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大好きな君に、愛を込めた一言を

作者: 赤井猫
掲載日:2026/04/23

愛を伝えるのに、長い言葉は必要ない。僕はそう思う。

相手が友人ならなおさらだ。だからこそ、たった一言で伝えよう。大好きな君に、愛を込めた、一言で。

ある冬の日、龍園正(りゅうえんせい)は白い息を吐きながら、手をポケットに突っ込んだ。今日は最近の中でも特に寒い。身体だけでなく、心までも冷えていきそうだ。

「おはよう!正くん!」

振り向くと、正の幼なじみでクラスメート、浅葉輪花あさばりんかがこちらに手を振っていた。少しの間その場で待っていると、輪花が追いついてきた。

「おはようございます。朝から元気ですね」

「正くんはいつもより暗いね!」

いきなりデリカシーの無い事を言ってくる輪花を、正は軽く睨んだ。しかし、輪花はそれに気付かなかった。

「寒いんですよ。僕は輪花さんと違って寒がりですから」

輪花は正の服装を見て、納得した。コートにマフラー、手袋をはめている。特に寒いとは言っても、輪花はさすがに着込みすぎかと思った。

「あの、今更なんですが、何してるんですか?」

今は冬休みで、学校は休みだ。

「私は友達の家に泊まりに行って帰ってきた所だよ。逆に正くんは何してるの?」

「僕は本屋に行くんです。好きな小説の新作が出たので、買いに行くんです」

「あ、そうなんだ!」

「はい。じゃあ、また休み明けに」

正はまた歩き出したが、後ろから足音が聞こえたので、振り返った。すると、輪花が付いてきていた。

「あの……どうしたんですか?輪花さんの家は逆方向では…」

「私も本屋さん行こうかな〜。なんか買いたい」

 仕方なく輪花と一緒に歩いていくと、約二十分後、正がよく行く本屋が見えてきた。

 正が小説のコーナーへ歩くと、目当ての本があった。『また明日があったなら』。まだ残っているとは思わなかった。本の会計を済ませて店を出ようとすると、輪花の姿がない。店内を見回すと、絵本のコーナーに見つけた。

「何を見てるんですか?」

「……なんか面白そうなのあんまりないなぁって」

「買わないなら帰りましょうよ。家からここ、遠いでしょう」

「そうだね!帰ろ!」

 空は少しだけ暗くなって、夕焼けが綺麗に輝いている。

「ねぇ……正くん…」

「どうしたんですか?」

少しの沈黙のあと、輪花は小さな声で言った。

「ううん…なんでもない」

「……らしくないですよ。言いたい事があるならはっきり言ってください。」

輪花は気まずそうな顔をして、正の方を向いた。

「正くんにさ、ちょっと相談したいんだけどいい?」

「なんですか?僕が役に立てるならなんでもどうぞ」

「私の友達の話なんだけどね……」

そう言い、輪花は話し始めた。

 輪花の親友、桃は、彼氏がいた。しかし、些細な事で喧嘩をしてしまい、一週間ほど話していないという。きっかけは、彼氏との価値観の違いだ。桃が友人との喧嘩で泣いてしまっていた所を見られ、笑われてしまったらしい。

「……って事なんだけど、桃ちゃんになんて言ったらいいかな……」

輪花が正の方を向くと、正は夕焼けの空を見て、ぼんやりと何かを見ていた。

「正くん……?」

「……その、桃さんって人に伝えておいてください。」

「何を?」

「二つあります。一つ目は、嫌だったら、ちゃんと嫌と言って良いと言うこと。そして、二つ目は…慰めるつもりもなく、ただ笑うだけの彼氏なら、縁を切ったほうがいい、ということです。」

