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手ぶらの魔法使い  作者: 手ぶらの魔法使い
2/22

手ぶらの魔法使い その1

ユージーンが初めてギルドの仕事をこなしたのは今から3年前、彼が12歳になり、初等学院を卒業した翌日だった。

ビスコナでは法律によって初等学院を卒業するまでは全てのギルドの仕事を禁じられていた。

中等学院への入学を控えた冬休みに彼はギルドを訪れる、手ぶらで。







カランコロンカラン



「はい、いらっしゃい!」


ドアが開き、朝早くまだ誰もいないギルド《トンデモ屋》にマスター・タカの声が響き渡る。

タカは入り口に佇むユージーンの姿を見て驚く。


ーえらい小さい子が来たな…卒業したてで小遣い稼ぎにでもきたんかいな?ー


「どうした?坊主、ここはお子様がくるようなところちゃうで?もう少ししたら荒っぽい連中もやってくる、からかわれんうちに帰ったほうがええで」


ユージーンは気にせずタカの座るカウンターに向かって歩を進める


「えーっと、ここで仕事ができるって聞いてきたんです、お使いとかそういうのじゃなくて、ちゃんとした仕事が…」


「おう、確かにその通りや。ここには仕事がある、でもな、うちには《坊主みたいなのがお小遣いを稼げるような仕事》はないんや」


ーほれ、さっさと帰るんや、開店準備で忙しいんやー


ユージーンはめげすに食らいつく。

「いや、あのー、僕、兵隊長のマキロイさんに紹介されてきたんです…初めてだからマスターのタカさんに色々教えてもらえって。あ、すみません、僕はユージーンって言います、タカさんって方はいますか?」


タカはマキロイの名前を聞き、スッと姿勢を正した。


「おう、オレがタカや。坊主、いやユー…」


「ユージーンです」


「ユージーン、いくらマキロイさんの名前を出しても流石にそれだけで、はいそうですかというわけにはいかへん、何か紹介状みたいなもんはないんか?」


ー見るからに手ぶら、何も持ってきてねぇ時点でこいつはイタズラかなんかやろ、そらそうよー



ユージーンは右手の薬指にはめた指輪をタカに見せながら言った


「ああ!紹介状はないんですが、このレターを見せれば大体話が通じるとマキロイさんは言ってましたね、ちょっと待ってて下さい」


ユージーンが右手をカウンターの上にかざし、指輪に力を込めると指輪から光が溢れカウンターに映し出された。



ートンデモ屋 マスター・タカ殿


2月1日、初等学院の卒業式翌日トンデモ屋に一人の天才魔法使いを遣わす。

その名はユージーン・マザ。まだ12歳になったばかりだが、近日中に史上最年少でランク8の《魔法使い》になることが魔法議会で既に確定している。

先日、バッバ国王陛下と魔法議会は国策としてユージーンの仕事のサポートをすると決めた。またユージーンもそれに同意しているので、トンデモ屋での仕事を主に請け負わせることとした。


と、いうことなのでお前が守るべきことを列挙しておく


・ユージーンの言うことを聞くように

・仕事はユージーンに自由に選ばせるように、特定の仕事に便宜をはかることを禁止する。違反があった場合はトンデモ屋を解散する

・ユージーンを迎えるときは彼に失礼のない対応をすること、万が一粗相をした場合はビスコナが全ての力をもってその始末をつけることとなっている

・お前がユージーンに何かお願いをする事を禁じる

・ユージーンの特権は他言無用、万が一漏れることがあればトンデモ屋を解散する

・自然に噂は拡がると思うのでそれに任せること

・ユージーンはまだ仕事の相場が分からないため、報酬は相場に照らし合わせて適当な額を満額支払うこと。不正があった場合はトンデモ屋を解散する

・大体のギルドの仕組みとかを教えてやってくれ


追伸

ランク8の魔法使い級とはいってもまだ12歳のため、色々フォローしてやってくれ。あと、ユージーンは魔法の才能のみならず、頭もとてもキレる、下手な嘘や誤魔化しはきかないと思っておけ。ちなみに彼の両親はともにごく普通のランク4の魔導士で町で医院をやっていてこのことも知っている。よろしく。


以上 国王軍第二兵隊長 ショーン・マキロイー





タカはカウンターに映し出されたレターを

じっと読む。短くやたらと砕けた文章であったが、文末にしたためられたサインと王家の紋章の輝きがこのレターが本物であることを物語っていたし、タカはそれを理解していた。


