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手ぶらの魔法使い  作者: 手ぶらの魔法使い
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手ぶらの魔法使い その2

昼を過ぎる頃にはハリソンまであと二時間くらいの所まで二人はたどり着いていた。トントン拍子に話が進み、午前中の早くに王都ビスコナを出た事を差し引いてもタカの予定よりかなり早いペースで進んでいる。

ハリソン村への道中、タカはユージーンの力の片鱗を目の当たりにしていた。


まず驚いたのはその魔法の使い方だ。



ービスコナを出てしばらく歩くと割りと遠くで荷馬車をつれた商人と戦士の二人組が二匹の狼と戦っとった。

一匹は魔狼になりたてで、もう一匹はまだ一歩手前というところやった。

手助けしようかどうかと考えとったんやけど、戦士が狼とやりあっとるうちにこっちに気づいて、「逃げろー逃げろー」と喚いとったわ。

まぁ、子供と普通のおっさんやと思ったんやろ見た目はその通りやし、そらそうやろ。

そしたら魔狼の方がこっちに向かってきて、わっめんどくさって思ったんや。オレもギルドマスターやから、しょうもない魔狼なんかチンチンにしたるわ、と背中の槍を手にとって構えようかな、どうしようかな、ユージーンもおるしな、って考えてちょっと横を見てたんや。

そしたら大々的30メートルくらいかな、それくらいの距離に近づいて来た時にあいつがニヤリとして言うたんや、


「タカさんは下がってて下さい」


なんでやねん、お前手ぶらやんけ、最初はね、森の木かなんかで簡単な杖でも創るんかいなとか思ってたんやけど、そんなんもないしどうすんねん、と。


いや、逆に素手でも戦えるとかそういうことか?確かに、魔狼くらいなら魔力パンチ魔力キックでなんとかなるな…


とか考えてたらあいつは指パッチンしよったんや。


そしたら魔狼の下に魔方陣が出て、炎の柱がドバーッっと上がって狼さんは一瞬で丸焦げよ。

もうね、おじさんは驚いたよ。そら驚くよ。


まずね、その魔法ね。明らかに直径2メートル、高さ5メートルのやつ、ランク3のやつ名前忘れたけど、通称・エンチュー。

大体は杖とかそういうのに、魔力を込めて大体の場所に魔方陣を錬成、そこからドバーで大体5秒、これが普通よ。

それがね、にこって笑って指パッチン。0.1秒やな。

んなアホな。


んでね、その威力よ。いやいや、一瞬で丸焦げて。多少燃えてのたうち回るのが相場ですわ。火力は5倍やな、知らんけど。


商人と戦士にお礼を言われたんやけど、もはやそんなんどうでもよかったね。気になってしゃあない、ユージーンが。


色々聞いたところ、小さい頃からお勉強に関しては凄まじく優秀やったんやけど、何故か10歳になった頃から魔力も大変な量になってしまったらしい。そんで魔方陣の錬成に杖とかがいらんくなって、指パッチンでいけるようになった、と。もちろん、魔法の勉強はかなり頑張ってやったと言うとった。


ほんで、道中肩慣らしで色々使っていくから楽しみにしといて下さいってことやったわー



トンデモ屋から持って出てきたパンとハムを食べて午後からの行軍を開始する。

しばらく歩いたものの、二人は元気だった。道中は一本道がほとんどなので、魔狼との一戦後タカはユージーンを先に歩かせ後ろからよく観察していた。



ー歩き方には無駄がない、足取りはめちゃ軽い。まだ身体が出来上がっていないから体重も軽いんやろう、そして多分、というか明らかに極微量な魔力を垂れ流しながら歩いたり走ったりしとる。あれや、勝負どころで瞬発力上げたりするやつ。あんな少しずつ出すとかめっちゃ難しい。いや、オレも出来るけどね、殆ど使ったことないよ?使ってるのもあんま見たことないよ?

魔法使いってそんな凄かったっけ?

魔狼の他に4回、合計7匹の魔物が襲ってきたりした。見た目は子供やから、舐められるんやろな、かわいそうに。

最初は指パッチンで氷の魔法、2回目は雷の魔法、3回目はエンチュー。最後は珍しい魔物が襲ってきた、角が高く売れる大きな猪ジーボーアだ。ユージーンは角を傷つけたらアカンって思ったらしく、見たことのない風の魔法で角だけ切った後、エンチューで丸焦げにしとった。


魔物からの剥ぎ取った角をどうするんか見とったけど、ポケットに入らんからオレに持っといてって、なんでやねん、ほれみい、カバン持ってこいやー





ハリソンまであと一時間くらいというところで、別れ道に出会う。看板は右がハリソンと書いてある。左がハリトノ西大教会に続いているようで、侵入禁止の杭が立っている。タカさんが言うにはここから2時間ほど進んだ地点から、ウィタワットの縄張りに沿って杭が並んでいるらしい。


「ねぇ、タカさん。このまま左に進んで縄張りまで行くとウィタワットが襲って来るんですかね?」


「いや、そういうわけでもないで。わりかし近くにおったらやってくる事もあるっちゅーくらいやな。そんなヤバいやつちゃうで、ガチでやりあったら勝てへんってことでランク7やけどな」


