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第25話 

慰めてもらったのかなあ。優しいなあ。


半ば無理やり誘ったラジコンだけど、楽しんでくれてるかなあ。


もしかしたら、あたしのこと少しは好きになってるのかもなあ。


そんなことを考えながら、佳苗先輩とのカテゴリ選抜試験に望む。


レースは二本行い、その際クルマは入れ替える。二本じゃ引き分けになるじゃんと思ったのだけど、勝敗や優劣を決めるためにやるわけではないからこれで十分という話。


こんなところに部長の性格が出ているのか、試験は厳正に行うという意志が感じられる。園子先輩が調整して、出来る限り同じ状態にあるはずのクルマだ。なのにとっかえっこするってんだから。


あたしもセッティングはするけど、細かいところまでという話になると園子先輩には及ばない。


ああそうか。レースが苦手なひとはどうしたってその前になんとかしておけるところはしておこう、という気持ちになるだろう。


そしてまたその姿勢は、たとえば全日本大会とかに出場するようになってくると、また必要になる。


出来ることはしてしまわなければ、勝てないからだ。


レースが苦手なひととレース中毒なひととで同じプロセスを経るというのも面白いねえ。


でもなあ。


初心が園子先輩と仲良くしているなあ。


いや、仲良くしてるんじゃないんだろうけど、なんか仲良くしてそうに見えるなあ。


あたしはこんなに焼餅焼きだったか。


ひとと関わるといろんな気持ち、自他込み込みで意識するようになるもんだなあ。


「やっぱり乾っちには勝てぬ。勝てぬ」


怒りとか哀しみとか、故の自己認識とか、あれこれをあからさまに露出させる佳苗先輩の顔。


そうか、勝ってしまったか。


スタートまではよし真面目にやろうと思うのだけど、途中から初心が気になって疎かになり、なんとなくゴールしてしまっていた。


いまはオフロード2WDの勝負であったけど、実際のところあたしはどのカテゴリであっても構わない。好きなのはオフロードだけど、これやってと言われればはいと答えると思う。


