第二話 ヒーラー
続きです!
ブランは本物の治癒魔法を昔見たことがあった。
あれはまさに奇跡だった。そう思わせるほどに治癒魔法は美しかった。
だから、この男が違う魔法で誤魔化そうとしても、見抜く自信があった。
そして、だからこそ驚いたのだ。男が本物の治癒魔法を使ったことに。
「やりますよ」
そう言って、男はブランが出した腕に手をかざした。
ブランの腕には、今日できたばかりと思われる切り傷があった。
「動かないでくださいね」
「わかったから、はやくしてくれ」
ブランは少しいらだちながら言った。男が治癒魔法を使えると言ったことを少しも信じてないのだろう。
「では……」
少し間をおいた後、男が唱えた。
「ヒール」
すると、男の手と自分の傷がほのかな緑色の光を発していて、傷がドンドンふさがっていった。
「……………。」
ブランは口を開けたままポカーンと固まっていた。
ブランには、それが紛れもない本物の治癒魔法だとわかったかからこそ驚きを隠せなかった。
「………あの~?」
ハッと我に返ったブランは、すぐさま言った。
「あ、あんた!本当に《ヒーラー》だったのか!?」
「さっきから言ってるじゃないですか……」
ヒーラーは少し傷ついているようだ。
「すまない。疑って悪かった……」
ブランは頭を下げて謝罪した。
「ハハっ、冗談ですよ」
ヒーラーは穏やかに返した。
「それでは、娘さんのところに行きましょう。どこにいるんですか?」
話を切り替えるようにヒーラーは訪ねる。
「あ、あぁ。奥の部屋にいる、こっちだ」
ヒーラーを部屋に案内する。
広い部屋でもないので、娘はすぐに目に入ってきた。年は15歳くらいだろう、父親と同じ黒い髪で、熱があるのか、頬が少し赤らんでいる。
「これは……、病気と言うより小さな虫の毒ですね。娘さんも畑を手伝っているんですね」
感心したように、にこにこ笑いながら言われた。
ブランは別のことに感心していた。
「見ただけでわかるのか?さすがだな、ここ近くのやぶ医者は風邪って言ってやがった。俺は虫だと言ったんだけどな」
苦笑いしながら説明する。
「どうせ薬を出すのがイヤなんだろう。まぁ、咬んだのはおそらくワーム系のやつだろう、大した毒じゃない、解毒剤ものま──」
「いえ、これはワームと言うより、蛾のモース系ですね」
唐突にヒーラーがおかしなことを言う。
「それはない。ここらへんには、毒を持つ虫なんか芋虫のワーム系ぐらいだ」
「違います」
ヒーラーはきっぱりと言った。
「症状は似ていますが、これはモース系です。ワーム系は噛まれると熱と咳をだすだけで、こじらせなければ命に別状はありません。しかし、視るところ娘さんは咳をしていない。モース系の鱗粉を吸い込むと、熱や目眩、侵攻すると幻覚も見えてきます。娘さんの体のどこかに噛まれた痕はありましたか?」
──言われてみれば、無かったような気がする……
「……確かに、痕はなかった。しかし、ここらヘンにモース系がでるなんて話は聞いたことがない」
「そうでしょうね。そちらについてはまた後で話しましょう。今話すことはモース系の毒の効果についてです。モース系はヒドくなると幻覚をみるといいましたが、さらにそのまま侵攻すると失明をする危険があります」
「なっ……!」
ブランはいきなり失明なんて言葉が出てきて息をのんだ。
ブランが何かいう前にヒーラーは言った。
「大丈夫です、娘さんはまだ熱とめまいの段階です。ほうっておいても、失明に至るまではあと2週間はかかるでしょう」
「そんなこと言おうが!2週間の間に薬が手に入らなかったら──」
そこまで言って、ブランは思い出した。
「僕が何をしているかもう忘れたんですか?この程度の毒ならすぐに解毒できますよ」
安心させるように笑うと、娘に近づいていき、娘の手を握る。こちらにきいてきた。
「治療を開始してよろしいですか?」
なぜこのヒーラーの声はこんなにたのもしく感じるのだろう。そうおもいながら、ブランは頷いた。
「わかりました。始めます………。《ディティクス》」
さっきと同じように静かに唱えた後、紫色の光が娘のとヒーラーの手を包む。
しばらくして、光は消えた。
「もう大丈夫です、明日の朝には元の体調に治ってますよ」
ヒーラーは立ち上がると、笑いながら言ってきた。
「そんなにはやいのか?」
「はい、毒が初期段階ですし、娘さんはまだ若いので」
「そうか……」
ブランは安心すると、先ほどよりも深く頭を下げた。
「ありがとう、あんたは娘の恩人だ、この恩は─」
「じゃあ、決まりですね!」
いきなり言われて、なんのことだかわからなかった。
「ん?」
「だって、娘さんも治しましたし、泊めてくれるんでしょう?」
ニコッと笑いながら聞いてくる。
あぁ、そのことか。
「もちろんだ、いくらでも泊まっていけ!」
ブランは豪快に笑いながらゆった。
読んでくれてありがとうございます!
主人公の名前をまた出せませんでした……
申し訳ありません、次回こそはだすので!
ではまたあいましょう!