『道の真ん中に置かれた未知の箱』
今國町の朝は静かだった。いつもより静かすぎるほどに。
俺は友人の曾山の言葉を思い出していた。
「朝5時、この町のどこかの道の真ん中に箱が現れる」
馬鹿げた都市伝説だと笑い飛ばしたあの日から、もう一週間が経っていた。
その日以来、俺は早朝の散歩を日課にしていた。単なる好奇心からだった。しかし、今朝は違った。空気が重く、不穏な雰囲気が町全体を包んでいた。
時計を見る。4時55分。
曲がり角を曲がると、そこにあった。道路の真ん中に、一つの箱が置かれていた。80サイズ。某宅配会社のロゴが印刷されている。
俺は息を呑んだ。周りを見回すと、数人の住民が窓から覗いているのが見えた。彼らの目は恐怖に満ちていた。
「触れてはいけない」
曾山の言葉が頭の中で響く。
しかし、好奇心が勝った。俺はゆっくりと箱に近づいた。
突然、誰かの悲鳴が聞こえた。
「やめろ!」
振り返ると、曾山が走ってきていた。彼の顔は青ざめていた。
「触るな!」彼は叫んだ。
その瞬間、箱が動いた。いや、蠢いた。中から何かが這い出そうとしているかのように。
恐怖で体が動かなくなった。曾山が俺の腕を掴み、強引に引っ張った。
「5分だ。あと30秒で消える」
彼の言葉通り、30秒後、箱は霧のように消えていった。
「なぜ...」俺は震える声で尋ねた。
曾山は深刻な表情で答えた。
「3年前、俺の妹が...」
彼は言葉を詰まらせた。
「箱を開けたんだ。そして...消えた」
俺は言葉を失った。
「この町では、毎年数人が失踪する。みんな、箱と関係があるんだ」
朝日が昇り始めていた。しかし、俺の心は暗闇に包まれていた。
今國町。この平和そうに見える町の下に、想像を絶する恐怖が潜んでいた。そして俺は、その恐怖の一端を垣間見てしまったのだ。