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竜と思惑10

「でも、竜を殺す方法は決まってませんよ」

ドラゴンキラー、それは神話の存在。

人の身で超巨大生物を殺すのは困難だ。

マンモス、クジラ・・・・人がそれを狩ろうと思ったときに使ったのは知恵だ。

落とし穴、投げやり、銛、集団戦術・・・・それらをどう生み出し、運用したかは想像を超える苦難があっただろう。運用が確立した後も少なくない人間が命を落としただろう。確立する以前は何人死んだかは想像できない。

それを今からする。

当時とは違う。

確かにそうかもしれない。技術は進歩した。兵器は効率良く殺せるようになり、軍というシステマチックな暴力集団が出来た。

だが、それでもだ。

敵を知らなければ、敵に適切に対処しなければ無駄な人死にが出る。

情報だ。情報が欲しい。

体長、体重、好物・・・・何でも良い。それらを知ることが生存につながる。

そして何より重要なことがある・・・・・。

戦わないですむ方法だ。

軍人を好戦的な人種だと思っている人間がいる。ああ、自衛官は不思議な法律のせいで軍人じゃないが、そこは置いておく。

基本的に、軍人ほど戦争が嫌いな人間はいない。当たり前だ。真っ先に死ぬ立場になりたい人間なんていない。

つまり、普段は死ぬための、殺すための訓練をしてるくせにそれを嫌がるという矛盾した存在が軍人だ。

さて、僕はそんな存在なので一番望むのは平和的解決。

願わくば、毎日酒とか飲んで楽しく暮らしたい。

でもまあ、それですまないのが世の中の流れと、我らが組織の存在意義。

リスクコントロールとか色々と言葉はある。それらの意味は『備えよ常に』というボーイスカウトの標語が端的に表している。それは全ての組織に言える言葉。特に非常時に備えている組織にとって。

つまり、何かあったときは何とかしろって意味だ。

そして今がその何かがある可能性が高いというわけだ。

それでも、僕は少し待てと言う。

どうせ殺し合いをするなら、少しでも勝算を高めたいから。


と、いうのは冗談。

そんなに簡単に、自衛隊が武器等の使用が出来るわけがない。自衛隊ほどシビリアンコントロールという言葉が似合う組織は無い。

それに、某怪獣映画じゃないが多少人命に被害が出たぐらいじゃ、命令が下達すると思えない。人命より希少な生物のほうが優先されそうな気がする。政治的判断とかいうクソみたいな代物のせいでだ。

もっとも、法律以前に、この島には武力行使できる土台が無いのだ。

理由は簡単。

そんな装備と人員がいない。

この島は島自体が巨大な墓標であると同時に、訓練所みたいなものだ。所在隊員は全員その管理人、基地の能力を保ったり管理するだけのためにいる人員だ。装備も訓練を支援するためのものが大半で、実戦のことなど考えていない。

ならば、この島で戦闘が出来るようにするにはどうするか?

人員、装備、弾薬、燃料、補給物資等、膨大なものを本土から運んでくる必要がある。

それもまた、非現実的。費用と時間が猛烈にかかる。

空爆みたいなインスタントな方法で片が付けばいいが、それで失敗したら楽しい事になる。

なので、竜が襲ってきたら島にいる人員はどうするか?

食料と水を大量に携行して地下壕でひたすら救援を待つ。それしかない。

もちろん、この場にいる全員それがわかっている。

だから、これから言うのは戯言。

思考実験という名の頭の体操。噛み砕けば、暇つぶし。

「戦闘職種ではないですし、幹部ではないので拙い方法ですが聞いていただけますか?」

陸の1曹は無言で頷く。お互いに酔いなど吹き飛んでいる。

「こちらが硫黄島の地図になります。竜がいる場所はここ。ここから通じる道はこの二つ・・・」

A4の地図を見せる。本来は移動訓練などで来た他部隊用に作られたものだ。

硫黄島の観光名所が色々と記載されている代物だが、位置の把握に便利なのだ。

その最新版、切り開かれた道なども全て記載されている。

つまり、竜が通る道がわかる。

「この道二つにキルゾーンを形成します。それを突破されたらこの位置に更にもう一つ。出来れば、予備隊で機動性があるのも欲しいですが」

「いい位置だな。どの道狭い島だ。これ位しか無理だろう。で、どのような部隊を配置する?」

「僕が空自なので、馴染み深い部隊が良いですね。基地防空隊が良いです。彼らなら適任ですよ」

「基地防空隊?」

基地防空隊というのは、高射とは異なりエリアディフェンスではなく、ポイントディフェンスが専門の部隊だ。

具体的に言うと、基地と周辺を防御する対空部隊ではなく、基地のみを守る部隊だ。

範囲が狭いのは理由がある。

装備がそれに特化しているのだ。その装備で一番今回で重要なのは『VADS1改』

「VADS1改が良いです。アレなら輸送機で空輸できるので」

一言で言うなら対空機関砲。

アメリカ軍で開発された対空機関砲システムで、M61・20mm機関砲にレーダー、コンピュータなどを組み合わせた、半自動の対空機関砲。

個人携行の対空ミサイルよりも射程は短いが、地上と空の目標が狙える。自動車で牽引して移動し、射撃するためには設置と調整にかなり時間がかかるのが難点。だが、それらを補って余りあるメリットがある。

