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崩れ落ちた幸せ
涙に濡れたペアリングが、わずかに光を放っている。
彼が贈ってくれた幸せのカタチ。
でも、もう彼の手にあの時の温もりはない。
——昨日まであんなに幸せだったのに。
——私はいったい、どうしたら……。
自分の世界が、さらに深い闇に落ちていく気がした
それからの記憶は、霞がかったように断片的だった。
悠人の葬儀の場。
遺影のなかで微笑む彼の写真。
親族や友人たちのすすり泣きが響いていた。
けれど紗良の耳には何も入ってこなかった。
何度も声をかけられたが、頷くことすら難しい。
心はどこか遠くへ置き去りにされたまま。
「……こんなの、嘘だよ……」
家に帰っても部屋はそのまま。
ベッドの片側。
冷蔵庫に入ったままの悠人が買ってきたプリン。
玄関に揃えてあったスニーカー。
ここに彼がいたのに。
それがもう永遠に戻らない。
その事実だけが、重く胸にのしかかる。
数日間、紗良は何も食べられなかった。
水を飲むのも、眠るのも、ただ苦しいだけ。