そう言う正は、いつもよりも冷たい目で、低い声で言った。

「うん…伝えておく」

「……泣いてる人がいたら、慰めてあげてください。輪花さんも」

「うん!もちろん!……ねぇ正くん。もう私に対して敬語やめてよ。呼び方も「輪花」でいいよ」

正は少しだけ虚を突かれたように目を丸くしたが、すぐにいつものような優しい笑顔で答えた。

「じゃあ、呼び方は変えます。でも、敬語は続けさせてください」

「なんで?普通に話そうよ!」

「人には、誰にでも可能性があるんです。自分が知らないものも含めて。その可能性が開花したら、僕を超える才能になるかもしれないです。だから、相手への敬意を忘れないように、敬語で話すようにしているんです」

(なんだか難しいけど……要するに正くんは優しいんだね!)

長い話を聴くのが不得意な輪花は、正の言葉の大半を理解していなかった。

「優しいね、正くんは」

「えっ……?!」

正は慌てて顔を背けた。自分の顔が真っ赤になっていることが分かったからだ。

「どうしたの?」輪花が正の顔を覗き込む。「正くん!大丈夫?!顔赤いよ?!」

どうしたのと言われても、自分も分からない。「優しい」なんて、小学生から長い間言われてきた。輪花からだって言われている。それなのに、なんで恥ずかしいのだろうか。今更、優しいって、そんな一言で……

いや、台詞には関係がないのか…?と、正は思った。

『輪花に』言われたから……だから……、

「大丈夫……?」

「…はい。ごめんなさい。帰りましょうか、輪花」

「輪花って呼んでくれたね!ありがと!」

二人の足音が、夕焼けの空に響きわたった。



           ◆



 あの日から、輪花の事が正が頭に張り付いて離れない。「優しい」と言われたあの声色と笑顔。

「……会いたい…」

その時だった。正の部屋のインターホンがなった。

(誰だろ…僕を訪ねてくる人なんて……)

正が住んでいるアパートは古く、モニターが付いていない。玄関に行ってのぞき穴かわ見てみると、そこには誰もいない。警戒しながらドアを開ける。

「やっほ〜!正くん!来ちゃった!」

ドアの横から、輪花が勢いよく飛び出した。

「輪花?!どうしたんですか?!」

正は驚いて玄関で尻もちをつきながら言った。

「正く〜ん!腰抜かしちゃった?大丈夫?」

普段なら、大丈夫に思いますか?とでも言い返すところだが、今日は違う。輪花の顔を見ると、言葉が詰まって出てこない。

「……正くん?大丈夫?顔赤いよ?熱でもあるのかな…」

輪花が正の額に触れる。冬だからか、ひんやりとした手が心地よい。思わず口元が緩んでしまう。

「正くん、今笑ったでしょ?!何?!私の顔なんか変?!」

「いえ、すごい可愛くて……」

その言葉の意味に気付いたのは、口に出した後だった。

「え…正くん、今…かわいいって……」

「いや…あの……はい…」

「私の事…かわいいって思う…?」

輪花は頬を赤らめ、正の方を見ている。

「……はい」

(………なんて返せばいいんだろ…)

気まずい空気を破るように、正は口を開いた。

「…で…輪花はなんでうちに来たんですか?」

「いや…ちょっと、一緒に遊びたいなぁって…」

「…いいですよ!何します?」

「じゃあ…私に好きって言って!」

突然の要求に、正は顔をしかめた。しかし、すぐに赤子をあやすように言う。

「…また今度、言ってあげます。今日は、別の事して遊びましょう」

「……うん。なら、なんかしよ?」

「もちろんです」


        

