竜と思惑2
「おいそこ!ニヤニヤするな、何だその満ち足りた笑みは」
「百万ドルの笑みです。ご堪能いただけたでしょうか?」
笑顔でサムズアップ、親指をぐっと立ててみる。
「貴様には反省しろといっているんだ!」
キレ気味の女医さんは、僕の親指を掴んで曲がらないほうに・・・って、痛!地味に痛いですよ!。
「言葉攻めだけじゃなくて、そんなプレイまで!ひぎぃ!」
段々洒落にならなくなってまいりました。具体的には筋が!筋がー!!!
「ふむ、そろそろ折れるか、筋が切れるな。脱臼のほうが早いか?癖がつくから厄介だろうな」
うわー、凄くいい笑顔です、興奮して上気して赤みが増した頬が実にエロい。怖いのにかわいい、混ぜて怖いい(造語)!
思わずデジカメで撮ってみる。
「・・・・・・ここまで反省の色が見られないと対処に困るな」
「説教しても喜ぶだけですし、全くもって始末に終えないかと」
「お前が言うな」
「はい」
「あー、どこまで話していた。説教で少し忘れてしまった」
因みに、まだ親指掴まれたままです。
「えーと、ドラゴンに乗ったところまでですかね」
「ああ、そうだったな・・・・。ところでなんでコモドドラゴンをドラゴンと略すんだ?」
「いや、コモドドラゴンじゃなくてドラゴン、竜だからですよ」
「え?」
「え?」
「竜?」
「竜」
「コモドドラゴンだろう?」
「神話とかに出てくるような怪獣みたいなやつです」
予想外の返答だったのか思わず表情を弛緩させる石井3尉。俗に言うポカーンとした顔。久々に見る表情なので実に新鮮。うん、かわいい。
・・・・・・でも、隙が出来たと思って親指から手を振り払おうとしたのに、がっちりホールドしてる辺り素敵です。痛みで全身から嫌な汗が出てまいりました。
因みに、コモドドラゴンはインドネシア辺りにいるでっかいトカゲです。結構現地の人が襲われていて死んでます。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが・・・・ここまでとは」
「予想通りの返答ありがとうございます」
色々とノリが軽い所為で最近狼少年になり過ぎである。
まあ、わかっていたことなのでデジカメの画像を見せる。
「・・・・・・・・私の顔じゃないか」
「いっけね」
てへ!失敗!
あ、痛い!親指が親指が!!!
「こっち!こちらが本命です!」
デジカメのディスプレイには、今回はしっかりと海に入っていく竜の写真。
「何だこれは!!!!!」
「いでーーーーーーー!!!!」
今ブチって!親指辺りでブチって音が!!!!
「ああ、すまん。興奮して力が入ってしまった」
「それなら手を離してください」
「それはまかりならん」
「ああ、いきなり結婚では早いから握手からって、いててててて」
「何を言っている?けだものには痛みでわからせるしかない。それを行っているだけだ」
「調教だなんてそ、痛!ギブ!まじギブ!」
「ギブ?何かくれるのか?」
「ギブアップ!ギブアップ!本当にすみませんでした!」
ようやく手を離してくれた。
「最初っから反省の色を見せておけば良かったものを」
「一言謝っただけで、許してくれる石井ちゃんマジ素直!マジかわいい!結婚して!」
「・・・・・・・」
「無言でメス取り出すの怖いんで、本当に勘弁してください」
「まじめに話すと誓え。じゃないと麻酔無しで親指切り離す」
「ハイ」
何か疲れた様子の石井3尉。デジカメの写真にじっと目を凝らす。
「動画もありますよ」
「すまん、操作がわからん。見せてくれ」
「はい、少しお待ちあれ」
ここで空気読まずエロ動画とか見せたら刺されるだろうなー。
「変なもの見せたら切るからな」
「は、はい」
読まれてる!!
「ど、どうぞ」
「ふむん、拝見する」
そのままデジカメのディスプレイ食い入るように見つめる石井3尉の横顔を見つめる。心なしか徐々に表情が険しくなっている気がする。
「・・・・・・・本当に存在するんだな」
「います。本日当直幹部の田中2尉も実際に見て確認しました。今頃当直室で内線掛け捲りですよ」
「ふむ、まあそちらの対処は良いとして・・・・なぜ衛生隊に来た?怪我とか負ったわけじゃないんだろう?」
「ええ、ですが・・・竜が病気を媒介する可能性もあるので、それについて話を聞こうかと。実際に僕は触れてしまったので」
「ほう、良いところに気がついたな」
と、急に笑顔になる石井3尉。
「大丈夫だ、問題ない」
「・・・・妙に自信がありますが、何か根拠でもあるんですか?」
「うん・・・・ちょっとな、確信は持てないが。ところで、竜は今何処に?」
「『戦車豪』の横穴で寝ています。今さっき誘導してました」
「あそこか・・・・・。そうか、じゃあ急いで向かおう。好都合だな、寝てる間に調べたいことがある。行く途中の車内で、いきさつを聞かせてくれ」
そう言うなり、椅子から立ち上がりテキパキと準備を整える始める。
バッグとクーラーボックスを両手に持っていたので、片方を受け取る。
「じゃあ、行こうか。未知との遭遇だ」
うわー、テルミンのBGM聞こえそう。
「足(移動手段)、何かあります?」
「アンビ(アンビュランス、救急車)があるだろう」
「了解。鍵もらいます」
救急車に乗るという夢が叶えられるっぽい、しかも運転手側ってレアだよね。サイレン鳴らしてもいいよね。
「そうそう、それとな。考えておけ」
「何をですか?」
「竜の名前だよ。第一発見者だろう」
「あれ、論文書いた人間が学名つけるらしいですよ、確か」
「ふむ、そうなのか。相変わらず無駄な知識はあるな」
「ほめ言葉として受け取っておきますよ。・・・・それと、竜の危険性次第では退治する可能性もありますし、命名しても無駄かも」
「ふざけるな!冗談は顔だけにしろ!この新種の生物の価値がわからないのか!!」
・・・・・・・・・何か説教第2部開幕の予感です。ぶっちゃけ僕悪くないよね、うん。
まあ、それでも楽しむとしましょう。変態紳士万歳。