『すぐに振り向くと』
今柄駅の灯りが夜空に映える金曜日の夜。駅前の雑居ビル群は、酔客の喧騒で溢れていた。
「マジで?そんな都市伝説あんの?」
大学の後輩、佐藤が目を丸くして俺を見つめる。
「ああ、オカルトサークルの曾山から聞いたんだ」俺は頷いた。
「今柄駅の○○ビルのエレベーター、降りたら誰かに声をかけられるんだって。でも、すぐに振り向いちゃダメなんだ」
「へー、面白そう」佐藤が目を輝かせる。
「今から行ってみない?」
俺は躊躇した。
「いや、でも...」
「大丈夫だって!ちょっと見てくるだけさ」
結局、佐藤に引きずられるように駅前の雑居ビルに向かった。
エレベーターに乗り込む時、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。狭い空間に二人で立ち、無言のまま上階を目指す。
「ピンポーン」
扉が開く。俺たちは息を潜めて廊下に出た。
その時だった。
「すみません」
背後から声がした。俺は咄嗟に振り向きそうになったが、佐藤が腕を掴んで制止した。
「まだだ」彼がささやく。
俺たちは数歩前に進み、ゆっくりと振り返った。
そこには...誰もいなかった。
「なんだ、嘘っぱちか」佐藤が肩をすくめる。
安堵のため息をつこうとした瞬間、背後から冷たい手が肩に触れた。
「すぐに振り向いちゃダメだって...言ったのに」
耳元でささやかれた声に、俺の体は凍りついた。
翌日、警察は今柄駅近くの雑居ビルで、原因不明の昏睡状態に陥った二人の大学生を発見した。彼らの瞳は虚ろで、何かに取り憑かれたかのようだった...