表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/28

竜と思惑8

「お待たせいたしました。酒の肴をお持ちしました」

さて、どう攻めよう?多少用意はしたが、残念ながら決め手にかける。

「・・・で、どう楽しませてくれるんだね」

口火を切るのは海自司令。そういえば、色々と準備をする前から海自司令が専ら喋っている。これは興味の現われと見るべきか?あるいは、空自司令にはある程度情報が伝わっているが、それ以外には伝達されていないと考えるべきかもしれない。そうなると、陸の1曹の立場がどうなるか気になるが・・・・。

まあ、どちらにしろやることには変わらない。

デジカメとテレビを接続。動画再生モードにする。さて、とくとご覧あれ。

「少し次のつまみを作っていますので、お暇つぶしにどうぞ。ご質問は石井3尉にお願いします」

面倒くさいものは幹部に丸投げするに限る。石井3尉には色々と説明してあるので、大体の応答は出来るはず。

で、こちらはビール片手に部屋の一角の調理スペースでカニの味噌汁と漬け麺の準備にかかる。

竜の動画をテレビが映し出したのだろう、誰が発したかわからないが、色々と聞こえるが全部無視。

・・・・念のためにエロ動画がテレビに映し出されてないか一応確認した。時たま、プレゼンでマジでエロ動画流しちゃうやつっているらしいし。世界って広いな。

まあ、そんなことをつらつら考えながらも手はしっかり動かす。カニを真っ二つにしたり、器を用意してスープの素を適量に器に取り分ける等細々した作業、そんな下ごしらえを大急ぎで済ませる。

漬け麺自体はお湯が沸けば一瞬で出来る。茹でる麺の量が多いので、少し湯を多く沸かす以外は手間は無い。後は麺を茹でて冷水で締めるだけだ。

味噌汁も手軽に出来るが出すタイミングを選ばないといけない。飲み会で何度か味噌汁は作ったのだが、宴も終盤になってきた頃に濃い目の一杯を出すのが一番受けが良かったのだ。

つまり、現状はもう余りすることが無い。

タオルで手を拭きつつ、竜の動画を見ている人間を観察する。

反応は人それぞれ。

空自司令は薄く微笑を浮かべて色々と質問している。海自司令は硬い表情で無言。陸自の1曹は満面の笑みで色々と満足そうだ。石井3尉は淡々と質問に答えていくといった感じだ。

もう少し細かく観察する。空自司令には少し余裕めいたものが感じられた。事前にある程度の情報を知っていたようにも見える。それに対して、海自司令は当初は呆気にとられていたものの、今は竜の存在が半信半疑なのか動画を硬い表情でじっと見つめている。そして、それらを陸自の1曹は大層面白い出し物のように楽しんでいるといった按配だ。階級、立場的に責任を負う必要が無い余裕の表れかもしれない。それと、我が愛しの石井3尉はというと淡々と質問に答えているようで、実は結構必死っぽい。何せ、情報が少なすぎるのだ。質問に答えれるほどのストックは無い。

と、家政婦は見た的に、陰でニヤニヤ観察しながら調理してる間に動画も終りそう。

さて、頃合いだ。

「お待たせいたしました。本日のメインディッシュです」

聊かおどけてレストランの給仕風な所作をしつつ、漬け麺の器をテーブルに置いていく。配り終わった後にようやく着席。一応、今日は休日のはずなのに、働いてばっかりな気がする。

「ところで・・・」

「すみません、今日まだ何も食べてないんです。一口だけ、一口だけでも」

「ああ、うむ」

麺をごっそり取り、一瞬だけ汁に漬け一気にすする。

最初に感じたのは胡椒。続いて、舌先に塩と、その他の調味料。最後に、カニの風味と麦の香りが感じられる。硬めに茹でた麺は絶妙な歯ごたえ。乾麺の癖に美味い!ああ、五臓六腑に染み渡る!改めて、自分が空腹だったのを思い出す。

当初は一口だけと思ったつもりが、二口三口と手が伸びる。いや、男って全員先っぽだけ先っぽだけ、とか言っといて全部するよね?

それにつられされたのか、全員が麺に手を伸ばし始める。

全員、一言も喋らない。ただ、麺をすする音がするのみ。

10人前茹でたはずが、一瞬で消える。

ぶっちゃけ、作った人間としてうれしいのです。でも、明らかに需要と供給のバランス足りてないんです。このペースだと更に10人前は必要っぽい。ある程度、乾麺のストックはあるとはいえ、これ以上正直厳しいのです。硫黄島でのつまみってマジで貴重品なんです、はい。

つーか、石井3尉食いすぎ、太るよ。

「・・・今度幹部会の宴会があるのだが、これ作ってもらえないか」

海自司令が身を乗り出して、尋ねてくる。

「すみません、材料のストックが無いもので」

「・・・そうか」

かなり海自司令は残念そうだった。

「麺は代替品になりますが、インスタントの麺でで何とかなりますので代用できます。汁の素は余っているのでお渡しできます。味は落ちますが、麺さえ確保していただければ何とかできます。」

