竜との遭遇2
釣りの往復の足に使っていたバギー(厚生物品として硫黄島の隊員は申請して運が良ければ借りれる。数が足りないから抽選とコネで決まる)を返納して、その足で当直室に向かう。
今日の当直は田中2尉。飲み友達だし、それなりに融通が利く人なので大丈夫だろう。そこらのバ幹部よりは何ぼかマシだ。
「入ります」
「どうぞ~」
暇なのであろう。島で唯一見れる衛星放送をテレビで見てる。ニュースのようだ。
「で?面倒ごとは勘弁だよ?」
「すみません。面倒ごとです」
そう言って、デジカメを差し出す。
竜に魚を投げ渡している動画が移っている。
「何これ?3Dにしては良く出来すぎてるけど。おまけにこれ・・・・沈船付近だよね?」
田中2尉の言っている「沈船」というのは釣りをしていた場所の地名だ。動画の中に座礁した船があるから気がついたようだ。
「はい。釣りしてて会いました」
「で、これって竜だよね?」
「多分・・・・。ついでに・・・・こんなのもあります」
そう言って、鱗を手渡す。
「うわー、こいつもまた良く出来てるな~」
コンコン叩いたり、シゲシゲと眺めたりするが何ともまあ疑わしげ。
うん、全然信じてない。日頃の行い悪いから狼少年ですか。
「ついでに、デジカメの写真もお勧めです」
「これ、データを後でくれる?私物のノートの壁紙に使うからさ」
脳内で、あれが最後の・・・とか呟いてるに違いない。あの怪獣映画は先週一緒に呑みながら見てたし。
「どうぞどうぞ」
「感謝~、今度ビールおごるよ~」
そう言うなり立ち上がり、制服のしわを伸ばしたり、スリッパから短靴(革靴)に履き替え、ショップ帽(識別帽。それぞれの職場を識別するためのキャップ)を被りはじめた。
なんだかんだ言って、信じてないようでちゃんと信じてくれてるらしい。
「じゃ~、確認しに行こうか。竜とやらがいた場所へ~」
そう言いつつ、業務車(市販の自動車の自衛隊バージョン)の鍵を鍵収納ボックスから取り出しつつ僕に一言放つ。
「足跡ぐらいは偽装してるんだよね?」
前言撤回。やっぱり信じてない。