもない。

そんなこんなで思う存分魔法の研究にお金をつぎ込むことができる、ラッキーだ。


「お待たせしました、二人とも。さあ、いきましょう」


「そんな待ってないけどね。よし、行こう」


「ユージーン様、本日もごちそうさまです、ありがとうございます」


「え?マキロイまたユーにゴチになるの?大人なのに?」


軽口を叩きながら門を出る。

僕はキメラ像に向かってパチンと指を鳴らし鍵をかける。

何を食べるかという話になったが、次の仕事探しのついでにトンデモ屋に決まった。いつものことだ。

トンデモ屋に体を転送できたら楽なのにな、と思ったけど生物の転送は多分無理だろうな。

いや、理論上はいけそうだけど、僕が1000人くらいいればなんとかなるくらいかな、いや、10000人かな。まあ無理だな。

あ、さっきの転送で逆のパターンを試せばよかった。台座は銀の目玉を贅沢に使った特別製だ。あっちに魔力をコツコツ溜め込めばかなりの魔力が溜められる。

で、遠征先でゲットした戦利品をマントから転送する。これならなんとかなりそうだ。魔法陣の設定は難しいけど台座の方は魔力でカバー出来るし、マントの方は現地で僕が細かく調整できる。

今度の実験課題だ。


「到着!さぁ食べよう!」


「さぁ飲もう!」


「今日は僕の奢りですよ、パァーっとやりましょう」


カランコロンカラン


ートンデモ屋はさっきまでとは違い、いつもの通り繁盛していた。ボーイが奥の方の席に案内してくれた。

タカさんはカウンター越しにハンター達の相手をしていた。アイグ討伐の兵士達がマキロイとユーに気付き、挨拶をしていた。ハンター達も何人かが声をかけてきた。


席につくとマキロイがいつものように高い料理と酒を頼む、オレ達にも酒をすすめてくる。15で法的にもう酒は飲んでもいいんだけど、中等学院生の飲酒は社会的にはNGとされている。ユーと二人で悩んだけれど、ホットチョコにした。


料理を待つ間、仕事を探す。ユーは次はオレとやろうって言ってランク5とか6の仕事を中心に探している。


ユーの名前で仕事を受けてそれにオレが助手としてついていくのがいつものスタイルだ。

実態は違う。ユーは殆ど手を出さない。その代わり報酬はオレに殆どくれる。


ああ、でもまだ6はちょっと無理だね。5でも場合によってはギリギリだしね。

でもユーと暮らすようになってオレは劇的に変わった。

元々魔法は好きだったし、剣術も得意だったけど、自力で勉強してつまずいた時には異次元レベルの天才魔法使いが裏技付きで何でも教えてくれる、これが大きい。

ユーの独特な視点がオレに加わって自分でもかなり成長出来たと思う。


ああ、やっぱり6は難しいなぁ。みたこともないしなぁ、ユーはスパルタだから手伝ってくれないしなぁ。ギリギリ危ない二歩手前くらいでやっと少しだけ助けてくれる。

そのヘルプは的確で大体大逆転のきっかけになって終わる。


「よし、スターチ、これをやろうよ」


ユーが開いたページはランク6、いやいや、厳しいってば。知ってるくせに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【奪還】

ビスコナ <ー> レビオサ 国境付近オウルズ野盗集団から商品を奪還する

<ランク>

★★★★★★☆☆

<依頼人>

ビスコナ商人会・ギビス レビオサ商人会・ジンザイ

<報酬>

奪還した商品総額の3割相当の額を金貨で支払い

<備考>

・軍により討伐されると半額を国庫に入れられるため、ハンターによる奪還を希望

・複数による受注も可

・野盗の討伐は依頼に含まない

・オープンオファーのため、奪還した商品を商会に持ってくれば報酬の支払いに応じる

<地図>

アジトは国境付近を転々としているため不明


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


マキロイが何か言い始めた、余計なこと言うなよ?ランク6だぜ?


