第4話 旅立ち
「あんた、《ヒーラー》ってことは、やっぱり、あんたも《ソーサラー》の1人なのか?」
これは、ブランが出会ったときから聞きたかったことだった。
《ソーサラー》と言うのは、この世界を現在進行形で統治している《五行連盟》が行う審査に合格する、もしくは、任命された魔法使いのことで、様々な権利が与えられる。
わかりやすい例を挙げるなら、《五行連盟》を運営している5つの国と、加盟しているその他の小国の出入りが自由になる。
「いえ、僕は《ソーサラー》ではありません。ふつうの魔法使いです」
「少なくとも、ふつうの魔法使いではねぇよ。しかし、不思議だな。あんたほどの腕なら、向こうからスカウトがきてもおかしくないくらいなのに」
そうなのだ。彼が使う治癒魔法と言うのは、魔法の難易度の中でもトップクラスの《A級》とゆう位が設定されている。
この級とゆうのはAからFまであり、ほかの魔法。例えば炎魔法などでは、炎魔法の規模などによって、《級》が設定される。
わかりやすく言うなれば、炎魔法は火花を起こせたらF級で、爆発を起こせたらC級とよばれる。
それに対し、治癒魔法は、使えただけで…、たとえそれがどんだけ矮小な治癒魔法でも《A級》と言われるのだ。
そして、この治癒魔法は使えただけで《ソーサラー》になれる。
《級》と言うのを、わかりやすく説明すると、
《A級》最上級の魔法。これを使えただけで歴史に名が残るレベル。しかし、使えるものは世界にも十数名ほどしかいないとされる
《B級》難しいがほとんどの人は努力すれば使えるレベル。しかし、使えるようになるまでの努力には個人差がある
《C級》・《D級》主に、軍の兵士などが使うレベル
《E級》日常生活で使用できるレベル
《F級》E級未満の魔法
とゆうような感じになる。
もちろん、この《級》を定めたのも《五行連盟》である。
なので、ブランは、てっきりウォーカーも《ソーサラー》だと思ったのだ。
「僕は自由に旅をしたいので」
にこやかに言われた。
この反応をみるに、今までも同じ事を言われたことがあったのだろう。
「確かに、《ソーサラー》になったら色々あるからな」
《ソーサラー》とは、《五行連盟》の命令に逆らえないようになっている。
それもそうだ。《ソーサラー》になれるのは、最低でも《B級》以上の魔法を使う魔法使いたちだ。
そんな魔法使いたちが反乱してこないようにある程度の餌を与える、とゆう意味も、この《ソーサラー》制度にはある。
「じゃあ、あんた、今までどうやって旅してきたんだ?」
《ソーサラー》になると決して少なくない量の金が《五行連盟》から支給されるし、国境の出入りが簡単になる。
では、《ソーサラー》ではないウォーカーはどうやって旅の資金を集めたり、国境を越えたりしたのだろう、とブランは思ったのだ。
「親切な人が助けてくれました」
その言葉を聞いて、ブランはだいたいわかった。
おおかた、旅の行く先々で、リアのような人たちを救ってきたのだろう、と。
「よし!これで俺からの質問は終わりだ。悪かったな、色々聞いちまって」
つい、好奇心のあまりに質問ぜめにしていた。
「大丈夫ですよ。では、今度は僕が聞いても良いですか?」
「あぁ、かまわねぇが?俺らの話を聞いてもおもしろくな──」
「何でも聞いて!」
と、急に復活したリアに、言葉をかき消されてしまう。
ウォーカーは驚いた様子も見せず、
「では、ここから次の目的地にふさわしい町はどこですか?」
それを聞いて、2人はハッとした。
この旅人がいつまでもこの家にいるわけがないことを、思い出したのだ。
「も、もう、ここをでるの?」
思わずと言った調子でリアの口から漏れた。
「今すぐと言うわけではありません。しかし──」
「ここにいようよ!この村にだって良いとこいっぱいあるからさ!一緒に暮らそうよ!」
旅人の言葉を遮って、リアが笑いながらも、どこか悲痛の色を感じさせる声でしゃべった。
「僕は旅をしなければなりません。ここにとどまることはできないんです」
ウォーカーは笑いながら、しかし、きっぱりと言った。
リアは泣きそうな表情になると、外に飛び出していった。
慌てて、追いかけようとするウォーカーをブランは止めた。
