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手ぶらの魔法使い  作者: 手ぶらの魔法使い
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手ぶらの魔法使い その4

相手の魔法を潰すことを決めた後、やることはシンプルだった。


目の前の焔をやり過ごし、その後の体当たりと小さな風魔法、えげつない雷の究極魔法《Cats & Dogsー土砂降りー》をなんとかする。


ーふざけた名前の魔法だが、究極の名が示す通り絶対の威力を誇る。特にその攻撃範囲は凡そ視界の届く限りと、ほぼ不可避で神の雷と呼ばれるー


焔の方はオリジナルの氷の盾の魔方陣をぶつけてちょっと爆発させて、後は魔法障壁G8でなんとかなりそうに見える。


体当たりは多分逃がさないための作戦で、申し訳程度の風魔法も同じでしょ。

甘いよ、風も全力で来なきゃ。まあ出来ないんだろうけど。


で、本命のー土砂降りーは、よく見ると範囲を狭めた早打ち版なのが分かったから、割り込んで便乗させてもらうことにした。





パンッ




パン



二回手を叩き魔方陣を二つ背負う。


ウィタワットは体当たりをしつつ、風魔法で僕の自由を奪ってくる。




背負った風の魔方陣が発動し、大体逆回転の風が起き、右手の自由が回復する。






ー土砂降りーが発動する直前に指をパチン。




僕の背中の炎の魔方陣が瞬時に前にせりだし、魔法障壁G8とまとわりつく黒の魔焔を吸収し



ウィタワットの目の前で土砂降りの陣に重なるー






魔方陣は1つになり光を失い、大地に落ち染み入っていくー






そして、光の柱が天を衝き、ウィタワットの半身を消し去った。










よし、倒した。

危なかったけど、なんとかなった。

しばらくはこんな強い魔物とは戦いたくはないけれど、自分の力を知るためには奇跡的にギリギリのラインだったと言える、ツイてる!

ああ、タカさんに報告しなきゃダメだ、いや、見てたかな?

逃げてないよね?あ、走ってきた!

手でも振ってあげよう、ああ、良かった、ウィタワットには悪いことしたけど、まあ仕方ないよね。


「おーーい!ユージーン!お前すごいわ、マジで!やったな、オレの見る目に狂いはなかったゆうことや!」


ユージーンはタカが駆け寄ると安心したのか気を失って倒れた。









パチッ




パチッ



焚き火の燃える音で目が覚めた。

タカさんが火の番をしている。


「あ、タカさん?」


「おお、ユージーン起きたか」



「あれ?もしかして僕やられちゃいました?いや、そんなことないか?あれ?」


「いやいや、お前さんは勝ったよ、ウィタワットを完封、大したもんよ。覚えてねえのか?」


頭が混乱している、タカさんかそう言うんだから勝ったんだろう。やられたってのは戦ってた時の良くない未来予測を錯誤しているんだ。



「ですよね、凄かったでしょ?僕。」


「おうおう、ホンマに大したもんよ。何か飲むか?食うか?」


水を受け取り、僕ははっと大事なことを思い出す。


「ウィタワット!教会!ねえ、タカさん、ウィタワットは?どうした?教会調べちゃった!?!?」



「まあまあ、落ち着け。ウィタワットはほれ、あそこや。お前に倒された時のままにしとる、あの光の柱が何か分からんから手を出せんかったんや、柱はちょっと前まで光っとったからな」


うんうん、それで教会は?


