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第六話 簡易でも目標物などを設置すると、上達しやすい傾向があります。



わちをここまで引きずって晒した上に拷問を受けるまでさせた主人公キャラが出ていってしまい、あいつのせいであいつのせいでと口汚く罵りながらも、いくらか湧いてくる心細さが情けない。


わちはそもそも他人と絡むのが苦手なんよ。わかる。そういうひとだから、あちこちの部活をちら見してなんかしたような気になる程度でちょうどいいわけ。


んでまあ、ラジコンは面白いかも知んないけど、いまのとこさっぱりわからんちんだけど、部活でやるってことは教えたり教えられたりしなきゃなんないでしょ。


重荷なんよそれ。


「駒込さんの中学校は、ラジコン部はなかったのかしら」


と、香織部長は器用に、わちが止まったら止まり、まるで親に相対したときの反抗期のわちのように、言うことを聞かずあらぬ方向に行ってしまったときは、優しく諭し道を示すかのように近くに寄せて、クルマの動き方を見せてくれる。


いやあ、中学校のわちはこんなものではなかったが。


ラジコンと比べたって仕方ないが。


そのラジコンも、ある意味わち自身であるのだが。


ともかくもそのラジコン反抗期のわちがあららんこららんしているというのに、なんだか平常な佇まいで話題を振ってくれる。のだけど、こちとらは知らんひとに囲まれた緊張と、うまく操作できない焦り苛立ちと、中学校の景色のあれやこれやが散らばって、


「あや、あやや」


と、口からは言葉以前のピュアなわちがこぼれるだけ。


「ああ、ごめんなさいね」


部長はクルマを止めて言う。


「なかなか筋が良さそうだから、ほんとはやってたんじゃないかなって思ってね」


もはや何を聞かれていたのかも失われそうになっていた。わちは走馬灯を巻き戻して回答を用意する。


「あ、あることはありました。やろうと思ったことも一瞬だけありました」


ああ余計なこと言っちまった。興味があるように聞こえちまうじゃないのよ。


わちが操縦しているのよりもだいぶ大きいクルマをいじっていた園子先輩が、吹き出しながら加わる。


「でもほんと、筋いいよ。少なくとも私が始めてミニッチ触ったときより上手だよ」


「え、ほんとっすか」


「ほんとほんと」


ふたりの先輩の首がこっくんこっくんと同じように動いている。


嘘っぽくね。


新入部員を繋ぎ止めるためのお世辞だろう。でもまあ、最近は親もあまり褒めてくれなくなっていたし、褒めてくれそうな人間関係も作れなかったので新鮮ではある。


繋ぎ止める。


繋ぎ止めるだけの価値があるだろうか。


価値はなくても、部活はある程度人数を確保しておかないといけないんじゃなかったっけ。三人しかいねえから廃部じゃとか、廃部の危機に瀕した野球部がどうしたこうしたとかを漫画で読んだような気がする。


でも、野球部なんか最低でも九人いなきゃならんのじゃろ。今どきそんなにひと集まんのか。


といって、ラジコン部は何人いりゃいいのやら、見当もつかないが。


三年生がいないことも気にはなる。引退にはまだ早いだろう。もちろん、なんかいねえなあと思っただけで、心配をしたわけじゃないけども。


「ひと休み、お茶にしましょ」


散らかってしまったわちを見透かしたように言う部長。


「そうしましょう。駒込さん、そっちの缶かんにお菓子入ってるから持ってきてもらえる」


園子先輩はペットボトルとコップを用意する。


「んじゃまあ、定石、じゃあないけど、我が県立蒼が竹ラジコン部の置かれている状況について説明しとこうかな」


みんなそれぞれマイカップを用意しているようで、部長はなんだか形容しがたい、サイケデリックとでも言うのか、食欲の進まない柄。園子先輩は、至ってシンプルに白地にくまちゃんが手を振っている。