ーとんでもないものを見てもうたな…この坊主ホンモノなんか。怒ってへんかな?大丈夫かな?いや、そんな怒られてもしらんわな…


「の…、あの、タカさん?信じてくれましたか?マキロイさんからもらったレター読んでくれました?僕はこれ読めないんですけど、大丈夫っぽいですか?」


「お、おう、疑って悪かった。ほんまにすんませんでした。ちょっと待っといて下さいませ、はい」


タカは表に出て営業中の看板を引っ込め、すぐに戻ってきた。


「ユージーンさん、こちらへどうぞ、お座り、お掛けください。何か飲まれますか?お召し上がりになりますか?」


タカは普段は酒場として使っているテーブルにユージーンを案内した。


「あ、すみません、ありがとうございます。じゃあ、温かいチョコを頂ければ、あとそんなかしこまらずに普通に喋って下さい」


レターの中身を読めなかったユージーンだが、タカの様子を見るに何となくマキロイがやりすぎた内容だということを察した。

しばらく待つと、ホットチョコドリンクと紙の束を持ってタカがテーブルに戻ってきた。


「はい、どうぞ召し上がれ!実はホットチョコドリンクはうちの隠れ名物なんや、荒くれもの達はめったに頼まへんからそんな出ぇへんけどな」


ユージーンはいただきます、と一口ホットチョコをすする。タカの言う通りで確かに美味しかった。


「よし、ほんならまずはこれから見てもらおか」


タカに差し出された冊子をユージーンは手にとって読む。表紙に【トンデモ屋入門】と書かれたその冊子にはギルドの基本的な事が記されている。内容的にはそれほど多くなく、ハンター登録の方法、仕事の受発注の方法、報酬の値交渉の裏技などが主なスペースをとっている。

仕事にはギルドや国によってランクが設定されていて、高ランクの仕事をするには相応の実力が必要で、そのためには自身の力を高める必要がある。大体の場合はギルドのマスターが適正を見極めて無謀な挑戦を防いでいるが、特別な認可がある場合や実績があるハンターの場合はこの限りでない。


パラパラと二度目を通してユージーンは冊子を閉じた。

「はい、タカさん、大体分かりました。まずはギルドにハンター登録しないといけないんですね!その後、今募集がある仕事をコツコツこなす、ということですね」


「そう、その通り。普通はそうなるんやけど、ユージーンの場合はなぁ… まあ、ええわ、ちょっとこれ見てみ、出来たら最後まで、な」



タカは別の冊子をユージーンに渡す。今度はとても分厚い赤茶色のもので、冊子自体に魔法がかかっているようだ。

ユージーンは魔法の本を見つめ、ページをめくっていく。依頼書だ。


それぞれのページには見開きで依頼の概要、ランク、依頼人、報酬、地図等が記されている。本の前半は人探しやもの探し等のランクの低いものが並び、ページが進むにつれてランクが1から順に上がっていく。宝探し、商隊の護衛や魔物の退治、国王軍の傭兵なんかも出ている。最後のランク8になると伝説の武器の眠るダンジョンの攻略、古代魔法の復活、はたまた幻のドラゴンの討伐等、実在が怪しい仕事なんかもあった。

ドンドン流し読んでいき、最後のページをめくるとそこには【魔王の討伐】というものがあり、内容は白紙だった。



「よし、一通り目を通したか?」


ユージーンはこくりと頷く。


「まず、最後のランク8まで読めたことにオレは驚いとる。これは、オレが楽するために、読む人の大体の強さに応じてページが増えていくように作ったもんなんや。強さとか、器用さとかそういう仕事がこなせそうな力に応じてな。ユージーン、お前さんは今日初めてここへ来た、にも関わらずほぼ全てのページが開いてもた。こら凄い」


ユージーンはへぇ~そんなものが作れるのか~という顔で本と興奮するタカを交互に眺めている。


「んで、大事なのはここからや。ぶっちゃけ、読んでみてどれくらい出来そうやった?正直、ランク7とか8のレベルっちゅーのはオレもちゃんと調べてないから、明らかにヤバそうなのを適当に設定しとるから殆ど開くことはないんや。オレからしたらこんだけ開くんやから、ランク6は問題なくいけると思うわ、確実に」