「ん?教会はな、まだ調べてないわ。流石にお前さんが倒れてる時に調べるのも忍びないし、何かあっても逃げられないし、と思ってな」


ほっとして、気を使ってくれたタカさんに感謝した。するとお腹が減って、冬の寒さが身に染みた。

戦いが終わった時点で魔力はそこそこ残っていたし、怪我も擦り傷と打ち身くらいのもので大したことなかった。

それでも倒れてしまったのは、安心して緊張の糸が途切れたとかそういう事なんだろう。


「タカさん、ありがとう。助かりました」


「いやいや、こっちのセリフよ。依頼主だからな、ありがとよ。で、どうだ?何か食べるか?パンと肉、ホットチョコしかないけど」


「じゃあ、パンと肉とホットチョコを下さい、お支払は報酬からでお願いします」


「よっしゃ、ちょっと待っとけ。身体が動くならウィタワットでも見てきたらええ」


僕もそのつもりだった。


指をパチンと鳴らし、光の魔法を使う。


ウィタワットはすぐそばに倒れていた。やっぱり大きい、でも心なしかさっきよりは小さく見える、気もする。

うつ伏せになっているので、顔の方が見えない。ひっくり返してもよかったけど、なんとなく、そんな気分でもなかったのでやめた。

教会の方を照らしてみる、そんなに離れていないのにひどく遠く感じる。闇に光がいつもより多く吸収されてしまっているみたいだ。


「ふぅ、まいっか、明日にしよ、全部」


焚き火の所に戻ると注文の品は出揃っていた。


美味しい美味しいと食べて、ホットチョコを飲んだ。今日一日で僕はこのホットチョコなしでは生きていけない身体になってしまったような気がした。

恐ろしく長い一日だった


初めてギルドを訪ねたところから始まって、王都の外で魔狼を退治して、猪の角も剥ぎ取ったし、ピクニックもした。そして加護持ちのキメラと戦って、なんとか倒すことが出来た。余裕があったようななかったような、よく分からないけど最後はタカさんに助けられているから余裕なんてなかったんだろう。


「ホットチョコおかわりいるか?」


僕は頷いてコップを差し出す。


おかわりをもらいながら聞いてみる


「これの作り方って教えてもらえるんですか?」



「まあ、そりゃ教えられるけど、まず材料がいるやろ、あとコップ、鍋。お前みたいに手ぶらでフラフラしてるような奴には教えたって作れんわな、実際。外で飲むには荷物がいるな、んで、中で飲むならトンデモ屋に来た方が安いし早い。これが作り方や」


「うーん、じゃあ作り方自体は教えてもらえるんですね、いつかきっと教えてもらうことにします。そのうち」


「そんなことよりさ、今日の魔法のこと教えてくれよ、正直お前らが使っとった魔法全部見たことのないやつやったわ。遠目で見ても凄いの分かったわ」


「いいですよ、でも秘密ですよ、他の人に聞かれると面倒くさそうですから」



「よっしゃよっしゃ、ほんなら最初からいこ。最初はあのウィタワットの黒い焔のやつやな、あれは?」


「あれは多分なんですけど、加護持ちの魔物が使える魔法で黒の魔焔って呼ばれてるやつですね。僕も初めて見ましたよ、あれ見て生き残った人っていないらしいですから、魔方陣覚えてたら時の人になれますよ、タカさん」



「魔方陣覚える?無理無理、そんなん出来るはずないし。んでんで、次はユージーンの番やな、あの青白い光は?何?魔法障壁みたいやったけど、身体にフィットしてたよね、力強さヤバいな、あれ。あと、焔にぶつけた魔方陣の盾のやつ、あの爆発なかったらヤバかったやろ?」


「あれは僕のオリジナルですね。魔法障壁G8です、ちなみにGはgradeの頭文字で今のところ8が最強です。普通の魔方障壁は文字通り壁ですけど、僕のは服みたいに着るようにしました。そっちのが守れますしね。

あと、焔にぶつけた魔方陣はシンプルな盾の魔方陣です。ただ、相手の魔法がヤバそうだったので、ランク8並の魔力を込めて、二枚でちょっと角度をつけて爆発を内向きにしました、これは上手くいって、焔も弱められました。魔法障壁が少し焼かれましたが想定内ですね」



