表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレベーター保守員異世界転生_昇降士は最下層から這い上がる ~異世界でも点検は怠りません~  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/22

第十八章 反撃の準備

管制塔が陥落してから一週間が経った。


塔の中層は、今や最後の防衛線となっていた。下層は完全に敵の手に落ち、上層への道は塞がれている。誠司たちは、中層の一角に籠城していた。


「現在の状況を報告する」


作戦会議で、守備軍の指揮官が説明を始めた。


「敵軍は中層の南部を制圧。我々は北部に後退した。兵力は、当初の三分の一まで減少している」


「昇降機構は?」


「敵に奪われた管制塔からの制御を受けて、大半が敵の手中にある。我々が使用できるのは、北部の一部のみ」


誠司は、地図を見つめた。


状況は絶望的だった。兵力も、資源も、昇降機構も——全てが不足している。このまま籠城を続けても、いずれ押し切られる。


「打開策はないのか」


「正攻法では、難しい。しかし——」


指揮官は誠司を見た。


「一つ、可能性がある」


「何だ」


「世界の心臓だ」


会議室が静まり返った。


「世界の心臓を起動すれば、状況を一変させることができる。しかし、そのためには——」


「最上層に行く必要がある」


誠司が言った。


「そうだ。そして、最上層への道は、敵に塞がれている。昇降機構は使えない。通常の手段では、不可能だ」


「不可能じゃない」


誠司は立ち上がった。


「昇降路を使えばいい」


「昇降路?」


「昇降機構が停止していても、昇降路自体は残っている。保守用の梯子と足場を使えば、内部を登ることができる」


指揮官は目を見開いた。


「しかし、それは——」


「危険なのは分かっている。でも、他に方法がない」


誠司は地図を指さした。


「ここに、最上層まで直通する昇降路がある。古い機構で、今は使われていない。敵も、ここは監視していないはずだ」


「どうやって分かる」


「管制塔で調べた。この昇降路は、記録上は『廃棄済み』になっている。実際には、まだ構造は残っているはずだ」


指揮官は考え込んだ。


「……一人で行くつもりか」


「大人数では、見つかる。一人なら、隠密に動ける」


「しかし、最上層に着いたとして、世界の心臓を起動できるのか」


「分からない。でも、やるしかない」


誠司は、会議室の全員を見回した。


「俺に行かせてくれ。俺は昇降士だ。昇降路の中で動くのは、俺の専門だ」


長い沈黙の後、指揮官が口を開いた。


「……分かった。許可する」


「ありがとうございます」


「ただし、条件がある。お前が最上層に到達するまで、我々はここで持ちこたえる。時間を稼ぐ。だから——」


「必ず、成功させます」


誠司は頭を下げた。


会議が終わり、誠司は準備を始めた。


必要なものは多くない。工具、ロープ、食料、水。それと——


「これを持っていけ」


ガルドが、小さな結晶を差し出した。


「これは——」


「緊急用の魔導核だ。いざという時に使え」


「ガルドさん——」


「生きて帰ってこい。それが、お前にできる最大の恩返しだ」


誠司は、結晶を受け取った。


「必ず」


ミラも、見送りに来た。


「セイジ」


「ミラ」


二人は、しばらく黙って向き合った。


「……気をつけてな」


「ああ」


「私は、ここで戦う。お前が戻ってくるまで、守り続ける」


「頼んだ」


誠司は、ミラの肩に手を置いた。


「俺たちは、最下層から這い上がってきた。ここまで来たんだ。最後まで、諦めない」


「ああ」


ミラは頷いた。


「行ってこい」


誠司は、廃棄された昇降路の入り口に立った。


巨大な鉄の扉。錆びついて、長い間開かれていなかったことが分かる。誠司は工具を取り出し、扉を開いた。


ギギギ……と、金属が軋む音。


扉の向こうには、暗闘が広がっていた。ヘッドライトを点けて、中を照らす。


昇降路だ。垂直に伸びる空洞。壁面には、保守用の梯子が取り付けられている。上を見上げると、暗闘の彼方に、かすかな光が見えた。


「最上層まで、何百メートルあるんだ——」


誠司は深呼吸をした。


これから、長い登攀が始まる。


「行くか」


誠司は、梯子に足をかけた。


一段、また一段。ゆっくりと、確実に。


昇降路の中は、静かだった。外の戦闘の音も、ここまでは届かない。聞こえるのは、自分の呼吸と、梯子を掴む手の音だけだ。


「前世で、何度もやった作業だ」


誠司は呟いた。


エレベーターの保守では、昇降路内での作業は日常茶飯事だった。点検、修理、部品交換——狭い空間で、高所で、作業を行う。


「あの経験が、こんな形で役に立つとはな」


皮肉な話だ。前世では、昇降路で死んだ。この世界では、昇降路で世界を救おうとしている。


登り続けた。


一時間、二時間——時間の感覚がなくなっていく。


途中、休憩を取りながら、少しずつ高度を上げていく。腕は痛み、足は痺れ始めている。しかし、止まるわけにはいかない。


「あと、どれくらいだ——」


上を見上げる。光は、少しずつ近づいている。


その時、足元から音がした。


誠司は、下を見た。


暗闘の中に、光が見える。それも、一つではない。複数の光が、下から近づいてきている。


「追っ手か——」


敵が、誠司の動きに気づいたのだ。


「まずい——」


誠司は、登るペースを上げた。しかし、追っ手の方が速い。彼らは新鮮な体力を持っている。対して、誠司はすでに消耗している。