「・・・ありがとう。・・・最近、幹部会のつまみは飽きていたのだ」

何というか、スゲー切実そうだった。普段何つまみにしてるんだろう。

ぶっちゃけ、酒のつまみなんて岩塩舐めとけば満足な自分には無縁な悩みだった。

「ところで、このデジカメで撮っていたアレは本当に存在するのかね?」

「確実に」

「まことに申し訳ないが・・・・正直、どうにも信じられん」

「疑問はもっともだと思います。なので、こちらに証拠を用意してあります」

そういって、バッグの中に入れていた竜の鱗を海自司令に差し出す。

存在が存在なので、色々と疑われる可能性があるのは当初から懸念していた。

竜の鱗一つでは少し信憑性には欠けるが無いよりましだ。

「これが例の生き物の鱗か・・・・・。どうやって手に入れたんだね?」

「あげた魚のお礼でくれました。ご冗談に思われるかもしれませんが、本当です」

と、空自司令が口を挟む。

「それが本当だとするならば、こちらから色々と与えていけば対価をくれると考えていいのかな?」

「現状ではわかりませんが、可能性はあります。それに、あの竜は役に立ちますよ」

「具体的にはどう役に立つ?」

「短期的には、この島の水不足解消。長期的には・・・かなりの国益になる技術が手に入る可能性があります」

「動画にあったアレか」

「はい。どのような手段か不明ですが水を生み出していた事です」

ロッカーの中が一瞬で水で満たされたのだ。本気を出せば、どれほどのことが出来るか・・・・。あるいは、それが水以外にも出来るとしたら?例えば・・・・

「アレが石油だったとしたら、面白い事になると思います」

多分僕は悪い顔になっている。半ば意図したものだが。

「・・・・・・それは発想が飛躍しすぎだ。それに、そこまで考えるのは職分に余る。我々が出来る範囲を超えている。その話はこれで止めだ」

「はい」

ジャブのつもりだったのが、良い感じに入ったようだ。

「いいでしょうか?」

石井3尉が発言の許可を求める。少し前から何やら深く考えていたようだが、ようやく決心がついたようだ。

「ここはただの呑みの席だよ。かしこまる必要は無い、ざっくばらんにいこう」

空自司令はそんなことを言うが、こちらとしてはそれは無理だ。結構冷や冷やもんである。

「エイズの・・・・いえ、全ての病気に対する特効薬として期待されているものをご存知ですか?半ば、眉唾ですが」

僕も含めて全員が首をかしげる。なぜ、ここでそんな話が?

「ワニの免疫機構です。不衛生な環境下で、四肢の一つを失うような怪我を負ったとしても病気にかかることなく生き残るような驚異的な免疫力がワニにはあります。それは、形状や性質が変化しやすいエイズウィルスですら余裕で駆逐するくらいです。ワニの免疫機構の研究は次世代の抗生物質として研究されています。ですが・・・」

「ですが?」

思わず、続きを促す。段々と結論がわかってきた。

「ですが、ワニの免疫機構は余りにも強力すぎるので、直接人体には適用できないのが現状です。ところが、竜ならば・・・出来るかもしれません」

「・・・・・どういう意味だね?」

海自司令が静かな口調で言う。

それに対して石井3尉は迷ったような表情を見せた。確かにまあ、医療従事者が根拠無い事など軽々しくはいえないだろう。なので、引き継ぐ。

「あの竜が神話などに出てくる竜と同一かどうかは不明です。ですが、同一の種だった場合、神話の内容の一部が本当だった可能性があります」

・・・・・・・・さあ、これ言ったら馬鹿呼ばわりだぞ。

「神話などで、竜の血を浴びたものは不老不死になったりします。実際に不老不死になるはずは無いのですが、竜の血が何らかの影響を及ぼした可能性があるかもしれません」

・・・・・・。石井3尉を除き、全員石を呑んだような表情になる。それに畳み掛けるように更に言葉をつなげる。

「血液のサンプルも、とってあります」

「・・・・・・明日は定期便が来るので入間(入間基地、埼玉県)に下ろしてもらおう。鱗共々送ることにしよう。海自司令いいですか?」

「ああ、中病(自衛隊中央病院、東京都)ならこちらから送るより、そちらのほうが近いしな」

「了解しました。ならば、明日空輸する際に積み込んでおきます」

「そうしてくれ」

何とか無事に乗り切った。憶測と予想で利点ばかりを言うことで畳み掛けるという、半ば反則気味だが。このままなら惰性でいくだろう。

そう思った時だった、今まで沈黙を守っていた陸自の1曹が唐突に声を発する。

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが・・・竜が何かしたときの対策はいいんですか?具体的には・・・・・・・・竜をぶっ殺す方法は?」

・・・・・・呑みの席はまだまだ盛り上がりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