『ガラムマサラ・タウンからさよならバイバイ...出来ない』
大商人のラジー・カプール。ガラムマサラ・タウンに到着したとき、ラジーは喜びを隠せなかった。この街は彼の旅の目的地であり、商売成功の可能性が広がっていた。
ラジーはラクダから降りると、街の陽気で活気ある雰囲気に包まれた。街はカラフルな布地、香辛料の芳香、そして賑やかな交易商たちの声が混ざり合っていた。ラジーは未知の商品を見るために広場に向かった。彼は興奮と期待に胸を躍らせていた。
「ここがガラムマサラ・タウンか、すばらしい」
ラジーは商人と商談を済ませ、得意気に商品を買いつけた。しかし、彼がガラムマサラ・タウンを後にすると、空気が一変したようだった。街の陽気さとは対照的に、道は不気味な静けさに包まれていた。
街の外れに近づくにつれ、建物は荒れ果て、窓からは微かな灯りが漏れるだけだった。不気味な沈黙がただよい、ラジーの心を不安にさせた。彼は先ほどまでの陽気な町が一体どこにいったのか疑問に思いながら、ラクダを進めた。
「こんな雰囲気だったか?来た時と違うぞ...」
すると、突如として霧が立ちこめ、視界が悪くなっていく。ラジーは恐怖を感じながらも前を急ぎ足で進んでいたが、いつの間にか道に迷ってしまったようだ。
不気味な静寂が再び彼を包み込み、彼の心臓は激しく高鳴る。霧が晴れて道に出ると、街が見えてきた。徐々に近づくラジー。
「まさか...こんな」
目の前に広がっていたのはなんとガラムマサラ・タウンだった。驚きと戸惑いが彼を包んだ。
彼が再び街の中心部へと向かうと、そこには以前と変わらぬ賑やかさが広がっていた。広場では香辛料の香りが漂い、商人たちの活気ある声が響いていた。
「うそだ...きっと方向を誤っただけだ」
ラジーは前回と同じ道順で、再びガラムマサラ・タウンを出た。前回の出来事からの混乱と不安を感じながら、彼は街を後にした。その途中、彼の胸は緊張と疑問でいっぱいだったが、それでも先に進むことを決意した。
しかし、道を進むにつれて、周囲の景色が少しずつ歪んでいくような気がした。建物の配置が違ったり、道が違う方向に曲がっているように感じた。
そして、ラジーは再び霧が立ちこめるのを感じた。彼の視界がぼんやりとなり、不気味な静寂が再び彼を包み込んでいった。
「これはまさか…」
ラジーは不安と疑念に苛まれながらも、前に進むことを決意した。しかし、霧が晴れると、彼が目にしたのは驚くべき光景だった。再び、ガラムマサラ・タウンの街並みがそこに広がっていたのだ。
彼の心は混乱と不安に満ちていた。入り口から広場へと進むと、踊り子は優雅に踊り、詩人は陽気に歌っていた。
「いつもいつでもうまくゆくなんて~」と詩人が歌い、踊り子がそのリズムに合わせて軽やかに舞っていた。
しかし、この光景にラジーはなぜか違和感を覚えた。踊り子や詩人は陽気に踊り歌っているにもかかわらず、彼らの様子が、ラジーの不安を助長しているようだった。
ラジーは不思議な出来事に心を乱された。この問題を解決するために、酒場で街の一番の賢者オウキイドの話を聞き、彼のもとへと向かった。彼の前に座ると、この出来事を打ち明けた。
「オウキイド。この町を出るために行きと同じ道を歩きました。しかし、霧に包まれて、何故かまたこのガラムマサラ・タウンに戻されてしまうのです」
オウキイドは静かにラジーの話を聞き、深く考えた末、ラジーに問いかけた。
「ラジーさん、この町で何か変わった人物に出会ったことはあるかな?」
「いいえ、ありません」
オウキイドは少し深呼吸をした。
「では何か特別な動物やものは?」
ラジーはオウキイドの質問に思いを巡らせた。数秒間の沈黙があった後、彼は躊躇しながら口を開いた。
「街を出る少し前に、私はひとりの商人から珍しい生き物を買ったのです。それは電気を放つ不思議なネズミでした」
オウキイドの表情は一変し、厳かな表情を浮かべた。
「ガラムマサラ・タウンの神の使いとして崇められている、電気を放つネズミじゃな」
ラジーは驚きと恐れを感じた。彼はその動物が何者かを知らずに買ってしまったことを後悔した。オウキイドの表情を見て、あのネズミがこの一連の出来事を解決する鍵であることを理解した。
オウキイドは厳しい表情でラジーに語りかけた。
「おぬしが持っているそのネズミは神聖で畏怖される生き物なのじゃ。持ち出すことは、ガラムマサラ・タウンの秩序を乱し、神聖なものを汚す行為。そのネズミをすみやかにこの街へと返すべきじゃ。そうしなければ、この不思議な出来事が永遠に続くかもしれん」
ラジーはオウキイドの忠告を受け、決断を下した。彼は電気を放つ不思議なネズミを慎重に抱え、街の外へと歩みを進めた。
「すいません。どうか許してください」とラジーは小声で呟きながら、ネズミをそっと放すと、その場を離れた。
ネズミは不思議な光を放ちながら、ラジーから離れ、自分の行くべき場所へと走り去った。彼の姿が遠ざかるにつれ、ラジーの心には安堵の感情が広がった。
街の外に出た彼は、再び同じ道を辿ったが、今回は異変は起こらず、霧に包まれることもなかった。
「ガラムマサラ・タウンさよなら、バイバイ」
そう言って、ラジーは安堵して、街を後にした。
ネズミは街の外に逃れ、しばらく走り続けた後、不思議な光を放ちながらオウキイドの元へとたどり着いた。オウキイドは静かにその姿を見つめ、鋭い眼差しでネズミを迎えた。
「人は愚かだと君も思うじゃろ?」とオウキイドは静かに問いかけると、ネズミは静かに頷くかのように見えた。