脳筋王女は冒険者になる ~恋も戦闘も全て力で勝ち取りますわ~
「お父様、わたくしも、あの冒険者達と一緒に参ります」
夕食後に部屋に戻ろうとしていた国王陛下である父を呼び止めて、自分の決意を語った。最近わが国では魔物の被害が増えてきており、看過できない状況になっていた。そこで王都で活躍している冒険者パーティーに調査する任務が下った。父が謁見している時に私達王族も一緒に立ち会っており、その時に私も一緒に行こうと心に誓ったのだ。
冒険者のリーダーが超タイプでしたの。
彼の名はクライン。細身なのにがっちりしていて、燃えるような赤い髪に、ダークグリーンの瞳を持つ容姿端麗な男性。年齢は私より5歳上の21歳。頼りない年下より年上のが好みだ。第三王女である私としては、親に決められた婚姻など断固として拒否する。将来の夫は自分で決める。
王女なのに騎士団に交じって喜々として訓練している事をお父様が悩んでいたのは知っている。女性らしくありなさいと何回叱責されても私は聞く耳を持たなかった。
お父様に断られることが分かっていた私は、条件を付けることにした。
「もし任務に失敗した暁には、お父様の言う通りにします」
「ライアよ、それは隣国の第二王子の妻になること意味しておるのか?」
「……はい。でも彼らに言っていた褒美は私にも適用させてくださいませ」
任務を達成したら、それぞれが望む褒美を一つ与えると。
恋は命がけなのよ。
王女だって例外じゃない。
この任務は絶対に失敗出来ない。
彼のメンバーはリーダーである戦士クラインと、神官である貧乳のミレイア、斥候担当の酒好きドルトス。そこに騎士団仕込みの私を加えた4人パーティー。
最初は私に遠慮していた彼らだったが、旅をしていくうちに仲間と認められた。最初は王女様呼びしていたのが、徐々に敬語が取れ、呼び捨てでライアと呼んでくれるようになったのが証拠だ。
何回か戦闘を重ねて分かったのが、パーティーメンバーでわたくしが一番強い。
それも圧倒的に。
お気に入りのとげ付きメイス(命名:メイちゃん)で大概の魔物は一撃で沈めた。
オークの群れに出くわした時に、彼ら3人が1体を倒す間に、私は残りの3体を倒し終わって、更に武器の手入れまで完了していた。
確かに私は魔力の総量が多い。
王族は国民と比較しても魔力量が多いが、わたくしはその中でも多い方だ。
そういえば、騎士団長と模擬戦をした時に、彼が大事にしている大剣をメイちゃんで粉砕したことがあった。騎士団長から訓練では魔力による身体強化を禁止して欲しいと、かなりしつこくお願いされた。あの強面の男に泣きそうな顔で必死に頼まれては了承するしかなかった。彼が持っているもう一本の大剣と力比べしたかったのに二度と勝負を受けてくれなかったの。
クラインは慎重派なのか、戦闘になるとメンバーに作戦を伝える。苦戦する相手ならいざ知らず、雑魚モンスターに必要ないと思い、私は無視して突っ走る。だって簡単に倒せるんですもの。
そんな性格の彼はきっと恋に奥手のはずだわ。
わたくしがリードするから心配しなくても宜しくてよ。
いつしか貧乳のミレイアがわたくしの事を『脳筋』と呼ぶことがある。意味が分からないでいると、斥候のドルトスが教えてくれた。考えるより先に行動しちゃうから、脳みそが筋肉で出来ている皮肉らしい。
意味は分かったけど、怒ることでもないので放っておいた。
王族は民の模範になるべきと教わってきたので、その程度で目くじらを立てる事はありえませんわ。
それよりも腹が立つのは、ミレイアの職業は神官なのに彼に好意を持っていた事よ。神に身を捧げる神官は結婚出来ないのよ。ご存知ないのかしら。
野営をする時に、見張り番を彼と一緒なることを望むのだ。彼の腕に絡めてお願いしている時に、わたくしは彼女の首筋に手刀を放って眠らせてあげた。回復担当で魔力が必要なんだからさっさと寝て欲しいですわ。
クラインとドルトスが傷ついている時に真っ先にクラインのケガを治すことも気に入らない。ドルトスのが重症なんだからそっちを先になんとかしなさいよ。
恋する女ってほんとうにやっかいだわ。
嫌になっちゃう。
ドルトスが何も言わないので、わたくしも苦言を呈さなかった。
ミレイアは彼に好意を抱いてるのに、彼の好みをちっとも理解していないの。
酒場で夕食と取っている時に、彼はお酒を飲んで気分よかったのか自身の好みを教えてくれた。
豊満な胸があり、上品で控えめな女性が好みだと。
わたしくは見ての通り立派な胸があります。
