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第十四話  ラジコンの面白さは、壊して、直して、工夫して、結果を見る、というところにあります。これは、上級者でも同じです。なぜならば、壊れない機械はないからです。





わちの顔面には、絶望、の二文字が貼り付いているわけだ。


実質的な練習の時間は二週間くらいであったかのう。ラジコンとやらをひと並みに、高校生が出場するために必要な技能を得るためにどれくらい練習が必要なのか知らんが、すくなくともわちにとっては最後通告までの時間が短すぎらあ、とは思ったね。


でもまあ、結果は期待されていないわけだし。


「駒込さんには練習をしてもらうのだけど、これは、初心者さんである駒込さんだけに課しているわけじゃなくて」


「わたしたちもやるんだよ、香織に、部長に怒られちゃうからね」


「怒られるからやるわけではない」


「てへっ」


「だからそもそも、初心者さん用の練習があるってものでもないのね。大切なのは、どれだけ長い間クルマを走らせていられるか、なのよ」


赤いとんがり帽子みたいなのを置いて、


「それはパイロンよう」


と、遠くから部長が大きめの声で教えてくださる。


「このパイロンを中心に、自分のクルマを走らせるためのラインを頭の中で描いてみます。ちょっと大きめかな、という感じで」


と、園子先輩。大柄なひとが言うちょっと大きめは、やはりわちが考える大きめよりも大きいと弁えるべきじゃろうか。


「ち、ちょっと、大きめ」


あの辺とか、だいたいこのくらいとか言われて不安に陥ったことがないことがない人生じゃったから、やはりいままさに不安である。


「あ、はっちゃんさ、あんま考えなくていいよ、自分でラインをイメージして、それをなぞるのが大事なんだ。大きさは大事じゃない」


と、佳苗先輩は親切に教えてくださる。同じようなところで引っかかる人生なのかも知らん。


が、好きなように線を設定しても、なぞるのは難儀じゃった。自分で描いたとおりにならないとは、ラジコンは人生の縮図であると言えようか。


「なかなか難しいでしょう」


「は、はい」


「同じ動きを続けるというのは、難しいよね。でも、そのちょこちょこ動かす感じ、いいよ。始めっからできてたもんね、それ」


「は、はあ」


「あ、なるべくクルマを停めないようにね。失敗してそこから立て直すのも練習のうち」


「は、はい」


誰でもできそうなことをしているので、これで上達する、わちもいつかプロフェッショナルラジコンドライバー、とかいう高揚感は全くない。このあたりは、体育で校庭のトラックを何周も何周もしなさい、死なぬよう生きぬよう、という練習とはちと勝手が異なる。あれは苦しんだ分なんかどっか強化されたんやきっとそうじゃとでも思わなければやってられない感があった。


ラジコンの基礎練習は、頑張っているのはクルマであってわちではない。ああこんなのらくちんらくちんゆるいわラジコン部。そんな感じだから上手くなった気はちっともしない。


しんどい思いをするというのは、筋肉を増やしたり、精神的な耐性を鍛えたりするものかも知らんが、やったった感が得られるという効果も持っておる。やったったと思った人物は我は他よりも高みに在りと認識するであろう。


高慢ちきな態度にもなろうというものである。


ラジコンの練習は今のところそんな高みに至る気配はないが、いかんせん競争させて順位がつくものであるからして、やはり経験が長くなればどこかしら高慢ちきになる場合もあろうとは推察される。


長生きした人物は大概高慢ちきな感じがするのも、人生という修行をやったった感を得たからで


「あ、駒込さん、そろそろ」


「お、おしまいですか」


「バッテリーを交換しよう」


「あ、え」


「このピンを引っこ抜いてね。ボディピンとか、形状からRピンとか呼ぶもので、この丸い部分をつまんでね、こんな感じでひっぱって」


と、実演してもらったので、


「は、はい」


やろうとしたのだけども、そもそもつまみ部分が小せえ。つまんでもらいたいという気持ちが足りない。針金をひん曲げたような構造は、力を入れれば入れるほど指先が痛いっす。


「い、痛いっす」


「あら駒込さん、繊細」


「はっちゃんかわいい」


「あへ、へへ」


からかわれているのかかわいがられているのかわからず、だらしなく漏れる笑い。


「あら、駒込さん。そうねボディピンも固い時があるわね。そんなときはこのRのまるくなった、つまみのところにリボンを結んだりするといいのよ。最初からつまみやすいようにタグが付いているのもあるわね。これを使うといいわ」


「は、はあ」


と、部長がわちの手を取って、該当するらしい品物をてのひらに載せてくださる。


え、主人公風と一緒にいたんじゃなかったっけ。


「部長、乾さんがまたひとりぼっちに」


「香織、駒込さんはわたしらが見るからさあ」


「だって駒込さんかわいいんだもの。乾さんが可愛くないわけではないけど」


「先輩方いい加減にしてもらえませんか。あたしも初心の面倒みたいです」


みんな集まっちまった。要するに、練習が退屈なんかも知らん。


バッテリーの交換方法自体は難しいわけじゃないのだけど、配線やら見た目がなんだか生々しい機械どもが詰まっているので、迂闊に触るとなんだか厄介を抱えそうである。


生活上見かけるたいがいの機械は、こう、どう言ったらいいか、馴染みが良いように覆われている、とでも言ったらいいのか。機械が壊れないように、人間が危なくないようにという要素も大きいんじゃろけども、見た目が禍々しくならないように、というのも大きいのではないかと思われる。


ラジコンだってボディで覆われているほうがなんとなく目に優しい。空力がどうこうとおっしゃっていたような覚えもあるが、中身まる見えだとかっこ悪いじゃんかおまいは服着ないで外出するんか、とか言われちゃいそうだからなんじゃないんかな。


何が言いたいのか分からんじゃ。


要するに、日常、電池を使う機械とは若干趣が異なる、と言いたいのじゃ。電池を入れるところは電池を入れるところとして整えられているのが普通である。が、ラジコンの場合はたまたまそこに電池置く場所ができた、みたいな風情を感じる。または、そこしか置けねえんだよ、みたいなやけ気味なものを感じたりもある。


バッテリー交換は難しくないけど、躊躇いを感じないでできるようになるにはまだ時間がかかりそうではあるます。


ひとも喰わねば働けぬが、喰うてしもうたあとはなんだか体を動かすのは大儀である。わちは食べたらお腹いっぱいにしないと食を満喫した気にならない質で、苦しくなるまで腹に詰め込んで食べ過ぎを後悔する質である。


あほなんじゃ。


対してラジコンときたら、新しいバッテリーになると元気いっぱいやる気まんまんである。交換前に比べると、ええとこの確かトリガーと言うやつをひっぱって走り出す瞬間から違う。同じ調子で無造作に操作するとびゅうとえらい勢いで思いもよらぬ方向に行っちまう。


これはラジコンだからなのか。


ほんまもんの自動車の場合はどうか。ガソリン入れたばっかりで元気よく走り出してぶっかっちまったという話は聞いたことがないから、バッテリーとガソリンは違うもんなんか、それともラジコンと自動車は違うもんなんか、電気で動く自動車もあるがあれはどうなんじゃ、ハイブリットって何事でございますか、ともう分からんことばかり増えていく。


わちはまだそんなところにいる初心者であった。


そこからひと月も経たん程度でそんな重圧を担うはめになるとは思わんかったじゃ。





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