そこまで内面を露わにして良いものだろうか。


表面に内面を映し出しているかのようなプラスチックのカップは空なので、カップ自身の内面を満たすためにお茶を注ぐ。


わちは紙コップ。これはこれで軽薄で意志のない内面を露わにしているようではある。


「カップ、用意したほうがいいですね」


いつ辞めるかわかんねえのにいい加減なこと言うなよとも思いつつ。


「そうね、そのほうが助かるわ」


園子先輩は缶を開けてお菓子を配る。部長はすぐに封を開いて口に運ぶ。わちは眼の前に置かれたお菓子を見て、いざなぎいざなみを思い出していた。


「んじゃ、話を戻そう。あそこにあるトロフィーは数年前のものなの。私たちの部は、数年前は強豪だったのよ」


これもどこか架空の世界で見聞きしたような設定だ。


「だけど、入部者が減ってしまって、廃部されてしまった。復活させたのは、私たちなの」


それは力が入るだろう。思い入れも強くなるだろう。でもわちにゃ関わりねえこってござんすから。


「裏話があってね、高校のパンフレットにはラジコン部が記載されてたのよ。園子と佳苗はずっとラジコンやってて、それに騙されて入学しちゃったの」


部長はさも愉快そうに肩を揺らす。サディストなんじゃろうな。指導は親切だったけど、嗜虐と親切は矛盾しないような気がする。ああらできないのね、これはどう、それもできないのね、やってあげるわね、うひひ、というのは、見方を変えればサディスティックな気がせぬか。


部長がそうだとは思っていないけども。


「いや、さすがに途中で気がついたよ。気がついたときにはもう遅かったけど。まあでも、活発に動いているもんだと思ってたから、がっかりはしたよね」


口調が砕けて部長と部員から友だちになる。視線の先にはトロフィー。名門のラジコン部で活動できるとあれば、楽しみにしていた部分もあろう。


「顧問の先生はどなたですか」


興味はないがあまり黙っているのもどうかと思われたから聞いてみる。内容はさておいて形式だけなんとかするというのはわちの好むところである。


大概なんともならないが。


部長と部員は顔を合わせる。わち自身は部員である自覚はない。


「顧問、いるんだけど、いくつも掛け持ちしてて、名前だけなのよ。気になる」


部長はわちを見る。見られるたびに身が竦む。


「あ、いやぁ、大変なんですね」


「体育会系は目を離すと危険だから、張り付いていないといけないじゃない。大会なんかおんなじ時期にやるし。だから文化系は、人数の多いところを除いてそんな感じ」


手芸部の生徒が死んだら、それは誰かに殺されたのだろう。事故は顧問が防止努力をするべきだが、手芸をやっていて事故で死ぬとは考えにくい、ということか。


「でも、それでも部活の数を減らそうって話があって、ラジコン部もやばかったんだけど、そこは部長のおかげでね」


「それは、園子、いいじゃない」


「あ、そう。んじゃやめとこ」


話の振りで引っかかりはするけど、異世界の話だ、わちは気にしないよだいじょぶだいじょぶ。


「この部が、名門だったとか、そういうのはどうでもいいのよ。私は駒込さんにここで楽しく過ごしてもらって、結果的にラジコンが好きになってくれたらそれでいいの」


さすがにそれはおかしくないですか、と聞きたくなる。部活動というのは、わちにゃ言われたか無かろうけども、なにがしかの目的があって集うものだろう。ただ集っただけで部活と言えるか。


といって、わちにゃそれしかできんが。





上達しつつあるんじゃないかと思うこともあるんだけど、なにしろ扱うのが自分で組み立てるラジコンなんで、緩やかであれ上昇カーブを描いてますね、とは言いづらい。


操縦の腕もそうだけど、クルマに対する理解も必要になる。


ある程度の速度域での操縦ができるようになった、だからクルマの性能を上げた、途端にクラッシュするようになった、致命的に壊してしまって萎える、という流れ。


走らせるたびに一万円くらいかかってた、とベテランのひとが言ってました。いくらか誇張されているんでしょうけども、クラッシュの原因を解消しようとして部品を買い足したりすると、結構な金額になっちまう。


性能を上げようとしているからなおさらですね。


初心者がアドバイスをしてはいけないんですが、自分に対する戒めとして言えるのは、安易に速度を求めてはいけない、という当たり前の話でしょうか。


出費は気になりますよね。

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