           ◆◆



 ある日、正はある人と会っていた。高校の先輩、赤馬真童(あかましんどう)だ。

「正、どうしたんだ?急に相談したい事があるって」

高校の近くにある、ファミリーレストランの一席で、正と真童は向かい合っていた。真童がテーブルの上に置いてあるココアを一口飲むと、話を切り出した。

「僕…好きな人がいるんですけど……」

「あ〜、あの…浅葉輪花…だっけ?三組で正とクラス一緒の」

「な…なんで知ってるんですか…」

思わず正は仰け反ってしまう。しかし真童は当たり前のように言う。

「お前の態度見てればわかるよ。俺を誰だと思ってるんだ。俺、お前に『観察眼の怪物』って言われたんだけど」

「あぁ…そうでしたね…」

「それで?輪花がどうしたんだ?」

真童はコーヒーを持ってきて正に勧めたが、正はそんな気分ではなかった。

「輪花に…告白した方がいいですかね…」

告白と言う非日常的な単語に、真童は驚きを隠せなかった。しかし少しづつ、真童は真剣な表情に変わっていった。

「告白ねぇ…」

「…はい」

「俺に人の恋愛事情に口出す権利は無いけどさ、告白のタイミングは、良く考えた方がいい」

正は言葉が出てこなかった。それほどまでに真童の言葉は、正の胸に突き刺さった。

「逆に正は、輪花に告白したかったり、した方がいいと思う?」

「…しない方がいいって事ですか?」

「…知らねぇよ。これはお前の人生だ。主役は俺じゃない…ただ……」

「ただ?」

「その告白は、お前の人生と、輪花の人生が交わる所だ。するんだったら、ビビんな」

人生が交わる所。その言葉を、正は小さな声で繰り返した。

「…俺はそんくらいしか言えないなぁ。ごめんな」

「そんな事無いです!すごい良いアドバイスでした!」

正は真童に頭を下げた。

「正、この後時間あるか?」

「え…?はい。ありますけど…」

「じゃあ、聴かせてくれよ。輪花の話」

真童は椅子に座り直し、正に目を向けた。

「…いいですよ。好きなだけ聴かせてあげます」

そう言って、二人はまた話しだした。



           ◆◆◆


 ―――一ヶ月後―――

 今日は、正と輪花の卒業式。お世話になった教室と恩師に別れを告げ、家路につく。

「…ねぇ正くん」

振り返ると、そこには輪花がいた。いつも通りの制服が、なぜか一段と綺麗に見える。

「あぁ、輪花。輪花とも、今日で学校変わってしまいますね。」

「…悲しいね」

「ええ、輪花とは、ずっと一緒にいたかったです。実に哀しい。」

「……正くん、最後に、写真撮らない?」

輪花はスマートフォンを取り出した。

「いいですよ。並んでください」

パチリ、と鳴ったシャッター音の後、なぜか正は、言葉に出来ない喪失感を感じていた。

「……最後の想い出だね、これ」

そう言った直後、輪花は思わず、正に抱きついていた。

「正くん…今まで、本当にありがとう……!」

涙を流しているのか、声が震えている。正も、今すぐにでも、泣き出したかった。それでも、正は笑顔で応えた。

「何言ってるんですか。二度と会えない訳じゃないです。これからだって、沢山、想い出創りましょう」

「……うん!そうだね!」

 正は輪花と分かれる前に、輪花を呼び止めた。

「?どうしたの?正くん」

(きっと、今言わないと、二度と言えない)

「輪花、大好きだよ。これからも、ずっと」

「えっ――」

「これで、一ヶ月前の約束は果たしましたよ」

「…覚えててくれたの…?」

「当たり前ですよ」

輪花は、さっきまでと違い、にっこりと笑った。

「…私も、大好きだよ!」

 

         ◆◆◆◆


正は帰り道、真童に電話をかけた。

「真童さん」

「どうした?良いことでもあった?声が弾んでるぞ」

正は、笑顔のまま応えた。

「続き、話してあげますよ。輪花の話、好きなだけ。

輪花に伝えた、愛を込めた一言を…ね」


まずはこの作品を読んでくださった皆様に、心から感謝をお伝えします!!このサイトで、僕はネット上での初投稿となります!

なので、これからのために、『☆☆☆☆☆』や、応援、改善点のアドバイス等のコメントを頂けたら幸いです!

では、またどこかで!


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