王女なので上品であるのは当たり前です。
おしとやかな女性は王女の定番ですが、わたくしはどうでしょうか。
活発とか逞しいと言われた事はありますが、わたくしは例外ではなく定番なのです。第三王女ですし、おしとやかに決まっております。だから控えめで確定です。
彼の理想の条件と自分を照らし合わせてみます。
なんということでしょう
わたくし達は運命の相手だったのです。
彼に好かれるためにわたくしは努力しました。
好きでもなく王命で結婚するより、相思相愛が理想ですものね。
喉が渇いたと訴える彼のために、近くにリンゴの木を見つけたので、5mくらいの高さにあったリンゴをジャンプして手に取ると、木のコップの上で握りつぶしてジュースにしてあげた。
お礼を言われたけど、顔が引きつってたのは気のせいかしら。
眠れないと言うからミレイアにしてあげたみたいに手刀で眠らせてあげた。
翌朝になって首が痛いとミレイアに泣きついていたっけ。
戦闘中に転倒した彼を助けるために、襲い掛かっていたゴーレムをメイちゃんで粉砕してあげた。
ピンチを助けると恋が芽生えるって聞いてたけど、彼からはそんな雰囲気はなかった。
彼が初心だから好意を持たれているのかいまいち実感できなかった。
わたくしが王女だから身分差を気にしてるのかもね。
彼との距離を縮める努力をしつつ、私達は数か月に及ぶ調査で原因を突き止めた。
人型の角を生やしている魔物が関係していることを。
その魔物は廃墟になった村で何度か目撃情報があった。
私達は急いでその場所に向かう。
これが最後の戦いになると思う。
村に着くと、身の丈3mあるオーガが待ち伏せいた。
「クライン、ここはわたくしが受け持つから、みんなはあっちの魔物をお願い」
オーガの他にコボルトの群れがいたので、そちらの討伐は彼らに任せた。
オーガが彼らの許に向かわないようにけん制しながら戦う。
身体強化の甘い彼らでは、下手に食らったら一撃で死んでしまうからだ。
オーガがこん棒を振り下ろしてきた時にメイちゃんではじき返す。
その隙をついて彼ら横を通り過ぎ、コボルトの許にたどり着いた。
なんとかオーガを倒し終わって仲間の許を訪れようと思ったら、彼らの前に見知らぬ魔物が立ちふさがっているのが見えた。
「あれはまさか……悪魔だわ!」
王家に伝わる伝承の姿絵にそっくりだった。
2本の大きな角を生やしており、白い長髪で貴族のような服装をしているが、立派な体躯で片手で禍々しい大剣を持っていた。
わたくしでも勝てないかもしれない。
それ程に悪魔の力は恐ろしいとされている。
全身にさっきよりも多く魔力を纏わせて、急いで仲間の許に合流すると、異変を感じた。
私の存在に気が付いた悪魔がこっちを凝視している。
何度も目を手で擦り、口を開けて驚いた表情をしていた。
あれ?
もしかしてイケますの?
なんか思ってたほど強くない気がしますわ。
やっちゃいます?
「クライン、これで最後です。みんなであいつをやっつけましょう」
私の呼びかけにクラインは反応しない。
仲間たちは恐怖に飲み込まれているのか、固まったまま動かない。
覚悟を決めた私は一気に悪魔の許に駆け出した。
メイちゃんを大きく振りかぶり、悪魔の横顔に渾身の一撃を入れた。
悪魔はそのままぶっ飛び、地面に3回ほどバウンドすると、倒れて動かなくなった。
近づいて確認したけど、死んでいない。
白目を剥いて手足がピクピク動いていた。
わたくしが止めをさしてもいいのですが、ここはチームプレーですわ。
ミレイアに頼んで、神官の悪魔払いの術で止めをさしてもらった。
「やりました。これで望みが叶いますわ」
私の言葉がきっかけで仲間たちも勝利に喜んでいた。
こうして見事悪魔を討伐したわたくし達は王都に戻ってきた。
彼らに任務を下した時にいた関係者全員が謁見の間に集まる。
お父さまがみんなに賛辞の送った後にそれぞれが願いを言う時がきた。
最初に願いを申したのは、リーダーのクラインだった。
「王様、未開の地でもいいので領主になりたいです」
その後に斥候のドルトスが続いた。
「王様、俺っちはお金でいい。それで好きなだけ酒を飲むんだ」
わたくしの番になり、待ち焦がれていた願いを言う。
「クラインとの結婚を望みます」
「王様、先ほどの褒美を変更させてください。ライア様との結婚は拒否でお願いします」
信じられないことにクラインは私との結婚は乗り気ではない様子。
みんなの前だから照れているのかしら?
