竜と思惑3
怒れる女医、石井3尉を宥めながら何とか『戦車豪』に到着。
で、未だグースカ寝てる竜を調べ始めたのだが・・・・・。
「・・・・・針が曲がった」
石井3尉の手元を見ると採血用の注射器みたいなのがあった。針の部分が根元からちょっぴり曲がっている。
因みに、竜を起こさないように小声で話しているのだが、どれだけ効果があるか。
「人間用ですからね、それ」
「迂闊だったな・・・、どうしたものか」
「まあ、戻ったところで、それ以外に採血用の道具無いんですよね」
「うむ、こんなことを想定していないからな」
そりゃそうだ。動物病院ならともかく、竜の採血なんてのに対応できる衛生隊なんて有り得ない。
さて、そんな中で便利な言葉が一つ。
「何とかしろ」
「ヘイヘイ」
足らぬ足らぬは努力が足らぬ。
釣りをしていた時のままの服装で良かった。
釣りしてるときに必須なアイテムが一つある。刃物だ。
魚の血抜きやら必須なのである。
で、今手元にあるのは『ガーバー アップルゲート フェアバーン コンバット フォールダー』、折りたたみ式の両刃のナイフだ。まあ、俗に言うダガーナイフなのだが、片方の刃は研がれていないのでダガー風味の片刃のナイフだろう。
既に十年近く愛用しているのだが、ステンの刃は未ださび一つ無い。日本ならば、実用品というよりも趣味の観賞用のナイフなのだが、僕の場合はガシガシ使っている。魚を捌いたり、野菜を切ったり、ナイフマニアが見たら憤怒の表情を見せるであろうガス缶の底に突き立ててガス抜きも何度も行っている。
で、そんなナイフを取り出して、一瞬で親指で刃を起こす。消毒のため刃の先端を一瞬ライターの火であぶる。
「採血の準備お願いしますね」
「頼む」
消毒用アルコールでふき取った竜の尾の先端にある鱗と鱗の隙間にナイフの切っ先を押し当てる。一瞬の抵抗があるものの、竜にナイフは突き立った。とは言っても、針が入る程の穴だ。
「出来ました。どうぞ」
「わかった。手短に済ます」
正直、竜が何時目を覚ますか気が気でない。
意図はともかく、危害を加えていると判断されても仕方が無いのだ。
「・・・・血管が何処にあるかわからないのだが・・・」
「・・・それ、正確に血管に刺さらないと採血できないんじゃないですよね・・・・」
「・・・・・・・・実はそうなんだ」
げんなりした。
「いや、少しずつだが溜まってはいるぞ。量と圧力が足らないので時間がかかるが」
「どれくらいです?」
「1分・・・いや、2分か」
・・・・・・・・・永遠にも等しい。竜のイビキが徐々に小さくなっている気がする。起きる兆候かもしれない。
「・・・・よし。一本は採取出来た」
数十cc位の血を手に入れることが出来た。
「離れましょう」
「もう一本欲しい」
「安全第一です。そろそろ起きますよ」
「それでもだ」
そして、もう一本採血用の注射器もどきを竜に突き刺そうとするが・・・・。
「・・・・・・・傷が塞がっている」
「嘘でしょう?」
「見てみろ」
「本当に痕が無いですね」
「欲をかいても良くないようだな・・・。帰るとしよう」
「了解」
間一髪というべきか。竜から離れた途端に、竜は目を覚ましたようだ。
「少し見ることにしませんか?」
「そうだな。どんな行動をするか興味がある」
横穴からノソノソゴソゴソ後ずさりしながら這い出てくる竜を観察する。
寝ぼけ眼のように見える竜は、外に出た途端欠伸をする。
「興味深いな」
「欠伸をしてるようにしか見えませんが」
「それが重要なんだ」
「はあ」
「いいか、生物の無意識に行う行動には全て意味がある。例えば、今の欠伸は酸素不足とか睡眠不足等色々な意味がある。全て記録しておかねばならん」
「じゃあ、デジカメで動画撮りますか?」
「今すぐ撮れ!!!!」
突然の大音量に竜ビックリ。こちらにようやく気がついたっぽい。
「あーあ、やっちゃった」
蛇ににらまれた蛙ならぬ、竜ににらまれた人間になったっぽい。
そろそろ慣れてきたけど、心臓に余りよろしくないよね、これ。