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手ぶらの魔法使い  作者: 手ぶらの魔法使い
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手ぶらの魔法使い その3

ーなんやえらいキラキラしながらユージーンは駆け足で進んで行く。ちょっと前にウィタワットの縄張りには入っとるけど、今のところ何の気配もない。でもまぁ象サイズのサイの身体、背中にはモフモフっぽい翼、は虫類みたいな顔して尻尾はなんか猫みたいで可愛らしかったな、そんなやつやからいつ現れてもおかしくないな。飛んでくるかもしれんし、お互い走ってきたら即鉢合わせや。



あれ?でももうすぐ教会ちゃうか?


実際に鉢合わせしたらユージーンどうするんやろ?答え出たんかいな?ー



全然ウィタワットと出会えない!考えがまとまる前に出てきたら、エイヤ!ってぶっぱなしてやっつけてしまえばいいや、と思っていた。

でも、走りながら考えるうちに徐々に思考がクリアになってきてしまった。

僕は多分ウィタワットを殺してしまう、力が足りれば、の話だけど。

教会に何かがあって、ウィタワットは知ってか知らずかそれを守る形でそこにいる。

僕はその教会の何かの正体を知りたくて、知りたくてたまらなくて、もうすぐそこに着いてしまう。そこに着いたときにウィタワットが邪魔をするなら、その殆ど実質的に無害な魔物を僕は吹き飛ばさずにいられる自信はない。

そこいらの雑魚ならば無力化して放って置くことも可能だ、しかし相手はまだ見たこともないとはいえ、恐らく百戦錬磨であろうタカさんがランク7に設定し、そいつは魔王の加護という力も持っている、多分かなり強いとみて間違いないだろう。しかも国と村を揚げたら謎の陰謀じみた企みまで絡んできていて…



木々の向こうに大きな屋根が見える。大教会だ。足を止め、タカさんと目を合わせる。目には緊張感と力強い光が満ちている。二人とも息は切れていない、走ってきたけどコンディションに問題はない


「あれやな、教会や」


村の入り口らしきものを視界にとらえるところまで歩くと異様なプレッシャーに襲われた。間違いなくウィタワットがいる。


「タカさん、ウィタワットいますね。色々考えましたが、僕はぶっ飛ばします。そうしないと教会の謎を探れないし」


「まあ、しゃあないな、それが依頼やしな。どうなるかしらんけど、とりあえずそうでもせな教会探れへんしな」


「タカさん、村の地図というか簡単な見取り図教えてください」



「ええで、殆ど何も残ってないけどな。見ての通り入口があそこや、荒れてるのは前に調査で来たときに燃やされたやつやな。んで、真ん中にあの屋根がある大教会と広場や。大教会は石造りで燃え残ってる、他の家やらなんやらは全部燃えて残ってない。多分ウィタワットは広場と教会の入口の間かその辺におるわ。前はそうやった。んで、村の入口を通るかどうかのタイミングでこっちに気付いて、というか反応して襲ってきたな」


タカさんは木の枝でカリカリと地面に描き説明してくれる。簡単にウィタワットの絵も描いてくれたけど、あんまり役には立たなさそうだった。


とりあえず、ウィタワットは炎と雷の大魔法を使うのと、力が超強いということだった。あとは、空を飛ぶらしい。魔法はシャー!とかギャーと吠えたら飛んでくるようで、威力はもちろん強くて、当たったらマズイらしい。そして魔力は底なし、っぽい。


ふぅ、と息をついて作戦を3つ考える。


1つ目 とりあえず全力で殺しに行く。

これが無理ならもう何もかも無理だろうと思った。


2つ目 魔力耐久勝負でウィタワットの魔力を空っぽにして、落とし穴か何かに封じ込める。

加護持ちの魔物とマラソン勝負をして勝てるかどうかは分からないけど、最初様子見していけそうならいけるかもしれない。


3つ目 全力で封印魔法をぶっぱなしてみてダメなら逃げて、またその後考える



何かダメな気がしてきたので少し休むことにする。


「タカさん、まだ暗くなるまで時間ありますよね?」


「おう、快調に飛ばしたから、まだまだ日没には余裕があるで。一息つくか?ハリソンで一泊の予定やったからあんまええもんはないけど、食いもんもあるで。まあ手ぶらのお前には贅沢言わせんけどな、ハハハハハッ」