タカは興奮しながらまくし立てた後、自分をじっと見つめるユージーンに気付き、はっと我に帰った。

その姿を見てユージーンはふっと笑いながら尋ねた


「タカさん、逆に、逆に聞きたいんですけど、今日初めて来た僕はなんかがランク6とか8とかそういう仕事を受けられるんですか?」


タカは即答する


「もちろんや、レターにはその辺の事も書いとったわ。普通は依頼主の信頼がないと無理やから、《ギルド受け》してお前さんに仕事を流す事になるな。ギルド受けのとこは読んだか?」


「ああ、ありましたね。ちょっと割に合わなくて皆が敬遠してる仕事をギルドマスターが受けて解決しちゃうって書いてました。なんにしても解決すればギルドの評判が上がるからって、ギルドマスターが自腹を切って補填してるって」


「そうそう、そんな感じや。お前さんに流す時はそれでやろう。これやったらいきなりランク7でも8でもやれるわ」


ユージーンはその答えを聞いてうんうんと頷き、目を輝かせる。そして魔法の本をパラパラとめくり、あるページで手を止めた。



「じゃあ、とりあえずこれにするよ!さっき見たときにピンと来たんだ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【魔物討伐(加護持ち)】

ハリソン村の西、ハリトノ西大教会跡地に巣食う大型のキメラ《ウィタワット》一体の討伐

<ランク>

★★★★★★★☆

<依頼人>

ギルドマスター・タカ、ハリソン村、ビスコナ王国

<報酬>

金貨5枚 特別褒章 戦利品全ての所有権

<備考>

・縄張りは立ち入り禁止区域であるため一般人への被害は皆無に等しいが、古来の交易路復活のため有志による討伐を期待する

・それなりの素早さがあれば逃げることが可能

<地図>

ギルドマスター・タカが現地まで案内


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



タカはそのページを見てまた驚く。


「マジか!?いきなりランク7かぁ~しかももうすでにギルド受けしとるやつか。確かに話は早いし、こいつやったら最悪逃げれば追っかけてこんしな…」


ユージーンは嬉しそうにタカを見つめる


「でしょ?なかなか良さそうでしょ?逃げられるってのが大きいですよね、初仕事で死んじゃったら笑えないし」


タカは一瞬迷ったが、国のお墨付きを受けた天才魔法使いが相手ということで心のどこかに前向きに考える自分がいる事に気づく。本当に最悪の場合は二人で逃げればいいだけだし、事実ウィタワットから過去に調査の際に二度逃げてきた経験もある。


「ユージーン、加護持ちの事は知っとるんか?」


「もちろん、学校で習ったよ。たまに魔王の魔力と凄く共鳴する魔物が出てきてかなり強いんでしょ。魔導士でいうとランク6,7が20人がかりでやっと倒せるかどうかというのが一番弱いくらい、そして加護持ちの魔物は目が銀色」


タカは頷く


「まあそんなところやな。オレもこいつは実際に見たことあるからなんとなく強さは分かるんやけど、多分ユージーンなら死ぬことはないわ。少なくとも逃げることは可能や。ほんなら、これやろか?」


タカは自分に言い聞かせるように尋ねた。



「もちろん!契約成立!」



ユージーンはにこっと笑った。



「でさ、タカさん、もう僕さ、早速今から行きたいんだけど、何か必要なことあるんですかね?」


「え?今から?ホンマ?最短でも三日か四日くらいかかるで?」


「問題ないです!今冬休みだし、むしろどんどん数をこなしていきたいんですよ!」


「マジで?親とか大丈夫?いや、大丈夫なんか、ギルドどうしよかな…ボーイに任せてなんとかなるか、よし、いけるな。よし、行こう、まぁハリソンに泊まればなんとかなるわな」


「僕はいつでもオッケーですよ、行きましょう」


タカはバタバタと準備を始め、ちょうど出勤してきたボーイに色々指示をして、ユージーンと一緒にさっさっとギルドを出た。


「おい、ユージーン、お前さん家はどっちや?戻って準備せなアカンやろ?」


「いや、いいですよ、親にはしばらく帰らないって出てきましたし、お金もある程度持たされました。このまま行きますよ!」


「いやいやいや…」


ーお前手ぶらやんけ…着替えとかどうすんねん、そもそも杖も持ってないやん…


タカは色々言ってやろうと思ったが、年甲斐もなくちょっとワクワクしたのでやめた。






A mani vuote アマニヴォーテ

手ぶらの魔法使いの最初の仕事が始まった


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