神さまの贈り物
冬の朝、商店街の片隅で、ひとりの女性・美咲は小さな荷物を抱えて立ち尽くしていた。仕事を失い、頼れる人もなく、寒さと不安で心が縮こまっていたのだ。
そのとき、ふわりと頬をなでるような風が吹いた。どこか甘い匂いが混じっている。振り向くと、白いマフラーをした小さな老人が立っていた。
「寒いだろう。ほら、これを飲みなさい」
老人は湯気の立つ紙コップを差し出した。そこには温かい甘酒が入っていた。美咲は思わず受け取り、一口すすると体の奥まで温もりが広がっていった。
「……ありがとうございます。でも、どうして……?」
「わしはこの町の神さまじゃよ。困っている人を見かけると、どうしても手を差し伸べたくなるんじゃ」
美咲は驚いたが、老人の笑顔はどこまでもやさしく、不思議と疑う気持ちはなかった。
「ひとりで背負わんでもいい。人は人に頼るようにできとる。今日のあんたの涙は、誰かとつながる扉になるはずじゃ」
そう言って老人は笑い、美咲の肩をぽんと叩いた。その瞬間、商店街のパン屋の娘が「寒いですね、一緒にどうぞ」と声をかけてきた。
ふり返ったときには、もう老人の姿はなかった。けれど心の中には確かな温もりが残っていた。
その日から、美咲は少しずつ人に頼ることを覚え、また笑顔を取り戻していった。
──神さまの贈りものは、甘酒の温もりと、つながりを信じる心だったのだ。