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竜と波乱6

 テレビから軽快な音楽と共に「オー、イエース!オー、イエース!」「ファックミー!ファックミー!」等、聞こえる中、僕は懸命に戦っていた。

敵は目の前にいるアルティメットエロティッククリーチャー。

身体は幼女、頭脳はババアの恐るべき生命体、気を抜けば一瞬でヤられる。

目は爛々と輝き、頬を上気させ、手はワキワキと不気味に蠢かせ、部屋の隅に追い詰めてくる。

「朝からこんなものを見せるとは見下げた屑じゃの。我を襲うつもりかのう?」

そう言うなり、着ていたワイシャツをいそいそ脱ぎ始める幼女(笑)。

痴女だー!痴女が出たぞー!むしろ、痴幼女か?

あと、手招きすんな、良い笑顔すんな。

「いえ、めっそうもございません。これはじこです、はい」

僕、もう出勤したい。

「そうは言っても体はしょうじ・・・・ふむ、ほう、不能かの?」

空気を読んで今回は、反応していないようだ。

偉いぞ、我が息子!

(いいってことよ!ファーザー!)

(愛しの我が息子よ!今まで蔑ろにしてすまなかった!)

(安心するのは早いぜ、ファーザー。敵はまだ去っていない)

(わかった。気をつける。お前も挑発に乗るなよ)

(頭に血が上りやすいのは親父譲りだからな。肝に銘じておくよ。グッドラック!)

息子にも励まされるとはやきがまわったな。

でも、負けるわけにはいかない。

これは、命が掛かった戦いなのだ。

もっと具体的に言うなら、社会的地位。

それを守るために言葉をつむぐ!

「いや、もう、それでいいです。僕が悪かったです。生きていてすみません。光合成とかして生きていきます」

社会的地位駄々下がりである。

「まあ、よかろ。まだ日が昇ったばかりだしの。日が落ちてからを楽しみにしておる」

・・・・・・・僕、もうこの部屋に帰ってきたくありません。


 それからDVDを『硫黄島からの手紙』に換えた後、部屋から出てきた。

着替えをしてる際に押し倒されたが、さめざめ泣いたら許してくれた。

・・・・・・・・・・ああ、うん、エロゲのヒロインの大変さが良くわかった。

わかりたくなかったけど。


 ところで、石井3尉達いつの間にこの部屋からいなくなったんだろう?

正直どうでも良いけど、ほんの少し気になる。

まあ、いいや。

出勤しないと。


 職場に着いたのは朝礼直前。

だけど、様子がおかしい。

通常、朝礼は自衛隊体操後にランニングがあるので、体育服装に着替えているものなのだけど、誰も着替えていない。

全員、テレビの前に集まっている。


 そのテレビには、ヘリから空撮したと思える森林が映っていた。

ニュースのようだけど、何故こんな何でもないような森林を映すの?

それに全員注目しているのは何故?


 ・・・・・・・・・・・・胸騒ぎがする。

ここまで全員がニュースに注目しているのは過去に一回しか見たことが無い。

911だ。

米国で起こった同時多発テロの際は、ほぼ全チャンネルがそれの緊急報道。

その日、一日全く仕事が出来なかった。

今の、テレビを見ている人間からは、それに近いものが感じられた。


 アナウンサーが何かを話している。

「昨日午前9時頃、Y県にある陸上自衛隊の屋内射撃場が消失しました。

現在判明している行方不明者は航空自衛隊所属の隊員が一名いるということです。

なお、原因は現在でも不明です。

現場は一面森林になっており、植生は日本では見られない物だとの専門家からのコメントが寄せられております。

あ、ただ今防衛省からのコメントが来ました。

行方不明者の身元が判明しました。

航空自衛隊、芦屋基地所属、3等空曹・・・」

行方不明者の名前を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

あいつは同期。

教育課程の合計8ヶ月程の付き合いしかないけど、その濃密な期間の絆は学生生活等では比べ物にならないほどに人生の中で大切な物の一つ。

あいつとは気が合った。

機会があるたびに呑んでいる。

親友の1人だといっても良い。

それがいなくなった・・・・。

胸のどこかに何かが無くなった様な損失感。

悪い夢のようだ。

いや、現実なのはわかっている。


 何人も同期が自衛隊を辞めていき、別の道を歩んでいったのは何度も経験がある。

自衛隊を辞めたので、徐々に疎遠になり連絡がつかなくなったり、所在不明になったのも何人かいた。

それでも、唐突に同期がいなくなったのは初めてだ。

特に、今回はその中で最も親しかった友人。

無事を願うばかりだ・・・。


 時計を見たが、朝礼がいつまで経っても始まらない。

そろそろ、ニュースを見ても焦燥感が募るばかりだ。

記事が切り替わった。

芸能ニュースだ。

どうでも良い。

誰かがチャンネルを切り替える。

同じく消失事件、内容は全く同じ。

次のチャンネルも。

次のチャンネルも!

次のチャンネルも!!


 課業開始のラッパが鳴る。

それが鳴っても誰も動かない。

また、チャンネルが変わる。

内容は変化無し。

アナウンサーは同じことしか喋らない。

コメンテーターは当たり障りのないことを語る。


 クソッ!

何がどうなっている。

誰でも良い、どんな些細なことでも良い、教えて欲しい。

いや、原因とかはどうでも良い。

ただ、あいつが生きているか、それだけで良い。


 焦燥感を募らせている中、ふと思いついた。

射撃場が消失した時間と、そいつが現れた時間を勘案する。


 ・・・・・・・・・・・有り得るかもしれない。

通常の生物なら無理な移動速度だ。

Y県から、この島には広大な距離がある。

時間も限られる。

それをどうやって移動するのか?

だが、あの生物なら可能かもしれない。


 その生物の名は竜。

神話の存在で、今は僕の部屋にいる。

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