「へぇ~多分とてつもない技術なんやろうけど凄いってことしか分からんな、もっと魔法の勉強しときゃよかったな~。

んで、次は何やっけ?ウィタワットの体当たりから魔方陣二つか、それをお前が二つの魔方陣で吹き飛ばしてなんか光の柱が出て凄いことになって終わっとったな」


「あの時はかなり迷いました。体当たりと風の魔方陣と土砂降りの魔方陣が見えました。黒の焔と風と雷と全部やり過ごすかどうかで迷ったんです。

でもやり過ごしても次にさらにヤバいのが来ないとも限らないから、全力で目の前の魔法を潰すことをしたんです」



「土砂降りってあの土砂降り?」


「あ、そうです、あの土砂降りです。でも、なんか範囲を狭めた版みたいだったので、やることは決まりました。二回手を叩いたの見えましたか?」


タカは首を振る。



「まず炎の魔方陣を錬成しました。ちょっと時間がかかるので、二つ作るうちの一つ目、これはG8についた黒の焔を掃除するのと土砂降りを乗っ取る用の魔方陣です。

二つ目は風の魔方陣です、ウィタワットが風魔法で何かしてきそうだったので、最悪右手が自由になるように仕掛けておきました」


「え?魔方陣って乗っ取れるん?マジで?土砂降りを?」


「はい、乗っ取れるというか割り込めます。多分なんですけど、全ての魔法に対して完全に打ち消すことが出来るんでしょうけど、今はまだ簡単なのしか無理ですね。だから、とりあえずエンチューの応用で魔方陣を作って土砂降りを乗っ取って爆発させました。これは会心の出来でしたね、もう僕に土砂降りは効きませんよ、やってみますか?」


「あぁ、今度気が向いたらやったるわ。オッケーオッケー、もう大体今日の魔法の事は分かったわ。気になるのはその魔法の打ち消しとか割り込みの話なんやけどな、簡単なやつなら今この場でも打ち消すとか出来るんか?」


「出来ますよ、打ち消しならランク3くらいまでならいけます。それ以上はちょっと自信ないですね」


「マジで!?練習したらオレも出来るんかな?」


「出来るかどうか分かりませんが試しにやってみますか?何かその辺に出してみて下さい」


ーマジか?こいつ。魔方陣が重なって暴発ってのは聞いたことあるけど、それを狙ってやって効果も指定できるってか?神か?いや、でもマジやわ、オレさっき見たし。なんか簡単なやつ教えてもらってみよ、おもろそうやし。


「ほんならこれはどうや?」


タカはポケットから小さなペンサイズの杖を取りだし魔法を使う


ーほれ、炎の魔法ランク1や、ほれ、はよせな火がボンッやで~



「これはですね~、こうして、こう、ですね」


パチンっ


ーあ、なんか魔方陣出たわ、そもそもなんやねん、この指パッチン。めっちゃすごいやん




パリンッ


ぶつかった魔方陣は光を失い、ガラスのような音をたてて割れて。


ーうわ、できた。すごっ。


「すごっ!マジやん!?今の魔方陣教えてや!」


「理論を理解しないと無理ですけど、やってみます?」


「もちろんや!」



ーさっぱり分からんかった。

まず魔方陣は同じ魔法でも使う人によってディテールが異なる、魔力の強さとか、展開の早さとか個人情報が記されているから。

いやいや、そのへんならオレも知っとるよ?学校で習ったよ?だから、みんなが使える汎用魔法が重宝されるんやろ?

んで、暴発とかの事故が怒るのは同じ人が使う魔法でも毎度毎度魔方陣が違うから防げないし、予期せぬ動作をするんやろ?


んで、ユージーンはそれを見ただけで理解して自分で逆の魔法を作ってぶつける、と。


無理無理、寝よ。




タカさんは早々に諦めて寝てしまった。僕も無理だと思う。僕はイレギュラーで普通の人には不可能だ。


でもどこかに僕以外にも出来る人がいるとも思う。


流石に自分が世界で一番の魔法使いだとは思えないし、歴史の本に出てくる魔法使いの中にはそれこそ規格外の伝説を持つものが多い。


僕は焚き火に嘘永続魔法をかけて寝ることにした。


今日はもう疲れた、明日また頑張ろう。




うわ、魔法陣が魔方陣になってる痛恨のミス


次から修成します。


ちなみに、次で初めての仕事編が終わります

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