竜と思惑4
「よう」
右手をシュパッと上げて挨拶。
竜も一声鳴きつつ右前足を上げて挨拶。
「寝床どうよ。気に入った?」
尻尾の振りからすれば、中々ご機嫌そうである。
「それは良かった。何か足りないものある?ある程度善処するけど」
善処イコール頑張ったけど駄目だったの言い分けが出来るようになんて事は考えてないぞ。多分、おそらく、きっと。
と、竜は周囲を見渡したかと思うと、寝ていた横穴とは別の横穴に潜りこむ。
中からクリーム色の金属製の箱型ロッカーを引っ張ってきた。
高さ2mくらいのロッカーも竜にかかったら、小さめな弁当箱といった感じだ。
で、そのロッカーを扉の部分を上にして倒したかと思うと、扉をガリガリ引っ掻きつつ、こちらをチラチラ見てくる。
「えーと・・・・・・どうしろと」
次いで竜は扉を爪でトントン叩く。
「ああ。開ければ良いのか」
鍵穴に刺さったままの鍵を回し、銀色のロックレバーを押し上げロッカーを観音開きにしてやる。確かに、大柄の竜には、このような細かい作業は無理だろう。
・・・・・・・・いや、もう竜がロッカーを開くことが出来るものと理解していることとか、不思議に思っても時間の無駄なので考えないようにしてる。
「これで良いのか?」
竜は首を振り振り満足げだ。
そして、観音開きされたロッカーの中をうかがうと、うれしそうにのどを鳴らす。
「何かあるのか?」
ロッカーの中を覗いて見ても何も無し、放置されていたのに綺麗なものだ。
それなのに何を嬉しがるのか?
それはともかく、これってまるで弁当箱みたい。
と、唐突にわき腹を指で突かれた。
「あひぃ!」
思いもよらぬ奇襲に思わず声が・・・・。
「きもい、死ね」
相変わらず、S系女医石井3尉は素敵です。
「ひどい!散々弄んだのに罵声ばかり!でも、そこが好き!」
「戯言に付き合う気はない、余裕は無い。一つ聞くが竜と会話が出来るのか?」
「え?」
「え?」
思わず石井3尉と僕は両者キョトン顔。竜に顔を向けてもキョトン顔。空気が読める奴だ。
「出来るわけないじゃないですか、馬鹿なの?死ぬの?」
「くっ、でもあんなに意思疎通できてるじゃないか」
「ただ単にノリとアドリブですよ。ねー」
最後の「ねー」は竜に向けたものだ。
竜もうんうんという感じに首を縦に振る。本当に空気が読める奴だ。てか、お前日本語わかってるだろ。
「いちいち貴様らムカつくな。少し静かにしろ」
「権力をかさにきてパワハラはんたーい!ねー」
竜もうんうんという感じに首を縦に振る。本当に本当に空気が読める奴だ。てか、お前中の人、日本人だろ。
あ、ちなみにパワハラとはパワーハラスメントの略で上司が権力を武器に部下に嫌がらせをすることです。ここ試験に出ますよ。
「パワハラだと!人聞きが悪い!私がそんなことをするわけが無かろう」
「今さっき親指折られかけたんですが!竜さん、どう思われます?」
竜は何か反応にすげー困ってるっぽい。それはともかく、石井3尉とも普通に意思疎通できてる気が・・・。
「ほら、竜もすっかり引いてますよ」
「そ、そんなことは無いよな」
あ、竜は我関せずといった感じでプイスッとそっぽ向いた。グッジョブ!あんた良い仕事してるぜ。
「・・・・・・・・ギルティー(有罪)」
満面の笑みで宣言する。多分天使の笑みだね、これ。
「そんな馬鹿な・・・」
「判決を言い渡します。終身刑。貴方は僕を永遠に愛するけ・・・ぐほぉ!」
「調子に乗るな」
炎を吹くようなボディーブローが叩き込まれる。レバーに一発良いのが入りました。思わず崩れ落ちる僕。文字にするとorz。
「はひ・・・」
「ん?痛みで息も出来んか?」
「ご・・・・」
「ご?」
「ご馳走様です!美味しくいただきました!ありがとうございます!」
満面の笑みでスックと立ち上がる。痛みとはすばらしい、生の実感が得られる。
対する石井3尉はうわぁって感じで引いてる。
「そろそろ、その芸風止めてくれないか。正直・・・きつい」
「あ、はい」
てっきり律儀に反応してくれるから気に入ってると思ったんだけどなあ・・・・。乙女心って複雑だね!
「そろそろ真面目にいこう。竜が何かやるようだぞ」
竜も夫婦漫才に飽きたのか既にこちらを見ていない。なにやら集中している。
「ロッカーをじっと見つめて何するつもりですかね。弁当箱にでも使うつもりですかね。匣の中には魚がみっしりと・・・」
「ほう」
「まあ、何をしてもおかしくないですが」
「確かに、色々と常識はずれな事をしてきた。もう何をしても驚かん」
「では、竜が何をするか拝見しますか」
「おい!?見ろ」
急に大声を出した石井3尉の方を向く。
その一瞬目を離した瞬間、その間にロッカーの中は透明な液体で満たされていた。
何が起きたかはわからない。でも、竜が何かをやったのだろう。
そして、それを見ていた石井3尉はというと・・・・。
「嘘だっ!」
驚いてるじゃん。嘘つき。