うふふ、可愛い人ね
彼が勇気を踏み出せるように一言添えてあげましょう。
「結婚を了承するまで殴り倒します」
彼に見せつけるように相棒のメイちゃんを持ち、もう片方の手のひらの上をペシペシと叩いた。
「さ、さっきの私の発言を取り消してください」
願いが通じたのか、クラインはわたくしとの婚姻は拒否しないみたい。
よかったですわ。
次は貧乳のミレイアの番。
「王様、私は神官で結婚を許されておりません。ですが、クラインと結婚したいと思います。教皇様に話をつけてもらいたいです」
予想してた通りにミレイアも彼との結婚を望んだ。
正直彼女のことは好きではないけど、苦労を共にした同じパーティーだ。祝福してあげよう。
「まあ貴女も彼を支えてくださるの? それは素敵ね。では貴女に子が生まれたら性別問わず、私がみっちりと訓練してあげましょう。わたくしみたいに脳筋にしてあげますわね」
両手を広げ、笑みを浮かべて彼女を歓迎してあげた。鍛錬というプレゼント付きで。
「お、王様。先ほどの話を取りやめます。お店を開きたいのでその援助をしてください」
彼女は控えめなのか、発言を取り消して別の望みを言っていた。
遠慮しなくてもいいのに。
謁見の間で全員に白い目で見られたが気にしない。
お父さまなんて、ぽかんと口が開いてますわ。
うふふ、はしたないこと。
彼との結婚は無事にお父様から了承された。
クラインが提案した通り、領地は未開の地になった。
お父さまは王都に近い場所を提案していたけど、宰相が全力で止めていた。
里帰りも近いし良いと思ったけど、お父さまがわたくしを甘やかすと思っていたのかしら?
心配しなくてもいいのに。
王都に近い場所にするなら宰相辞めるって懇願していた意味は分からず仕舞いだけど。
もしかして子供の頃に宰相の自宅に遊びに行った時に魔力操作を誤って宝物庫を木っ端微塵に大破させた事があるけどそれが原因かしら?
それとも彼のひとり息子が、私の五歳の誕生日パーティーでスカートを捲ってきたので、魔力を乗せた平手打ちをお見舞いしたら、壁に激突した事がある。それから女性恐怖症になって引きこもりになったと聞いたけどその事かな。
子供のした事なのに、未だに根に持ってるのなら器が小さいわ。
領地に向かう前にクラインを父の個室に呼んでから、「申し訳ない」と言って土下座していた。可愛い娘を頼むからってそこまでしなくてもいいのに。
大袈裟なお父様だこと。
いよいよ新たな領地に向かう際に城下町の外門までみんなが見送りにきてくれた。全員がばんざーいと喜んでいたけど、何か腑に落ちない。
宰相なんて満面の笑みでしたもの。
彼には嫌われていると思ってたけど、超貴重な指輪をプレゼントされた。専用の地図で持ち主の現在位置が分かる。
そんなに心配されてるとは、知らなかったわ。
やっぱり、王都に住むって提案した方がいいのかしら。
まあ、いいわ。
彼と一緒なら大丈夫。
未開の地なんて問題ありませんわ。
騎士団仕込みの私の力で領地を切り開いてさし上げますわ。
魔物も畑もお任せあれ。
恋する王女は無敵ですもの。
(完)
読んでいただいてありがとうございます。
宜しければ、『評価・リアクション・感想』があると嬉しいです。
反応があるとモチベーションがアップして執筆意欲があがります。
ご協力よろしくお願いします (^^)/




