表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

竜との遭遇7

横穴から出るといつの間にやら、田中2尉がいた。

真剣な表情で携帯をいじっている。

普通ならば、メールでもしてると思うだろう。

だが、この島では携帯は使えない。アンテナがそもそも無いのだ。

外部との連絡手段は自衛隊専用の回線か両手の指に満たない数の公衆電話。因みに、公衆電話は海外通話と同じくらいの速度でテレカを消費する。長電話は死を意味するといっても過言ではない。

では、そんな中携帯をいじる意味はといえば、携帯に付加されている機能だろう。

カメラにワンセグ、ラジオは携帯から音が出ていないので却下。そもそも、ワンセグもラジオも東京タワーから千キロ以上離れている東京(住所的に硫黄島は東京なのだ)には電波は届きはしない。

さて、それ以外で使う機能といえば時計とアラーム、カレンダーと・・・・GPSだ。

GPS・・・グローバル・ポジショニング・システム (GPS: Global Positioning System,全地球測位システム)とは、地球上の現在位置を測定するための衛星測位システムの一つであり米国によって運用されるシステムだ。

簡単に言うと、自分の位置を教えてくれる物だ。

実際、僕も良く使っている。自生している唐辛子採集ポイントの登録やジャングルの散策、GPSログを使ったジョギングの距離計測等、ありとあらゆる事に使っている。

文明の利器って素敵、愛してる。GPS衛星打ち上げてくれた米国マジ感謝、抱かれてもいい。

と、田中2尉も携帯をポケットにしまいこむ。終わったようだ。

「終わりました?GPS?」

「・・・・・・・・・・・・」

あれ、いつも笑顔を絶やさない田中2尉の顔が何かこう・・・・怖いんだけどナニコレ?

えーと、何か地雷踏んだのでしょうか。

「・・・・・・・・」

沈黙が重い・・・。

「・・・・・・・・とりあえず、帰りませんか?」

「・・・・・・・・・・」

意味はわからないけど、そそくさと業務車に逃げるように早足で向かう。

ああ、背中に何か視線を感じる。

原因について考えると・・・・・・GPSだ。ドンピシャで当ててしまったらしい。

でもまあ、たかがそれがどういう意味を持つのだろうと首をひねろうとした瞬間・・・・・・全て悟ってしまった。

JDAMだ。

俗に言うGPS誘導爆弾。

衛星からの電波に導かれて、天候にも左右されず半径10m以内に命中する恐るべき兵器。

元々は米軍が使っていた。イラクやアフガニスタンで数多くの戦果を挙げた。そして、それは今は・・・・・航空自衛隊も試験を終え、運用している。

それを実際に使うのならば必要なのはGPS座標。誤爆を防ぐためならば重要だ。それが、携帯レベルの精度でも無いよりましだ。

勘違いであればいい。こんなのは冗談だったほうが良い。

だが、それは多分・・・・・・・期待を裏切られる。そんな気がした。

今までずっと無言だった田中2尉はポツリと呟く。

「君の思っていたとおりだよ。座標や方位を測っていた。後で詳しく話す」

気おされたように無言でうなずく。

無言で二人とも業務車に乗り込む。

田中2尉はハンドルに額を押し当てたまま考え込んでいる。

普段のヘラヘラ笑いながら即断即決している姿からすれば、違和感がありすぎる。

その姿を見て、地雷を踏む覚悟を決める。

「JDAMですか?」

「・・・・・・・・・・勘が良いのも考えものだよ。言葉はもう少し選んだほうが良い」

こちらを向き、表情を消したまま呟く。溜息をした。

「独り言聞いてもらってもいいですか。長くなりますが」

「・・・・・・・どうぞ」

そこからは、まさに僕の独演会だ。聴衆は田中2尉。

「まず、三沢(三沢基地。青森県)の3空(第3航空団)からF-2(支援戦闘機、俗に言う戦闘攻撃機)を百里(百里基地。茨城県)に。燃料補給後は硫黄島へ。硫黄島到着後に燃料補給、そして空輸していたJDAMをF-2に装着。F-2はそのまま離陸。硫黄島南側海上で待機後、連絡あり次第にトス・アンド・ロフト(上昇中での投げ上げ投下。人間が下手投げで投げるような感じで遠くまで到達する)により、目標の数十km先からの投下。目標の竜にはF-2の音が聞こえないように配慮、聞こえるのはJDAMの滑空し空気を切り裂いている音のみ。JDAMの目標は『戦車豪』の横穴。竜がスヤスヤ寝込んでいる至近にJDAMは着弾する。高性能炸薬の爆発は主に上に効果を及ぼしつつも、横穴にも効果を発揮する。音速などとは比較にならないほどの高速な圧力は竜に向け効果を及ぼし、痛みを知覚する以前に安らかな死を提供・・・・こんなところですか?」

「・・・・・・。出来ればそんなことはしたくないけどね」

田中2尉は僕の独り言を否定しなかった。否定してほしかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