竜との遭遇6
当初は楽しんでた。竜に乗る機会など想像すら出来ない位貴重な体験だからだ。
最近では、アフガンで馬に乗って行動した米軍の特殊部隊がいたが、竜に乗った自衛官ってのはそれよりも稀だろう。
唯一の難点は、揺れだ。一歩歩くごとに結構揺れる。おまけに、周囲の光景に興味をそそられるのか頭がブンブン動く。乗ってる人間からすれば結構しんどい。乗り物酔いはしない性質だが、始終揺れたり、視界が動くのはやはり落ち着かない。
まあ、それは実は大した事じゃない。
困った事になった。
竜の頭に乗ってみたものの、誘導が出来ない事に気づいてしまった。
当初は左右の手を振り、その方向の道に行けと示そうと思っていたのだが、無理だった。
いや、竜が従わないというわけではない。
僕が竜の視界にいないということだ。
竜の目の配置はほぼ前側に2つ・・・距離を測るのにも左右の視界を得るにもちょうど良いくらいの位置だ。つまり、普通の生物とほぼ変わらない。
そして、普通の生物は通常・・・・自分の頭頂部の位置を見ることはできない。
だから、僕が手を振ろうが竜が気がつかないので意味が無いということだ。
幸いなことに道はしばらく真っ直ぐ進んでいれば良い。
放っておいても竜はわき道には入らずに、道を真っ直ぐ進んでくれている。竜が道という概念を理解してるのには少し驚いたが、そのほうが楽なので良い。
因みになのだが、竜が理解しているとかは、勝手に僕が勘違いしているだけかもしれない。でもまあ、ジャングルだろうが何だろうが無視して直進しないでくれるのはありがたい。
と、唐突にだが気がついた。
竜に対して誘導が必要ないかもしれない可能性を思いついた。
いや、竜が僕の心を読んでいるとかじゃない。もっと簡単な理由だ。
田中2尉が業務車で先導してるのだ。竜はそれについていっているに過ぎないに違いない。
何というか、深く考えていたのが馬鹿みたいだ。どっと脱力する。
さて、そろそろ右折・・・・・。
思ったとおり、業務車の後を追ってこちらは何もしていないのに勝手に右に曲がってくれる。
むう、楽チンだ。ぶっちゃけ、自分はいらん子かもしれん。
それから何事も無く、勝手に右左折してくれたので竜は目的地の「戦車豪」に到着した。「戦車豪」の形は漢字の「山」に似ている。下が南で上が北だ。
右下の突き出ている部分が入り口で、入り口以外の下の部分は10m程の壁になっているそこを入ったら少し広めの広間になっている。その広間からは横穴が三つあるという感じだ。
目の前にはハザードを焚いて停車する業務車。右手には崖を切り開いたようになってる戦車豪の入り口がある。
竜の頭をポンポン叩いて下ろしてもらう。・・・・そろそろ異常に正確に意思疎通が出来るのも慣れてきた。何というか、考えるだけ無駄だ。
さて、下ろしてもらったら早速竜を「戦車豪」の中に導く。入り口から入ると少し小さめな広間になっており、そこから3本の横穴へ行けるようになっている。そのうちの一つを覗いてみたが・・・・・。
・・・・・いつの間にか倉庫になっていた。古くなって使われなくなった官品(カンピン。官給品の意)のロッカーやら、ベッド等が所狭しと置かれている。本来は返納しないといけないのだが、離島という場所柄それもままならないので、いつの間にかここは一時保管所になっているようだ。二つ目も同様。
幸い一番奥の三つ目は何とも無かった。入ってみるとひんやりとして実に気持ち良い。一番奥まで行くと硫黄島の強烈な日光に慣れた目ではほとんど真っ暗に感じるほどの暗さ。かろうじて、二つ目や一つ目の横穴につながっている通路が右手にあるのを確認する。崩落の恐れもなさそうだ。
まあ、あまり涼んで待たせてもしょうがないので、広場の竜の目の前に行く。
竜は何かテンション上がっていた。
横穴にチラチラ目線を送ったり、尻尾をビタンビタン地面に打ち付けている。
そんな竜に三つ目の横穴に誘導し中に入るよう指示する。
最初は外から横穴の中を覗くだけだったが、納得できたのか頭からソロソロと入っていく。
相変わらず、ビタンビタン地面を打ちつけている尻尾を除き、竜の全身が入るのを確認する。
と、段々と竜の尻尾の動きが少なくなったと思ったら、本当に動きを止めた。
もしやと思い、二つ目の横穴から通路越しに三つ目の横穴を覗くと、竜の顔がま直に見える。竜は目を閉じていた。寝ているのだろう。
見ず知らずの他種族の前でよくもまあ寝れる気になる肝の太さに呆れつつ、微笑を浮かべる。
懸念していた、竜がこの場所を気に入らないかもしれないという事がなくなったからだ。
正直、事がうまく行き過ぎて怖いくらいだった・・・・。