「つ、次は4WDで勝負だな。勝てる気がしないが」


「いえいえ。みっちゃん、里見さんもいますから」


「あのこも速そうなんだよなあ」


速いんじゃないかなあと思う。


初心に習って里見氏と呼んでしまう。あたしの知っている里見氏は真面目で努力家で、セオリーを重視する。自分の感覚や感性など、全くあてにしていない。


いや、こうすればうまくいきますよ、こうなっていますよというやり方を再現する、それを好む。それが彼女の感覚であり感性になる、とでも言ったほうが良さそうだ。


従って速い。


物体の運動は法則に従っている。


こういう言い方があるけど、これは実際には話が逆だ。ああするとこうなるものを、法則、と人間が勝手に名付けただけだ。


ともあれラジコンの運動だって、法則として再現が可能なはずだ。


無数のパラメーターを合理的に現実的に処理して、指先に合致させることができれば。


あまりわかりやすい話ではなくなってしまった。


暗算が速いひとと遅いひととの差、と言ったほうが良かったかもしれない。


計算の速い遅いだって、素質が関わるだろう。だけど、例えば九九みたいにあらかじめ答えを出しやすいように整理しておく、という考え方をすればどうか。


あくまで準備だから時間をいくらかけても構わない。


実はこの、時間をいくらかけても構わないという部分にも素質が関わっているのだけど。


早く答えを出すために九九がある。これは当たり前だけど、そう意識しているひとは少ない。


佳苗先輩も九九は知っているだろうけど、九九は処理速度を上げるためのツールであるとは思ってもいないだろう。


だから多分、ラジコンに関わる九九の部分を活用できない。


「佳苗先輩は」


「ああん」


「ラジコンを魂で走らせるタイプですね」


「当たり前だろ。クルマの走りはわたしの血の流れだ。血潮だ」


「わかりますわかります」


わかるけれども。


ラジコンが速く走るかどうかは、文学ではなくて物理学の範疇である。血が流れるかどうかも、修辞学よりは医学を参照したいところ。


ラジコンには理数系がより親和する。


文系を蔑ろにするとそれはそれで弊害があるが。


自分でも意味不明になってきた。


つまらんことを考えている間に結論は出てしまっていて、佳苗先輩と里見氏の勝負は物理法則同様の結論となる。


「ひいい。やはり、やはり勝てぬ」


「いや、ぎりぎりでしたよ」


と、里見氏が言う通り、見た目には良い勝負をしていたんじゃないかと思う。だけど、佳苗先輩のほうが疲弊憔悴の色が濃い。


熱き血潮の走りには、代償が大きいようだ。


「では、私も」


と、香織部長の御出陣。おそらく部長が全幅の信頼を置く園子先輩の仕立てたクルマだ。性能に差はない。従ってぎりぎりではあるが、やっぱり部長はどこか時空を超えて走っている。あたしもがんばったけどぎりぎりで追い付かない。


「クルマが動いている間は勝てそうな気がしません」


「きっとまたここぞというところで動かないのよ」


柔らかく微笑みながら淡々と言う部長。


え、まって、あれ、動かない。


という状況はあたしにもあった。だから共感はできるけど、大きく違うところがある。


あたしの場合は、走ったところで勝つかどうかわからない。


部長の場合は、自他ともに勝つと思っている。


そこで何か、大抵はつまらないことが原因でクルマが動かくなる。


そもそもがおもちゃのクルマなんだから、つまらないことが起こって当たり前だ。買ったばかりのおもちゃがすぐに壊れてしまったら、そりゃ誰だって怒るだろうし、悲しくもなるだろう。


でも、要するにそんな程度であるとも言える。昨日こんな事があってさ、と話題にするのにちょうどいい。


が、部長は、そしてもしかしたらあたしたちは、それよりももっと上のところで何かしよう、という世界を作ってしまっている。


安物のおもちゃが壊れてました、では済まない世界。


だからこそ、勝つためにみんな精進する。


そこに、必勝の部長がいる。


が、安物のおもちゃが動かなくなるような理由で、部長は敗北する。


同じ負けにしても、自体はより深刻ではないか。


「部長は大変ですね」


「え、あの、そんな深刻なものだとは思っていなかったわ。なんだか胃が痛くなりそう」


でもやっぱり、部長の顔色は変化しない。静かに微笑みを浮かべるばかり。


そして里見氏が登場。


「手加減、しないわよね」


「する理由がないけど、2WDバギーが好きなの」


「いいえ、なんでもいいわ。久しぶりね、勝負するの」


あたしがもやもやしていた数年間は、もちろん里見氏が原因じゃない。むしろ彼女は被害者だ。


あたしは空白を無為に過ごし、里見氏は努力を重ねていた。


それを表すのにちょうどいい言葉がある。


「そうだね。上手になったねえ」


「あら、上から言うのね。でも、ありがとう」


競争の結果はドロー。勝ち負けではなく感触を確かめようという場であるから、決勝戦はやらない。


「でも、わたしがむきになってやっているのに、乾さんはなんか遊び半分って感じがします」


部長と佳苗先輩に、とんでもない言い方で感触を伝えてしまう。


「ああ、そりゃいかんねえ」


「たとえ楽勝でも真面目にやってほしいわね」


いやいや、これでも失礼がないように全力を尽くした結果なんですが。


あ、こりゃよくないな。


ぐだぐだと勝敗を列記してもいまいちなので、結論だけ伝えてしまおう。


園子先輩が抜けたところに里見氏が入る。


非常につまらない結果にはなったけど、佳苗先輩が憂鬱そうにしていたから仕方ない。


なら、結局顔色を伺うなら、先輩後輩で序列が決まるなら、レースやる意味なかったじゃん。


あたしはそうは思わない。





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