「ほうっておいてやれ。今追いかけても傷つけあうだけだ」
ウォーカーは、寂しそうに座り直す。
ブランは言った。
「次の町だったな?それなら、《シャルアート》に行けばいい」
ウォーカーも、切り替えたように訪ねてきた。
「《シャルアート》とは?」
「ここから、すこし離れた町でな。うちの野菜もそこに売っている。
あそこは職人と商人が人口の大多数を占める、芸術と商業の町でな。あの町にしかない、商品や芸術品、魔法だってあるかも知れない。
いってみたらどうだ?」
「ありがとうございます。その町には、歩いてどれくらいでしょうか?」
恐らく、事前にどれくらいかかるのか知っておいて、食料などの準備をしておくのだろう。
「歩いたら3日はかかるだろうが、大丈夫だ。うちが出荷するときの馬車に乗せてやる。本当だったら、後1ヶ月は出荷しなくていいんだが、今回は特別だ。明日の朝、妻に送ってもらうよ」
「ありがとうございます!何から何までお世話になりっぱなしですね」
旅人は笑った。
「娘の恩人だからな」
ブランもつられて笑った。
「色々お世話になりなました!ありがとうございました!」
馬車の荷台から旅人がゆう。
「こちらこそ!娘をたすけてくれてありがとよ!シャルアートには、今から出発したら、夕方頃につくはずだ!」
「わかりました!では、またいつか!」
「達者でな!」
ホース系のモンスターに引かせる馬車はどんどん小さくなっていった。
しかし、見えなくなるまで、ウォーカーは手を振っていた。
そして、ブランは馬車に乗っている3人目を思って
「しばらくは2人だけの生活になるな」
と、笑いながら言った
*
家を飛び出て、小高い丘に座り込んでから、しばらくしたあと、お父さんがきて、私の横に座る。
慌てて涙を拭ったが、隠せてなかったかも知れない。
「あいつのことが好きか」
突然だったことと、そのあまりに直球過ぎる言い方は、リアの心に刺さった。
「わかんないよ。あったばっかなのに、誰かを好きになったこともないのに」
お母さんによく、悲しいときや落ち込んだときだけ口調が女の子に戻るわね、と言われていたのを思い出す。
「あいつについて行きたいか」
リアはハッとした。おそらくこの質問の返答次第でこの未来が大きく変わるような気がした。
「ついていきたいよ。私、旅人さんの言葉を聞いてて思ったんだ、旅人さんは世界が広いんだなって。
色んな世界を見てきて、いろんな事を経験してきたんだって。
私は、それを知らないことがとても悲しかった。
それで、これからも知ることができないって思うと涙がでそうだった。
知りたいと思った。彼に追いつきたいって思った……!
だから、私はついて行きたいんだ!
彼の知っている世界も、これから知る世界も知りたくて!
そして、私にしかわからない世界を見つけたいんだ!」
「じゃあ、行ってこい」
あまりにも軽く言われて拍子抜けするリア。
「いいの?」
「行きたくないのか?」
「行きたいけど……」
「じゃあ、行ってこい」
同じことを言われた。
そして、決心は付いた。
「うん!」
私は力強く頷いた。
と言うやりとりを、馬車の隅で息を潜めながら、リアは思い出していた。
一応、旅人さんには内緒なので、すこしでも、連れて行ってくれやすいように、馬車が家に帰ったあとに旅人さんの前に姿を表そう、と考えてはいる。
しかし、リアの頭の中は、故郷を去って親に会えないというのに、寂しさを感じていなかった。むしろ、ワクワクしていた。
──これから、私たちはどんな世界を見て回れるかな
もちろん、私たちとは、旅人さんと自分である。
リアは、まだ見ぬ三千世界に夢を馳せながら、心地いい馬車の揺れに身を任せ眠った。
*
──まったく、ブランさんも困った人ですね。一人娘をあって数日の見知らぬ旅人に預けるなんて
ウォーカーは苦笑しながら馬車からみる景色を見ていた。
ウォーカーはまだ見ぬ三千世界に夢を膨らませながら、かわいい寝息が聞こえる馬車の荷台から、外を眺め続けた。
読んでくれてありがとうございます!
次からは、違う町でのストーリーが始まります!
お楽しみに!
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