「じゃあさ、ちょっと行ってみていいですか?」


「そりゃ、まあ、ええけども。疲れてないんか?いざ出くわしたら大変かもしれんで?オレ逃げるで?」



「まあ、なんとかなるでしょう、全然疲れてませんしね」


返事を待たずに杭を乗り越えて進んで行く。



森は分岐点を越えてから明らかに静かになった。鳥の囀ずりもなくなり、風が木を揺らす音も心なしか小さくなった。

多分もうここら辺はウィタワットの力が及んでいる範囲なんだろう、タカさんも緊張しているように見える。

どうしようか考える。

ここから引き返して、ハリソンで一日休んで明日アタックというのが当初の予定だ。

でもまだ明るいし、二人とも元気だ。

ウィタワットが想像を超える強さだった場合は即逃げでなんとかなる。

タカさん曰く、タカさんでも縄張りの一番深いところから全力で逃げれば逃げ切れた、らしい。

そもそもウィタワットは逃げる者にあまり興味を持たないっぽかった。

それを聞いてからずっと頭に引っ掛かっている。


「タカさん、ウィタワットって倒す必要あるんですかね?」


「ん?なんや?急に」


「ウィタワットってそんな悪いことしてないですよね、だから今、軍からもハンターからも放置されていてギルド受けになってしまっているし、タカさんは受けて調査はしたものの今日まで手を着けていない」


「ああ、まあ当然の疑問やな。オレがユージーンにした話を総合すると、あえて倒す必要はないように思って当たり前や。よう分からんけどな、あいつは加護持ちでバリバリ強いのは間違いないんやけど、そんな凶悪でもないみたいや」


「でも倒したいんですよね、依頼主さんは」


「そうなんやろな、依頼主は国と村やな。古代の交易路の復活のためってことになっとるな」


「おかしいですよね、それ。あの教会って何かあるんですかね?タカさん知ってますか?」


「なんのこっちゃ?」


「縄張りからは出てこない、逃げればなんとか逃げ切れる、こちらから近付いていかなきゃ何も問題はない。でも、高い報酬を出して討伐を依頼するビスコナハリソンがある。

交易路って言ってもそんな近くになるわけでもないですよね?実際に今日歩いてきて分かりました。もう1つ三角形の位置に依頼主がいれば分かるんですけど、地図的にあそこって山の麓ですよね。山を越えて隣国のルビーカと繋げる事も、今は迂回路や宿場町の整備が進んでいることからも必要性を感じません。じゃあ、教会自体に何かあるのか?と考えてみたけど、僕の知る限りでは歴史の表舞台にあの教会が出てきたことはなかったと思います」


タカさんを見てみるけど黙ってついてくるだけで、何も言わない。


「もうこうなったら逆に教会に何かあるって考えるしかないですよね。僕も結構マジメに勉強してきましたし、歴史も年の割にはよく知ってる方だと思います。それなのに特に重要な歴史のない教会を取り返したがっている。ビスコナ教の聖地というわけでもないですしね、教会自体に何かあります」


そこまで話すとタカさんが口を開く。


「やるやんけ、その通りや。あの教会には何かあるわ、間違いない。重要なことがあるらしいんやけど、何かまではオレも知らん」


タカさんは知ってる事を教えてくれた


「ハリトノ西大教会はただの放棄された集落だった。100年くらい前に火事があり、それ以来特に復興もせず野盗や魔物が代わる代わる住み着いとった。ずっとそんな感じで放棄されとったけど、4年前にウィタワットがどっかからやってきたのか生まれたのか、現れた。んで、そのタイミングで村と国が何故か急に討伐の依頼を出してたってのが通説や」


僕は話を聞きながら歩を進める。森もタカさんの話を聞いてるみたいに静かだった。


「通説ってことは、裏の話があるってことで、裏の話はオレも全部知らんのやけど、とりあえず依頼を高ランクのギルド受けにして宙ぶらりんにしとけっていう指示やったんや。そもそもランク7やからそんなチャレンジャー殆どおらんし、ギルド受けにしてしまえばオレを通さずに行くやつなんか皆無や。実際今のところ誰もおらんかったわな」


「でも僕は今からウィタワットの所、教会へ向かっている」


「そう、ギルド受けを流す条件がなんやとりあえず強くて、教会の秘密を守るために少数精鋭で、とかそういのやったんや。んで、レター見る限り多分マキロイはそのうちこれやらせるつもりなんやろ、と思ったんや、勘やけどな、ピーンと来たで。最悪逃げればええんやし、倒せんかったらそれまでやし、倒せたら教会の秘密をゲットや!と思ってたら初っぱながこれやった、いうわけや」


「へぇ~なるほど、そんな裏話があったんですか。そして、何も分からないけど、何かがあるってのは間違いないってことですねハハッ」


僕は好奇心を押さえきれずに笑った。教科書や辞典には載っていない生の知識、歴史が目の前にあって、手を伸ばせばそれに触れることが出来る、かもしれない。

わけの分からない魔力に悩まされたこともあったし、人より何でも出来ることでやっかみを受けたこともあった。

でもそんな中でサボらず、ねじれず、自身を損なうことなくやってきたのはこの日のためだったと、この上なく上手に生きてきた自信もあるし、運命すら感じる。

たとえそれが全て偶然であっても、別に気にしない。


「タカさん、とりあえず教会までこのまま進みましょう。途中でウィタワットが出てきたらその時考えます」


「お、おう。なんかお前キラキラしてるな」









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