竜との遭遇4
ちょっと混乱中である。余りにも異常な光景を見ると思考がフリーズするというのは本当らしい。
で、それはどのような光景だというと・・・『ドラゴン3分間クッキング』だ。
目の前に迫った竜は唐突に反転・・・・もう一回海に潜りにいくかと思いきや・・・・波打ち際でくわえていた鮫をさばき始めた。
まず、鮫の頭を食いちぎって、そのまま頭は海にリリース。続いて、腹を爪で切り裂いてハラワタをこそぎ取った後、海水で水洗い。最後に砂浜に置いた鮫に口から炎を吹いて表面を焼いたかと思うと、もう一度海水でさっと洗って出来上がりという按配だ。
ついでながら、砂浜の一部が鮫の血で赤く染まってて色々不気味なので、一雨スコールが欲しいところだ。
「いやー、非常識だね~」
と、人に竜を誘導するよう命じた非常識な幹部、田中2尉が何か言ってる。いつの間にか業務車から降りてきたらしい。
「どこから突っ込みいれればいいのか困る光景ですよね、あれ。炎とか吐いてますし」
前足を使って器用に背中側から鮫を食べている竜から目を離さずに呟く。海の生態系の頂点である鮫が、まるで小魚のようだ。
「むしろ、内臓を捨ててることに驚くよ。グルメなのかね~」
「いや、それ大した事じゃないのでは・・・」
「そうかな?熊とかって、川上ってきた鮭の卵とか内蔵しか食わなかったりする場合もあるし。大体、肉食動物って獲物の内臓から必須栄養素得てるしね~」
「つまり?」
「グルメなんでしょ」
・・・・・・見たまんまじゃねーか!
「まあ、冗談は置いておいて、魚をさばく本能だか知能は純粋に凄いね。知能だとしたら、厄介だね」
どのような意味での厄介なのかはあえて聞かない。
「さて、さっきは伝え忘れてたけど、竜の誘導先は『戦車豪』でよろしく。竜も気に入ればいいんだけどね~」
『戦車豪』というのは、わりと最近に遺骨収集のための通路を作るために森を切り開いてたら見つかった場所だ。文字通り戦車用の豪。山肌をえぐって広間を作った後、戦車が2両入る横穴が3本掘られた場所だ。
戦車も入るほどだ。羽を畳んで、身を縮ませれば竜の寝床になるかもしれない。
つまり、竜が居つくのなら巣を提供しようというわけだろう。
硫黄島にはこのような場所が各地に点在するが、戦車が入るほどのクラスはさほど存在しない。
「・・・・なんでそこなんです?もっと都合がいい場所があると思うんですが。南側の海岸ならば、自然に出来た横穴が何個もありますよ?」
『戦車豪』では、余りに居住区に近すぎるのだ。直線距離にして多分、2kmほどしかない。万が一を考えるならもう少し離したほうがいい。
その点、海岸付近ならある程度の距離が保てる。
「『戦車豪』なら海から若干距離があるからね。それにジャングルで囲まれてるから身動きが取れるほど広い場所が無いしね」
竜から目を話さずに笑顔で答える田中2尉。・・・・・その口調とは裏腹に言っている意味は剣呑だ。
つまり、何かあった場合・・・・逃がすことは無い、そう言うつもりなのだろう。
汗ばむような陽気だが、少し寒気を感じた。