「ふむ、中々面白そうだな。野盗の討伐ではなくて、商品の奪還か。モノによってはかなり儲かる。でもユージーン、このオウルズとかいう野盗って確か…」


「そうそう!こっちも見て!」



ユーはページをめくる。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【野盗討伐】

ビスコナ <ー> レビオサ 国境付近オウルズ野盗の討伐(生死問わず)

<ランク>

★★★★★★☆☆

<依頼人>

ビスコナ王国 レビオサ王国

<報酬>

金貨1枚 二国連名での特別褒賞

<備考>

・討伐後、略奪品の権利の半分は両国に、残り半分は被害者に帰属する

・近日中に軍を編成予定

<地図>

アジトは国境付近を転々としているため不明


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「これ、美味しいでしょ。高そうな商品だけ奪還して、それから壊滅させたってことにしちゃえばいいってことでしょ?そうしたら3割分と、二国褒賞と金貨ゲット」


「ユー、ちょっと待って。これってランク6だぜ?お前は余裕で美味しいかもしれないけど、オレはそうじゃない。お前に助けてもらえばそりゃあいけるだろう、でもそれじゃああんまり意味もないし、オレも悔しい」


「いや、そんなことないよ。スターチならじっくり準備していけば奪還は楽勝だよ、それだけの研究を僕達はやってきたと思う。それに討伐も、こいつらは軍がくるまでまだ時間があると思ってるはずだから、先制パンチを食らわせばある程度混乱させられるし、なんとかなるよ」


おいおい、本当か?ユーが言うとそんなような気がしてくるな、怖い怖い。


「でもなあ、悪党でも人間は殺したりしたくないんだよなあ。魔物なら最悪全力でいけばいいじゃん?でも人間相手だと加減しなきゃいけない、しかも恐らく今回のオウルはオレより格上だ。オレも危ない」


「確かに、まだ軍の召集の話は出ていないな。しかし、戦闘になると王子、いやスターチにも危険が及ぶ。ユージーンが側にいれば安全だろうが…」


「大丈夫ですって!スターチのこと皆なめすぎでしょ?こんな才能のある人なかなかいないですよ?才能で言えばうちの弟くらいは余裕であります。上のランクに挑戦してギリギリの戦いをした方が伸びるんですよ」


「うーん、本気か。弟と同じくらいってのは凄いなわそこまで買ってくれてるのか。しゃあない、やってみるか。ユーが言うんだから大丈夫だろ、多分」



「そうこなくっちゃ!えーっと、じゃあ明日から準備することとして、四日後の放課後出発して、2日休みのうちに帰ってこよう。いけるね!あ、マキロイさん、これ受けるから話通しといて下さい」


「うむ、分かった。四日後なら軍もまだ動かないな。で、奪還の話は伏せておこう、《手ぶらの》の受注だったら話は早いだろう」


「ああ、今回は《手ぶらの魔法使い》とスターチの連名で行きたいんだ。スターチって何か通り名ある?」


「いや、そんな表立って活躍してないし。と言うか、これ公式にはオレの初仕事でしょ?」


「ああ、そうだったね!何かいいのないかな?僕なんか公式には《A mani vuote アマニヴォーテ》で響きはかっこいいんだけど、手ぶらの、だからね。せっかく王子なんだし、キングとかプリンスとかがいいんじゃない?あとは、好きな魔法とか、得意なやつとか」


「いや、プリンスはカッコ悪いっしょ?あと、通り名ってまあ適当にやってりゃ勝手につくもんだろ」


「確かに、そういうものかもね。僕もひたすら手ぶらでここに通った結果こうなったからね、よし、最初はスターチでいこうか」


「話はまとまったみたいだな、さぁ、ユージーンの奢りだ食え!」







王子のお仕事が始まる。

王子のお仕事が次から始まります


その3まで続きます

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