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第二十一話 でもまあ、安いものでもないので、例えばタイヤなんかあれこれ揃えるのも難しいですよね。





「ラジコンの、こまけえとこの説明はあたしがしておきます。初心はもうちょっと走る方の、実践的かつ実戦的な練習時間を増やしたほうがいいように思います。お願いします」


と言い切ると、先輩たちは渋々と言った体で頷いていた。


大会で全勝、最も勝ち星を稼いだあたしの言うことだから無下にはできまいと踏んでの強引ではある。


バッテリー、というか乾電池に対する知見を得た初心に、あたしはラジコンのバッテリーについてレクチャーを始める。


ここはあたしの家。バッテリーそれを口実に誘ったのだ。


あたしの家なので、ある意味逃げ場がない状況。気の毒であり、嬉しくもある。


「ラジコンのバッテリーはね」


「は、はい」


「あたしに聞きなさい」


「え、え」


「興味を持ち始めてくれているのではないかな、という目で見ているのだけど」


「ま、まあ」


「大会で勝ったし」


「え、えと」


「今日も家に来てくれたし」


「あ、うん」


向かい合ったあたしと初心の間には、大小のラジコンのバッテリーが並べてある。ニッカド、ニッスイ、LIPO、LIFE、筒型、角形ロング、角形ショート、単三形単四型。一般的に流通しているものであればみんなある。みんな並べた。


一見、将棋やオセロや七並べの対局のようでもある。


「おねいちゃんとこくると、なんでも揃うよ。困ったことがあったらいつでも来な」


「ど、どこの商売上手」


「この中からさ、どれか選ばなくちゃなんないわけだ。んで、当たり前の話をするとさ」


あたしはLIPO、リチウムポリマーバッテリーの角形ショートを指差す。


「これがはいるところにさ」


「はい」


次に、ニッスイ、ニッケル水素バッテリーの丸型ロングを指差す。


「これ放り込むのは無理があるなあと、なんとなく思うでしょ」


「う、うん」


「初心がもし、お小遣いでラジコン買って。あ、ほんとに買う必要ないからね、あたしが用意するから」


「あ、はい」


「欲しいものがあったら言ってね。買ってあげるから」


「あ、あの、先を」


「うんうん。で、買おうとしたけどどれがいいのかわかんない、ってことがあるでしょ。そんなときどうしますか」


お店の人に聞く、と答えると思っていたら。


「い、乾氏に聞く」


だってさ。あたしはうるうるするほど幸福だよ。突然訪れた福音、ああいままさに神がその力を持って約束の地をここに現出せしめあらゆる艱難辛苦から解放しあたしと初心のため


「い、乾氏、どしたの」


「くぅぅぅぅ、嬉しいっ」


「え、ええ、そんなに」


「そんなに嬉しいっ。生きててこんなに嬉しかったことないっ。そもそもね、なにか聞いてもらえるって、嬉しいことなのよ。それを初心に、初心に」


「さ、先を」


「うんうん。だから、どうせひとに聞かなくちゃなんないでしょ。目覚まし時計の乾電池を取り替えるのなら、誰かに聞くなんて必要ないだろうけど。それでも場合によっては聞くじゃない」


「う、うん」


「ましてやラジコンでレースやるなんてなったら、バッテリーの性能も気にしなくちゃなんない。そんなもの、使ったことあるひとに聞いてみるしかないじゃない」


「そ、そうなの」


「あとね、性能を引き出すために慣らしも必要なのよ。これも普通の生活じゃありえないでしょ。乾電池の慣らしなんてしないでしょ。バッテリーを使う家電は結構あるけど、慣らしなんて聞いたことないでしょ」