発射速度が速いのだ。500発の20mm弾を最高で10秒ちょいで打ち切るという素敵具合。早漏にも程がある。

こいつについてるM61ってのが、まあ俗に言うバルカン。6本の銃身と薬室が一体化したものがモーターでグルグル回ることによって、反動とかその他諸々利用して装填発射してる銃や砲では有り得ないほどに高速な発射速度を発揮してるのだ。

元々、航空機に積んでたものだった。

WW2が終わり、ジェット機全盛期。高速になりすぎた航空機が航空機に銃撃する際に、今までの銃器では効果が薄くなる可能性が出た。なら、どうするか。

A案は撃つ弾の数を増やす。ただし、1丁で。

B案も撃つ弾の数を増やす。ただし、何丁も積むことで。

C案は撃つ弾は少ないが、一発の威力を上げる。

米軍が選んだのは最終的にA案。

それによって、今から140年前くらいに開発された手動式の機関銃がモダナイズされて、出来たのがM61。こいつって、毎分で1万2千発の速度で撃った記録が残ってるくらいに頭おかしい。ちなみに、個人携行の機関銃で毎分1千発撃てる銃でも高速だといわれてるんだから、11倍ってのがどれくらいおかしいかは解ると思う。

それが、今回重要。対空機関砲用に発射速度が落とされているものの、相変わらず高速なので弾幕が張れる。某縦スクロールシューティングゲームのスペカとかマジ目じゃない。

で、20mmの弾丸は戦車の正面装甲に対しては効果が無いものの、側面に後面、上面ならば十分効果を発揮する。更にはセンサー等の戦車が本来の機能を発揮する部分も容易に無力化できる。ちなみに、装甲車は普通に撃破出来ます。一発で駄目ならもう一発の精神で、普通に正面装甲でも貫通しちゃうんです。いやー、対空機関砲って本当にいいものですね。

まあ、そんなわけで竜にも有効なはず。

視覚、嗅覚、聴覚を司る感覚器を破壊すれば無力化できるっしょ。。

別に強固な竜の鱗を貫く必要はないし。

無力化できれば良いし。

20mmには様々な弾があるけど、今回は曳光自爆榴弾が最適、多分。

読んで字のごとく、撃ったら弾頭の底部に着火して光を発しつつ、着弾したら炸裂し、一定距離を飛翔したら自爆して周囲の被害を減らす弾丸。

メリットは3つ。感覚器に直撃しなくともダメージを与えられる点と、炸裂により鱗を剥げる可能性があるからだ。魚の鱗をとる感じで爆圧によって捲りあがらせるのだ。そして、最も重要なのは出血性か神経性のショックが狙えるということだ。

通常、人間が銃で撃たれた場合、重要な内蔵や血管等の致命的部位に着弾しない限り即死する可能性は少ない。竜も同様なことが考えられる。

竜のサイズに対して20mmは豆鉄砲に等しい。だが、その弾が炸裂するならば?体表面に近い血管か神経を鋭利な破片が傷つける可能性が高くなる。それにより無力化できる可能性がある。

だが、『VADS1改』はあくまで前座。本命は別にある。VADSでは身動きをとれなく出来るかもしれないが、止めはさせないのだ。

「IEDって作れます?出来れば、EFPを」

「もちろん、解除する方法を知っているということは基礎知識で製造を出来ないといけないからな」

・・・・・・・いや、普通無理だから。聞いといてなんだけど、そんなの作れるのテロリスト予備軍だから。

因みに、『IED』ってのはイラクとかアフガンで米軍が被害を受けてる即席爆発装置・・・・仕掛け爆弾のことだ。

大砲の砲弾を何発も使用したものは家屋を簡単に倒壊させ、装甲車すらも空を舞う。

『EFP』ってのは、それの対装甲バージョン。サイズや製造法にもよるが、戦車を50m離れた位置から撃破できる場合もある。これならば、竜の鱗も余裕で貫徹し、臓器まで到達する。

「爆破処分用のC-4もあるし、不発弾を湯煎して炸薬を取り出せるからなあ。まあ、何とでもなるだろ」

・・・・・・・・・・・この人、マジでテロリン(テロリストではとげがあるので名称変えました)じゃん。

素敵。今度弟子入りしよう。テロリン(意外に気に入りました)王に俺はなる!

「後は、予備隊で陸自の普通科からカールグスタフかパンツァーファーストに慣れた部隊がいれば何とかなりそうですね。贅沢言えば、96マルチも欲しいですけど」

「上空からの偵察は、この島にいる救難隊のヘリで代用できそうだな」

「ですね。第一案はこんなところで・・・・次のはこんなのでどうでしょう?」

次々に試案を口にし、修正を加えていく。状況を変え、装備を変え、最善を求める。細部はまだ求めない。まだ可能性の段階だ。

だが、わりと最初から気が付いたのだが、実はこれは本当に実際に行われる状況を想定していない。所詮、思考実験だ。

予想通りに、これは飲んでる最中の戯言。

その証拠に、陸の1曹と僕だけシリアスムード。

あ、そのほかの人間?

・・・・・・・・・・・・・・・・うん、駄目になってるよ?

そろそろやばいよ、修羅場になるよ。修羅BARだよ、飲んでるだけに。

・・・・・・・・・・・・やべえ、これ我ながら寒いよ。ちょっくら吊ってくる。

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