「そうですね、ホットチョコってありますか?あとはサンドイッチ的な何かがあればセットで食べたいです」


「あるよ」


「え!?あるんですか?」


「おう、それくらいなら準備あるで。銅貨15枚の支払いは報酬から差し引きやな、失敗したら後払いや」


「それくらいならありますよ、ほら。おつりがあればお願いします」


僕は金貨を一枚差し出した。


タカさんはブーーーッとホットチョコを吹き出した。


「アホかお前、なんでそんな大金持っとんねん!あかんあかん、報酬で相殺や、頼むから成功してくれや」


僕はポケットに金貨をしまい、サンドイッチセットの完成を待って、食べながら色々考えたけど、正面突破することに決めた。





「タカさん、僕そろそろ行きますね。タカさんはある程度遠いところから見てて危ないと思ったら逃げて下さい。僕もそうします。あと、僕の戦い方とか魔法で珍しいやつ出てくると思うんですけど、秘密にしといて下さい、マキロイさんにも。あと、基本的には力押しで行くので巻き添えにも気を付けてください」


タカさんに作戦と言えるか分からない作戦等を伝え教会に進む。


ミニピクニックで気持ちが少し緩んでいたが、一瞬で切り替わる。ビリビリとした気配が一歩進む毎に強くなる。魔力が溢れて波のように押し寄せてくる。

魔力マラソン作戦はこの時点で破棄された。力押しならなんとかいけると勝手に思っていたが、考えが甘かった。

封印魔法?相性があるが、確率は低そうに思える。

入口に差し掛かった所でウィタワットの姿が目に入り、お互いがそれを認識した。ウィタワット伏せていた身を起こし、二足で立った。


遠目に見てもその大きさが分かる。魔力の波は止まり、力を蓄えているようにも見える。

タカさんの絵で見てイメージしていた形に近い。

土色の体は明らかに堅固そうで、背中に生える翼は見るからに力が強そうだ。前足は比較的小さく鳥類のそれに近い、器用に道具を使ったりというのは出来なさそうだ、後ろ足は太い馬の足のようで、立ち姿はバランスはやや前傾だが、人間に近い。

尻尾はタカさんが言う通り猫みたいで不似合いだ。頭はは虫類のもので、目はキョロっとしていて意外と可愛い、頭は良さそうな気がするけど言葉は通じないのを直感した、ただの魔物だ。

何か大いなる世界の意思みたいなものを持った魔物だったらどうしよう、とかそういうことも考えていたけれど、どうやらそういうことはなくて、ただたまたま現れた加護持ちだったような気がする。





広場の端と端でユージーンとウィタワットが相対する。

20メートルくらいの距離が両者の間にある。


シャーーッとユージーンを威嚇するようにに鳴く。


しかし、ユージーンは動じることなくじりっと距離を詰める。タカは入口の陰に隠れて、戦況を見つめている。

確実に両者は互いの射程距離に入っている、しかし動きはなく、明らかに最大限の警戒をしている。



広場で相対してから、どれだけの時間が過ぎただろうか。僕はきっかけを探していた。馬鹿みたいに襲ってきてくれたらカウンターで一撃を入れてやれるのになあ。とりあえず距離を詰めて魔物の本能というか、反射的な攻撃行動を刺激してみようかな…



ウィタワットは迷っていた。目の前の少年は自分に敵意を向けているにも関わらず、その手には何も持たず、今まで相対した人間とは明らかに違っていた。そしてその人間はジリジリと距離を詰めてきている。