「このままじゃ、追いつかれる——」


誠司は、周囲を見回した。


昇降路の壁面に、何かがある。配管だ。古い配管が、壁に沿って上へと伸びている。


「あれを使えば——」


誠司は、梯子から配管に飛び移った。配管の上を走るように移動する。梯子よりも速い。しかし、危険も増す。配管が腐食していれば、落下する。


「持ってくれ——」


配管を伝って、さらに上へ。


追っ手との距離は、少しずつ開いていく。しかし、まだ安全とは言えない。


その時、前方に障害物が見えた。


配管が、途中で切れている。何かの理由で、破損したらしい。その先に続くには、飛び移らなければならない。


「跳べるか——」


誠司は、距離を測った。三メートルほど。助走なしでは、厳しい。


しかし、選択肢はない。


「行くしかない——」


誠司は、配管の端まで走り、跳んだ。


空中に身を投げ出す。暗闘の中で、対岸の配管を目指す。


指先が、配管に触れた。掴む。しかし、滑る。


「くそ——」


必死で握りしめる。身体が振り子のように揺れる。


「落ちる——」


その瞬間、誰かの手が、誠司の腕を掴んだ。


「掴まれ!」


声が聞こえた。


誠司は、その手に助けられて、配管の上に引き上げられた。


「お前は——」


顔を上げると、見知らぬ男が立っていた。中年の、痩せた男。昇降士の服を着ている。


「誰だ——」


「説明は後だ。今は逃げるぞ」


男は誠司の手を引いて、さらに上へと登り始めた。


男に導かれて、誠司は上層へと進んだ。


追っ手は、いつの間にか見えなくなっていた。男が、何らかの方法で撒いたらしい。


「ここで一息つける」


男は、昇降路の途中にある小さな空間——おそらく、かつての機械室——に誠司を導いた。


「お前、誰だ」


誠司は問いかけた。


「俺の名はエルドリン。元・上層昇降士だ」


「元?」


「戦争が始まって、上層から逃げた。敵に捕まるのを避けて、昇降路の中に隠れていた」


「なぜ、俺を助けた」


「お前が『聴診士』のセイジだと、分かったからだ」


誠司は驚いた。


「俺のことを知っているのか」


「知っている。管制塔での活躍は、上層にも伝わっていた。お前の技術は、この塔の希望だ」


エルドリンは、水筒を差し出した。


「飲め。疲れているだろう」


誠司は水を受け取り、一口飲んだ。


「お前は、最上層を目指しているんだろう」


「ああ」


「世界の心臓を起動するために」


「……知っているのか」


「上層昇降士は、世界の心臓について知っている。起動方法も、ある程度は」


誠司は目を見開いた。


「教えてくれ」


「いいだろう。どうせ、俺一人では何もできない。お前に全てを託す」


エルドリンは、懐から古い巻物を取り出した。


「これは、世界の心臓の起動手順書だ。上層の秘伝として、代々伝えられてきた」


誠司は巻物を受け取り、開いた。


「これは——」


巻物には、複雑な図形と文字が描かれていた。そして、その中心に——


「HHK」


三つの文字が、大きく記されていた。


「やはり——」


誠司は呟いた。


「HHKは、起動の鍵だ。三つの段階を経て、世界の心臓は目覚める」


「三つの段階——」


「第一に、『解放』——封印を解く。第二に、『開門』——扉を開く。第三に、『結合』——世界を繋ぐ」


「解く、開く、繋ぐ——」


誠司は、前世で叩き込まれた言葉を思い出した。


「外す、広げる、壊す——HHK」


「何だ、それは」


「俺が、前の世界で学んだ言葉だ。閉じ込め救出の三原則。外す、広げる、壊す」


エルドリンは首を傾げた。


「前の世界?」


「……長い話だ。でも、HHKという言葉が、両方の世界に存在する。偶然じゃない」


誠司は、確信を深めていた。


二つの世界は、繋がっている。そして、その繋がりの鍵が、HHKなのだ。


「教えてくれ。起動の具体的な手順を」


エルドリンは頷いた。


「いいだろう。時間がないから、要点だけを——」


二人は、起動手順について話し合った。


エルドリンの説明によれば、世界の心臓は三つの「扉」で封じられている。それぞれの扉を開くためには、特定の「鍵」が必要だ。


第一の扉——封印の扉。これを開くには、「解放の儀式」を行う必要がある。具体的には、心臓の周囲に描かれた魔法陣を、特定の順序で活性化させる。


第二の扉——次元の扉。これを開くには、「開門の儀式」を行う必要がある。二つの世界の境界を薄くし、エネルギーの流れを作る。


第三の扉——結合の扉。これを開くには、「結合の儀式」を行う必要がある。術者の意志を心臓に伝え、二つの世界を完全に繋ぐ。


「三つ全てを成功させれば、世界の心臓は起動する。しかし——」


「しかし?」


「一度起動したら、止める方法は知られていない。心臓は、術者の意志に応じて力を発揮するが、意志が揺らげば、暴走する可能性がある」


「つまり——」


「覚悟が必要だ。世界の心臓を起動するなら、最後まで意志を貫く覚悟が」


誠司は頷いた。


「覚悟はできている」


「なら、行け。俺はここに残る。追っ手を引きつける」


「いいのか」


「俺は、もう長くない。戦争で、傷を負った。お前に全てを託す」


エルドリンは、誠司の肩を叩いた。


「この世界を、頼んだぞ」


誠司は、深く頭を下げた。


「ありがとう。必ず、やり遂げる」


誠司は、再び昇降路を登り始めた。


エルドリンの情報を胸に、最上層を目指す。


もう、迷いはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