「う、うん」


「だから、ね。あたしに聞いてね」


「わ、わかった」


「ね。なにも、何も知らなくてもいいのよ初心は」


「そ、そういうわけには」


「大丈夫大丈夫。んじゃ、ちょっと走らせてみようか。知っておいていいこともあるから」


「あ、あるのね」


「さっき、長いのと短いのがあってどっちか選ばなくちゃなんないっていったでしょ」


「あ、うん」


「だけど、大概の場合使えるのよ」


「え、ええ」


「要するにクルマの中に固定できればいいんだから、邪魔になりそうなものを取り除いて、括り付けたらどうにかなる」


「ふ、ふうん」


「最初からどっちでも使えるようになっているクルマもある。どっちがどうか、走らせてみよう。と、その前に」


「これがニッケル水素バッテリー。持ってみて」


「う、うん」


「つぎはこれ。LIPOの角形ショート」


「か、軽い」


「そ。軽くて小さいのに、こっちのほうが高性能」


「へ、へえ」


「でもね、バッテリーは高性能な方が危険なのよ。これは前にも部活で聞いてたよね。充電器の使い方なんか間違えるとほんとに大変だから、不安だったらあたしに聞いてね」


「う、うん」


「不安じゃなくても聞いてもいいからね」


「さ、先を」


「うんうん」


タマミヤの、比較的安価なオンロードに、まずはニッスイを積む。


「ささ、走ってみて」


「う、うん」


重心が高めでダンパーもスプリングのみ。それでいてそこそこスピードが出てしまうからスピンもするし横転もする。


なにより、


「あっ、あっ、あっ」


と狼狽する初心がたまらなく愛おしい。自分で走らせると苛々するところもあるクルマだが、初心の操縦だと思うと可愛くて仕方ない。


「大丈夫大丈夫」


が、初心も上手になってきている。うまく曲がれると車体が実車のようにロールしてすんげえかっこよし。


「いいよ、すごくいい。いいねえ」


「あ、あいがと」


「で、次にこの、角形ショートに載せ替えてみる。当たり前だけど盛大に隙間があいてがたがたしてしまうから、硬めのスポンジかなんかを詰めて固定する。これがさっき言ってたどうにかするって部分ね」


「あ、はいはい、はいはい」


「では、いってみよう」


さっきなんどもこけたせいか、ゆっくりと走らせ始める。でも、なにか感じたものがあるらしく、徐々に速度を上げていく。


コーナーを曲がるときの半径も、徐々に狭められていく。


自分のすることが、ちゃんとわかってんだよね。いや、むしろどうしたらあたしが喜ぶのか、意識しているのかも知れない。


気遣いか。


嬉しいけど、しんどくないか。


「どう、わかる」


「う、うん。なんか、こう、走らせやすい。さっきよりも、言うこと聞いてくれる感じ」


「おおっ、素晴らしい。期待した通りだねえ君は。これで我が軍は膠着した戦局を打開できるであろう」


「わ、わち、あいや、私じゃなくてクルマ、バッテリー」


「わちでいいよ。そうだねえ今はバッテリーの話だったね。このように、車体に載るものが重くなったとき、軽くなったときでクルマの挙動が随分変わってしまう。レースともなれば、軽くて小さい方が有利ってのは、今走らせた感じでなんとなくわかるよね」


「う、うん」


「けど、クルマってクルマだけでは走れないでしょ。当たり前すぎてあんまり意識することがないけど、クルマってのはタイヤを転がして前に進むものよね」


「う、うん」


「タイヤと路面の摩擦があるから前に進むのよね」


「あ、うん」


「タイヤは同じでも、路面って場所によって変わるじゃない。温度によっても変わるし。そんなとき、重いバッテリーを使ったほうが、タイヤがよく路面を掴める、グリップするようになる場合もあるの」


「は、はあ」


「まあでもこれは、遊びで走らせてる場合かな。レースになったらもう、どれもこれも整えてしまうから、ベストで揃えて駄目なら駄目」


「そ、そう」


「まあ、この重さとか重量バランスってなると、他のものでも気をつけなくちゃだけどね。でも、クルマの中で結構な重さを占めてて、それでいて移動させやすいから、ポイントにはなるのよ」


「ふ、ふうん」


「で、長くなったけど結論としては」


「い、乾氏に聞く」


はにかんだような笑顔があたしの前にある。


ああ、神樣。英語で言うとオウマイゴッド。仏語で言うとオウモンデュ。日本語で言うと天晴天晴。


「そう、そうだよ初心。あたしになんでも聞いてね」


と、初心がラジコンについての新たな知見を得たかどうかはわかんないけど、あたしは幸福を得てしまった。




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