ユージーンが間合いを詰め、ウィタワットとの距離が15メートルくらいになった瞬間、突然その戦いは終わりへと加速した。


先に仕掛けたのはやはり魔物、ウィタワットだ。防衛本能。敵意を持った者の侵入を許すことが出来ない限界にユージーンが踏み込んだその時、ギャーーーーッと叫び声を上げ、目の前に身の丈ほどある大きな魔方陣が現れる。ブーンという低い音と共に魔力が高まっていく。





ーヤバいっ、来たっ!魔方陣!発動は?遅い!多分強いやつだ!

タカさんによると魔法は炎、雷、あと勘だけど風もある!

あれは何魔法!?見たことは?ない!分かんない!?

距離をとんなきゃヤバい!

バックステップで下がる!


来い!魔法障壁G8!


指を鳴らす


パチン


青白い光がユージーンを包み込む。


よし、来た!!攻撃は?来る!

炎魔法だ!


耐えられるか…?多分ギリ?でも突っ込んできたらどうする?

ダメだ!来る!ー



ドヴァッシャーーーン


ウィタワットの前に現れた魔方陣から赤黒い炎が放出される。


ー加護持ちの魔物が使える魔法の中でも最大級の威力を誇る《黒の魔焔》

過去に200年の魔法史でこの魔法の使用が確認されたのは12回あるが、ユージーンがその魔方陣を見たことがないのも無理はない。陣を直接見たものは全てその直後に死んでいるからだー


魔焔の発動と同時に巨大なキメラはユージーンに向かって突撃をかける、敵は後退と同時に見たことのない青白い光で身体を包むのが見えた、炎だけでは倒せない可能性を理解したのだ。

突撃をかけながら新たな魔方陣を錬成する。

炎で動きを止めて、体当たりと風魔法で体勢を崩した所にもう一度魔法を撃ち込む、これがウィタワットが考えた攻撃だ。

キメラであるため、身体能力は人間に劣るはずもなく、魔力での強化も可能。であれば、この間合いで攻撃がかわされることは万に一つもない。

武器を持たない小さな少年に対して最大限の警戒を払い、過剰とも思える程の全力の攻撃をしかける、それは魔物の本能とウィタワットの知能の高さがなせる業だと言える。








しかし、少年はその力を上回る。










ー来た、黒い焔!?マジでヤバいヤバいヤバい、障壁もう一枚?

いや、突っ込んできた!!!違う魔方陣も2つもついてる!

あれは?風っぽいのと…雷だ!知ってる魔法!


あいつ正気か?あれタカさんもヤバいぞ!?

いや、でもこれを凌げばこれ以上の攻撃って理論上来ない!?来ない?



来ない?


いや違う!


来てほしくないだけだ!


来る!可能性がある!


来たら死ぬ!


その前に見えてる未来を潰す!ー





ユージーンは両手のひらをパンっと叩いて魔方陣を盾にし、前方の黒の魔焔にぶつける。


ドスンという重い音をたて、高密度で小規模な超爆発が起きる。


相殺し切れず、黒い焔がユージーンの魔法障壁を侵食していく。



ー強い!でも予想の範囲内!いける!ー



ユージーンは焔に焼かれながら後ろに飛び、二度手を叩く。




パンッ





パン




一度目は炎の魔法、二度目は風の魔法だ。ユージーンは魔方陣を二つ背負う形でウィタワットを迎え撃つ!




ドガッ!!



バックステップで拡げた間合いもお構いなしにウィタワットが身体をぶつけ、発動した風魔法でユージーンの身体の自由を奪う!直後に雷の究極魔法《Cats & Dogsー土砂降りー》が発動する





ユージーンはニヤリと笑い、指を鳴らす。







パチン









瞬間、キーンという超高音の爆発音が鳴り響き、光の柱が天を衝く。






光の柱に触れたウィタワットの左半身が消えた。




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