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七月。この地域は大体七月の頭に文化祭があって、それも終わった。ゆららの姿は無かった。
ゆららに決意を語った日。結局遅刻して怒られた。だが代わりに、と言いながら見せた進路希望調査の紙を見て、教師たちはこの高校にしては高い偏差値の大学であること、一部はゆららが進学した学科であることに驚きを見せた。特にあの女教師には何か言われたかと心配されたが、詞音は「ただ哲学に興味があるんです」とだけ言った。
親は特に反応を見せない、「頑張ってね」と一言だけ。遅くまで学校で勉強することも快く承諾してくれた。
部室の後ろの黒板は文字が変わり、今後の予定が記載されている。詞音は受験勉強に専念するためもう部活に参加することはない。けれど相変わらず人のいない部室を使って昼食を取るし、今だって他の部員が帰った部室で勉強をしている。
午後六時五十分。まだ世界はほんのり明るいものの、校舎から追い出される時間になった。
しょうがないから、バス停に向かう。
今日は少し違う道を歩こうと、細い道に入る。
歩いているうちに日没を迎えた。ふと空を仰ぎ見ると満月が地上を見下ろしていた。こんなにまんまるなお月様はゆららの瞳を思い出さずにはいられない。今はどうしているのだろうと想像するのも、日々の楽しみであった。
次にまた歩き出そうと地を見る。道端に二本のカサブランカがあった。二人で寄り添い合っているようで可愛らしい。
その向こうに一本のカサブランカがあった。寄り添い合う二本のカサブランカを遠目に見つめているようだ。
どの子も綺麗だと詞音は微笑む。
それきり。詞音は帰り道を歩んで行った。
2024/12/10 19:40 公開
同日 22:00 あらすじの誤字を修正